インタビュー&レポート

ホーム > インタビュー&レポート > フランス・ロマン派の巨星を聴く貴重な演奏会 ”サン=サーンス讃”、フェニックスホールで開催 ヴァイオリニスト、高木和弘インタビュー


フランス・ロマン派の巨星を聴く貴重な演奏会
”サン=サーンス讃”、フェニックスホールで開催
ヴァイオリニスト、高木和弘インタビュー

今年没後100周年を迎えるフランスの作曲家、カミュ・サン=サーンス(1835-1921)。幼少より神童、天才の名を欲しいままにし、およそかなえ得る音楽家としての栄光を一身に浴びながら86年の生涯を送った人物である。オペラ、劇音楽から管弦楽、室内楽まで作品は多岐にわたるが、またそれゆえに日本においては必ずしもその全貌が紹介されてきたとは言い難い作曲家でもある。2月10日(水)、ヴァイオリニストの高木和弘が、このサン=サーンスのヴァイオリン作品のみを集めたリサイタルをフェニックスホールで開催する。題して高木和弘の”サン=サーンス讃”。大阪出身、フランスのリヨン国立高等音楽院に学び、エリザベート王妃国際コンクール、ジュネーヴ国際コンクールなど数々のコンクールで入賞。ソリストとしてはもちろん、コンサートマスターとしても現在ダラス室内交響楽団のポストを務めるなど、日本を代表する存在となった高木がこのフランス・ロマン派の巨星にどのように取り組むのか。その抱負を訊いた。

絶え間なく湧き出る音楽の泉が生涯を通して作品の瑞々しさを保たせていた-高木

■カミュ・サン=サーンス没後100周年記念(まだ100周年なのですね)で「サン=サーンス讃」ということなのですが、これほどサン=サーンス尽くしの演奏会は初めて聴くことになりそうです。まず、聴きどころを教えてください。
 
高木:そのとおり、サン=サーンス尽くしを聴ける機会は意外とまずない、というのがズバリ聴きどころです(笑)。何年も前から僕の中にこのようなコンサートの構想はありました。僕自身サン=サーンスを一言で言い表すと「フランスロマン派のモーツァルト」であると思っています。古典的な様式観を厳格なまでに保ちながらその保守性とは裏腹にオペラ、交響曲、交響詩、室内楽、歌曲など様々な形態において衝撃的とも言える多様なアイデアを盛り込み、新しい時代をまったく力むことなく高貴に切り拓いていく辺り、長生きしたモーツァルトとしか例えようがありません。クラシックの名曲と言われるものは得てしてメッセージ性の強い、演奏時間も長くどっしりとした印象のものが多い事からなかなかに「玄人向け」であるのが一般的ですが、単純に美しく幻想的で内容もわかりやすく人の心の琴線に直に触れやすい曲は、意外と今まであまり日の目を見なかったサン=サーンスの作品にこそ多く埋もれているのではないか?との強い思いから、心底音楽の美しさに触れていただける演奏会と言うものを企画するに至ったのです。
 
■ヴァイオリン協奏曲第1番や交響詩『死の舞踏』などのピアノ伴奏版もあるのですね。ヴァイオリニストのソロ・リサイタルとしても、かなり珍しいものと言えるのではないでしょうか?

高木:この頃のフランスの作品にはもともとオーケストラを想定して書かれていても、月日が随分とたってからピアノで演奏できるように縁もゆかりもない人間が編曲をするというのではなく、作曲者自身もしくは作品に感銘を受けたビゼーなどとても高名な音楽家がピアノ縮小版を書き、それに対して作曲者自身も相当の評価をしたといったようなものが多くあります。『死の舞踏』も作曲者自身の版によるものです。
 
■サン=サーンスはとても長生きした作曲家です。今回のプログラムも、一番古いものでヴァイオリン協奏曲第1番の1859年、新しいところでソナタの2番の1896年で、あいだの作品を挟んだ形になっています。この時間の開きというのが作品に与えた影響(あるいは個々の作品の違い)みたいなものはあるのでしょうか?
 
