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合唱部部長の男子中学生と歌がうまくなりたいヤクザの交流を描いた
和山やまの同名漫画を山下敦弘監督が映画化
映画『カラオケ行こ!』齋藤潤&山下敦弘監督インタビュー

和山やまの同名漫画を、『1秒先の彼』の山下敦弘監督が映画化した『カラオケ行こ!』が、TOHOシネマズ梅田ほか全国にて上映中。変声期を迎え歌声に悩む合唱部部長の男子中学生が、どうしても歌が上手くなりたいヤクザの男と関わっていく様をコミカルに描く。

綾野剛が、絶対に歌がうまくならなければいけないヤクザの成田狂児に扮し、合唱部部長の中学生・岡聡実役を、オーディションを勝ち抜いた期待の新星・齋藤潤が演じている。そんな本作について、岡聡実を演じた齋藤潤と山下敦弘監督が作品について語った。

──まずは、監督がオーディションで齋藤さんを聡実役に選んだ決め手を教えていただけますでしょうか。

山下敦弘監督(以下、監督):聡実役は一見シンプルなんですが、変声期という悩みを抱えていて、合唱部の部長で、当たり前ですがお芝居もできなきゃいけないので、すごく難しい役だと感じていました。それを全部兼ね備えた子がいるだろうと最初は思っていたんですが、なかなかそんな条件が揃った子はいなくて。オーディションをしながら、何を基準に聡実役を選ぶのかと考えて、まずは15歳の子がいいと思ったんです。

──原作の聡実くんと同じ15歳の子がいい、と。

監督:オーディションには高校生も中学生もいましたが、聡実くんは15歳という微妙な年齢なので、ある種の不安定さが必要だろうと。そう考えながらオーディションを見ていて、2回目のオーディションで潤くんに会ったら、1回目よりもすごく良くなっていたんです。歌や演技、取り組む姿勢も含めて、すごく変わったな、と。僕の中ではそれが一番大きな要因でした。この子と撮影期間まで一緒に頑張っていこうと思えたんです。

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──なるほど。

監督:それに、今回は原作者の和山さんも脚本家の野木亜紀子さんも女性なので、こういう時は女性の感覚が重要なんです。野木さんが彼しかいないと言っていたので、それも後押しになりました。

──『天然コケッコー』(原作:くらもちふさこ/脚本:渡辺あや)と同じような感じですね(笑)。

監督:そうです。『天然コケッコー』の岡田(将生)くんがまさにそうだったので。もちろん、僕も潤くんがいいと思いましたが、野木さんのひと言と、後から聞いたら和山さんも潤くんが良かったと言っていたので、満場一致で決まりました。

齋藤潤(以下、齋藤):ありがとうございます。

──監督は、2回目のオーディションでは飛躍的に良くなっていたとおっしゃっていますが、齋藤さんはどのようにオーディションに臨まれたのでしょうか。

齋藤:1回目の対面オーディションの時は、「紅」の歌も芝居もボロボロで、全部ボロボロでした。最終オーディションまで少し時間があったので、学校の帰りに18時までひとりでカラオケに行って、「紅」を歌って、台本を読んでいました。そういう時間を過ごしながら、最終オーディションで成長できていればと思っていました。

──その姿勢がオーディションに活きたんですね。

齋藤:でも、いざオーディションに行ってみると芝居が上手い子たちが集まっているので、そのプレッシャーもありましたし、それに加えて、会場がめちゃくちゃ広くて。四分の一の空間しか使ってないのに、会場自体がすごく広かったので余計に緊張してしまって。もちろん、綾野剛さんも野木さんもいらっしゃいましたし。

監督:あったね。あの場所は嫌がらせかと思うぐらい広すぎたよね(笑)。

齋藤:そのぐらいの規模の役なんだということを実感しました。しかも、合格発表が当日というのも事前に知っていたので。後悔のないように臨みましたが、緊張しすぎて芝居の時に台詞が飛んじゃったんです。その時にもう落ちたと思ったんですが、その後の「紅」の審査で最後の力をふり絞りました。間奏の間も、この役をつかんで、僕を支えてくれる人たちに良い報告ができたらと思いながら歌いました。それで選んでくださったのですごく嬉しかったです。

──その時の「紅」と本編の「紅」はまた違いますよね?

監督:潤くんの「紅」は、オーディションの時とは全然違いますね。それは彼が努力したからだと思います。

──公開2週間後に地方で舞台挨拶をするのは珍しいと思います。今日も客席は満席でしたが、本作が盛り上がっている証拠だと思います。やはり、齋藤さんの「紅」がすごくエモーショナルに響くので、それが大きいと思います。あのシーンは、すごくグッときました。

齋藤:ありがとうございます。

監督:「紅」で泣くとは思わなかったとおっしゃる方は多いですね。

──そうなんです!

