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いずみホールでソロリサイタルを行う、ピアニスト福間洸太朗
『芸術家たちの憧れた街、パリにて…』を語る

福間洸太朗からの動画コメント

 昨年10月、「洸~Shimmering Water」をテーマに、いずみホールで関西初となるソロリサイタルを行ったピアニスト、福間洸太朗。高度なテクニックと、深く磨き上げられた表現力に耳を奪われた観客も多かったに違いない。その福間洸太朗が10月5日(土)、ふたたびいずみホールでソロ・リサイタルを行う。個性的なプログラムで知られる福間が今回テーマに選んだのが18世紀から20世紀にかけての“パリ”。『芸術家たちの憧れた街、パリにて…』と題し、モーツァルトやショパン、そしてドビュッシーなど、この街に魅せられ、あるいはこの街にインスピレーションを受けた作曲家たちの作品を取り上げる。公演に先駆けて、大阪を訪れた福間洸太朗に聞いた。
 

 

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「パリをテーマにした演奏会というと、やはりフランスの音楽を皆さんは想像されるのではないかと思い、あえてそれだけにとどまらないように組み立てていったんです。それで最初がモーツァルト、最後がストラヴィンスキーっていうプログラムになりました。もちろんフランスの作曲家もいるし、いろんな国の作曲家がいるわけなんですが、あくまでもパリに生まれた音楽という統一感の中で、出来るだけバラエティに富んだプログラムが作りたかったんです。で、私がここで一番皆さんにお伝えしたかったのは、パリという街の持つパワーというか、この街が芸術家たちに与えた影響にはすごいものがある、ということ。この街には、アーティストにインスピレーションを与える不思議な力というようなものを感じるんです」

 

■それは何なんでしょう、パリの不思議な力っていうのは?

 

「言葉では言い表せない…です。パリという街は、人種の坩堝でもあるし、様々な文化が交じり合っているし、いろいろな要素がありますから。街の構造を見ても独特ですよね。凱旋門からシャンゼリゼ、コンコルド、ルーブル美術館とかがつながって、街の中心を横一直線に走っている。そしてセーヌ川の北と南ではまた全然雰囲気が違っていたりします。それぞれの地区がいろんなキャラクターを持っていて、街全体がひとつの芸術作品に感じられる、というのはありますね」

 

「私自身、パリに留学して4年間を過ごしましたし、今も仕事で行くことは多いんですけれども、訪れるたびになんとも説明のつかない不思議なものを感じていて、それを皆さんにも感じていただきたいなと思っているんです。パリの街には芸術家にとって斬新なことを試させる土壌のようなものがあるんですよ。もちろんパリの街並みとか情景を思い浮かべたり、パリのフランスらしい空気を感じてもらいたいという気持ちもあるんですけど、それとはまた違った、芸術家にとってのパリの魅力というものを、お客さまに伝えることができればうれしい、と思っています」

 

■確かにある種の「閃き」のようなものを感じさせる作品が並びますね。作品とパリとの関係のようなものを、うかがいたいのですが。

 

 

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「私なりの想像を働かせた部分もあるんですよ。例えばモーツァルトの作品ならば、パリへの演奏旅行中に書かれたと言われていますし、ストラヴィンスキーの『火の鳥』はもとはバレエのための曲ですが、初演がパリで行われた、というような理由があります。でもドビュッシーの『沈める寺』はもともとパリが舞台ではなく、ブルターニュの海辺の「イスの街」にまつわる伝説なんですね。海に沈んだイスの街が年に一回、浮上してきて寺院の鐘が聴こえるという話なんです。ずっと昔、イスの街はすごく栄えていてとても美しい街だった。それに勝る街として名づけられたのが「par Is(イスに匹敵する)=Paris(パリス)」。つまりパリの街は、イスよりも素晴らしいっていうことからこの名前が付けられたっていう説を本で読んだんです。これは面白い、パリにつながっているな、と考えてこの作品をプログラムに加えようと思いました。美しく栄えていたイスの街がなぜか海に沈んでしまって、その因縁ではないけれど、パワーがパリに移って、今も芸術家たちをインスパイアしているのかな、なんて個人的には想像したりもします」

 

「後半ではフォーレのノクターン第2番を弾きます。パリに縁の深い、大好きな作曲家なんですが、まだ日本では弾かれる機会が少ないように思います。あくまでも私にとっては、なんですが、フォーレはショパンとドビュッシーの中間に位置する作曲家のように思っているんです。美しいノクターンを書いた、ということでフォーレはショパンと共通しますし、ドビュッシーのような色合いの移り変わりのような要素も感じさせてくれます。このノクターン第2番は大好きで、本当にいい曲だと思っているので、大阪のみなさんにも、ぜひ覚えていただきたいですね。フォーレの名前と一緒に」

 

■昨年10月のいずみホール以来、大阪でのリサイタルはほぼ1年ぶりですが、この間、関西での演奏も増えてきていますね。手応えのようなものはありますか。

 

