インタビュー&レポート

ホーム > インタビュー&レポート > 「アニメ業界の話だけど、あくまで同じ社会人のひとりであり、 どこにでもある仕事の物語」辻村深月の同名小説を吉岡里帆、 中村倫也、柄本佑、尾野真千子ら共演で映画化 映画『ハケンアニメ!』吉野耕平監督インタビュー


「アニメ業界の話だけど、あくまで同じ社会人のひとりであり、
どこにでもある仕事の物語」辻村深月の同名小説を吉岡里帆、
中村倫也、柄本佑、尾野真千子ら共演で映画化
映画『ハケンアニメ!』吉野耕平監督インタビュー

辻村深月の同名小説を『水曜日が消えた』の吉野耕平監督が映画化した人間ドラマ『ハケンアニメ!』が、5月20日(金)より、梅田ブルク7ほか全国にて公開される。日本のテレビアニメ業界で、最も成功したアニメの称号、“覇権=ハケン”をめぐって、伝説的存在となりながらも8年ぶりに新作を発表する監督と新人監督が火花を散らす姿を描く。吉岡里帆が主演を務める他、中村倫也、柄本佑、尾野真千子らが共演。また、アニメパートに実際に声をあてた豪華な声優陣にも注目だ。そんな本作の公開を前に、吉野耕平監督が作品について語った。

──監督は、元々原作を読まれていて、映画化したいと思っていたそうですね。原作のどの部分に一番惹かれていたのでしょうか?
 
以前からアニメ業界のことに興味を持っていたのですが、そこで働く人たちも当然ながら電車で家に帰るし、ご飯も食べるし、猫を飼っていたりするんですよね。ドキュメンタリー番組などであまり描かれてこなかったそういう生活臭さや、仕事相手に告白されたら次からやり辛いというような関係性など、「わかるわかる」と言いたくなるような、同じ社会人のひとりとしてのスタンスをきちんと描いていたのが面白いと思いました。
 
──それは映画化するにあたっても大事にしたいと。
 
吉岡里帆さん演じる斎藤瞳監督が電車に乗っている姿を何度か入れるなど、疲れた会社員の中のひとりとして監督もいるような、そういう感覚は大事にしたいと思いました。その辺のファミレスで仕事をしている自分の隣にも監督がいるかもしれない、というような存在感を描きたいと思っていました。監督と言いながらも、中間管理職みたいなものなので、店長になったばかりの人や新規雑誌の立ち上げを任された人、商品開発で初めて自分の企画が通った人のように、どこにでもある仕事のように感じてもらえたらいいなと思いました。
 
──監督のデビュー作である『水曜日が消えた』の次にすぐ『ハケンアニメ!』に取り掛かったのでしょうか?
 
元々、やることが先に決まっていたのは『ハケンアニメ!』の方でした。ただ、『ハケンアニメ!』はアニメも作らないといけないので時間がかかっていたところ、いろいろなご縁が重なり『水曜日が消えた』を先に撮ることになりました。結果的にはいい順番になったと思っています。『水曜日が消えた』で初めての映画を撮ってぼろぼろになっていたので、瞳監督の気持ちにリアルに寄り添えると思いました。
 
──ぼろぼろになったというのは?
 
初めて映画を作ってみると、直前ギリギリまで脚本の修正に追われることや、映画の現場独自の進め方に合わせなければいけない戸惑いもありました。そういった色々な“壁”の中で監督をしていくやり辛さなどをたくさん経験できたことは結果的にはプラスになったと思います。自信を持って迷いなく「1作目をやる監督の気持ちはこうだ」と言うことができましたから(笑)。
 
──瞳監督を演じた吉岡さんとはどのようなお話をされましたか?
 
吉岡さんは真面目で、演出家の意図をきちんと知りたいと考えている方だと感じました。劇中の瞳監督の姿は、吉岡さんご自身で見つけていったものだと思います。前半のストレスで鬱屈したような瞳監督像は僕のアイデアが多いですが、後半の成長し打ち解けていく姿は吉岡さんが生み出していったものです。各スタッフの名前を覚えていくようなアイデアも吉岡さんからでした。暗くて恨みがましい感じはだいたい僕です(笑)。
anime_sub.jpg
──中村さんとは『水曜日が消えた』に続いてのタッグでした。
 
中村さんには『水曜日が消えた』の時に、「(俳優として)意味がわからずに演じることは難しいので、このシーンの狙いをきちんと説明してほしい」と割とストレートに言われたことがあって。その時の真面目さや飄々とした感じ、そういうことを笑いや明るさに包んで言う空気感がすごく王子監督にぴったりだなと思いました。
 
──『水曜日が消えた』と比べて、本作では演出する人の数が圧倒的に増えましたが、いかがでしたか?
 
