「全曲を通して弾くことで見えてくるものを共有したい」
日本センチュリー交響楽団コンサートマスター
松浦奈々 ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会
日本センチュリー交響楽団のコンサートマスター、松浦奈々がベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全曲ツィクルス(全3回)を行う。松浦奈々は和歌山県出身、桐朋女子高等学校音楽科を経て、桐朋学園大学を首席で卒業。関西のオーケストラファンの中には後藤龍伸、荒井英治とともにセンチュリーの響きの要として、表情豊かな演奏でオーケストラを牽引する彼女の姿を記憶する人も多いことだろう。ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタは第5番『スプリング』、第9番『クロイツェル』といった傑作を擁しながら、実演の機会の稀な作品も数多いジャンル。全曲演奏は松浦自身にとって初の挑戦であるという。
■松浦さんはコンサートマスターのお仕事以外にも、室内楽などの分野で活発に活動されています。今回はひさびさの本格的なソロ・リサイタルだと思うのですが、こうしたご自身の演奏のルーツについてうかがえますか?
松浦:もともと室内楽が大好きだったんです。多分、ひとりで弾くよりもみんなで弾くのが好きなタイプで、学生の頃から1日中合わせていても、少しも苦になりませんでした。先生が東京クヮルテットの創設メンバーの原田幸一郎先生でしたから、もう高校生の時から将来はカルテットで弾くぞ、くらいの気持ちでいたんです。だから今、コンマスの仕事をしている時も、ソロで弾く時も根っこにあるのはやはりアンサンブルの体験だと思います。そこから学んだことを、どういう風に自分にフィードバックしていくか、ということでしょうね。
■ヴァイオリンを始めたのはいつ頃から?
松浦:ヴァイオリンを始めたのは、私は少し遅くて7歳、小学校2年生の時です。同級生の男の子が習っているのを見て、あ、いいなと思って。最初は親に反対されたのに半年くらい粘って習わせてもらいました。はじめは音楽の道に進むなんて考えてもなかったんですが、6年生くらいの時に工藤千博先生に習い始めて「ヴァイオリン弾くのってこんなに楽しいんだ」って思って、将来ヴァイオリン弾きになりたいって真剣に思い始めたのはそれからでした。
■日本センチュリー交響楽団のコンサートマスターとして今、意識しているようなことはありますか?
松浦:コンサートマスターというのは、まずオーケストラの音を揃えないといけないし、演奏中に何かがばらばらっと崩れたら、とにかくそれを立て直さなければいけない。その時には楽譜のどの部分のどの楽器の音から、というのを瞬時に判断しなければならないんです。入団当初は緊張の連続で大変でしたが、今は少し楽になって来たという感じがしています。私自身、経験を重ねたということもありますし、今はとにかく演奏中にみんなが私を見てくれているという安心感があって、オーケストラ自体もいい方向にあると思います。
■ではベートーヴェンのソナタ全曲ツィクルスについて、抱負をお願いします。
松浦:ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタは10曲のうち9番までが30代前半までに書かれていて、10番だけが後期の作品です。そのあたりが一生のあいだ書き続けられた弦楽四重奏曲やピアノ・ソナタなどとは少し違っていて、私たちヴァイオリニストにとってもなかなか弾く機会のない作品を含んでいます。全曲を通して弾くことで初めて見えてくるものを、お客さまと共有したいと思っています。
〔取材・文:逢坂聖也/ぴあ〕
(2018年12月25日更新)
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