「忘れられないですね。昨年のいずみホールは(笑)。スタンディングオベーションもいただいて感激しましたし、大阪のお客さまの熱気を感じました。その後、びわ湖ではサロンコンサートのようなかたちで演奏したり、神戸ではオーケストラとの共演があったりと、関西で演奏する機会が増えていて、たいへんうれしく思っています」


「実は今年はこの『パリ…』以外にもコンセプトがあって、10月6日には神戸の松方ホールで「『五輪書』を読みて」と題したコンサートを行うんです。プログラムの後半はブラームスのソナタ第3番なんですが、私はちょうど10年前にこのブラームスの3番を勉強していて、同じ頃に父親のすすめで宮本武蔵の『五輪書』を読んだんです。『五輪書』の内容は兵法、武道のことですから、音楽とは直接関係はないんですけど、でも父は生きていく上でいろいろヒントが得られるからと言って…それで私もいろいろ学ぶものがあったんですね。ちょうど留学2年目で20歳になった頃のことで、まだ演奏活動も始めていなくて将来の不安を抱えていた時期だったんです。当時ブラームスの3番というのも自分にとってはものすごく巨大な深い作品で、理解できなくて苦しんでいたんですが、その時期に『五輪書』を読むことによって何かに立ち向かっていく心を持てたというか、自分に挑戦して、自分を高めていくっていうことを実践して、その年、クリーブランドコンクールで優勝して、11月にニューヨークでデビューしたっていう経緯があるんです。また『五輪書』は五章に分かれていて、それぞれが「地の巻、水の巻、火の巻、風の巻、空の巻」と地球を構成する五大元素から来ているので、プログラム前半に五大元素に関わる作品を並べました。私の中では、バルトークは「地」、ドビュシーは「水」、ショパンは「風」、そして最後は「火」の鳥が「空」に舞い上がっていく、という構成です。昨年の「水の光」テーマをさらに拡大した感じになります」

「今年は、私のニューヨークデビュー10周年でもあります。ですから今回の関西公演では、ピアニストとして自分がこれまで辿った10年を振り返りながら、そして、パリで学んだ4年の時間を振り返りながら、自分にとっても今なおインスピレーションを与え続けてくれるこれらの作品を演奏していきたい、と考えているんです」
 
 



(2013年9月26日更新)


Check

福間洸太朗 ピアノリサイタル2013

■芸術家たちの憧れた街、パリにて…

10月5日(土)13:00
いずみホール

一般-4000円 学生-2000円
チケット発売中 Pコード 205-963 
※未就学児童は入場不可。

【プログラム】
モーツァルト:きらきら星変奏曲
(「ああ、お母さん、あなたに
  申しましょう」による12の変奏曲」)
ドビュッシー:沈める寺 (「前奏曲」より)
ドビュッシー:雨の庭 (「版画」より) 
ショパン:幻想即興曲
ショパン:アンダンテ・スピアナートと
     華麗なる大ポロネーズ
フォーレ:ノクターン 第2番
サティ:あなたがほしい
プーランク:即興曲 第15番
      「エディット・ピアフを讃えて」
アルベニス:マラガ(「イベリア」より)
ストラヴィンスキー:火の鳥
         (アゴスティ編曲)

「芸術家たちの憧れた街、パリにて…」の

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■五輪書を読みて

10月6日(日)13:00
神戸新聞松方ホール

指定席-4000円 学生-2000円
チケット発売中 Pコード 208-886
※未就学児童は入場不可。

【プログラム】
バルトーク:戸外にて (抜粋)
ドビュッシー:沈める寺 (「前奏曲」より)
ショパン:バラード 第4番 Op.52
ストラヴィンスキー:火の鳥
         (アゴスティ編曲)
ブラームス:ソナタ 第3番 へ短調 Op.5   

「五輪書を読みて」の

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【問い合わせ】
キョードーインフォメーション
■06-7732-8888

福間洸太朗 profile

1982年生まれ。パリ国立高等音楽院、ベルリン芸術大学および同大学院、コモ湖国際ピアノアカデミーに学ぶ。2003年クリーブランド国際コンクール優勝(日本人初)およびショパン賞受賞。同年、NYリンカーンセンターでデビュー以来、カーネギーホール、ウィグモアホール、ヴィクトリアホール、ベルリンコンツェルトハウスでのソロリサイタルなど、世界各地で演奏活動を展開する。これまでにクリーブランド管、モスクワ・フィル、日本センチュリー響ほか国内外の主要オケと多数共演。CDに「シューマン」「武満徹」「アルベニス」「リスト」「トッパン・ライブ」がある。2012年には日本コロムビアより「水の反映~ドビュッシーピアノ作品集」をリリース。「Shimmering Water~水の光」と題したツアーを国内外で行った。第39回日本ショパン協会賞受賞。現在ベルリン在住。