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映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』
主演・森山未來インタビュー

ウェブ連載中から話題を呼び、書籍化されるや瞬く間にベストセラーとなった燃え殻の同名小説を映像化した青春恋愛映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』が、11月5日(金)より、シネマート心斎橋、アップリンク京都、元町映画館にて劇場公開&NETFLIX全世界配信が開始される。森山未來が主人公の佐藤を演じ、そして彼が忘れられない初恋の彼女・かおりに伊藤沙莉が扮している。東出昌大、SUMIRE、篠原篤、大島優子、萩原聖人らが共演し、『そこのみにて光輝く』、『まともじゃないのは君も一緒』などの高田亮が脚本を務め、犬童一心監督、阪本順治監督らのもとで助監督を務めた森義仁監督がメガホンを取った。テレビの美術制作会社という映像業界の末端で働き続けた佐藤から見た、1990年代半ばから2020年までの変遷と、1995年に文通をきっかけに出会った彼女・かおりとの別れから初デートまでを、コミュニケーションツールの移り変わりやその時代を象徴するアイテムとともに、現代から過去へと遡りながら映し出している。そんな本作の公開を前に、主人公の佐藤を演じた森山未來が作品について語った。

――森山さんは本作で久しぶりに恋愛映画の主演を務められましたが、原作は読んでらっしゃいましたか?そして、オファーを受けた時はどのように感じられたのでしょうか?
 
原作は読んでいなかったので、オファーを受けてから読みました。この映画に出ようと思ったのは、自分の中でそういう流れがあったからなのかな。侍になって人の首を切ったり、人を殺して逃亡犯になったり、そういう役が続いたので、当分嫌だなと(笑)。シンプルに、そういった自分の中のバランスみたいなものもありました。また、『世界の中心で、愛をさけぶ』や『モテキ』などで恋愛映画をやらせてもらいましたが、後1回ぐらい恋愛映画と呼ばれるものに出てもいいんじゃないかと思っていた時に、この作品に出会いました。最初は内容云々よりも「燃え殻」という作者の名前に反応しました。兄弟で音楽ユニットをやっていた「キリンジ」の弟さんによるソロ名義の「馬の骨」というアルバムの中に「燃え殻」という代表曲があるんです。改めてその「燃え殻」という曲を聴いた時に歌詞とこの映画の内容がとても重なったので、出演条件として、「燃え殻」をエンドロールにかけてもらいたいとお願いしました。
 
――他に出演を決めた理由はあったのでしょうか?
 
この原作の成り立ちが、ネット上で連載していたものを最終的に書籍にして収めたものなので、その特性が強く出ている。この本は往々にして「エモい」と称されているんですよね。僕は基本的にそういう言葉が大嫌いなんです(笑)。でも、エモーショナルな何かが「エモい」という言葉にまで簡略化されて、乱用されるほど巷の人たちが使っていることには意味があると思っていました。先日、伊藤沙莉ちゃんとインタビューを受けていて、「フィクションの中ですが、90年代を体験してみていかがでしたか?」という質問に対して、「現代の方が縛られていて、思いきりやりたくても表現できないこともあるし、SNSで監視されているような気がして簡単に発言できない。90年代の方が歪かもしれないけれど外に向けるエネルギーや熱量が自由そうでいいなと思いました」みたいなことを言っていたんです。それを聞いた時に、90年代は「エモい」という言葉を使う必要がなくて、今「エモい」が使われているということを考えると、「エモい」というものを渇望している人たちが現代にいるからだろうなと。伊藤沙莉ちゃんの言葉に当てはめて考えてみると、エモーショナルな瞬間を自分たちで生み出ししづらい時代だから、そういう言葉や表現に触れたいと感じているのかもしれないと思いました。「エモい」という言葉は嫌いだけれど、「エモい」という言葉を理解するきっかけになりました。そういう意味でも、いま多くの人に触れられている作品に関わることに意義を感じ、出演したいと思いました。
 
――森山さんは、本作で佐藤の21歳から46歳までの25年間を演じてらっしゃいます。ひとりの人物の25年間を演じるに当たって、どのように考えて演じられましたか?
 

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21歳から46歳までを演じるに当たって、佐藤の内面がどのように変容していくのかを考えました。仕事や対人関係が変化していくことによって、狭かった視野がどんどん変わっていくと言うか、変わっていかざるを得なかったとも言えると思います。環境や対人関係に合わせて自分が変わっていくのは、悪いことだけではないと思っています。そういうことの積み重ねによって人と対峙する時の対応や言葉の使い方が変わっていく佐藤を、自分の10代中盤から今に至るまでの25年間に当てはめて考えていました。
 
――また、本作では46歳の現代から21歳の過去へと時代を遡って描いています。時代を遡っていく演技についてはどのように感じられましたか?
 