すごく勉強になりました。『水曜日が消えた』はオリジナルなので、僕の中にそこまで引き出しがなかったというのもありますが、今回は辻村さんの原作もあるし、モデルになる場所も見学でき、取材でいろんな方にお会いできたのは助かりました。演出面の工夫では、会議など大人数が映るシーンでは立ち位置で関係性をわかりやすくし、瞳監督と王子監督の対談シーンでは垂れ幕などで色分けをしていました。
 
──視覚で伝えることを意識されていたんですね。
 
そうですね。とにかく情報量が多いので、どっちが優勢なのか劣勢なのかだけでもわかってもらえれば、と。
 
──公開を控えた今の心境を教えてください。
 
今もぼろぼろです(笑)。とにかくやることが多いので。ずっと働いています(笑)。試写の前はずっと震えていましたし、気分は瞳監督と同じです。SNSの言葉が怖くてパソコンも触りたくないです。
 
──今後のことはどのように考えてらっしゃいますか?
 
長編映画を撮っていきたいと思っていますが、ただ何本作れるかはわからないので。たしか昔、押井守監督がどこかで「次回作を撮れることが監督としての勝利」とおっしゃられていた気がするので、次回作を撮ることができれば勝ちだと思っています。
 
──本作はアニメ業界が舞台ですが、誰かに何かを伝えたいと思ったことがある人なら必ずどこか響くところがある作品になっていると思います。
 
取材でアニメ監督にお話を伺ってみた際、苦労したエピソードをいろいろ聞かせていただきました。それは誰も正解を教えてくれないと言うか、自分の中にしか正解はないからなんですよね。それって考えてみると、働いている人は皆そうなんですよ。そういう答えのない戦いをする時に、SNSがある時代であっても、究極的には自分の中にいる誰かひとりに届けるしかない、と思っています。
 
──監督にとっての誰かひとりとは?
 
僕はいつか宮崎駿さんに自分が作ったものを観てほしい、というのが映像を作り始めた頃からの夢でした。今は、中学生の頃からWOWOWで映画を観ていたので、WOWOWの番組紹介カタログの中に並ぶ作品を作れたらと思っています。あの頃の自分が、カタログの中の無数にある作品から今の自分の作品を選ぶのかな? と。あの小さい写真と3行ぐらいの作品紹介だけでちゃんと観たくなるような作品を作っているだろうか、と自問自答しています。
 
──中学生の時に映画を観始めた自分に向けて、ということですね。
 
そうですね。今だとNETFLIXのメニュー画面の作品紹介画像にあたるようなものでしょうか。当時の僕はそれだけを頼りに映画を観て、ワクワクしたり大失敗したりしていましたから。あの枠の中のひとつに入りたいと思っています。



(2022年5月25日更新)


Check
吉野耕平監督

Movie Data




(C) 2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会

『ハケンアニメ!』

▼5月20日(金)より、梅田ブルク7ほか全国にて公開
出演:吉岡里帆 中村倫也 工藤阿須加 小野花梨 高野麻里佳 六角精児 柄本 佑 尾野真千子
原作:辻村深月「ハケンアニメ!」
主題歌:ジェニーハイ「エクレール」
監督:吉野耕平

【公式サイト】
https://haken-anime.jp/

【ぴあアプリ】
https://lp.p.pia.jp/event/movie/218232/index.html


Profile

吉野耕平

よしの・こうへい●1979年、大阪府出身。『夜の話』(2000)がPFFにて審査員特別賞を受賞。『日曜大工のすすめ』(11)が第16回釜山国際映画祭ショートフィルムスペシャルメンション受賞。CMプランナー、MVディレクターを経て、CGクリエイターとして『君の名は。』(16)に参加した後、中村倫也主演作『水曜日が消えた』(20)で劇場長編監督デビュー。次の時代を担う映像クリエイター選出プロジェクト「映像作家100人2019」にも選ばれている。