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「まだまだ“イチケイ”を続けたい」
竹野内豊&黒木華の“イチケイ”コンビがスクリーンで復活!
映画『イチケイのカラス』田中亮監督インタビュー

浅見理都の同名漫画を基にしたTVドラマを映画化した『イチケイのカラス』が、TOHOシネマズ梅田ほか全国にて上映中。映画では、ドラマ版から2年後の物語が展開され、岡山県に異動した裁判官の入間みちおと、裁判官の「他職経験制度」で弁護士をしている坂間千鶴が、主婦が防衛大臣に包丁をつきつけた傷害事件と近海で起きたイージス艦と貨物船の衝突事故の謎に迫る姿を描く。

『コンフィデンスマン JP』シリーズの田中亮が監督を務め、ドラマ版から竹野内豊、黒木華が続投する他、斎藤工、向井理ら豪華キャストの出演も話題を呼んでいる。そんな本作の公開に合わせ、田中亮監督が作品について語った。

──ドラマが面白かったので続編を期待していましたが、まさかの映画化でした。映画化の話はどのように進んだのでしょうか?

2021年の春に連続ドラマがオンエアされて、秋ぐらいから続編の話が動き出したと思います。そこから、続編をやるなら映画でという流れになっていました。連ドラの時は、主人公が裁判官という時点で堅いイメージなので、キャッチーな事件を扱ってスカッと終わる作りにしていました。せっかく続編を作るなら、法律の裏側や深いテーマを扱いたかったので、映画が相応しいのではないかと思いました。

──スペシャルドラマでは、ドラマから映画までの2年間の出来事が描かれていました。

映画は、連ドラから2年後に飛んでしまっているので。その間を知りたい方もいるだろうし、映画には出ていない(中村)梅雀さん演じる川添さんはどうしているのかな? と思った方に「熊本で頑張っています」とスペシャルドラマでお見せしたかったんです。

──小日向(文世)さん演じる駒沢さんも映画では出番が少なかったので、スペシャルドラマで活躍している姿を見て嬉しくなりました。

(スペシャルドラマでは)大ベテランおふたりが大活躍してくださいました。

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──監督は、小日向さんとは『コンフィデンスマンJP』でもご一緒されていました。

お芝居が素晴らしいのは言うまでもないですが、こひさんがいるだけで現場の空気が全く違うんです。新しく来た方もこひさんがいるとすぐに現場に馴染んでくださる。演出側もすごく助かるので、ずっと現場に居てほしいですし、こんな大人になれたらいいなとずっと思っています。連ドラでご一緒すると大体映画になるのも、こひさんのおかげではないかと思っています(笑)。

──本作は裁判官が主人公ですが、日常生活ではあまり関わることのない職業だと思います。演出するに当たってどのような準備をされたのでしょうか。

裁判所監修の先生や書記官監修の先生、弁護士監修の先生などがついてくださっているので、その先生たちにとにかく聞いて、まずリアルがどうなのかを調べるようにしています。その中で、映画的にこうなったら面白いのではないかというアイデアをぶつけて、先生たちに「これはあり得ますか?」「あり得ないけどOKですか?」と聞いて、リアルを知った上でどう壊してどう構築していくか模索しています。

──裁判のシーンが多いので法廷用語もたくさん登場しますが、竹野内豊さん演じる入間みちおの言葉は、胸に刺さるものがありました。その言い方については何か演出があったのでしょうか。

それは、脚本の浜田さんが書いてくださる台詞が非常に自然に描かれているのが大きいと思います。やはり裁判官は、弁護士のように無罪を勝ち取って弱きを救うのでもなく、検察のように悪と対峙して強きを挫くものでもなく、冷静に真実の元に判決を下さなくてはいけない。だから、どうしても無罪、有罪と決め台詞を言う流れにはならない。それが良さだと思ったので、竹野内さんが演じてくださったのもありますが、寄り添う言い方、台詞回しになっていくので、良い意味で決め台詞のようになっていないと思います。

──本作を拝見して、改めて竹野内さんは唯一無二の方だと感じました。包容力があって、憎たらしく感じる表情もあるのに笑顔になると憎めない。監督は竹野内さんの演じる入間みちおをどのように感じてらっしゃいますか。

僕が竹野内さんと初めて一緒にお仕事をしたのが「BOSS」という連続ドラマで、その時になんてチャーミングで魅力的な人なんだと思いました。竹野内さんは今まで入間みちおのような役はやってらっしゃいませんが、竹野内さんの中に入間みちおは絶対にいるから、それを引き出そうと思いましたし、ハマるだろうなと思いました。

──竹野内さんはすぐに引き受けてくださったのでしょうか?

