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森見登美彦の小説「四畳半神話大系」と
ヨーロッパ企画の人気舞台「サマータイムマシン・ブルース」が
融合した小説「四畳半タイムマシンブルース」をアニメーション化!
原作者・森見登美彦&監督・夏目真悟インタビュー

森見登美彦の小説「四畳半神話大系」と上田誠(ヨーロッパ企画)の戯曲「サマータイムマシン・ブルース」を融合させた小説「四畳半タイムマシンブルース」がアニメ化。ディズニープラスにて独占配信中、9月30日(金)より、梅田ブルク7ほか全国の劇場にて3週間限定公開される。暑い夏のある日、リモコンが壊れクーラーが動かなくなったために、下鴨幽水荘を舞台に主人公の「私」たちがタイムマシンを使ったことに端を発する騒動を描く。

TVアニメ「四畳半神話大系」に演出として参加した夏目真悟が監督を務め、キャラクター原案も「四畳半神話大系」に引き続き中村佑介が務めた。声の出演の浅沼晋太郎、坂本真綾、吉野裕行ら「四畳半神話大系」の際のキャストが続投している。そんな本作の公開を前に、原作者の森見登美彦(写真左)と夏目真悟監督(写真右)が作品について語った。

──まずは、「四畳半神話大系」と「サマータイムマシン・ブルース」を掛け合わせるアイデアはどこから生まれたのでしょうか?

森見登美彦(以下、森見):以前から上田さんに僕の原作を脚本化してもらっていて、度々お世話になっていたので、たまには僕も恩返ししたいと。上田さんの舞台を小説にすることにチャレンジしてみようと思ったのが始まりでした。

──「サマータイムマシン・ブルース」と掛け合わせる作品として、森見先生の小説の中から「四畳半神話大系」を選んだ理由は何だったのでしょうか?

森見:ヨーロッパ企画の「サマータイムマシン・ブルース」という舞台は、役者さんがすごく面白いので、それを役者さんなしで文章にしても勝てない(笑)。そうすると、役者さんと同様にインパクトのあるキャラクターを持ってこないといけない。そこで「四畳半神話大系」だとキャラクターも立っているし、キャラクターの人数も多いので、いわば劇団のような感じで「四畳半神話大系」のメンバーで『サマータイムマシン・ブルース』を上演するようなイメージでした。だから、「四畳半神話大系」の続編を書こうとしたのではなく、上田さんの舞台を小説にするには、「四畳半神話大系」のキャラクターを使うのが良いだろうと。そういう流れでした。

──その小説がアニメ化されることになって、監督に手渡されました。監督を務めることになった時はどのように感じられましたか?

夏目真悟監督(以下、夏目): プレッシャーも大きかったですが、原作を読んだらすごく懐かしく感じました。アニメシリーズをやっていた当時の気持ちや森見さんの小説を読んだ記憶が懐かしさとともに蘇ってきて。その懐かしさがプレッシャーに勝ちました。

──「サマータイムマシン・ブルース」の中でもカッパ様やヴィダルサスーンは重要な要素になっていましたが、本作で樋口師匠がヴィダルサスーンの話をしていることに何の違和感もなかったことに驚きました。

夏目:確かに(笑)。

森見:あれは出さざるを得ないと言うか。僕は小説に商品名を出したりしないのですが、ヴィダルサスーンはどうしても出さざるを得なかったです。でも意外に馴染んでくれましたね。

──あれは、樋口師匠だと。

森見:樋口師匠だと、逆にありかな、と。他のキャラクターよりは樋口師匠に持たせた方が意外に受け入れられやすいのではないかと思いました。

──原作小説を書くのはすんなりと進んだのでしょうか?

森見:もっとすんなり行くのではないかと思っていましたが、時間はかかりました。既にお話は存在していますし、もしこれがさっと書けたら、この先連続で上田さんの舞台を小説にしまくれるのではないかと期待していたのですが。ところが全然楽ではなくて、ものすごく時間がかかってしまった(笑)。結局、1年以上かかっていますから。

──どの部分が一番難しかったのでしょうか?

森見:上田さんのきっちり構成された舞台を文章で書くというのがとにかく難しかった。構成を気にしすぎたせいか、先に進むにつれて文章が書きにくくなってしまって。キャラクターを自由に膨らませたい思いと、ここで伏線をはっておかないと「サマータイムマシン・ブルース」にならないという思いのせめぎ合いでした。そもそも、「サマータイムマシン・ブルース」を小説にするために書き始めたのに、そこで樋口師匠が暴れるからと話を変えるわけにはいかないですから(笑)。そのせめぎ合いに時間がかかってしまって、こんなことを何回もできないなと思いました。そんなウマい話はないですね(笑)。

──その小説を上田さんが脚本にして、監督の手に渡ったわけですが、監督は上田さんの脚本を読んでどのように感じられましたか?

