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大橋トリオらをプロデューサーに迎えた豪華1stアルバム『RAFT』で
メジャーデビューを果たしたシンガー・カコイミクの世界
心に響く豊潤な歌声の原点をたどるインタビュー

 大橋トリオ、そして、キマグレンやbirdらを手掛けるGIRA MUNDOをはじめ、スウェーデンのパワーポップバンド、ザ・メリーメーカーズのデヴィッド・マイヤー、渡辺善太郎らをプロデューサーに迎えた豪華1stアルバム『RAFT』で、5月にメジャーデビューを果たしたシンガー・カコイミク。1stにして極上のポップアルバムに仕上がった今作には、FM802の5月度ヘビーローテーションに抜擢された『IROHA』他オリジナル曲10曲に加え、斉藤和義の代表曲『歩いて帰ろう』のカバーも収録。歴戦のクリエイターたちの手によって生み出されたハイクオリティなポップチューンを軽やかに彩る、心に響く豊潤な歌声はシンガーとしてのキャリアと可能性を瑞々しいまでに感じさせてくれる。8月21日(日)には京都にてライブも、そして10月には『MINAMI WHEEL 2011』出演を控える彼女自らカコイミクを分析した(!?)、デビューに至るまでの道のりを紐解いたインタビュー。

カコイミクの動画コメントはコチラ!

――音楽を始めたきっかけは3歳の頃からジャズバレエとピアノを習い始め…とプロフィールにはありますが、そこから音楽に惹かれていってバンドからソロになったあたりまでを、さかのぼって聞かせて頂きたいんですが。
 

「両親が、踊りとかミュージックビデオとか演劇とかに子供の頃から触れさせてくれていたので、大きなくくりで言う“エンタテインメント”みたいなものにはずっと興味があったんです。その中で音楽はそんなに上位にはいなかったんですけど、中学校くらいになると周りに音楽が好きな子も多かったので、何となくバンドに憧れを抱いたり、友達が聴いている音楽を耳にするようになったりして。で、そのときに1回作詞みたいなことをやりたくなった時期があって。人の曲に勝手に詞を乗せたりとか、曲がないのに展開だけを決めて書くとか」
 

――それってどういうことですか?
 

「5・7・5じゃないですけど、この辺はAメロでこの辺はサビって、何となく歌詞だと思って詞を書く、みたいなことをやっていて」
 

――ピアノを習っていたらまずは曲を書き始めそうなイメージがあるんですけど、詞を書くのが先だったんですね。
 

「音楽ってそんなに簡単に出来ないじゃないですか? バンドもやりたかったんだけど、メンバーもいないし、中学生だし。そういうのもあって、小説とかも好きだったので言葉とか文章の方に最初は興味があったんですよね。高校生になった頃にはMTVとか音楽チャンネルで洋楽の情報を知るようになって…そこくらいからですかね。音楽の位置が自分の中でちょっと上がってきて。じゃあ今度は曲も書いてみようみたいな。それでご飯を食べていこうとかじゃ全然なくて、ただやってみたかったというか」
 

――なるほど。
 

「機械とかもすごく苦手なんですけど、男の子の友達に“MTR(=マルチトラックレコーダー)があると家で録音出来るよ”って教えてもらって買いに行って。チャンネルがわかりやすく分かれてるし、リズムトラックも付いてたし、“これはやれば出来るかも”と思ったんですけど、説明書を読んでもよく分からない(笑)。だから元々入っていたループの音源を選んで、そこに合わせて自分で鍵盤を弾いて。でも、ベースとかは持ってなかったから、ピアノにマイクを突っ込んで、それにベースっぽい音になるエフェクトをかけて、それも鍵盤で弾いてみたいなことをやってたんです」
 

――じゃあピアノは生というか…。
 

「全部アップライトの生ピアノです。私が持ってる唯一の楽器なので(笑)」
 

――そこでベースを買おうとかじゃなくて、それ1台で全部やろうと(笑)。
 

「そうなんです(笑)」
 

――そら、そんな姿を家族が見たら“この子何やってんのやろ?”って思いますよね(笑)。
 

「うん(笑)。“なんか1人でガチャガチャやってんな”くらいの感じやったと思います(笑)。大学生になったらクラブとかでたまにライブもしてたんですけど、だからと言って何が起こるわけでもなく。あと、クラブも自分の肌にあんまり合わなくて。そのときジャズバーとかでアルバイトしていていたのもあって、即興でどんどん作っていく感じというか、やっぱり生バンド…人の作り出す温度みたいなものが感じられるものがいいなと思って、それがバンドに入ろうと思ったきっかけになりましたね」
 

――でも、今までの話を聞いていると、モノを作るのが好きなのがすごく伝わってきますね。今回の『RAFT』には、大橋トリオ、GIRA MUNDO、渡辺善太郎、デヴィッド・マイアー(from ザ・メリーメーカーズ)と、様々なプロデューサーが参加しているので接点を聞きたくなるところなんですけど、取材にあたって過去のインタビューとかを見てみたら、接点がなくても直接メールを送ってコンタクトを取る…みたいなことが書かれていたんですけど、つてがなくても自分でどんどん突き進んでいくタイプなんですか?
 