すごく不安がってらっしゃいました。自分に入間みちおの要素はないのではないかと。型破りな裁判官なんか出来ないのではないかと慎重に考えてらっしゃいました。

──そう考えると、黒木華さん演じる坂間とみちおはすごくいいバランスでした。

黒木さんが素晴らしい女優さんなのは言うまでもありませんが、受けの芝居が本当に天才的です。僕が現場でちょっと面白味が足りないと思うと、竹野内さんに入れ知恵をするというか遊びを入れることがあって。黒木さんには「ちょっと変えたのでお願いします」ぐらいで、内容は特に言わずに。それでも、黒木さんは「OKです」と。その場で変わった竹野内さんのお芝居に合わせて返してくれるので、ライブ感が生まれるんです。

──だから、ふたりのやり取りには躍動感があるんですね。

決まりきったものではなく、その場で生まれたものでやり取りしているので。自由なみちおをしっかり受け止める坂間という関係がしっかり出来ていて、その横で優しく見守る駒沢という関係も現場で生まれていきました。

──本作では、斎藤工さん演じる月本への坂間の淡い恋なのか尊敬なのかわからないような思いが描かれていますが、ドラマにはなかった感覚がとても新鮮でした。

坂間の恋のような人間として惹かれていくような、ラブストーリーを誠実に描けたのは映画をやって良かったことのひとつです。自転車のふたり乗りで月本の背中に頬を寄せる坂間の表情は最高でしたし、人間らしいところを感じました。

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──あのシーンは月本とでないと無理でしたね。

みちおの後ろではあんな感じにはならないですもんね(笑)。

──そうですね(笑)。連ドラの4話でみちおが坂間に「職権発動」を言わせようとするシーンがあったと思います。あのシーンのみちおの笑う顔が忘れられないのですが、そこに坂間への愛情が溢れていたと思いますし、彼女の成長を見守りたいみちおの思いも感じました。そう考えると、ドラマも映画も坂間の成長物語だったように感じました。

僕は、この映画は坂間千鶴の物語だと思って撮っていました。実際に黒木さんにもそのように伝えていました。新しい町に来て新しい人たちと出会った坂間がどう成長していくのかを描きながら、最後の神社のシーンでみちおから話を聞いて涙するシーンに向けて作ったつもりです。

──法廷のシーンではなく?

法廷ももちろんクライマックスシーンとして大事ですが、坂間千鶴の物語として見ていくとゴールは神社のシーンでした。だから、主題歌もあのシーンにあてています。

──そうだったんですね。本作も監督が手掛けてこられた『コンフィデンスマンJP』シリーズも、最後に種明かしがある複雑な物語です。演出する際はどのようなことに気を付けてらっしゃるのでしょうか。

『コンフィデンスマンJP』も『イチケイのカラス』も、構成を作る脚本家の古沢さんであり、浜田さんの頭脳から生み出されるものなので、僕は必死についていっている感覚です。ただそれは、プロデューサー主導で本当に時間をかけて台本を作っているので、その中で理解していく過程があるからだと思います。理解した後に、お客さんにどこを見せてどこを見せないかをしっかり練り上げていくことで、伏線を張りながらもネタバレはしないように、やりながら探っている感覚です。

──伏線を張りながらもネタバレはしないように、なんとなく匂わすような演技というのはどのように作っていくのでしょうか。

ここではこれぐらい見せるからこれぐらいのお芝居でと、綿密に計算してやってもらっています。ただ、毎回ドキドキです(笑)。最終的に編集で繋いだ時にあっているかな? と、ものすごくドキドキしながらやっています。

──そうなんですね(笑)。

結果的に、出し過ぎていることや足りない可能性もありますし、次のシーンを撮った時に、前のシーンはもうちょっとこうしておけば良かったかな? と思うこともあります。大体、編集してほっとするパターンが多いですね(笑)。一生懸命計算して準備もしますが、最終的にどうなるかは、やってみないと分からないです。

──その中でも一番難しい演出はどういう時なのでしょうか?

