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「こんなに本気で音楽をやったことはなかった」。
二階堂和美アルバム『にじみ』発売インタビュー

 優しく穏やかで、時にフリーキーなほど全身で生命力を感じさせる歌声。そして自由かつ豊かな音楽性で国内外に多数のファンを持つミュージシャン、二階堂和美。カバー集やミニ・アルバムのほか、テニスコーツのさやとのユニット“にかさや”、そして米国のタラ・ジェイン・オニールとの共演盤『タラとニカ』などを挟んで、約5年ぶりのオリジナル・フル・アルバム『にじみ』が7月6日にリリースされた。既に各所で絶賛の声が上がるこの傑作について、本人に話を聞いた。

何十年も先までこのアルバムが残って、
二階堂和美という歌手を離れて楽曲が残って、
例えば知らない誰かの映画の中で使われたり、
そんなふうに存在してほしい―――

 

―――ここ数年はカバー作や共演盤などが続きましたが、ご自身で楽曲を書かれたアルバムとしては本当に久しぶりですね。

 

「まあ、出そう出そうとは思ってたんですけど締め切りが決まってるいるものから進めているうちに気がついたら自分のことは後回しに…(笑)。正直、前作を出してライブを重ねて行く中で、自分が何をやりたいのかよくわからなくなってきたんですよね。人に作ってもらった曲や今まで歌っていたカバーもしっくりこない感じがして。ただその気持も徐々に変わって来たんです。その理由はいろいろあって、すべてが関係していると思うんですけど、最も大きいのは広島の実家に帰って家族と一緒に住むようになったことですかね。お寺の仕事もはじめて…」。


―――そういえば、ゆくゆくはご実家を継がれる予定だとか(彼女の実家はお寺で、自身も浄土真宗本願寺派僧侶の資格を持っている)。

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「そうなんです。それで、実家でお婆ちゃんたちといたり、お寺の仕事をしていると、当然ながら死が日常なんですよ。そんな中では生死についての考え方も少し変わってきたし。そういうことは常に考えていました。あと家で家族でテレビを見てると、歌番組で懐メロがかかるとみんなが喜んで歌うんです。私自身も、お年寄りの前で懐メロを歌うと物凄く喜ばれたりして。それは凄く新鮮で嬉しい体験だったんです」。

 


―――そういえば祝島のライブ(原発建設計画で揺れる山口県・祝島でのライブ。必見!)とか、すごい盛り上がりでしたよね。

 

「あれはねえ、ホント衝撃的でした。予想以上でしたね。すごくパワーを感じましたし、また私の歌にああして反応してくれることに大きな喜びを感じました。それもこのアルバムに繋がっていると思いますね。あと、ここ数年でラジオ番組をやったり、コラムで文章を書くようなことが増えていったんですけど、基本的に得意ではないんですよ。ただ、そういやって無理にでも言葉や想いを捻り出しているうちに「こんなことやるくらいなら歌詞だって書けるじゃん!」って思ったんです。「私、まだ自分の言葉で音楽の勝負をしてないな」って。例えば、お寺を継ぐとか、原発に反対するとか、自分の中でいろいろ覚悟を決めなきゃいけないことが重なっていた中で、歌に対してもどこか腹を括るっていうか…そんな気持になってきたんです」。


―――では改めて自分で振り返ってみると、今までの自分の歌はどういうものだったんでしょう。

 

「うーん。自分が歌うと周りに褒められるからやってる、みたいな(笑)。子供のときと同じですね。歌うことで自分の存在が証明できるっていうか。そのことで友達が出来たり…そんなレベルだったと思う。でも祝島のライブのように、自分が歌うことで、あんなふうにお婆さんたちに喜んでもらえるんだって実感したんです。歌う意味に自覚的になってきたというか…これは何かの役に立ってるのかなって。だからもっと自信を持って、音楽の力を信じてやってみようという気持が、このアルバムに向かわせたと思いますね。だからこのアルバムを作るうえでは強い使命感みたいなものがありました」。


―――そうした様々な要素が重なったこの1~2年で、一気に制作に向かったのが『にじみ』なんですね。

 