「いく感じですね(笑)。なんか急に思い立つときがあるんです。私はソロアーティストでバンドじゃないので、例えばライブもメンバーをその都度集めないと出来ないじゃないですか? 1人でやっていくのは大変だから、音楽事務所に入りたいなとずっと思っていて。そんなときに友達がどこかでライブを観たらしく“大橋トリオがいいんだよ~”としきりに言ってて。私は全然知らなかったんですけど、何となく気になってインターネットで音源を聴いてみたらすごくよくて。こういう人はどんな事務所に所属してるのかしら?みたいな興味が沸いて、で、事務所を発見してメールしたっていうね(笑)」
 

――僕の知り合いとかでも、とある本を読んで感動して、感動のあまり作者に直接感想のメールを送って、返事が来て仲良くなってる人がいてすごいなそれって(笑)。
 

「そう、意外とそういうことってしないから、送ってこられた側は普通に返すんでしょうね(笑)」
 

――大橋トリオいいな、いっしょに物作りしたいなと思っても、普通は思って終わるじゃないですか? そこでワンアクション起こす行動力ですよね。あと、メリーメーカーズなんかも久々に名前を聞いたなと。
 

「メリーメーカーズは本当に偶然の出会いというか。今回のアルバムを誰と作るかみたいな話をしていて、大橋さんとGIRA MUNDOさんはインディーの頃からやっているので絶対にお願いしたい。他はどうしようっていうときに、レコード会社のディレクターさんに『IROHA』(M-2)を聴かせてもらったんですね。で、“すごくいいですね”って言ったら、“あ、気に入りました? これ、歌っていいですよ”って言われて。“そうなんですか? ありがとうございます”みたいな(笑)。結構、人がつないでくれた縁がありましたね」
 

――レコーディングの制作過程はどうでした? 本当にいろんな人がスタジオに出入りしたり、打ち合わせも含めて多くの人に会うことになったと思いますけど。
 

「もう大変でした。バラバラした印象には絶対にしたくなかったし、ちゃんとひとつのアルバムとして、作品として、提示したかったので。まず最初に大橋さんとGIRA MUNDOさんのチームで全体の半分くらいを録っちゃって、その録ったものをイメージしながら、残ったプロデューサーの方にああして欲しいこうして欲しいとオーダーしつつも、実際に出来上がってみないとどういうアルバムになるのか全然分からないという(笑)」
 

――自分の中でどんなアルバムにしたいという想いはあったんですか?
 

「初めてのアルバムなので、でこぼこしていた方がいいなって思ったんです。まとまったものよりは、“こんなこともやりたくて、あんなこともやりたくて、でも私こんなのも好きで”みたいな、音楽愛に溢れたじゃないですけど、そういう気持ちが滲み出ているようなアルバムにしたいと思ってましたね。自分でもドキドキ出来るような1stアルバムを作りたかった」
 

――今作には斉藤和義のカバー曲『歩いて帰ろう』(M-11)も収録されていますが、こちらはどういったいきさつで?
 

「1曲日本語のカバーを入れようという話になって、最初はフォーク世代の方々の古き良き歌謡曲をカバーするつもりだったんですけど、わざわざカバーを入れる意味を自分の中でもちゃんと消化したかったので、自分が音楽を作る前、学生時代に純粋にリスナーとして“ミュージシャンってすごいなぁ”っていう目で見てた方たちをカバーしたいと思って。ちょうど90年代には斉藤和義さんとかいろんな方がいらっしゃったので、それで選びましたね」
 

――カバーとなると、詞や曲を書くソングライターの側面とは違って、ボーカリストとしての自分とアレンジの妙だったりがポイントだと思うんですけど、その違いはやってみてどうでしたか?
 

「これまでにカバーの仕事もさせて頂いてるんですけど、作ることと歌うことが、私の中で結構分かれていて。だから純然たる“シンガーソングライター”という感覚ではないんですよね。曲は今作でも書いてますけど、どっちかと言うと“ボーカリスト”という性分なんです」
 

――歌詞を書くことと歌うことは、自分の中でどういう行為なんですか?
 