夏目:森見さんがすごく苦労されて、上手い具合に融合されたのだろうなと感じましたし、尚且つそれを上田さんが映像化しやすいように脚本にしてくださったので、申し訳ないですが、僕はすごくやりやすかったです(笑)。

森見:脚本を上田さんが書いてくれたのは安心ですよね。辻褄合わせとか。そもそも上田さんの作品だし。

夏目:ストーリーとしての強度もあるし、キャラクターも安定していますから。

──12年ぶりにキャラクターたちが動いているのを見た時はどのように感じられましたか?

森見:不思議な感覚でした。小津と主人公がやり合い始めたのを見たら、まるでずっと続いていたように感じました。TVシリーズから12年一気に飛んできたような感覚でした。最初に、主人公と小津が暑い四畳半でペチペチ叩き合っているところは、すごく入口として相応しいと思いました。まぁ、その入口を書いたのは僕ですが(笑)。

──確かに、物語が始まってすぐ四畳半で主人公と小津が叩き合っているシーンは相変わらずでしたね(笑)。

森見:TVシリーズと比べると、色合いや明るさは違うし、キャラクターも少しずつ変わっていますが、うまく繋がった気がしました。小津と主人公の馬鹿馬鹿しいやり取りを見て、相変わらずだな、こいつらと思わせて、少しずつ違う世界に入っていくのはすごく良かったと思います。

夏目:僕は、素直に嬉しかったです。TVシリーズをやっている時も作っていて楽しくて、終わってほしくないと思っていたので。アニメの作品を作っていると、たまに自信がなくなる時がありますが、今回はずっと楽しかったです(笑)。

森見:それは何よりです(笑)。

夏目:それはやっぱり、「四畳半神話大系」のキャラクターたちと「サマータイムマシン・ブルース」というよくできたストーリーのおかげなのかな、と思います。

──先ほど森見先生も「少しずつ違っている」とおっしゃっていましたが、9月17日に行われた「京まふ」の『四畳半タイムマシンブルース』スペシャルステージで、浅沼さんも「「私」が成長してしまったのが嬉しくもあり寂しかった」とおっしゃっていました。

森見:もちろん、彼らは明らかに変化しています。いろんな要因がありますが、「四畳半神話大系」の世界をもう1回書くことは僕にもできないです。もう(書いてから)20年近く経っていて、あの行間にみなぎっていたリビドーや鬱屈を今書けと言われても、僕ももう43歳なので。そこは無理に再現しようとしても仕方ないというスタンスでやっていました。だから「四畳半神話大系」の続編を書くという話だったら僕はやっていないと思います。上田さんの舞台を小説にするという言い訳があるから、そのおかげで「四畳半神話大系」の世界やキャラクターをもう1度書くことができたという感覚です。

──「四畳半神話大系」のキャラクターをもう1度書くつもりはなかったということでしょうか?

森見:書きたい気持ちはありましたが、あの世界を再現できないから、いわゆる続編は書けない。だけど上田さんの舞台を「四畳半神話大系」のキャラクターでやるという、"二次創作"という言い訳があれば書ける。そういう経緯で書き始めたから「四畳半神話大系」の世界そのままではない。あと、もともとは上田さんの舞台ですから、キャラクターたちが動きまわりますよね。

──確かに、「サマータイムマシン・ブルース」では人物はほぼ動きっぱなしです。

森見:タイムマシンを無駄遣いして宇宙が滅びそうになる。主人公も、かつての「四畳半神話大系」みたいに悶々としていたら宇宙的危機を回避できない。「サマータイムマシン・ブルース」のストーリー・ラインを辿るという絶対的な条件があるから、行動せざるを得なくなるんです。

──なるほど。

森見:だから主人公は積極的に動いていくし、その結果として、主人公以外のキャラクターたちも立ってくる。その最たるものが明石さんです。「四畳半神話大系」だと、明石さんというのは主人公が憧れている、少し脇にいる変わった女の子でした。でも、今回はあからさまにヒロインになっているはず。確かに浅沼さんのお気持ちもよくわかりますが、諦めて下さい(笑)。そもそも、そこを許容しなければこの企画は成立していませんから(笑)。

──すごく納得できました。

森見:僕としては、上田さんのおかげでタイムマシンに乗れた気持ちです。もう二度と書けなかったであろう「四畳半神話大系」のキャラクターを、言い訳をもらってもう一度書けた感覚です。

夏目:浅沼さんはそういうことを悶々と考えていて「私」っぽいなと思いました(笑)。

森見:同化しちゃっているのかな(笑)。浅沼さんは「四畳半神話大系」にすごく思い入れがあるから。

夏目:すごく大事な作品だと感じていると思います。

──おふたりにとっても大事な作品になるのではないでしょうか?

