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「MI-CAN 未完成映画予告編映画大賞」で好評を博して映画化!
映画『実りゆく』八木順一朗監督&主演・竹内一希インタビュー

未だ存在しない映画の予告編を制作する「MI-CAN 未完成映画予告編映画大賞」で好評を博し“堤幸彦賞”と“MI-CAN男優賞”を受賞し、映画化が実現した、芸能事務所タイタンでマネージャーを務めている八木順一朗監督による青春映画『実りゆく』が、10月2日(金)より、長野県にて先行上映され、10月9日(金)より、TOHOシネマズ梅田ほか全国で公開される。長野県を舞台に、りんご農家のひとり息子の実(みのる)が、夢であるお笑いの道を目指す姿と、父親との確執を丁寧に描いている。八木監督がマネージャーを務めている若手漫才コンビ“まんじゅう大帝国”の竹内一希が主人公の実(みのる)を演じている。そんな本作の公開を前に、八木順一朗監督と主演・竹内一希が作品について語った。

――八木監督は、芸能事務所タイタンでマネージャーをしてらっしゃいましたが、ずっと映画監督になりたいと思っていたんでしょうか?
 
八木順一朗監督(以下、監督):大学まではずっと映画の勉強をしていたんですが、同時にお笑いも大好きで、特に爆笑問題さんが大好きだったので、太田さんがいつか映画を撮ると思っていたから、自分の大好きな人が映画を撮る時に一番近くにいたいと思って、タイタンに入れて頂いて、映像の部署があるので本当はそこに入るはずだったんです。でも、僕が入った時にちょうど田中さんのマネージャーさんが辞めてしまったので、一時的にマネージャーをやることになって、そのまま今に至っています。今は、爆笑さんの現場を卒業して、若手を見ています。その中に、(竹内君のコンビである)まんじゅう大帝国がいたんです。
 
――「MI-CAN 未完成映画予告編映画大賞」に応募したきっかけは何だったんでしょうか?
 
監督:映画監督になるには、助監督から始めて徐々に上り詰めて、いつか監督として声がかかるというのが王道だと思うんです。でも僕は、マネージャーとして働いていたので、そのルートで行くのは無理だと思って、監督になるにはいきなりなるしかないと思ったんです。そうするには大会に出て、賞をとって一気に行くしかないと思っていたら、「予告編映画大賞」を見つけて、これならチャンスがあるかもと思って挑戦しました。
 
――本作の基となり、「MI-CAN 未完成映画予告編映画大賞」に応募した『実りゆく長野』と本作のアイデアはどのように生まれたんでしょうか?
 
監督:4年ぐらい前に実際に長野県の松川町に行った時に、この話を映画にしたいなとぼんやり思ったんです。僕が担当していた、松尾アトム前派出所という芸人がモデルなのですが、彼の仕事の関係で農園に行った時に映画にしたいと思いました。
 
――2分半の予告編から1時間半の映画にするのは、どのように膨らませたんでしょうか?
 
監督:「予告編映画大賞」に応募する時に、本編のシナリオもつけて送っていたんです。その時には、今とほとんど変わらないぐらいの物語の骨格はできていました。
 
――なぜ、竹内さんを主役にしようと思ったんでしょうか?
 
監督:竹内君は東京生まれ東京育ちなんですが、この映画は長野県の松川町という田舎が舞台なんですね。なぜそこに竹内君だったのかということなんですが、僕の中では、竹内君は、圧倒的に田舎の空気を携えた青年という印象を持っていたんです。完全に田舎の人だと思っていました(笑)。東京生まれだということを後で知って驚きました。でも、僕の中では竹内君しかいないと思ってお願いしました。
 
竹内一希(以下、竹内):シティーボーイですから、私は。小学校まで品川区にいて、中学校から世田谷区です。
 
監督:よくよく聞いたら、大都会で育っているんですよ。本当にびっくりしました。
 
竹内:子供の頃は、ほとんど土を踏んでいませんから。アスファルトしかない都会で育っているんですよ。
 
監督:僕は、竹内君はこの映画の中の実のように、地方から全てを捨てて東京に来て頑張っているんだと思っていたら、実家暮らしですから(笑)。
 
竹内:今日も母親に見送ってもらいましたし、ご飯も作ってもらって、洗濯もしてもらってという情けない男なんです(笑)。
 
――予告編とはいえ、主役で演技をすると聞いた時は、どのように感じましたか?
 
竹内:確か、芸人が事務所に行くと挨拶に寄る、タイタンのマネージャー室だったと思うんですが、ある日そこに行ったら八木さんしかいない日があって、「今度、映像撮るんです。竹内君主演でやろうと思っているんですよ」と言われて、「そうですか。主演ですか、いいですね」という感じでした(笑)。何も知らずに、「これは目立ちますよ」とかアホみたいな会話をしていたんですが、始まってみたら結構大変で、ちょっと後悔しましたけど(笑)。「予告編映画大賞」の時は、八木さんが手持ちのカメラを持って、「ここに立って。このセリフ言って。スタート」というホームビデオのような感じで撮っていたので、その時は、役作りとかお芝居がどうこうとかまでは全然考えてなかったです。撮ったものを繋げて、いざ見たときはこんな風になったんだと思ってびっくりしました。
 