嘘をついている時のお芝居から嘘くささが出ないようにしてもらう時ですね。

──本作も『コンフィデンスマンJP』シリーズも、嘘をついている人ばっかりだったような気もしますが...。

本作で言うと、斎藤工さんはすごくそれを理解してくださって。監督もやられている方なので、小日向さんとふたりのシーンでは「どこまで出しましょうか」「これだと出し過ぎじゃないですか」と斎藤さんと話をしながら作っていったので、いい塩梅にもっていくことができました。

──なるほど。

ただ、本当は騙していることを役者さんが考えすぎてしまうと嘘が出てしまうというか思い切れないので、集中して嘘を気にせず嘘の演技をしてもらうようにもっていくのは難しいですね。

──では、ドラマと映画で意識的に演出を変えた部分はあるのでしょうか。

特に変えたことはありません。台本を読み込んでお芝居を引き出すことに変わりはないですが、違ったと思うのは、入間みちおの感情がドラマよりも前面に出ていることです。みちおの怒りや悩みでストーリーを紡ぐことは、ドラマではあまりやっていなかったと思います。

──確かに、最終話ではみちおが自分の行動によって仲間を巻き込んでしまうかもしれないと悩む姿はありましたが、それまでは飄々としていました。

それは映画で坂間とみちおがバラバラになったからです。一緒にいれば坂間の感情で引っ張れますが、いつもの飄々として何を考えているかわからないみちおだけだと物語のエンジンがかかりづらいな、と。すると、向井理さん演じる鵜城防衛大臣が裁判官室に乗り込んできてふたりが対峙するシーンで、台本上はいつも通りの飄々としてかわすみちおでしたが、実際にやってみるとみちおの怒りが滲み出ていて、めちゃくちゃかっこよかったんです。

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──鵜城防衛大臣と対峙する時のみちおは普段とは違って見えました。

このみちおの感情にのせてストーリーを作った方が、ドライブ感のある映画になりそうだと思って、そっちに舵をきりました。それはドラマではやっていない、映画でしかやれないことだったと感じました。強敵に対するみちおの力強さが出ていたと思います。後は単純に、ビジュアルが凄すぎます(笑)。

──本当に!

眼福なツーショットでした。

──鵜城防衛大臣の話は完結していませんが、もしかすると...?

敢えて続きや続編を意識して、あのように終わらせているわけではないですが、今回扱った話は法律にしても政治にしても、スパッと割り切れる問題ではないので、ああいう終わり方になりました。国家との戦いや町で起こる悲劇的な出来事にまつわる悲しい真実というものをテーマとして扱ったら、どうしても最後は割り切れない終わり方になってしまいました。でもそれでいいのではないかと。ここからまた坂間が立ち上がって、前を向いて問題とどう向き合っていくかという未来を感じてもらう終わり方にしたつもりです。

──監督としては、まだみちおや坂間に会いたいという気持ちはありますか?

僕はこのバディが大好きなので、ずっと見ていたいですし、見せたいと思っています。今回、東京のイチケイを離れて新しい場所にふたりを放り込んだら、新しい人たちとまた新たな感情が生まれたので、このふたりの可能性は広がると思いますし、こひさんや梅雀さんたちともっとわちゃわちゃもしたいです。新しい世界で"イチケイ"ファミリーが生まれたので、またこの方たちとも会いたいですし、やりたいことはまだまだあります。豪華なキャストがたくさんいらっしゃるので、まだまだ"イチケイ"を続けたいですね。

取材・文/華崎陽子




(2023年1月24日更新)


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Movie Data




(C)浅見理都/講談社 (C)2023 フジテレビジョン 東宝 研音 講談社 FNS27社

『イチケイのカラス』

▼TOHOシネマズ梅田ほか全国にて上映中
原作:浅見理都「イチケイのカラス」(講談社モーニングKC刊)
脚本:浜田秀哉
監督:田中亮
音楽:服部隆之
主題歌:Superfly「Farewell」(UNIVERSAL SIGMA)
出演:竹野内豊 黒木華 
斎藤工 山崎育三郎 柄本時生 西野七瀬 田中みな実
桜井ユキ 水谷果穂 / 平山祐介 津田健次郎 八木勇征
尾上菊之助 宮藤官九郎
吉田羊 向井理 小日向文世

【公式サイト】
https://ichikei-movie.jp/

【ぴあアプリ】
https://lp.p.pia.jp/event/movie/245713/index.html


Profile

田中亮

たなか・あきら●1979年4月3日、三重県生まれ。2003年フジテレビに入社後、「リッチマン,プアウーマン」(12)、「ラストシンデレラ」(13)などの大ヒット恋愛ドラマの演出で注目を集める。以降、「医龍4」(14)、「コードブルー 3rd」(17)、「コンフィデンスマンJP」(18)、「イチケイのカラス」(21)など医療ドラマからコメディドラマまで幅広く手掛ける。『コンフィデンスマンJP ロマンス編』(19)で映画監督デビュー、その後も『コンフィデンスマンJP プリンセス編』(20)、『コンフィデンスマンJP英雄編』で監督を務めている。