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映画『すくってごらん』で待望の映画初主演!
歌舞伎俳優・尾上松也インタビュー

世界初の金魚すくい漫画として知られる大谷紀子の同名コミックを、映画初主演の尾上松也と、初のヒロイン役となる百田夏菜子をキャストに迎えた人間ドラマ『すくってごらん』が、3月12日(金)より、TOHOシネマズ梅田ほか全国にて公開される。東京本社から左遷された元エリート銀行員・香芝が、金魚とピアノを愛するミステリアスな美女・吉乃と出会い、最初は全く興味もなかった“金魚すくい”を通じて成長していく様を、ポップスやバラードなど様々なジャンルの歌とラップ、そしてダンスにのせて、色彩豊かに映し出している。そんな本作の公開を前に、主演を務めた尾上松也が作品について語った。

――本作が映画初主演とのことですが、松也さんが演じられた香芝は、大手メガバンクの東京本社から左遷され、田舎やそこに住む人を下に見るような偏見の持ち主かと思えば、心の中の声が歌やラップになって出てしまうという、ユニークなキャラクターです。どのように演じようと思われましたか?
 
映画への出演が少ないのは、日頃は歌舞伎の舞台出演が中心となっているためです。僕は以前から映画に出たいと思ってはいたのですが、映画は作品によっては2、3ヶ月、東京以外の場所で缶詰になって撮ることが多いので、そのスケジュールをとることが難しかったんです。1年間、歌舞伎の舞台があるという想定の中で、ドラマですと、東京にさえ居れば、舞台に出演していてもスケジュールをおさえることができるのですが、映画はまとめてぎゅっと撮影しますので、タイミングが合わなかったんです。そして、香芝のキャラクターですが、最初は偏見に満ちた嫌な奴ですよね(笑)。そんな彼がどのように変わっていくのか、その二面性が面白いキャラクターですので、そこは監督とじっくり話をしました。
 
――本作のタイトル『すくってごらん』にも、金魚を“すくう”という意味と人を“救う”という意味が掛けられていたり、「ポイが破れても終わりではない」という言葉の中の、“破れる”に“敗れる”という意味が隠されていたり、本作はすごく多面的な物語になっています。脚本を読んだ時に、これは「面白いな」と感じられたんでしょうか?
 
この映画のお話をいただいた時に脚本を拝見したら、歌やラップ、いろいろな要素が最初から脚本に盛り込まれていました。正直、全然よく分からなくて(笑)。完成図が全く想像できなかったのですが、僕が今回出演させていただきたいと思ったのは、「すくってごらん」という原作がありながら、そこにわざわざ、こんなにややこしい要素を取り入れて、挑戦しようという、制作陣のチャレンジ精神にすごく惹かれて、一緒に作ってみたら面白そうだなと思ったからです。監督の中では物語をイメージ出来ていたようなのですが、僕は、現場に行ってから、物語のイメージが見えてきました。撮影で奈良に行く前に、金魚すくいのシーンがたくさんあるので、達人の方に“こつ”や極意を教わったのですが、僕たちが思っている縁日でやっているような金魚すくいとは、感覚が全然違いました。映画の中でも言われていることですが、待つということと追いかけないということ、破れても終わりじゃないということ、これは人生にも重なるようなことですよね。実際に金魚すくいをやってみても、追いかけたら全然すくえなくて、待って乗っかってきた金魚をすくってあげるという作業なんです。達人になってくると、我々のように待って乗っかってきたものをすくうという感じではなくて、ひょいひょいすくっていくので、まるで待ってないように見えるのですが、きちんと見ると、確かに追いかけていないんです。脚本を読んだ時にはまだそういうことを知らなかったのですが、金魚すくいについて教えていただいて撮影に臨む中で、人生とリンクしている部分をすごく感じました。
 
――制作陣のチャレンジ精神にすごく惹かれたとおっしゃいましたが、松也さんが本作の中で最もチャレンジングだな、と感じた部分は?
 
僕もミュージカルの経験がありますので、日本ならではのミュージカル作品や音楽性の強い映画作品に出てみたいという願望を持っていました。そんな中でこの映画のお話を頂いたのですが、日本映画の中に音楽を取り入れることはとても難しいですよね。例えば、『レ・ミゼラブル』みたいな作品を日本語で、しかも映像にするというのは、難しいところがあります。音楽に入る瞬間までに、これから音楽に入るぞという流れを作らないと、基本的にはミュージカルとして成立しない、みたいな不文律があって。でも、それって綺麗なのですが、観ている立場からすると気持ち悪い部分もあるんですよね。そういうことを前提として脚本を読んだら、ここで歌を入れるの? というタイミングで歌が入っていました。それが効果的かどうかって、一か八かみたいなところもあるじゃないですか。ここで歌にいくの!? みたいな、そういう概念にとらわれないところが僕にとってはすごく刺激的に感じました。タブーに見えるようなやり方や、概念を逆手に取るようなやり方にチャレンジして、それを成立させる方法を考える、その精神がチャレンジングだなと思いました。僕も今までいろいろなことにチャレンジしてきたつもりなので、チャレンジしている方たちに一緒にチャレンジしてもらえませんかと言われると、ついつい挑戦したくなるんですよね。
 
――先ほど、本作が人生とリンクしている部分をすごく感じたとおっしゃいましたが、松也さんが一番共感したのはどこでしょうか?
 
