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感謝しかない。こんなに長い間ピアノを弾かせてもらっている。
還暦を迎えたピアニスト、小曽根真のボーダーレスな挑戦。
ソロ・リサイタルを前に、最新の境地を語る。 (1/3)

日本を代表するジャズ・ピアニスト、小曽根真。演奏家として、また作曲家としての活動は言うに及ばず、彼の存在は今、世界のクラシック界において一流のヴィルトゥオーゾとして認知されている。そのピアノはジャンルを超える、などという軽々しいものではない。小曽根真がクラシック音楽を演奏する時、彼は純然たるひとりのクラシック奏者として臨むのである。ジャンルへのマナーと敬意。それが小曽根真の音楽に独特の高い品格をもたらしている。今年還暦を迎えた小曽根真がクラシックとジャズという2つの表現を携えてソロ・ツアーを開始、4月3日(土)にはザ・シンフォニーホールに登場する。公演に先駆けてアルバム『OZONE60』をリリース。そこには2つのジャンルの最前線で躍動する彼の音楽が、2枚組のボリュームで提示されている。大阪を訪れた小曽根真に訊いた。(音楽ライター/逢坂聖也)

プロコフィエフのレコードを聴いてノックアウトされた。

■ジャズ・ピアニストである小曽根さんが、クラシックの分野でも活躍されているというお話は早くからうかがっていました。それを目の当たりにしたのは、ザ・シンフォニーホールで大阪フィルハーモニー交響楽団と、バーンスタインの交響曲第2番『不安の時代』を共演した時です。指揮は大植英次さん。鮮烈な体験でした。

DSC_0215-300B.jpg小曽根:2011年でしたね。『不安の時代』を大阪フィルで弾いたコンサートは僕もよく覚えています。 自分の中ですごく心に残ったコンサートでした。だから2017年になって、あの曲をニューヨーク・フィルハーモニックと録音できた(※①)というのは本当に幸せな体験でした。『不安の時代』は、最初にピアノのパートだけ練習していてわけが分からなかった。これがどういう響きになるんだろうって、理解できなかったですね。ところがオーケストラのカラオケを作ってオーケストラパートと合わせた時にこんなハーモニーがあるのかって、びっくりしたんです。感動して涙流しながら練習しましたね。不協和音と不協和音がぶつかった時になぜこんな美しい響きが出るんだろうって。クラシックのハーモニーは構築のされ方がジャズと全然異なるものだということを、はっきり理解できた瞬間がありました。だから『不安の時代』は僕を次のステップへ連れて行ってくれた大事な曲なんです。
 
■小曽根さんが最初にクラシックに、最も接近した時期というのはいつだったんですか。
 
小曽根:今にしてみれば1枚目のアルバムを作っていた頃かも知れないです。実は僕はバークリーへはピアノではなくて編曲を勉強するために行ったんです。なめた言い方してっていつも叱られるんだけど、ストレートなジャズを弾くということにおいては学生の頃からプロに負けない自信はあったんですよ。足りない部分は「楽典」だったんで、とにかく楽譜を書けるようになりたいと思ってバークリーへ行ったんです。ところが向こうでデビューが決まって、レコーディングするぞってなった時に僕はオスカー・ピーターソンみたいに弾くことがうまかっただけや、ということに気づいてしまった。結局はものまねだったんですね。だからそのまんまデビューするわけにはいかないわけですよ。あと半年でレコーディングっていう時にどうしようと思って、いろいろ考えた末にボストンの学校に通って、クラシックを勉強している友達に電話したんです。

「俺、ちょっとクラシック聴こうと思うんだけど」て言ったら「どうしたん!?」って驚愕された。「あんたクラシックのことボロクソに言うてたやん」「いや、聴いて勉強せなあかんねん」そんな話をしたんです。そしたら彼女が「小曽根くん、プロコでも聴いてみたら」って言うから「プロコって何?」「何じゃなくて誰!」って言われて(笑)。それでアンドレ・プレヴィンとロンドン交響楽団、アシュケナージがピアノを弾いたプロコフィエフの協奏曲第3番を聴いたんです。レコードをかけてノックアウトされた。こんなかっこいい音楽があるのかって。これがクラシックなの?って思いました。クラシックって、ベートーヴェンやモーツァルトみたいなのばっかりだと思ってたんです。それで圧倒されて毎日毎日その曲を繰り返し聴いて、それから自分の作曲を始めたんです。
 
僕はオスカー・ピーターソンのスタイルを自分の中で1回封印したかったんですね。そのままデビューすると絶対にジャズ評論家たちの餌食になると思ったから。それでプロコフィエフを手始めにクラシックをいろいろと聴いて、作曲をしてリリースしたのが『OZONE』っていう1枚目のアルバムだったんです。そのB面に『エンドレスシーズン』っていう組曲があって、それはすごくクラシックの作曲の影響を受けた作品です。僕はそこへ行くまで、自分の中のピーターソンの影響を封印してました。ずっとピーターソンの真似をして弾いていたから、ちょっとでもスイングのリズムを弾こうもんならすぐにピーターソンのフレーズが出てくる。そのくらい当時の僕には彼がすべてだったんです。そこから自分の音楽を創る第一歩を踏み出すのに、プロコフィエフの音楽があった。しかもそれがピアノ協奏曲の第3番だった。だからそういう意味では、クラシックに1番近かった時期というのはその辺りかも知れません。

(※①)CD『ビヨンド・ボーダーズ』2018
   [指揮:アラン・ギルバート 演奏:ニューヨークフィルハーモニック]

 



(2021年3月12日更新)


Check

小曽根真 60tTH BIRTHDAY SOLO  OZONE60 ー CLASSIC×JAZZ

4月3日(土)14:00開演(13:00開場)
ザ・シンフォニーホール
S席-7,500円 A席-6,500円
チケット発売中 Pコード 191-126

【問い合わせ】
キョードーインフォメーション
℡:0570-200-888

チケット情報はこちら


小曽根真 最新アルバム『OZONE60』発売中

【CD 1 -  CLASSICS + IMPROMPTU】
1.ラヴェル:ピアノ協奏曲 第2楽章 ホ長調
2.ディパーチャー
3.モーツァルト:小さなジグ K.574 ト長調
4.プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ 第7番
 「戦争ソナタ」 第3楽章 Op.83
5.モシュコフスキ:20の小練習曲 第8番
  Op.91-8 ロ短調
6.カンヴァセーションズ・
  ウィズ・マイセルフ~パート1
7.カンヴァセーションズ・
  ウィズ・マイセルフ~パート2
8.モシュコフスキ:20の小練習曲 第20番
   Op.91-20 変ト長調

【CD 2 - SONGS】
1.ガッタ・ビー・ハッピー
2.ニード・トゥ・ウォーク
3.ザ・パズル
4.リッスン...
5.ストラッティン・イン・キタノ
6.オールウェイズ・トゥゲザー
7.オベレク
8.フォー・サムワン

Anniversary Solo Album『OZONE60』
3月3日(水)発売
SHM-CD仕様 UCCJ-2190/1 4,400円(税込)
Verve/ユニバーサルミュージック

小曽根真 Makoto Ozone Official Website