「歌い手の私としては歌詞を提供してもらってる感覚ですね。逆に歌詞を書く私は、歌う私に提供してる感じ」
 

――カコイミクが歌うなら、この曲とカコイミクの声を活かすには、どういった詞が良いかみたいな。
 

「まさにそうですね」
 

――自分で自分をプロデュースしてるわけですね。いろんなアレンジャーやプロデューサーが出入りしても、自分の中で作品に1本筋を通す軸が、そこにあるのかもしれないですね。今は歌うことがカコイミクを形成するうえで、すごく大事な部分を占めているわけですが、歌うという行為はどこから始まって、なぜそうなっていったのでしょう。   

「バンド時代もそうだったんですけど、曲作りに関しては好きという気持ちが第一で、結構ライトなノリだったんですけど、周りには本当にメロディ1音1音にこだわって、私なんかよりもずっと曲作りに命を掛けているような人が多くて。だから、自分は自然と歌と歌詞に重心が傾くというか、ボーカリストというところに焦点が合っていったところもあると思います」
 

――周りの環境がボーカリストとしての自分を意識させていった感じですね。でも、そもそも最初にピアノ習う=歌うというわけではないじゃないですか。そういう意味で、歌を歌おうと思ったきっかけはありますか?
 

「初めて自分が歌っているのを聴いたとき、なんか面白かったんです(笑)。それは中学校の音楽の授業とかでも思ってたんですけど、なんかモードが変わるんですよ。自分が喋ってるときと歌い出したときの空気が変わるのが面白くて、それで歌い始めたんです」
 

――そういう始め方も何だか面白いですね。自分で自分を楽しんでる感じだし、あと今作の紙資料のプロダクションノートに、“自分で書きたい歌詞の世界があるなら、それに見合った音楽をやればいい”という一文があって、それがすごく印象的で新鮮な意見だなと思ったんですよね。
 

「かつてバンド時代にレコード会社の人に歌詞のことをすごくうるさく言われて、腑に落ちなかったし、納得出来ない気持ちをずっと抱えていて。今はソロになって、自分の持っている世界観を絶対に崩したくなかったし、でもいろんな人に聴いて欲しいという中で、やっぱり音楽と詞が化学反応を起こして初めていい作品になると思うので。自分の歌詞に合うような音楽を選べばいいんだって思ったんですよね」
 

――ちゃんと化学反応を起こせる楽曲と詞を出会わせるというね。これだけのクリエイターが集まれば、今回のレコーディングはすごく刺激に溢れた時間だったんじゃないですか? 何か印象に残ってる出来事ありますか?
 

「うーん…すごく面白かったですね、渡辺善太郎さんが(笑)。人柄もすごく気さくな方なんですけど、自信なさげに“どうしたらええかなぁ”“やっぱりこっちの方がええんちゃうかなぁ”とか言いながらも、ちゃんと自分の意図した方向に持ってくっていう、その不思議な空間が面白かったです(笑)」
 

――ちゃんと自分で作りこんでくるけど、一応意見は聞くと(笑)。今作はプロデュースが何組かのチームに分かれてますけど、やっぱりそれぞれ色が違いますもんね。でも結果、すごくクオリティの高いポップアルバムになりましたよね。これだけいろいろな作家が出入りしていて密度が濃いのに、最後まで聴いても疲れないというか、ちょうどいいフィット感というか。すごくトータルバランスの取れたアルバムですよね。
 

「ありがとうございます。あと、いろんな方が頑張って宣伝してくれて嬉しいです」
 

――それこそカコイミクさんは大阪が実家ということで、FM802とかも聴かれていたと思うんですけど、『IROHA』が5月度のヘビーローテーションに選ばれたのはどうでしたか?
 

「本当にありがたいですね。いろんな人が味方になってくれる、そういうアルバムになったんだなと思って嬉しかったですね」
 

――ちなみにタイトルの『RAFT』はどういった意味ですか?
 

「“いかだ”という意味で、ちょっとずつ、手探りでやってきてここに至るんで。いかだを漕いでる気持ちですね」
 

――なるほど。シンガーとしてのキャリアが決して短いわけではないと思うんですが、どうして続けられてきたと思いますか?
 

「人に聴いて欲しいのはもちろんあるんですけど、自分の納得した作品を作れるまでは辞められないみたいなのがあって。うん、なんかそんな気持ちですね」
 

――さっきのいかだの話じゃないですけど、長い時間をかけてすごくいいアルバムにたどり着けましたよね。これには納得出来ました?
 

「いやまだアレですね、通過点です(笑)」
 

――(笑)。次はどういった作品になっていくのかも、非常に楽しみですね。8月21日(日)にはKYOTO MUSEでイベントが、10月には『MINAMI WHEEL 2011』への出演も決まっています。カコイミクにとって、ライブはどういう位置付けなんですか? 
 