人生において、待つのか追うのかということだけでも、結果はかなり変わってきますよね。金魚すくいにおいては単純にそれを知っているかどうかだけの話ですが、実際にそれ以外のことでも、やってみると感覚が変わったり見方も変わったりすることってあると思うんです。例えば、香芝はすごく偏見があって、田舎の人に対する変な優越感を持っていました。彼の場合は特にそれが極端で、勝手に思いが歌になってしまうような変な病気も持っていますが(笑)。大きい小さいはあると思いますが、そういう偏見のような、自分の中の価値観で決めきってしまっている事ってたくさんあると思うんです。それって実は気づかないことの方が多いですよね。香芝にしても、(柿澤勇人演じる、香芝とは真逆の明るい性格の持ち主である)王寺に対して、印象と言葉遣いだけで「こいつ、マジで嫌いだ」って決めつけていたのが、最後には変化しています。ものの見方を変えれば、人物への見方も変わるという、そういう小さなプラスの一歩が、人の幅を広げてくれるのだとこの映画でとても感じましたし、僕も今までそういうことを意識してきたつもりですが、なかなか出来ないので、改めて、偏見を持たずに行動することがとても大切なことなのだと感じました。僕自身は、常に何かに追い込まれていないとやる気が起きないタイプなんです。間際にならないと集中して考えられなかったり、アイデアが浮かんで来なかったりするので。仕事においては、自主公演や、いろんなことにチャレンジしてきたつもりですし、アクティブに動くことは素晴らしいことだと思います。あんまりやったことのないことをやってみようと思うことに共感するのですが、普段の僕は、すごく人見知りで、苦手だなと思うと一切遮断してしまう方でしたので、そういう面で、香芝との共通点を感じました。
 
――本作の撮影はいつ頃行われたのでしょうか? 撮影された時期と現在では状況が全く異なっていると思います。このような状況下でこの作品が公開されることについては、どのように感じてらっしゃいますか?
 
この映画を撮影したのが一昨年の7月なので、コロナとは全く関係なく撮影して、こんなことが起きるということも全く予期していませんでした。ですが、こんな時だからこそ、いろいろな方があらゆることに踏み出さなければいけない状況に置かれていると思うんです。だから、より一層、勇気を持ってやってみるということの大切さというのは改めて感じていただけるのではないかと思っています。元々柔軟性のある方にとってはなんてことないことなのかもしれませんが、特に香芝のように、凝り固まった考えを持っている人が、踏み出したことのない何かに踏み出すという、その気持ちはすごくよくわかりました。一歩踏み出せなかったり、人とのコミュニケーションがうまく取れなかったりした香芝が、一歩踏み出すことで自分の人生も人間性は広がりますし、見るものが変わってくることによって、得るものも違ってくると思うんです。どうしても、凝り固まった自分のルールの中だけで生きていると、自分の中での正解というのは明確なのかもしれませんが、どうしても狭い世界で生きていくことになってしまうので、これからの時代は特に、そういう概念をどんどん取っ払っていかないと、環境と時代に追いついていけないだろうという風に感じました。
 
――本作には、「金魚すくいでは、“破れても終わらない”」という台詞が出てきますが、松也さんが今まで、何かに敗北しながらも、楽しかった、もしくは今後に繋がったと感じるような出来事はありましたか?
 
今は後輩も自主公演をやるようになりましたが、僕が自主公演を始めた当時は、今の(市川)猿之助さんが亀治郎時代に始めた「亀治郎の会」しかなかったんです。僕はそれに刺激をいただいて始めようと思ったのですが、お金もなくて、パッションと言うか気持ちだけで動き出したところもあったので、右も左も分からない中で、段取りの踏み方もわかっていませんでした。父ももうおりませんでしたので、それを教えてくださる方もいなくて。結果として、自主公演さえやらなければ起きなかったトラブルが、それこそ山のように起こりました。自主公演をやろうと決めて始めたのは僕ですので、責任は僕にあります。その時は本当に落ち込みましたし、やらなければよかったとも思いましたが、何年か後で、あの経験がなかったら多分ここで失敗していたなということがたくさん出てきて、自主公演での失敗の経験があって、気にするようになっていたから、起きなかったトラブルもたくさんありましたので、勝ち負けではないですが、失敗する可能性があることでもチャレンジして、失敗して恥をかくことの方が、結局頭の中に残っているんだなと思いました。褒められた記憶は、その時は嬉しいですが、その場の満足感で終わってしまうことが多く、具体的に何を言われたかなんて覚えてないですよね(笑)。そういう失敗の経験値は大きかったなと思います。
 
 
取材・文/華崎陽子



(2021年3月11日更新)


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Movie Data




(C) 2020映画「すくってごらん」製作委員会 (C)大谷紀子/講談社

『すくってごらん』

▼3月12日(金)より、TOHOシネマズ梅田ほか全国にて公開
出演:尾上松也、百田夏菜子、柿澤勇人
石田ニコル、矢崎広、大窪人衛
清水みさと、辻本みず希、北山雅康
鴨鈴女、やのぱん、竹井亮介
川野直輝、笑福亭鶴光
監督:真壁幸紀

【公式サイト】
https://sukuttegoran.com/

【ぴあ映画生活サイト】
https://cinema.pia.co.jp/title/185911/

【特典付きムビチケカード購入サイト】
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Profile

尾上松也

おのえ・まつや●1985年1月30日、東京都生まれ。1990年に、二代目尾上松也を名乗り初舞台。歌舞伎の自主公演『挑む』や、オリジナル公演『百傾繚乱』を行うなど、若手歌舞伎俳優の筆頭格として活躍中。2015年にはミュージカル「エリザベート」や、2018年には主演を務めた「メタルマクベス disc2」など、歌舞伎以外の演劇にも活動の場を広げ、2019年からは、山崎育三郎、城田優と立ち上げたプロジェクト「IMY(アイマイ)」でも活動している。2017年には、「さぼリーマン甘太朗」で連続ドラマ初主演を飾り、2020年には日曜劇場「半沢直樹」に出演し、話題を呼んだ。映画では、2017年の『モアナと伝説の海』で声優を務め、歌声も披露している。