インタビュー&レポート

ホーム > インタビュー&レポート > 神戸市内に実在する洋館”旧グッゲンハイム邸”の裏に 位置する長屋を舞台にした人間ドラマ 映画『旧グッゲンハイム邸裏長屋』前田実香監督インタビュー


神戸市内に実在する洋館”旧グッゲンハイム邸”の裏に
位置する長屋を舞台にした人間ドラマ
映画『旧グッゲンハイム邸裏長屋』前田実香監督インタビュー

神戸市内に実在する築100年を超える洋館”旧グッゲンハイム邸”の裏に位置する長屋を舞台にした人間ドラマ『旧グッゲンハイム邸裏長屋』が5月13日(金)よりテアトル梅田、20日(金)よりOSシネマズミント神戸、27日(金)より京都・出町座にて公開される。長屋で共同生活を送るさまざまな人々の日常をテンポ良く描いている。第21回TAMA NEW WAVEコンペティション部門で特別賞を受賞した話題作だ。そんな本作の公開を前に、前田実香監督が作品について語った。

──まずは本作を撮ろうと思ったきっかけを教えていただけますでしょうか。
 
以前から映画を撮りたいという気持ちはありましたが、神戸フィルムオフィスで働いていて、映画や映像作品を作っている人たちの撮影に同行していたので、創作風景を見るにつれて、学生時代に映像を作っていた頃を思い出しました。実際に撮っている人たちを見て、単純に私も映画を撮りたいという気持ちになりました。自分が観たいもの、自分が作りたいものを撮ってやる! という気持ちでした。
 
──映画を撮りたいとは前から思ってらっしゃったんでしょうか?
 
高校を卒業して一旦は普通の大学に入りましたが、“作る”ことへの憧れを捨てられず、ちょうど神戸芸術工科大学(以下、芸工大)に映画に関連した学科ができる年で、たくさん宣伝していて面白そうと思ったのと、映画を観るのが好きという気持ちで入学しました。いざ入ってみると、私は映画を撮るぞ! という感じではなかったので、映画館で働くことにしました。それでも何かを“作る”ことは好きだったので、どこかで映画を作りたいとは思っていて、映画監督になりたいと言うよりは、作りたいもののひとつとして映画を作ったという感覚です。
 
──そこから本作を撮るに至る前に、旧グッゲンハイム邸裏長屋(以下、裏長屋)に住むきっかけは?
 
マンションの家賃が払えなくなって、家賃の安いところを探していたところ、裏長屋と出会って住むことになりました。最初は共同生活に不安を感じていましたが、結果的には居心地が良くて8年住みました(笑)。
 
──そんなに居心地が良かったんですね。
 
最初は私が一番年下でした。はじめはお姉さんお兄さんに少し遠慮していた部分はありましたが、お金が全然貯まらなくて引っ越しもできず(笑)。でも徐々に慣れてきて、妹のような存在として可愛がってもらいました。すると気がつけば同世代が増えていて。ここで映画を撮れることになったのも、あまり遠慮しなくていい友達のような関係ができていたからだと思います。
 
──その雰囲気をそのまま映画にしたいと思って裏長屋で映画を撮ることにしたんでしょうか?
 
私は神戸で育ちましたが塩屋の町にゆかりがなく旧グッゲンハイム邸のことも全く知らなかったので、まず洋館の敷地内に木造の長屋があるのが面白いなと思いました。写真などで記録しておけば面白そうだなと漠然と思っていた中で、本館も修繕によって変わっていくし、長屋も住んでいる人がどんどん変わっていって。人が変わると物の配置が変わって雰囲気も変わることにずっと住んでいると変化に気づくんです。今は今しかないから映像で残しておきたいと思ったのが最初でした。
 
──住民の皆さんの協力はどのように得ていかれたのでしょうか?
 