高木:例えばベートーヴェンやフォーレ、エネスコなどのように若い頃と円熟期ではっきりと作風が違う、と言うようなことはあまりないのではないかと思われます。なぜなら演奏家としてもピアノ、オルガンにおいて天才的な一級の腕前を維持していたし、ことさら作曲に関してはオールジャンルに対してとても意欲的に作品を残しています。この絶え間なく湧き出る彼の中の音楽の泉は生涯を通して都度書き上げられる作品の瑞々しさを保たせていたのではないでしょうか。
 
■もう10年近く前になりますが、大阪倶楽部でフランコ・ベルギーの作品を集めた高木さんのリサイタルを2夜にわたって聴かせていただき(ピアノは今回も同じ佐藤勝重さんでした)、感銘を受けたことを覚えています。サン=サーンスは国民音楽協会の側ですから、フランコ・ベルギーとはちょっと楽派が違うようにも思えるのですが、いわゆる「フランス的な音」のような共通点はあるのでしょうか?
 
高木:多くの場合においてフランスの近代における音楽は、特にオルガンの演奏を職業にしていた作曲家によって書かれていたので、確かにハーモニーの展開はより前衛的で幻想的かつ美しいものが多いです。ただ音楽全体においてはそれは大きな「フランス的特徴」ではあるのでしょうが、サン=サーンスのヴァイオリン作品で特筆すべきは、同時期か少し後の多くの高名な同国の作曲家が、正統フランコ・ベルギー派のヴァイオリニスト、ウジェーヌ・イザイに作品を捧げることが多かったのに対し、あの『チゴイネルワイゼン』の作曲者でもあるパブロ・デ・サラサーテの音色をイメージして少なからず作品を残しているという点です。代表曲「序奏とロンド・カプリチオーソ」などは、ピアノ縮小版をビゼーが担当し、サラサーテに献呈されています。やはり、理想とする楽器の音色やそこから奏でられるべき音楽的アイデアなどが違うということは作品を生み出す段階で少なからず影響を与えるのではないでしょうか。
 
■サン=サーンスはオペラから小品まで、とても多彩な作品を残しています。ヴァイオリニストにとっては(あるいは高木さんご自身のとっては)、どのような存在の作曲家ですか?
 
高木:先程の回答と重なりますが「フランス近代のモーツァルト」に尽きると思います。そして、映画「ギーズ公の暗殺」に世界で初めて映画のための音楽を書く、といったパイオニアとしての偉業も讃えられる、とても革新的で意欲的な音楽家だったと言えます。
 
■高木さんの最近の活動と、当日、来場されるお客さまにメッセージをお願いします。
 
高木:世界中の人々が外出する事さえはばかられるこのご時世ですので、なかなか意欲的に演奏の場を設けると言う事はできないのですが、YouTubeや配信コンサートなど、新しいかたちのものにはどんどん乗っかっていって、ひとりでも多くのお客さまの心に魅力的な音楽作品をお届けさせていただくことが許されればと願っています。お心許す範囲で会場に足をお運びくださり、舞台上からお目にかかれることを心待ちにしております。

                                  〔取材・文:逢坂聖也/音楽ライター〕



(2021年1月 7日更新)


Check

カミュ・サン=サーンス没後100周年記念
高木和弘の“サン=サーンス讃”

2月10日(水)19:00開演
あいおいニッセイ同和損保
ザ・フェニックスホール 
全席指定:5,500円 Pコード 186-486

【プログラム】
カミュ・サン=サーンス:
 ヴァイオリン協奏曲 第1番 イ長調 op.20
 ロマンス ハ長調 op.48
 ハバネーズ op.83
 死の舞踏 op.40
 序奏とロンド・カプリチオーソ op.28
 ヴァイオリン・ソナタ 第2番
 変ホ長調 op.102


【ピアノ】佐藤勝重

◆高木和弘 オフィシャルウェブサイト

【問い合わせ】
KCMチケットサービス■0570-00-8255

チケット情報はこちら