インタビュー&レポート

ホーム > インタビュー&レポート > 「些細なことにまでこだわるリアルさが白石監督作品の魅力」 櫛木理宇による同名小説を白石和彌監督が 阿部サダヲ×岡田健史のW主演で映画化 映画『死刑にいたる病』阿部サダヲインタビュー


「些細なことにまでこだわるリアルさが白石監督作品の魅力」
櫛木理宇による同名小説を白石和彌監督が
阿部サダヲ×岡田健史のW主演で映画化
映画『死刑にいたる病』阿部サダヲインタビュー

櫛木理宇の最高傑作と謳われる同名小説を白石和彌監督が実写映画化したサイコサスペンス『死刑にいたる病』が5月6日(金)より、梅田ブルク7ほか全国にて公開される。24件もの連続殺人事件で世間を震撼させた犯人から、ひとつの事件の冤罪証明を依頼された大学生が、真相を解明するために奔走する姿を描く。連続殺人犯・榛村役の阿部サダヲと大学生役の岡田健史がW主演を果たし、岩田剛典、鈴木卓爾、佐藤玲、中山美穂らが共演する話題作だ。そんな本作の公開を前に、真面目そうな高校生たちに愛想よく近づき、時間をかけて距離を縮め犯行に及ぶ、愛想の良い笑顔の中に異様さをにじませる連続殺人犯の榛村を体現した阿部サダヲが作品について語った。

──白石和彌監督とタッグを組んだ『彼女がその名を知らない鳥たち』では究極の愛をヒロインに与え続ける、今までの阿部さんのイメージとは異なるような役柄が印象的でした。本作でも強烈な印象を残す、しかも連続殺人犯の榛村を演じられました。オファーはどのようなかたちで届いたのでしょうか?
 
内容はまだでしたが、白石監督と映画でご一緒できると聞いて、ふたつ返事でした。また白石監督とご一緒したいと思っていたので、嬉しかったです。
 
──脚本や役柄について聞いた時はどのように感じられましたか?
 
まさかこういう役が来るとは思っていませんでした。白石監督とはもう1回やりたいと思っていましたが、まさか連続殺人犯の役とは思わず、びっくりしました。でも、白石監督が撮るなら何とかなるかと。たまたまですが、僕にオファーが来る前に原作本を妻が買って読んでいて、妻がこういう内容の本を読んでいたことにも驚きました。
 
──W主演となった岡田健史さんにはどのような印象を持ってらっしゃいましたか?
 
岡田くんのデビュー作のドラマ「中学聖日記」を見ていたので、端正な顔立ちで真面目そうな子だなと思っていました。撮影に入る前の本読みで初めて岡田くんと会いましたが、22歳でずっとお芝居のことを考えていて、本当に真面目な子だと思いました。
 
──岡田さんと阿部さんは親子と言ってもいいぐらいですよね。
 
僕が30年芝居をやっているので、考えたら岡田くんが生まれる前からやっているんですよね。やたらと大先輩って言ってくるから、嫌味で言っているのかと思っていたけど、違いますね。本当に大先輩だった(笑)。22歳というのが信じられないですよね。
 
──ちなみに、阿部さんが22歳の頃はどんな風に過ごしてらっしゃいましたか?
 
何も考えてなかったですね(笑)。22歳で大人計画に入ったので、お芝居は始めていましたが、ちょうど宮藤(官九郎)さんとコントをやったりしている頃で、ずっとふざけていましたね(笑)。25歳の時に『トキワ荘の青春』に出演したんですが、市川準監督が撮影当日に台詞を箇条書きみたいに書いた紙を持ってこられて「これしゃべって」と渡されるんです。台本なんかほとんど関係なくて。それこそ、今回雅也の父親役をやっていた鈴木卓爾さんとふたりで「藤子不二雄」の藤本弘と安孫子素雄を演じていたので、この前卓爾さんにお会いした時は感動しました。つい先日安孫子さんが亡くなられこともあって、卓爾さんと思い出話をしていました。
 
──岡田さんと対峙するのは全て刑務所の面会室のシーンでしたが、あのシーンは向かい合わせのおふたりが重なって見えるなど、撮り方にもこだわったシーンでした。
 
大体3日ぐらいかけて撮りましたが、撮影はすごく楽しかったです。岡田くん演じる雅也が刑務所の外で何をしてきたのかを撮影中の僕は見ていないんですよ。でも、岡田くんが外で何かに気づいたという芝居をしてくれて、それに対して僕が返していくという芝居や、岡田くん演じる雅也が勘違いすればするほど、変化していくのも面白かったですね。
 
──阿部さんが演じた榛村は、人を言葉でコントロールするのが上手いキャラクターでしたが、刑務所の看守さんとのちょっとした会話にもそれが表現されていて、身震いするほど怖かったです。
 
怖いですよね(笑)。ああいうちょっとした会話は、監督がその場で思いつくんです。僕だって寒気がしますよ、あんな急に思いつかれたら(笑)。台本には「親し気に話す」というト書きがあっただけで、内容は撮影日に言われました。
siy_sub.jpg
──白石監督の現場では、そんな風にその場でアイデアが生まれることが多いのでしょうか?
 
面会室のシーンではほとんどアドリブはありませんでしたが、榛村が外で高校生たちと話すシーンでは、その日に内容が決まることが結構ありました。スーパーでレジの女の子と話していたことなど、監督は本当にどうでもいいようなことをたくさん思いつくんです(笑)。
 
──だからこそ、そのちょっとした会話にリアリティが生まれるのでしょうか?
 