「そうですね。ただ、曲づくりに関しては、ピアノの黒瀬(みどり)さんの存在が大きかったです。家のすぐ近所に住んでるんですけど、今まで東京に住んでたころは、そういう人っていなかったんですよ。何か思いついたらすぐに会って、私が好きな事やっても見事にそれに応えてくれる、彼女はそんな頼もしい人なんです。私はもうギターも持たずに、歌メロだけ鼻歌で歌って。彼女はすごく耳がいいのですぐに合わせてくれる。それがすっごく気持が良くて、いつもなら煮詰まることや、頭の中でもやもやしている音をうまく形にできないことがあるのに、スルスルと出来ちゃう。それで毎日、部活みたいな感じで2人で続けているうちにどんどん燃えてきちゃって。これは…できる!できるよ…!って一気に火が点いた感じになって(笑)。そこからは曲単位で、以前一緒に演奏したことのある人たちにお願いしていったんですけど、最終的にはみんな繋がってバンド状態になったんです。そしてリリース前にこのメンバーでライブをやったのも結果的には良かったですね。そのまま昨年末から今年頭にかけてレコーディングしました。以前からあったアイデアも形にできた実感があるし、本当にこんなに燃えて本気で音楽をやったことはなかったってくらい」。

 

NIKA2.jpg―――そんなニカさんの音楽には民謡や演歌のコブシまわしなど、かつての日本の大衆音楽としての魅力を現代に再生させたような、新しい魅力があると思います。例えば演歌って日本独自の音楽文化なのに、廃れていってますよね。そのへんは自分の音楽との関係としてどう捉えていますか?

 

「ホントねえ、そうなんですよね。演歌って私たちが小さいころはまだヒット曲もたくさんあったし、みんなが知ってて歌える曲がたくさんありましたよね。演歌の独特のメロディってすごくオリジナルで、歌ってて気持ちいいから歌いたいんですよね、実は。歌詞だって、演歌以前の戦後の流行歌ならもっとモダンでカッコイイのに、演歌だと“飲み屋のママの歌”になっちゃう。それをもっと今のものにしようというアイデアは少し前からありました。そういえば以前、タラ(・ジェイン・オニール)にYouTubeでジェロの曲を見せたらすっごい反応してて(笑)。でもそりゃあそうだよなあって思ったんです。私たちは、外国人が羨むほどの独特のメロディを持ってるんだって。でも色モノにしたくないから、今のポップスの編成で形にしたかったんです」

 

 

 

 


―――アルバムに収録の「説教節」などはまさにそんな楽曲ですね。ちなみに「あいつ携帯出やしない」と仕事の怒りをぶつけるこの曲のモデルは(レーベル・オーナーの)角張さんだとか…

「そうです(笑)。まさにあの歌詞の通り、お風呂で腹が立って歌ってて出来た曲です。まあ怒りつつも「お前が引っ張っていかなきゃダメなんだから頼むよ」的な(笑)。まあ、私にとってはちょっと捻くれた応援歌というか。「がんばろう」とか「がんばれ」みたいなメッセージって自分は全然ピンと来ないんですよね。アルバムにはいろんなタイプの楽曲がありますけど、全体にそういう感じはあるかも。私にとっては全部応援歌ですよ(笑)」。


―――そんなアルバムを聴いて印象的だったのが、楽曲はすべて震災前に録音されたものなのに、まるで震災後に録音されたようなイメージが強くあったことです。震災を経た中で、ニカさん自身の「なぜ音楽を奏でるのか」「どう生きていくのか」が楽曲に滲み出ているかのようでした。

 

「やはり、自分が原発反対運動に関わってきたことや、お寺での生活が影響してるのかも知れないって思いますね。普段の生活で死を身近に感じているなか、自分自身もいつか死ぬだろう、いや死にたくても死ねないかもしれない…そんなことがいつも頭の中を占めていたんですよね。それが、自然と音楽にも出ているかもしれません。普段、私はまったくミュージシャンとは関係のないような生活を田舎で送ってて、ライブもCDショップにも行かないような感じなんです。それで、家ではテレビで歌謡コンサートみたいなのを家族で観たりするわけです。そんな生活の中でも、自然と耳に入ってきてみんなを喜ばせる音楽ってなんなんだろうなって、私はそういう音楽をやりたいって、強く思うようになったんです。震災後にアルバムを出すうえでは、いろいろ考えましたけど、作ったものには迷いはなかった。でも本当に今これを出す意味はあるのだろうか、この作品がどう聴かれて欲しいのか、そんなことを考えたうえで、アルバムのタイトルだけを変更して出すことにしました。それ以外、内容ははまったく変えなかったです。歌詞もすべてそのままです」。

 

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―――ちなみに、アルバムのタイトルを変更された理由と、もともと予定していたタイトルを教えてもらえますか?

