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映画『いのちの停車場』
吉永小百合、成島出監督らによる大阪会見レポート

終末期医療に携わる現役医師・南杏子による同名小説を基に映画化したヒューマンドラマ『いのちの停車場』が、5月21日(金)より、梅田ブルク7ほか全国で公開される。救命救急センターで働いていた医師の白石咲和子が、実家の金沢で在宅医として再出発する姿と、彼女の働くまほろば診療所の人々や彼女の受け持つ患者ら、彼女を取り巻く人々の人間模様を丁寧に描き、“命”について考えさせる作品だ。主演の吉永小百合をはじめ、松坂桃李、広瀬すず、西田敏行ら豪華キャストが集結。『ふしぎな岬の物語』や『八日目の蝉』などを手がけた成島出がメガホンを取る。そんな本作の公開を前に、主演の吉永小百合と、末期の小児がんを患う若林萌の母・祐子を演じた南野陽子、そして成島出監督と原作者の南杏子が、4月18日(日)に大阪で会見を行った。

まずは、初めての医師役となった本作の役作りや準備について尋ねられると吉永は「撮影が昨年の9月だったので、出来れば3月ぐらいから病院で先生方の様子を拝見して、役作りをしたいと思っていたんですが、コロナで病院に行けなくなってしまって悶々としていました。すると、初夏ぐらいから救命救急の先生と在宅医療の先生が東映の撮影所に来てくださって、細かく丁寧に教えていただきました。命を助ける立場と命に寄り添う立場、ふた役を演じたような贅沢な体験をさせていただきましたし、大変な時期なのに力を貸してくださった先生方に感謝しています」と撮影に協力してくれた医師への感謝の気持ちを語っていた。南野は「自分の命よりも大切に思う我が子が余命いくばくもないとなると、何にでもすがりつきたくなる気持ちはすごくよくわかりますし、そういう気持ちから解放されないんじゃないかと思ったんですが、撮影現場で(南野演じる祐子の娘・萌役の)佐々木みゆちゃんと(まほろば診療所の運転手で医大卒業生の野呂に扮した)松坂(桃李)さんが楽しそうに話をしている姿を見て、子どもは少ない時間の中で成長しているんだと思ったら、今を充実させてあげたいなと自然に思えるようになりました。また、吉永さんと向き合うシーンでは、私の感情が高ぶってしまうと吉永さんが自然と手を握ってくださって、こうやって在宅医の方は心で寄り添ってくださるんだと実感しました」と、実際の撮影現場での体験が役作りに生かされたと語っていた。
 
そして、作品を観た感想を原作者の南に聞いてみると、「大変感動いたしました。在宅医療というのは本人も家族も迷いが多いものですが、それを小説とは少し形が違いますが、私が言いたかったことを100%、それ以上に伝えていただけるような作品になっていたことに感動いたしました」と絶賛していた。
 
また、本作の主人公が従事することになる在宅医療について尋ねられると、自身もがんを患っていた経験のある成島監督は「僕は2017年に胃がんを経験して、もうこれまでだと思ったんですが、吉永さんからお守りとお手紙をいただいて、病気を治して、また映画をご一緒しましょうと言っていただきました。一度は(死を)覚悟したんですが、もう1度吉永さんとご一緒したいと思って、人間なかなか死ねないものだと感じましたし、足掻いてしまうものなんだと思いました。吉永さんとの約束を果たすことができて、今この場に居られることをすごく嬉しく思っています。僕は、この映画が皆さんに考えていただけるヒントになればいいなと思っています。日本では家族で終末期について話すことはタブーとされているところがあるので、最後まで自分らしく生きるために、家族とそのことをきちんと語り合うようになっていくことが、超高齢化と少子化が進む日本において、すごく大事なことになっていくと思っています。僕もがんになって生きているだけで有り難いと思いましたし、癌になった時に吉永さんからいただいたお守りとお手紙はどんな抗がん剤よりも効いた気がしています。病院を退院する朝に、治るかもしれない、生きられるかもしれないと思いながら、ものすごく綺麗な朝日を見たんです。その時に涙を流しながら、生きるということは普通のことだと思っていたけど、こんなに綺麗だったんだ、生きることは美しいことだったんだと気付かされました」と、自身の体験を絡めて語っていた。
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最後に、本作の完成を見届けることなく亡くなってしまった本作のプロデューサーである東映の岡田会長への思いを聞いてみると、成島監督は「岡田会長とは、僕が脚本家時代からお付き合いが始まって、監督としては吉永さんの作品を2本ご一緒させていただきました。岡田会長はひと言で言えばすごく滅茶苦茶でチャーミングな方で、本当に映画を愛してらっしゃる方でした。今回の映画で、末期の小児がんを患う萌ちゃんが海に行くシーンで、本当は波打ち際でぴちゃぴちゃと入るぐらいの予定だったんです。ところが会長は、松坂桃李演じる野呂くんが背中に萌ちゃんを背負って海に泳いでいくんだと言い出したんです。僕は、それはどんなお医者さんが見てもNGですよと言ったんですが、会長は譲らないんです。そこで理由を聞いたら、自分が子供の頃の遠泳大会で、バテて溺れそうになった妹さんを背負って、泳いだことがあったそうなんです。それを聞いて、普通に考えると駄目なんですが、僕はコロリとおちて、岡田会長は素敵な方だと思ったんです。初号試写の時に僕は、岡田会長の遺影の後ろで観ていたんですが、そのシーンの野呂くんが岡田会長に見えてしまって、僕は自分の映画では絶対に泣かないんですが、生まれて初めて自分の映画で泣いてしまいました。本当に岡田会長には感謝しています」と真摯に語っていた。吉永も「岡田会長はそそっかしいから、『いのちの停車場』で本当は止まらなきゃいけないのに、それをスルーして天国に行ってしまったんじゃないかと今でもそんな気がしています」と岡田会長へ思いを馳せていた。
 
 
取材・文/華崎陽子



(2021年4月18日更新)


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Movie Data



(C) 2021「いのちの停車場」製作委員会

『いのちの停車場』

▼5月21日(金)より、梅田ブルク7ほか全国で公開
出演:吉永小百合
松坂桃李、広瀬すず
南野陽子、柳葉敏郎、小池栄子
伊勢谷友介、みなみらんぼう、泉谷しげる
石田ゆり子、田中泯、西田敏行
原作:南杏子「いのちの停車場」
監督:成島出

【公式サイト】
https://teisha-ba.jp/

【ぴあ映画生活サイト】
https://cinema.pia.co.jp/title/185087/