すごく生っぽいからかもしれませんね。僕としては、その場の反応で対応できるのが楽しいです。やっていることはリアルじゃなくても劇中の日常会話がリアルだから、リアルに感じるのだと思います。
 
──阿部さん演じる榛村が高校生に接触していくシーンは、一見普通に見えますが異様と言うか不気味に感じました。
 
男子高校生の自転車を間違えてしまう場面でも、全然違う自転車なのに間違えていますよね。よくよく考えたら本当に怖いですよ。その後、映画館で会った時の会話は白石監督がその場で思いついたと思います。それに、映画館の暗闇で榛村が笑うと歯が白いのも怖いですよね。
 
──そうなんです。榛村の歯の白さが恐怖をあおっていますよね。先日、阿部さんが歯をホワイトニングされたとお聞きしました。一方、前回白石監督とタッグを組んだ『彼女がその名を知らない鳥たち』で演じた陣治は、すごく歯が汚くて。歯でこんなにも印象が変わるのかと驚きました。
 
それも白石監督の気づきであり、アイデアですよね。本当にすごいです。爪も今回は綺麗にしていて、『彼女がその名を知らない鳥たち』では汚くしていました。今回、監督に「白い歯にしてきました」と歯を見せたら、大笑いしていました。楽しいんでしょうね(笑)。些細なことに思えますが、そういう些末なことが人の印象を左右するんですよね。
 
──榛村を作り上げるために他に何か意識されたことはありますでしょうか?
 
そんなに意識していたことはないですね。ただ、歯を見せた方が面白いだろうなと思いました。特別に作ったりするのではなく、榛村にとっては日常生活なので、普通にやっているように見えた方がいいと思いました。
 
──榛村が爪をはがしたり縛ったりするなど、高校生たちを何人もいたぶって殺害するシーンは、すごく痛そうでした。阿部さん自身は映画やドラマなどの痛みを感じるシーンはいかがですか?
 
痛いのは駄目ですね。実は、高校生役の俳優さんの痛そうな声を聞くのも辛かったです。撮影中は映像としてちゃんと爪がはがされているように見えているかどうかを一番気にしていました。あのシーンは初日に撮影しましたが、血だらけの状態になった子たちが次々に小屋にやってきて、「次どうぞ」みたいな(笑)。皆、「初めてです。こんなことされたの(笑)」と楽しんでやってくれていたので良かったです。
siy_sub2.jpg
──オープニングの榛村が水路に何かを撒いている場面は、異様さを感じるものの美しいシーンでした。
 
あのシーンはこだわって撮っていました。ロケーションが本当に素晴らしいんです。撮影場所として使わせてもらった榛村の家の近くに本当に水門があったんです。よく見つけたなと思いました。作ったのかと思いますよね。あれを見た時に僕は何もする必要がないと思いました。
 
──白石監督は、『彼女がその名を知らない鳥たち』もそうですが、阿部さんのイメージにない役を提案されているように感じます。
 
それはすごく嬉しいですね。「またか」よりは「来たか」の方が面白いですもんね。白石監督からずっと殺人犯みたいな役が来ると辛いですけど(笑)。たまには白石監督の作品で、お父さんみたいな役もやりたいですよね。いろんな役をやりたいです。
 
──阿部さんと白石監督のタッグも2作目ですが、もし『孤狼の血』に阿部さんが出ることになったら面白いですよね。
 
さっき浜村淳さんのラジオで、浜村さんが「『孤狼の血』の3作目があったら阿部さん出られるんじゃないですか?」とおっしゃったんです。監督が「うん」と言っていたので、期待しています(笑)。
 
 
取材・文/華崎陽子



(2022年5月 2日更新)


Check

Movie Data




(C) 2022映画「死刑にいたる病」製作委員会

『死刑にいたる病』

▼5月6日(金)より、梅田ブルクほか全国にて公開
出演:阿部サダヲ、岡田健史
岩田剛典、宮﨑優、鈴木卓爾、佐藤玲、赤ペン瀧川、大下ヒロト、吉澤健、音尾琢真、中山美穂
原作:櫛木理宇『死刑にいたる病』
脚本:高田亮
監督:白石和彌

【公式サイト】
https://siy-movie.com/

【ぴあアプリサイト】
https://lp.p.pia.jp/event/movie/220838/index.html


Profile

阿部サダヲ

あべ・さだを●1970年4月23日生まれ、千葉県出身。1992年より松尾スズキ主宰・大人計画に参加。同年に舞台「冬の皮」でデビュー。映画やドラマ、バンド「グループ魂」のボーカルとしても活動するなど、幅広く活躍している。2007年に映画初主演を務めた『舞妓Haaaan!!!』(水田伸生監督)で第31回日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞、2017年には『彼女がその名を知らない鳥たち』(白石和彌監督)で第60回ブルーリボン賞主演男優賞を受賞。2019年放送の大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』(NHK)では主人公の田畑政治を演じた。その他の主な映画出演作は『奇跡のリンゴ』(13/中村義洋監督)、『謝罪の王様』(13/水田伸生監督)、『ジヌよさらば~かむろば村へ~』(15/松尾スズキ監督)、『殿、利息でござる!』(16/中村義洋監督)、『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』(18/三木聡監督)、『MOTHER マザー』(20/大森立嗣監督)など。