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ジャパン・ヴィルトゥオーゾ・シンフォニー・オーケストラ
名手たちの交響楽団 ~20th アニバーサリーコンサート~


プロデューサー
三枝成彰インタビュー PART1


 毎年、1月4日に行なわれているジャパン・ヴィルトゥオーゾ・シンフォニー・オーケストラの大阪公演が、2012年に20回目のアニバーサリーを迎える。このオーケストラは作曲家・プロデューサーである三枝成彰と指揮者の大友直人の企画によってスタートしたもの。日本全国のプロ・オーケストラのコンサート・マスター、主席奏者を中心とした特別編成で、管弦楽の醍醐味をたっぷりと聴かせてくれる、まさにヴィルトゥオーゾ=名手の名にふさわしいオーケストラだ。
 節目の年を迎える今回は、3人の女流奏者をソリストとして迎えるなど、プログラムもバラエティに富んだものとなった。このコンサートに先駆けて、ぴあ関西支社を訪れた三枝成彰氏に今回の聴きどころなどをうかがってみたところ、話題はオーケストラの音響を発端に、ワルツを巡る19世紀の音楽事情、“クラシック”の語源などに及び、思いもよらない(!)文化史的なアプローチが展開された。そのスリルに満ちた内容を2回にわたってお届けしたい。

■ここにいる人たちはヨーロッパでも通用する。

三枝右01.jpg■昨年初めて聴かせて頂きました。前の方の席でしたが、音は確かに大きい。

三枝シンフォニーホールでは制限しているんです。音が割れちゃうから。空気容量が足りないんですね。フルにやると割れちゃう(笑)。東京ではもっとでかいですよ

■サントリーホールですか?

三枝サントリーと文化会館。2000人近い人数を収容できるホールだと思いっきり運転できるんです。空気容量の小さいところだとぐしゃっとなっちゃって、ひずむわけですよ。でもそこは、彼らはプロですから、うまーくコントロールして演奏してます。安全運転でね

■いわゆる外国オケでならあのくらいの音を聴いたことがあるように思うのですが、日本のオケだと滅多に聴けない大きさだと思いました。

三枝全員が弾いているからです。ファーストヴァイオリンなんかは12人中11人がコンサートマスターです。難しいパッセージも全員で弾いてしまう技術がありますから、細かい部分の音が出る。だから、音は大きいわけです。ここにいる人たちはヨーロッパへ行っても通用する人たちですから。

■今回は20周年ということでソリストの方も華やかですね。

三枝はい。ソリストをいれるのは初めてなんですよ。ただ曲順がまだ決まっていないんですね。塩田さんの歌は最初に持ってくると思います。川井さんのヴァイオリンが次、リストのピアノ協奏曲をソロの最後に、というのはまあ間違いないだろうと思います。それからオケだけの曲をというふうに考えていますが、一番最初にオケだけで「美しき青きドナウ」を演って、前後をオケで挟もうかとも考えたりしています。リストは今年がリストイヤーなんですけどね。今年1回もやらなかったものですから、ちょっと遅れたリストになっちゃいましたね(笑)。あとよく知られたところではプッチーニの「私のお父さん」。

■きれいな曲ですね。ちょっと日本の曲のような雰囲気もあります。

三枝結婚式で歌われるからでしょう。みんな“私のお父さん”てタイトルに騙されちゃって(笑)。あれはだって「お父さん、結婚させてくれなかったら、私ポンテ・ベッキオ(ベッキオ橋)から身投げして死んじゃうわ」って歌なわけで。父親を脅してるんですよ。結婚式場まで来て歌う歌ではないですよね(笑)。

■ウィンナ・ワルツはクラシックのサブカルチャー!?三枝右02.jpg

■オーケストラはJ・シュトラウスⅡのワルツですね。ニューイヤーの定番ですが、もともとこういう祝典的な意味合いの曲だったのですか?

三枝いや、そうではないですよ。今でこそ洗練の極みのように言われてますが。19世紀に結局、貴族階級が衰えていって、音楽っていうのは裕福な商人たちがとって替わるようになった。で商人たちが貴族を真似るわけです。娘達にピアノを弾かせてホームコンサートをやる。連弾がすごく重宝されてくるんですね、リストとかブラームスとかドヴォルザークとか、みんな連弾の曲を書いていて、2台のピアノを一緒に弾く、あるいは1台のピアノをふたりで弾く。だから何となく家で兄弟、娘ふたりがピアノを弾いているのを父親が見ているとか、知り合いを集めて聴いたりするとか、そういう習慣というか社会が出来上がってくる。合唱なんかもそうです。当時の作曲家はみんな合唱曲を書いてます。シューマンしかり、ブラームスしかりです。アマチュアの合唱が誕生したのはこの時代で、それ以前には無いんです。

■合唱隊とかプロの領域だったのでしょうか?

