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2月にザ・フェニックスホールで
演奏生活60周年を記念するリサイタルを行う
左手のピアニスト、舘野泉インタビュー (2/3)

音楽はすべて自分の体験から生まれるもの。 

 

■今回のプログラムは関西では初めてですね?
 

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舘野:関西では初めてです。中には委嘱したものもあるし、私のために書いてくださった作品もあります。光永浩一郎(1966-)さんの『苦海浄土によせる』って作品は2年前ですね。こういうのを書きましたから、これは先生に捧げますって言って送ってくれたんですよ。もちろんこれまで彼に頼んで書いてもらったものもたくさんあるんだけども、光永さんは書いたらどんどん僕のところ送ってくれるんですよ。いやあ、今は演奏しなきゃならない曲がたくさんあってって言うんだけど、ぜひ置いておいて、いつか弾いてくださいって(笑)。それで2018年の暮れ頃にピアノの上に置いてあった『苦海浄土によせる』の譜面を見て、その時におや、これはすごい曲だなと。弾かなきゃダメだな、これはいい曲だ。そう思って弾くことにしたんです。

 
■光永さんは熊本の作曲家ですね。水俣病の問題とか、そういう社会性を持った作品なんですか?
 
舘野:社会的な事がどうとかは思わなかったんだけども、最初に言えば水俣病の問題だとか、そういう問題があることはもちろん知っていましたよ。でも曲を見た時に考えたのはそのことではなくて、こうやってじっと譜面を見て、この作品に何か人の心を惹きつける、訴えかけてくるものがある、と思ったんです。それを音にして自分自身で追体験していくと言うか、そういう風な接し方をしていたんですが、やはり全体を見て行くと、あの辺は水俣の問題もあるし、例えば近くには隠れキリシタンと言うか島原半島の、昔からそうした重たいものがたくさんあったところですね。光永さんもそういう重たいものを背中に背負ってると言うか、長い歴史を感じているんだろうと思ったんです。そういうところから、だんだん弾いていくうちにひとつひとつ場面を掴んで行った。いい曲ですよ、すごくいい曲です。
 
■今回のプログラムを眺めていると、この『苦海浄土』から新実徳英(1947-)さんの『《夢の王国》』という題名があって『悦楽の園』っていう世界がある。なんだか人間の迷いというか、ある種のさまよいが描かれている感じもします。 
 
舘野:それで最後はボスの絵だから地獄に行っちゃうんだ(笑)。でも地獄に行っちゃうっていうのはそれで終わるわけじゃなくて、行ったからこそ救いがあるんですよ。とにかく大変なことがあって曲はぐわんって終わるんですけど、でもそこを抜けて新しい世界がまた開けてくるんですよ。人生というのは地獄と天国と言うか、表裏一体ですからね。 本当のところっていうのはやっぱり両方経験してないと。
 
■舘野さんは両方ご経験されましたね。だけど私は思ったんですが『ひまわりの海』以降、舘野さんが両手で弾き続けていたとしても、私はファンでいたのではないかなと。舘野さんのピアノの音には何とも言えない、人懐っこい、人を恋わずにはいられないような響きがあるんです。
 
舘野:よく言われることなんですけど、あなたの音はピアノの音じゃないって。人の声が楽器を伝わって出てくるみたいだと。音楽を勉強する方とか、音楽を追求する方とかの中には、どこかの大演奏家の演奏を聴いたり、ヨーロッパの本場で音楽を勉強することが音楽を突き詰めて行く道、みたいに思っている方が多いですよね。でもそれは関係ないですよ。結局僕は藝大にいた頃からそうですけども、音楽はどこにいても勉強できる、自分のものにしてそこで生まれてくるものであって何々の様式を守ってやらなければいけない、というようなものではない。自分ですべての体験から創り出していくと言うか、生み出していくものだと。そう思っています。
 
■今回のプログラムを聴いたお客さまが、どんな風に感じてほしいという風な事はありますか?
 
舘野:そういう風には思わないですよ。お客さまもそれぞれ、面白いなあという方もいらっしゃるだろうし、いろんな受け取り方をする人がいるだろうからそれが100人いれば100ある。そういうのがいいと思いますね。
 



(2021年1月22日更新)


Check

演奏生活60周年
舘野泉 ピアノ・リサイタル

2月23日(火・祝)14:00開演
あいおいニッセイ同和損保
ザ・フェニックスホール 
全席指定:5,000円 Pコード 189-152

【プログラム】
J.S.バッハ(ブラームス編曲)
 :シャコンヌ ニ短調 BWV1004より
A.スクリャービン
 :「左手のための2つの小品」
   Op.9より “前奏曲” “夜想曲”
光永浩一郎
:左手ピアノ独奏のためのソナタ
  “苦海浄土によせる”
  第1楽章.海の嘆き
  第2楽章.フーガ
  第3楽章.海と沈黙
新実徳英:《夢の王国》
 左手ピアノのための4つのプレリュード
  Ⅰ.夢の砂丘
  Ⅱ.夢のうた
  Ⅲ.夢会談
  Ⅳ.夢は夢見る
パブロ・エスカンデ:『悦楽の園』
 ヒエロニムス・ボスのトリプティック
 (三連祭壇画)による自由な幻想曲
  導入部:天地創造の第三日目
     (閉じられたトリプティック)
  パネル1:楽園でのアダムとイヴ
  パネル2:悦楽の園
  パネル3:地獄

舘野泉オフィシャルサイト
 :https://izumi-tateno.com/

【問い合わせ】
リバティ・コンサーツ:06-7732-8771

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舘野泉 最新CD(発売中)

エルネスト・ショーソン/
舘野泉×浦川宣也
ヴァイオリン、ピアノと弦楽四重奏のための協奏曲 ニ長調 作品21

■独奏
ピアノ:舘野泉
ヴァイオリン:浦川宣也
■弦楽四重奏
第1ヴァイオリン:舘野晶子
第2ヴァイオリン:林瑤子
ヴィオラ:白神定典
チェロ:舘野英司

録音:1959年春、旧東京音楽学校奏楽堂。
※演奏家名は当時のもの。

発売元:ヒビキミュージック 2,000円+税