まずは「ここで映画を撮りたいと思っている」ことを、当時一緒に住んでいたせぞちゃん(淸造理英子)に打ち明けたのが2018年頃でした。そうしたら「私出るよ。協力するよ」と言ってくれて。そこでせぞちゃんから「どんな話を考えているの?」と聞かれて、具体的な話をしたんです。すると、一緒に住んでいるので毎日のように「おはよう。いつ映画撮るの?」とお尻を叩かれていて。それは大きかったですね。
 
──淸造さんが出演すると言ってくれたことで他の方の出演もスムーズになったのでしょうか?
 
裏長屋の話を撮るなら、住んでいる皆に出てもらった方がリアルだと思ったので皆にお願いしました。皆さん、演技の経験もない普通の会社員なので「恥ずかしい」とか「無理」と言われると思っていたんですが、全員が食い気味で「やるやる!」と言ってくれたので、このタイミングを逃しちゃいけないと思いました。
 
──いざ映画を撮るにあたって、機材などはどうされたのでしょうか?
 
フィルムオフィスで学生の自主制作映画の担当をしていたので、母校である芸工大の先生とのやり取りが増えて、頻繁に学校へ出入りするようになっていたんです。だから、映画を撮りたいと思った時に、同級生や先生、OBの方にスタッフに入ってもらうこともできて、映画を撮りやすい環境にいて助かりました。
uranagaya_sub.jpg
──脚本はどのように作っていったのでしょうか?
 
最初は女の子の大恋愛ものみたいなイメージでした(笑)。妙齢な女の子たちが恋愛、仕事、結婚、子育てなど人生の岐路に迷うみたいな(笑)。実際の長屋での暮らしで起こったことを皆でノートに書いていて、それを見返すと身内ネタも多いんですが、面白いネタが結構あって、こういうのを積み重ねていくのも記録になるなと思ったので、最初は10分ぐらいの短編にしようと思っていました。
 
──そこからどのように現在のかたちになっていったのでしょうか?
 
芸工大の教授の石井(岳龍)さんや、大学時代にお世話になった先生や同級生などに脚本を見せたら「短編だけど繋がっているから、この後も物語が続いていくような感じにしたら」とアドバイスを頂いて、それで現在の1章2章というようなスタイルになりました。脚本は書いていますがアドリブも多くて。主要な台詞だけ守ってもらって、後は自由に会話してもらいました。そうすると会話が面白くて編集でなかなか切れなくて。80分ぐらいだったのを間延びしていたところをカットして今の長さになりました。
 
──劇中に出てくるエピソードは実際にあったことやそれを膨らませたような感じでしょうか?
 
ノートに書かれていた内容や自分が経験したことがほとんどです。長屋で不審な人に遭遇したのは実際にあったことです。
 
──あのエピソードは驚きました。
 
劇中では人それぞれ危機感が違うので「あははは」みたいな感じになっていますが、私はもう少しシリアスに捉えていて。同じ日に私と他の子が不審な人に出会って、実はそれが別人でふたりも長屋にいたことが判明して。あそこは決してユートピアではないと言うか、キラキラしていて恋愛があってみたいな幸せな空間ではないんです。私自身も居心地は良かったけど、共同生活の中で「うん?」と疑問に思うことも、我慢しなきゃと思っていたこともありました。
 
──テラスハウスのようなキラキラしたシェアハウスではないと。
 
劇中に出てきた教授のように、わたし自身が興味本意でプライベートな部分に立ち入られたと感じるような気持ちになったこともあり、そういうところもちゃんと入れたいと思っていました。私が違和感を覚えたことや嫌だなと感じたことは描こうと。劇中である男の子が年上の彼女について語るシーンがあるんですが、それも実際に私が経験したことです。以前、年下の男の子が年上の彼女に振られたと自分が被害者のように話していて、その悪気のなさにモヤモヤしたのを入れてみました。
 
──あの発言にはモヤモヤするものがありました。
 
あの役を演じてくれた男の子が、この人の気持ちがわからないと悩んでいて、思わず私も演出に力が入ってしまいました(笑)。他の子たちには「自然でいいよー」と言っていたのに、その子にだけマンツーマンで演出していました(笑)。
 
──先ほど、脚本の段階で石井岳龍監督からアドバイスをもらったとおっしゃっていましたが、他に具体的なアドバイスはありましたか?
 