三枝もちろん、合唱という形式はありましたよ。あったにはあったんですが、それ以前にあったのは教会の合唱、あるいは宮廷の合唱。神や王を讃える合唱なんですね。ところがこの時代は神様や王様のためではなく、趣味の音楽が誕生してきた時代で、ブルジョアの人たちが音楽を好きにならなきゃいけないと思い始めたわけです。ところがベートーヴェンはちょっと分かりづらいなと。だからそういう人たちが好んだのが、今で言うところのセミ・クラシックなんですね。要するにクラシック音楽はちょっと大変やー、と(笑)。そこで生まれたのがクラシック音楽に対するポピュラー音楽の最初の形です。そこからワルツの流行なども始まる。これはもう芸術の範疇ではない、全然別の範疇の話です。大衆に向けられているんですね。だからワルツの大流行っていうのは、非常にサブカルチャー的なものなんですね。クラシックの世界のサブカルチャーなんです。

■クラシック音楽が変化していった時代ですね。

三枝世界が変化していった時代、と考えた方がいいかも知れない。これより少し前になるけれど18世紀の後半にヨーゼフ2世という皇帝が現れて、ものすごく寛大な政治を行なうんです。まずハプスブルク家で働いていた使用人をみんな辞めさせて、役人を民間登用する。ユダヤ人もどんどん登用する。だから19世紀にはそれまで世の中に出て来られなかったユダヤ人たちが活躍してくる。マーラーもそうですし、クリムトもそう。有名な芸術家にユダヤ系の人が多いですね。ですから19世紀後半は黄金の時代って言われました。時代が大きく動いた時期ですね。

■「ジャパン・ヴィルトゥオーゾ・シンフォニー・オーケストラ」で取り上げる曲もこの時代のものが多いような気がしますが。ブラームスやドヴォルザーク…。

三枝そんなことはないですよ。交響曲で皆さんが喜んでくれる曲がそんなに無いんです。ただ大阪の人は「新世界」、お好きですよね。これはとてもはっきりしています。ドヴォルザークの9番。確かに演奏回数は一番多いですよ。なぜなんだろう。第2楽章のアダージョは下校の音楽の刷り込みがあるのかも知れませんね。ああ、知ってるぞっていうみたいな、ね(笑)。
                                                    〈PART2へ続く〉
 

三枝成彰プロフィール1.jpg■三枝成彰(さえぐさ しげあき)

1942年生まれ。作曲家、プロデューサー。代表作にオラトリオ「ヤマトタケル」、オペラ「千の記憶の物語」、ヴァイオリン協奏曲「雪に蔽われた伝説」など多数。プッチーニ生誕150周年にあたる2008年にはオペラ「Jr.バタフライ」の作曲・上演に際し、「プッチーニ国際賞」を日本人として初受賞。2011年11月には、第二次世界大戦で戦死した人々の最後の手紙を題材とした男声合唱作品「最後の手紙~THE LAST MESSAGE」をスイス、ジュネーヴにて演奏した(初演は2010年)。2007年紫綬褒章受章。




 




(2011年11月18日更新)


Check
         大友直人(指揮)
         塩田美奈子(ソプラノ)
         川井郁子(ヴァイオリン)
         三舩優子(ピアノ)

ジャパン・ヴィルトゥオーゾ・
シンフォニー・オーケストラ 〈第20回大阪公演〉

チケット発売中  Pコード152-278
S席-10000円 A席-8000円 B席-6000円 C席-4000円 D席-1000円 
●2012年1月4日(水)16:30(プレトーク16:15) 
ザ・シンフォニーホール

【指揮】大友直人
【ソプラノ】塩田美奈子
【ヴァイオリン】川井郁子
【ピアノ】三舩優子
【プレトーク】三枝成彰

【プログラム】
J.シュトラウスⅡ:喜歌劇「こうもり」序曲
J.シュトラウスⅡ:「春の声」〈塩田美奈子〉
レハール:喜歌劇「メリー・ウィドウ」より
「ヴィリアの歌」〈塩田美奈子〉
プッチーニ:歌劇「ジャンニ・スキッキ」より
「私のお父さん」〈塩田美奈子〉
レッド・ヴァイオリン
(ロドリーゴ「アランフェス協奏曲」より
編曲:川井郁子)〈川井郁子〉
映画「COLD SLEEP」より
(編曲:川井郁子)〈川井郁子〉
ジュピター(ホルスト:ジュピターより 
編曲:川井郁子)〈川井郁子〉
リスト:ピアノ協奏曲第1番 変ホ長調〈三舩優子〉
J.シュトラウスⅡ:皇帝円舞曲
J.シュトラウスⅡ:美しく青きドナウ



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