夏目:僕のターニングポイントになった作品です。TVアニメの演出も初めてで、6話は面白い回だったので。

森見:6話って何の話でした?

夏目:ジョニーです。

森見:ジョニーか(笑)。

夏目:たまたま、スケジュールなどの巡り合わせで僕が6話をやることになって。本当は湯浅さん(湯浅政明監督)が自分でやりたかったみたいで、「やりたかったんだけどね」と言われました(笑)。

森見:それはプレッシャーですね(笑)。

夏目:でも、そこが転機になりました。湯浅さんの世界観は独特で普通ではないので、湯浅さんぐらいの大胆な見せ方をしなければならないと演出について考える機会にもなりました。また、周りの競争意識が高い中でやっていたので刺激になりましたし、尚且つ、6話を面白いと言ってくださる方が多かったことで、仕事も増えました。だから、僕にとって思い出深い作品ですし、ターニングポイントになりました。

──12年ぶりに再び声優さんたちが揃ったアフレコはいかがでしたか?

夏目:皆さん、ちゃんと予習してきてくれて。12年前の自分に寄せようと。城ヶ崎役の諏訪部(順一)さんは「思ったよりも声が高くて。でも今回はマッチョになっているから声を太くしなきゃ」とおっしゃっていました。でも、ひと言ふた言発すれば、皆さんそのキャラクターになりきっていましたね。小津役の吉野(裕行)さんは最初からキャラクターが出来上がっていた感じでした。

森見:小津はまさに小津でしたね。

夏目:浅沼さんは、アフレコを2回しましたね。1回録って、最後の方に前半部分を録り直して。2ヶ月くらいかけて細かく収録しました。どこかでカチッとはまる瞬間があって、最後はしっくりきました。

──アニメ化されると聞いてどのように感じられましたか?

森見:嬉しいと言うかびっくりしました(笑)。こんなにうまい話があるのかと(笑)。思い描いたとおりに進んでいくので。「上田さんの舞台を小説にして、またこれを上田さんが脚本化してアニメにするとしたら変な話ですよね?」と冗談で言っていたら、原作が出てすぐに打診があって、とんとん拍子に話が進んでいったので、こんなことあるんだ!と思いました。

──今まではそんなにスムーズにいかなかったのでしょうか?

森見:中でも『夜は短し歩けよ乙女』は最も簡単にいかなかったアニメです。ずっと紆余曲折あって、企画が出ては流れてを繰り返していました。ようやく結実したのが湯浅さんの映画でした(笑)。それと比べたら、こんなことがあるのかと思うぐらい、未だかつて経験したことのない速度で実現したので。夢のような不思議な感覚です。

取材・文/華崎陽子




(2022年9月29日更新)


Check

Movie Data



(C)2022 森見登美彦・上田誠・KADOKAWA/「四畳半タイムマシンブルース」製作委員会

『四畳半タイムマシンブルース』

▼ディズニープラスにて独占配信中
▼9月30日(金)より、梅田ブルク7ほか全国にて3週間限定公開
声の出演:浅沼晋太郎
坂本真綾、吉野裕行
中井和哉、諏訪部順一、甲斐田裕子
佐藤せつじ、本多力(ヨーロッパ企画)
原作:森見登美彦・著、上田誠・原案 「四畳半タイムマシンブルース」(角川文庫/KADOKAWA刊)
監督:夏目真悟
脚本:上田誠(ヨーロッパ企画)
キャラクター原案:中村佑介

【公式サイト】
https://yojohan-timemachine.asmik-ace.co.jp/

【ぴあアプリ】
https://lp.p.pia.jp/event/movie/213270/index.html


Profile

森見登美彦

もりみ・とみひこ●1979年1月6日生まれ、奈良県出身。京都大学農学部卒、同大学院農学研究科修士課程修了。2003年『太陽の塔』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。07年『夜は短し歩けよ乙女』で山本周五郎賞、10年『ペンギン・ハイウェイ』で日本SF大賞を受賞。主な著書に『四畳半神話大系』『有頂天家族』『夜行』『熱帯』などがある。本作が『夜は短し歩けよ乙女』、『ペンギン・ハイウェイ』に次ぐ3作目のアニメーション映画化となる。


夏目真悟

なつめ・しんご●1980年9月26日生まれ、青森県出身。ゲームグラフィッカーからアニメーターへ転身した後、J.C.STAFF、ゴンゾ、シンエイ動画、フリーのアニメーターを経て、2014年TVアニメ「スペース☆ダンディ」で監督デビュー。主な監督作品に「ワンパンマン」「Sonny Boy」。「四畳半神話大系」では、第6話の絵コンテ・演出を、『夜は短し歩けよ乙女』では、夏パートの絵コンテを担当。