監督:僕の知り合いの結構厳しい映画監督が、ショートメールで「「紅」でグッとくるとは思わなかった」って送ってきたので。あのシーンは、ある意味、僕らの中での課題だったんです。そこを皆さんが評価してくださったのは嬉しいですね。

齋藤:嬉しいですよね。

監督:言い方は悪いかもしれませんが、(潤くんに)丸投げでしたから(笑)。

齋藤:いやいやいやいや。そんなことは...。

監督:「紅」に関しては、僕は何もできませんでしたから。「頑張れ」としか言えなかったからね。そこはすごく嬉しいですね。

齋藤:僕も、2回目の試写でこの作品を観た時に、すごく良かったと感じました。その後、(綾野)剛さんとふたりで話したら、剛さんも「大丈夫だよ」と言ってくださって。だから、映画の公開前だったんですが、少し自信が持てたんです。それは監督含め、携わってくださった皆さんのおかげだと思います。

監督:あのシーンの編集は一番悩んだところなんです。「紅」を歌っている最中に回想シーンが入るじゃないですか。それを入れるタイミングや、狂児の横顔をはさむのも、ない方がいいんじゃないかとか、いろんな意見が出て、いろんなことを試して。でも、今のかたちが僕としては一番グッときたんです。編集でも頑張ったし、みんなで頑張ったシーンだったのでより感慨深いですね。

──実は、「紅」の歌は狂児と聡実くんが1回ずつしか歌ってないんですよね。だからこそ、余計にグッとくるんじゃないかと。

監督:実はそうなんですよね。狂児の「紅だ~!」は何回も出てきますけど(笑)。

──そうなんです(笑)。

監督:でもそれは、「紅」をチョイスした和山さんがすごいと思います。「紅」はもちろん名曲だし、知ってる曲なんですけど。

──ところで、齋藤さんは「紅」をご存知でしたか?

齋藤:ほとんど知らなかったです。

監督:(笑)。

齋藤:サビの部分の1フレーズしか知らなかったです。初めて聞いた時は、前奏長くない? と思って。

──ですよね(笑)。

監督:そうなんだよ(笑)。前奏が長いからなかなか始まらないんだよ。

齋藤:前奏42秒って...。ながっ! と思いながら練習してました。

監督:僕らの世代でも、カラオケで歌う曲ではなかったですよね。普通の人が歌いこなせる曲じゃないし。

齋藤:難易度が高すぎました...。

──では、初めて聞くところからのスタートだったんですね。

齋藤:一番初めの書類審査が、自己紹介と「紅」のサビの部分の歌唱動画が課題だったので。聞いてみたら、高いなと思って、ピッチを合わせるのに必死でした。でも、映画で歌う「紅」は、役が決まった時から、監督に魂からの叫びだと言われていたので、それを心掛けて音程に囚われずにできたんじゃないかと思っています。

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──その「紅」が、狂児と聡実くんを繋いだわけですが、狂児を演じた綾野剛さんと監督は本作が初タッグでした。

監督:今回は、本当に綾野くんに感謝ですね。この企画で最初に決まったのは綾野くんですから。プロデューサーがこの企画を立ち上げた時に、綾野くんが原作のファンだったところから始まってるので。

齋藤:そうなんですね。

監督:綾野くんが野木さんの名前を上げて、その後に僕が合流したので。綾野くんと一緒に、どうやって聡実くんを作っていくのかについてたくさん話しました。僕は、もちろんお芝居の演出はしましたが、それ以外の演出というか、芝居との向き合い方などは綾野くんが潤くんに付きっきりでやっていたので、ふたりで演出したような感覚です。とにかく、綾野くんはすごい。この映画の後ろにずっといたのは綾野くんだったと思います。

──なるほど。ある意味、プロデューサーのような...。

監督:そうですね。プロデューサーでもあり、自分のお芝居以外のことも最後までずっと気にかけてくれてましたね。

──齋藤さんにとって綾野さんは、すごく頼りになる存在でしたか?