脚本が完成した後で塩屋に石井さんが来てくださって、「登場人物の多い群像劇で、有名な俳優さんでもないので、誰が誰なのかわからなくなるから、ぱっと見て誰かわかるように何かをした方がいい」と言われました。そのアドバイスを受けて、せぞちゃんととしちゃんの髪の長さが同じぐらいだったので、部屋着の色を変えて、せぞちゃんには眼鏡をかけてもらいました。
 
──確かに、せぞちゃんの眼鏡は印象的でした。
 
それと、「そんなこと普通言う?みたいな台詞が引っ掛かりになるから、教授の「ミステリーロマン」や「非常に興味深い」というような台詞をもっと際立たせるといい」と言ってくださったので、教授の台詞をさらっと言わせるのではなく、しつこいように言わせてみました。すると、観た人が「非常に興味深い」の人が~と話していたので、印象に残すってこういうことなんだ! と。石井さんにはいいアドバイスをして頂きました。
 
──石井岳龍監督は完成した作品に対して何か言ってくださったんですか?
 
「その場でしか撮れないものを切り取るというのはそもそも映画を作る原動力の源だから、この作品は映画そのものだ」みたいなことをおっしゃってくれました。映画監督である石井さんに「映画そのものだ」と言っていただけたことに感動しました。
uranagaya_sub2.jpg
──本作を観て、海も山も見える裏長屋のロケーションの素晴らしさを感じました。
 
私は神戸生まれ神戸育ちですが、塩屋に全くゆかりはありませんでした。大人になって洋館が多いことやジェームス山の歴史などを知りました。私は山から見る町と海の風景がすごく好きで、裏長屋に住んでいた頃は、山の上で朝食を食べたりコーヒーを飲んだりしていました。そういう雰囲気もすごくいいと思っていたので、映画の中にも山に行くシーンは絶対に入れたいと思っていました。
 
──現在は?
 
神戸の北野にある施設で働いていますが、またロケーションがいいんです。中央区のビル街が見えて、また映画を撮りたいなと思っています。
 
取材・文/華崎陽子



(2022年5月12日更新)


Check
前田実香監督

Movie Data



(C) ミカタフィルム

『旧グッゲンハイム邸裏長屋』

▼5月13日(金)より、テアトル梅田にて公開
▼5月20日(金)より、OSシネマズミント神戸にて公開
▼5月27日(金)より、出町座にて公開
出演:淸造理英子、門田敏子、川瀬葉月、藤原亜紀、谷謙作、平野拓也、今村優花、ガブリエル・スティーブンス、エミ、渡邉彬之、有井大智、津田翔志朗、山本信記(popo)、森本アリ ほか
監督・脚本:前田実香

【公式サイト】
https://mikatafilm0726.wixsite.com/uranagaya

【ぴあアプリ】
https://lp.p.pia.jp/event/movie/200268/index.html


Profile

前田実香

まえだ・みか●1987年生まれ、兵庫県出身。2010年、神戸芸術工科大学メディア表現学科映画専攻卒業。映画館勤務、神戸フィルムオフィス勤務を経て、本作で映画監督デビュー。本作で第21回TAMA NEW WAVEコンペティション部門特別賞、第6回賢島映画祭特別賞を受賞。

5月14日にはテアトル梅田で公開記念舞台挨拶の開催が決定!

【開催日時】
5月14日(土)13:20の回(本編上映後に舞台挨拶)
【登壇者】
淸造理英子さん(せぞちゃん)
門田敏子さん(としちゃん)
前田実香さん(監督・脚本)
【料金】
一般1,300円/学生・シニア1,000円/各種サービスデー適用
※全席指定

チケット情報はこちら