今回は、ほぼ映画の順番で年代を遡るように撮っていました。この物語の主軸として、かおりという存在に出会って、佐藤の生き方が変わった瞬間や影響を受けたことが大きなポイントとして描かれるのですが、撮影順で考えると、かおりと出会うシーンを撮影するのが最後になるんです。“きっとかおりはこういう存在として佐藤の中に残っていたんだろう”と想像しながら逆戻しで演じることによって、かおりという存在に対しての思いや期待値が妄想上で膨れ上がってしまって。実際に伊藤沙莉ちゃん演じるかおりと対面する時は、緊張感や触れがたいものに触れる感覚を感じました。原作にもある「初めて自分よりも好きになった人」という感覚や、初めて自分から他者に近づこうとするぎこちなさは、意図せず出たんじゃないかと思っています。
 
――本作には、“大人”や“普通”という言葉がよく登場します。普段はあまり向き合って考えることのないこの言葉について、森山さんはどのように感じてらっしゃいますか?
 
この作品には、「大人になれなかった」や「大人になった」、「普通だ」「普通じゃない」などといったワードが飛び交っているんですが、佐藤は目の前のことに必死に、一生懸命生きているだけで。その中で傷つくこともあれば、何かを得ることもある、本当はそれだけのことなんですよね。出会いや別れ、痛みというのは、きっと誰しもが経験したことのある瞬間であって、それが散りばめられていることが、この作品が共感を呼ぶ理由なんじゃないかと思っています。
 
――「大人になる」ということは決してネガティブなことではないと思います。森山さんは、今まで大人になったことをポジティブに感じることはありましたか?
 

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例えば、バレエダンサーの人生で考えてみると、プリマドンナ、プリンシパルの寿命は決まっています。身体的な限界があるので、トップに居続けることは難しく、どこかで区切りをつけなきゃいけないんです。でも、運動量として力があるのは20代前半かもしれませんが、精神と肉体のバランスで一番充実してくるのは30代前半と言われていますよね。肉体的には出来ることが減ったとしても、若い頃にできなかったことができるようになっていることもあって、それは考え方ひとつだと思うんです。失ったものに目を向けるのか、今できていることに目を向けるのかで見え方は変わってくると思います。僕はコンテンポラリーダンスをやるようになったことで思考がすごく変わりました。限定されたスタイルで踊るのではなく、今ある身体でできる表現を模索するという概念のもと、踊るという表現に向き合うのが、ある種楽になったというか。その感覚は、踊りだけに関わらず、生き方にも影響を与えている気がします。今ある環境と、今ある身体と思考でやれることがあると考えられるようになりました。人の意見に反発したり、約束を反故にされたりして、心や身体にダメージを受けることはもちろんありますが、それをポジティブな方向に持っていけるようなコミュニケーションのとり方を自分も少しずつですが培ってきたというような感覚もあります。うまくいかなかったことを自分なりに受け入れられるようになって、むしろそれを利用して物事が回るようになったりもしますよね。それを“大人”と呼ぶのであれば、僕はポジティブに受け取りたいです。今回この映画に出たことで、“大人”というものについて、よく聞かれていますが(笑)、本当に受け取り方次第だと思っています。
 
――本作では、それぞれの時代で佐藤にとっての転機となった出来事が描かれていますが、森山さんにとって、転機になった時代はいつでしょうか?
 
今までの繋がりの延長線上に今の自分があるので、どの時代がというのはなかなか言いづらいのですが、敢えてこの作品の中で描かれている時代で考えても、転機はもちろんありました。例えば、僕が初めて初舞台を踏んだのが1995年で11歳でした。あと、1999年、2000年は15歳で、子役という扱いではなく役者としてデビューした年で、それこそ99年から2000年にかけてのカウントダウン公演が初日でした。佐藤とかおりが円山町のラブホテルにいたその頃、僕は渋谷のパルコ劇場で舞台をやっていました。そんな風に、敢えてこの作品に登場する年代で捉えたとしても、どこかしこに転機はあります。
 
――この作品によって過去を思い起こす人は多いと思います。森山さんはこの作品がきっかけになって、何か思い出されたことなどはありましたか?
 