「歌をいい感じに歌える日は、自分、メンバー、お客さんetc、みんながいい空気に収まったときなんで、その確率を上げるのが目下のテーマですね」
 

――そういう意見も、カコイミクという歌い手を見るもう1人のプロデューサー・カコイミク、みたいですね(笑)。
 

「(笑)。でもライブはすごく楽しいんです。なんか生の“作品”というか、演奏する自分たちもそうだし、観る人の環境もあるし、観る人と演る人とが、点と点がつながって、その日のライブがあると思うんですよ。それがすごく面白いなって」



Text by 奥“ボウイ”昌史




(2011年8月16日更新)


Check

Release

FM802ヘビロ曲に斉藤和義のカバーも      1stにして極上のポップアルバム誕生

Album
『RAFT』
発売中 2500円
ポニーキャニオン
PCCA-3416

<収録曲>
01. エンプティ・エンプティ
02. IROHA
03. イン・ザ・ダーク イン・ザ・ライト
04. 好きさ
05. 彼の陽、彼の場所
06. RAFT SONG
07. 雪
08. I GO HOME
09. ロマンチックストレンジャー
10. よごれた靴
11. 歩いて帰ろう

Profile

カコイミク…福岡県生まれ、大阪府育ち。O型。3歳の頃からジャズバレエとピアノを習い始め、マイケル・ジャクソンや当時流行の洋楽をなんとなく聴いて育ち,ダンスと音楽に親しむ少女時代を過ごす。大学入学後、個人で音楽活動をしていた'03年、大阪でバンドのボーカリストとして加入した事がきっかけとなり'06年『飾らない情熱』でインディーズデビュー。その後、大橋トリオに歌唱力を認められ、'09年に大橋好規プロデュースによるミニアルバム『DIGIDIGI LALA』をリリース。大橋トリオ『A BIRD TOUR 2009』ではコーラスを担当。インストバンド・Nabowaのミニアルバム『view』にボーカルとして1曲参加する他、『ジブリ meets Bossa Nova』では、COJIROU(ex. bonobos)プロデュースの『となりのトトロ~さんぽ~』、『オムニバス1~大瀧詠一ファーストアルバムカバー集~』では『水彩画の町』をカバーしている。 '10年にはGIRA MUNDプロデュースによる2ndミニアルバム『Doodle』を発売。優しく心に響くメロディ、ブレの無い芯のあるボーカルで聴く者を独創的で不思議な言葉の世界へと誘うスタイルが話題となる。

カコイミク オフィシャルサイト
http://kakoimiku.com/


Live

『RAFT』の世界をライブで体験!        夏の京都にて女性シンガーの宴に出演

『Live Donut vol.7』
チケット発売中 Pコード140-544
▼8月21日(日) 18:00
KYOTO MUSE
スタンディング3000円
[出]カコイミク/舞花/Leyona
サウンドクリエーター■06(6357)4400
※小学生以上は有料、未就学児童は無料
(大人1名につき、子供1名まで同時入場可)。

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10月には関西最大のライブサーキット      『MINAMI WHEEL 2011』に出演!

『MINAMI WHEEL 2011』
一般発売9月10日(土)
※発売初日はチケットぴあ店頭での直接販売および特別電話■0570(02)9505(10:00~23:59)にて予約受付。
Pコード142-571(1日券)/780-027(3日通し券)
▼10月14日(金) 18:30/
   15日(土)・16日(日) 14:00
金曜日券2500円 土曜日券3500円
日曜日券3500円 3日通し券6500円
ミナミ・ライブハウス各所
[出]I-RabBits/acari/1000say/
Applicat Spectra/avengers in sci-fi/
AWAYOKUBA/unkie/androp/イヌガヨ/
瓜破連歌ショー/S.R.S/エニクスパルプンテ/
おおたえみり/大村みさこ/オズ/カコイミク/
片山ブレイカーズ&ザ☆ロケンローパーティ/
カミナリグモ/鴉/GAKU-MC/空中ループ/
クリス・デュアーテ/KETTLES/SAKANAMON/
THE BOHEMIANS/THE★米騒動/
The SALOVERS/SHIT HAPPENING/
Superfriends/Scars Borough/砂川恵理歌/
ズータンズ/SEBASTIAN X/多和田えみ/
寺前未来/東京カランコロン/
Naked blue star/KNOCK OUT MONKEY/
橋本江莉果/Honey L Days/ピロカルピン/
FOUR GET ME A NOTS/FLiP/plane/
マキ凛花/雅-MIYAVI-/MinxZone/Rihwa/
ROOKiEZ is PUNK’D/わたなべゆう/他
FM802リスナーセンター■06(6354)8020
※アーティスト出演日程は未定。出演者、会場、開演時間は変更となる場合があります。

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