齋藤:もちろんそうです。本当に感謝しかないです。僕は自分の役を生きるのに精一杯でしたけど、そうやって精一杯向き合える環境を作ってくださったのは剛さんだったので。本当に頼もしかったです。

──そんな綾野さん演じる狂児との出会いをきっかけに、聡実くんがヤクザの皆さんと対峙するシーンが2回ありますが、あのシーンの聡実くんは、まるで狼の群れの中に入った子羊のようでした(笑)。

齋藤:最初はどんなシーンになるのか想像がつかなかったのですが、実際にメイクが終わった俳優さんたちと対峙した時はドキドキしました。でも、窮屈な空間に入り込むってこういうことなんだな、と似た感情を感じることができました。最後のスナックのシーンは、ヤクザ役の俳優さんが30人もいて、煙草も吸ってる設定だったので...。

監督:(苦笑)。

──確かに、あのシーンは窮屈そうでしたね。

齋藤:お酒と煙草に包まれた空間の中に、中学生がひとりで入るのはちょっと怖かったですね。

監督:あのシーンは2日間で撮影したんですが、1日目は綾野くんがいなかったんです。本当にヤクザ役の方たちと齋藤くんだけだったので。でも、みんな優しかったよね。

齋藤:本当に皆さん温かく接してくださいました。

──監督はあのシーンではどのようなことを考えて撮ってらっしゃいましたか?

監督:この映画は、前半に中学生パートを撮って、途中からヤクザが出てくるシーンを撮ったんですが、まるで映画を2本撮っている気分でした(笑)。前半は学園ものを撮ってる気分だったのに。でも、途中から楽しんでましたね、ヤクザチームの皆さんのチームワークを。やべさんやチャンスさんをはじめ、みんなで楽しそうにやってたので。

齋藤:盛り上がってましたね(笑)。

監督:皆さんにすごく助けられました。今回のヤクザはある意味、ファンタジーというか。綾野くんが主演していた『ヤクザと家族』のように、ヤクザのリアリティを追及していないので。そういうところを理解して楽しんでやってくれていたので助かりました。特に、スナックのシーンは撮影終盤だったので、あの2日間は楽しかったですね。

齋藤:僕は、北村(一輝)さんに圧倒されました。

監督:北村さんは緊張したね(笑)。

齋藤:2日間しかいらっしゃらなかったのに、あの存在感ですから。

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取材・文/華崎陽子




(2024年2月 2日更新)


Check

Movie Data


(C) 2024『カラオケ行こ!』製作委員会

『カラオケ行こ!』

▼TOHOシネマズ梅田ほか全国にて上映中
出演:綾野 剛 齋藤 潤 芳根京子 橋本じゅん やべきょうすけ 吉永秀平 チャンス大城 RED RICE(湘南乃風)
八木美樹 後 聖人 井澤 徹 岡部ひろき 米村亮太朗 坂井真紀 宮崎吐夢 ヒコロヒー / 加藤雅也(友情出演) 北村一輝
原作:和山やま(ビームコミックス/KADOKAWA 刊)
監督:山下敦弘
脚本:野木亜紀子
主題歌:Little Glee Monster「紅」(Sony Music Labels Inc.)
配給:KADOKAWA

【公式サイト】
https://movies.kadokawa.co.jp/karaokeiko/

【ぴあアプリ】
https://lp.p.pia.jp/event/movie/242141/index.html


Profile

齋藤 潤

さいとう・じゅん●2007年6月11日生まれ、神奈川県出身。2019年のデビュー以降、「トリリオンゲーム」(23)、「生理のおじさんとその娘」(23)「猫カレ -少年を飼う-」(23)ほか多数のテレビドラマに出演。映画『正欲』(23)では、磯村勇斗演じる青年の中学生時代を演じた。本作『カラオケ行こ!』で、山下敦弘監督、野木亜紀子、綾野剛らが参加したオーディションを勝ち抜き、大役をつかんだ。今後の公開作に『瞼の転校生』(4月6日(土)より、大阪・十三の第七藝術劇場にて公開)がある。


山下敦弘

やました・のぶひろ●1976年8月29日、愛知県生まれ。大阪芸術大学映像学科卒。卒業制作の『どんてん生活』(1999)が内外で評判を呼び、脚本の向井康介とのコンビによる“ダメ男三部作”『ばかのハコ船』(2003)、『リアリズムの宿』(04)へと繋がる。『リンダ リンダ リンダ』(05)がスマッシュヒットを記録し、続く『天然コケッコー』(07)では第32回報知映画賞監督賞、第62回毎日映画コンクール日本映画優秀賞等を受賞。以降『マイ・バック・ページ』(11)、『苦役列車』(12)、ドラマ「午前3時の無法地帯」(13/共同監督・今泉力哉)、『もらとりあむタマ子』(13)、『味園ユニバース』(15)、『オーバー・フェンス』(16)とキャリアを順調に積み重ね、作家性と娯楽性とを兼ね備えた作風を確立してゆく。『ハード・コア』(18)では第69回芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。その他、宮藤官九郎脚本による『1秒先の彼』(23)など。公開待機作に『告白 コンフェッション』(5月公開予定)、『水深ゼロメートルから』がある。