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今を生きている人って今を反芻しないですよね。時代を通り過ぎた後に、誰かが振り返ってあの時代はこうだったと言っていることはあっても。それこそ90年代なんて失われた10年と言われていて、何だったらそれが延長されて2000年代も、2010年代すらも失われている時代とも言われる。友人の前野健太というシンガーソングライターの曲のタイトルを借りれば、「今の時代がいちばんいいよ」ってことなんだと思います。今を生きる人は今を生きるしかないですから。僕自身は、振り返ってなんていられない、という思いは基本姿勢としてあります。今を充実させたいので。でも、この作品に出たことで、1999年にパルコ劇場の舞台稽古のために、渋谷の円山町のマンスリーマンションに住んでいたことや、1995年にかおりとの初デートで、竹下通りに並行する風情のある筋をふたりが歩くんですが、昔、あの辺りにお抹茶屋さんがあって、初舞台で上京した時にそれを母親が見つけて一緒にお茶を飲んだことを思い出しました。劇中とは全く違う体験ですが、同じ時勢の中に自分がいたということが、訳の分からないパラレルワールドを生んでいたように感じました。そんな感じのことがいっぱいあって、意外とこの作品と僕の過去が繋がっていて驚いています。
 
――オープニングのシーンが後半では全く異なるシーンに感じられるなど、現代から過去に戻っていく展開によって、作品がよりエモーショナルに感じられました。また、現代が2020年になっていることで、コロナの影響による生活の変化も描かれていました。森山さんは完成作を観てどのように感じられましたか?
 
この映画はコミュニケーションツールの変化による対話のあり方の変容も大事に描いているので、コロナまでを描けたことはとてもいいと思いました。SNS が普及してグローバリゼーションが加速していた矢先、バチンと世界が分断されてしまい、ここでまたコミュニケーションに対する考え方が大きく変容したと思うんです。そういうことをちゃんと描こうとしている作品だからこそ、コロナを描くことは必要だったと思います。原作はもっと時系列がバラバラですが、映画ではしっかり時代を遡っていくかたちをとっていますよね。完成作を観た時は、ずっと僕が出ているので客観的に観ようとする行為自体が難しかったんですが、映像として面白いものになっているように感じました。現在から過去に時代を遡っていく中で、絵はがきや「普通」という言葉などが、ポイントポイントでそれぞれの時代を繋げていくような見せ方も今っぽい。あるライターさんが、この作品は、映画館での上映とNetflixでの配信が同時に行われることに意味があるとおっしゃっていて。映画館で観るということは映像として体感することで、Netflixはもうちょっと日常的に鑑賞するものですよね。なので願わくは、まずは映画館で映像を体感して、その後、もう1度Netflixで観てもらえれば、また響き方が変わってくると思います。その視点の変化を楽しんでいただければ。これをさも僕が思いついて言っているかのように書いてください(笑)。
 
 
撮影/大﨑俊典
取材・文/華崎陽子
 
スタイリスト/杉山まゆみ
ヘアメイク/須賀元子
 
<衣装クレジット>
シャツジャケット/¥49,500
パンツ/¥46,200/共にSasquatchfabrix. (サスクワァッチファブリックス)
シューズ/¥41,800/CULLNI (クルニ)



(2021年10月29日更新)


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Movie Data




(C) 2021 C&I entertainment

『ボクたちはみんな大人になれなかった』

▼11月5日(金)より、シネマート心斎橋、アップリンク京都、11月6日(土)より、元町映画館にて劇場公開&NETFLIX全世界配信開始
出演:森山未來、伊藤沙莉
東出昌大、SUMIRE、篠原篤
平岳大、片山萌美、高嶋政伸
ラサール石井・大島優子/萩原聖人
監督:森義仁

【公式サイト】
https://bokutachiha.jp/

【ぴあ映画生活サイト】
https://cinema.pia.co.jp/title/186257/


Profile

森山未來

もりやま・みらい●1984年8月20日、兵庫県生まれ。5歳から様々なジャンルのダンスを学び、15歳で本格的に舞台デビュー。2013年、文化庁文化交流使として、イスラエルのテルアビブに1年間滞在、インバル・ピント&アヴシャロム・ポラック ダンスカンパニーを拠点にヨーロッパ諸国にて活動。ダンス、演劇、映像など、カテゴライズに縛られない表現者として活躍中。2004年に初出演した映画『世界の中心で、愛をさけぶ』では主人公を好演。日本アカデミー賞はじめ数々の新人賞を総なめにするなど話題を呼んだ。主な映画出演作に、『モテキ』(2011)、『苦役列車』(2012)、『北のカナリアたち』(2012)、『人類資金』(2013)、『怒り』(2016)、『サムライマラソン』(2019)、2020年には、日本・カザフスタン合作映画『オルジャスの白い馬』、『アンダードッグ』に出演。2019年には、NHK大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」にも出演。監督作品としてショートフィルム「Delivery Health」(2019)、「in-side-out」(2020)。笠井叡ダンス公演「櫻の樹の下には」(2021)、清水寺奉納パフォーマンス「Re:Incarnation」(21/総合演出、出演)。舞台「なむはむだはむ」(2017)、「オイディプス」(2019)「未練の幽霊と怪物」(2021)など。待機作に、劇場アニメーション『犬王』(2022年公開予定)がある。ポスト舞踏派。