 

「もともとは『十八番(オハコ)』にするつもりでした。これは、私にとって今までのどのアルバムよりも本気ですって意味と、この中から誰かにとってのオハコが生まれ欲しいって意味と、あと仏教でいうところの阿弥陀如来が建てた四十八願って誓願があるんですけど、その第十八番目の真髄といわれる願があって。それはどんな条件もなく、生きとし生ける命をすべて救うぞというものなんです。それらを含めてこのタイトルにしようと決めていました。でも震災の後、いろいろと考えていて、なんだか違うなあって感じていたんです。これって私とアルバムの距離感を示すタイトルなんですよね。もっとこう、アルバムを聴いてくれた人へ、あるいはその先へとじんわり広がっていくような、そんな作品になって欲しいなと。それこそ何十年も先までこのアルバムが残って、二階堂和美という歌手を離れて楽曲が残って、例えば知らない誰かの映画の中で使われたり、そんなふうに存在してほしいと思ったんです。それでこの収録曲たちにタイトルを与えるとしたらなんだろう、って考えた時に『にじみ』という言葉が出てきたんです。この作品が出来たことへの感謝や今までの自分、まわりの人たち、いろんなものがにじみあっているって感じたんです。そしてこのアルバムもじわじわとにじむように、寄り添うように広がって欲しいなと思います」。

 

 

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(2011年7月29日更新)


Check

Profile

にかいどうかずみ……広島県出身。90年代中頃から活動を始める。静かに優しく、時にはフリーキーなほどに、様々な感情の揺れ・生命力を表現する歌声は唯一無二。他アーティストとのコラボーレションや来日アーティストとの共演の機会も多く、邦楽・洋楽の別を問わず、幅広いファンの支持を得ている。 先日「mina perhonen」2011秋冬シーズンの映像モデルにも抜擢された。 www.nikaidokazumi.net


Release

『にじみ』

発売中
カクバリズム
2800円
PCD-18654

1.歌はいらない
2.女はつらいよ
3.説教節
4.あなたと歩くの
5.PUSH DOWN
6.ネコとアタシの門出のブルース
7.麒麟
8.蝉にたくして
9.岬
10.ウラのさくら
11.Blue Moon
12.萌芽恋唄
13.とつとつアイラヴユー
14.いつのまにやら現在でした
15.お別れの時
16.めざめの歌
17.足のウラ

Release

『タラとニカ』

発売中
SWEET DREAMS
2100円
SDCD-006

1. Lullaby
2. Bell and Pop
3. Ruh Roh
4. Naturally
5. Nursery
6. Riceball
7. Thumb Drum
8. Kaheeloud
9. 4 Trains
10. Say Yah
11. Nikapella
12. Melodica Hall
13. Temple Lullaby
14. In Car
15. Dragonfly
16. Roller

Live

『スチャダラ2011~それぞれの秋~』
7/30(土) 10:00より発売 Pコード142-434

▼9月19日(月・祝) 14:00
大阪城音楽堂
前方指定席 5800円 後方フリーエリア 5800円 ※整理番号付
[出]スチャダラパー / 田島貴男 / TOKYO No.1 SOULSET/ 二階堂和美 / 脱線3 / マキタスポーツ / DODDODO with MIGHTY MARS / 他 [司会]千鳥
GREENS■06(6882)1224

チケットの購入はコチラ
チケット情報はこちら


『p-hour×キツネの嫁入りpresents "スキマアワー" 「学校で教わらなかった音楽。』

▼9月3日(土) 昼予定
元・立誠小学校 
3000円
[出]二階堂和美 / 森ゆに / 大友良英×高田漣×いしいしんじ / 長谷川健一 / 穂高亜希子 / oorutaichi×ytamo / Alfred Beach Sandal / 林拓

詳細はこちら
http://madonasi.com/sukima/





『二階堂和美ワンマンライブ にじみの旅』 関西ツアー情報!

▼10月28日(金) 20:00
ハルモニア
前売3000円 当日3500円 (ドリンク代別)
※メール・お電話予約にて08/20(土)正午~受付開始!

詳細はコチラ
http://harmoniania.blog109.fc2.com/


▼10月29日(土) 19:00
旧グッゲンハイム邸
前売3000円 当日3500円
※メール・お電話予約にて08/20(土)正午~受付開始!

詳細はコチラ
http://www.nedogu.com/


▼10月30日(日) 19:00
UrBANGUILD
前売3500円 当日4000円(ドリンク代込)
※web予約にて08/20(土)~受付開始!

詳細はコチラ
http://www.urbanguild.net/index.html