――竹内さんも“MI-CAN男優賞”を受賞されました。
 
竹内:そうなんです。これがネックと言うか、大誤算でしたね(笑)。これがなければ映画の主役は僕じゃなかったんですよ、きっと。
 
監督:いやいや、僕は竹内君しかいないと思っていましたから。
 
竹内:「予告編映画大賞」の作品を撮っていた頃に、「これで大賞とったら、また出してくれるんですか?」って聞いたら、「通行人で出しますよ」と言っていましたから(笑)。「今をときめくイケメン俳優が主役になります」って言っていたのに、僕が賞をとったもんだから切るに切れなくなっちゃったんです(笑)。今はかっこつけて、竹内君しかいないとか言っていますが(笑)。
 
監督:そんなことないですよ、ほんとに。これだけ圧倒的な田舎感を出せるのは、竹内君しかいませんから(笑)。
 
――上京して芸人さんになろうとする方が多いというイメージもあると思いますが、私も竹内さんは地方出身の方だと思っていました(笑)。
 
竹内:どうしてでしょうね。ちゃんと言われたのはこの映画に出てからですね。都会育ちなので、当たり前のように都会の人間の顔をしていると思っていましたから。今思うと、そう考えていたのが恥ずかしいですよね(笑)。渋谷駅とか歩いていたら、通りすがりのサラリーマンの方とかに、あの子は上京してきたんだなと思われていたのかと思うと(笑)。この映画のクランクアップの日に、松尾農園のリンゴジュースの箱を渡されて、手持ちで帰ってきたんです。電車で。一週間分の自分の荷物と一緒に。そうしたら、おばあちゃんが「あら、大変ねぇ。私も長野でね。頑張ってちょうだい」と声をかけてくださったんです。心の中では、「いや、東京に帰ってきたんだけど」と思っていたんですが、完全に田舎から出てきた感が出ていましたね(笑)。
 
――本作のポスターも、竹内さんがど真ん中にいらっしゃいます。ポスターを見た時はどのように感じられましたか?
 
竹内:ここまで僕メインで来るとは思わなかったです。爆笑さんこんなに小さくていいの?と思いました。タイタンとしたら信じられない構図なんですよ(笑)。親分がこんなところにいるんで。やっぱり主役だな、俺はという感じはするので、嬉しいですよ。このポスターが松川町には1000枚も貼ってあるんです。この写真は、八木さんがすごく気に入っていたんですよね。
 
監督:この写真が大好きで、これを絶対メインにしたいと思っていましたから。素晴らしい笑顔ですよね。
 
――普段のおふたりは、マネージャーと芸人という関係ですが、現場では監督と主演俳優という関係で接した時は、お互いにどんな印象を持ちましたか?
 
監督:僕は何も変わらなかったですね。竹内君は何でも質問してくれましたし、僕も何でも答えましたし、そういう意味では一緒に相談しながら作っていった感じでした。
 
竹内:マネージャーと映画監督って正反対の仕事だと思うんです。マネージャーさんは、色んな所にお仕事をお願いしたり、間を取り持ったり、低姿勢だと思うんですが、映画監督は決断の連続なので、全然違うことを同時にしているから、相方と一緒に「監督って呼ばれてるよ」ってひそひそ笑っていました。でも、よく切り替えられるなぁと思っていました。撮影の合間にも、普通にマネージャーの仕事の電話はかかってきていましたから。
 
監督:頭がぶっ壊れそうになっていました(笑)。
 
竹内:「次のシーンはこんな風にお願いします」って言った直後に、電話で「ありがとうございます。どうもお世話になっております」って、マネージャーとして電話を受けていましたから。滅茶苦茶ですよ。よくやっているなぁと思っていました。
 
監督:切り替えができていたのかもわからないくらい、ぐちゃぐちゃになっていましたね。撮影期間は9日間だったんですが、「折り返します」とかで逃げながら、昼休憩にばぁーっと電話して乗り気っていました。
 
――爆笑問題のおふたりも出演されていました。おふたりからはどのような言葉をかけられましたか?
 
監督:ふたりとも応援してくださっていました。太田さんは『クソ野郎と美しき世界』の中の1本『光へ、航る』で、ブルーリボン賞の監督賞にノミネートされていたので、僕が「予告編大賞」でグランプリを獲れなかった時も「俺だってノミネートで終わっているんだから、お前が獲れるわけないだろ」って言われましたね(笑)。
 
――爆笑問題のおふたりの出演シーンを演出するのは、どんな感じでしたか?
 
監督:僕は田中さんのマネージャーでしたし、かつて担当していた大ベテランの方を演技指導するなんて、ちゃんとできるかなと思っていたので、おふたりにはだいぶ早めに台本を渡していたんですが、撮影当日にふたりとも台本を読んできていないことが判明しまして。吃音の実君という子が、ブースに入ってくるので、後はお願いしますと。
 
竹内:八木さんは匙を投げたんですよ。僕は、ボケてくる太田さんに翻弄されただけでした(笑)。
 
――すごく自然なお芝居だな、と感じていたんですが、本当にナチュラルだったんですね(笑)。
 
竹内:こっちは台詞があるので、どこで入ればいいんだと思いながら、無理矢理入ってもボケてきますから、大混乱ですよ(笑)。しかもあのシーンが、本当に最初の撮影だったんです。いきなり爆笑さんとのシーンだったので、初日にして、監督と主演が頭真っ白でしたね(笑)。あの日は、ダメかと思いました(笑)。
 
監督:そうですね。これ終わったんじゃないかと思いました(笑)。
 
――竹内さんは、爆笑問題さんとは何度も共演されているんでしょうか?
 
竹内:2ヶ月に1度の事務所ライブでは共演していますし、爆笑さんの番組にも出させていただいたこともありますし、実際に爆笑さんのラジオ番組のブースに入ったこともあったので、それを思い出しながらやったんですが、結果的には何も想定通りにはいきませんでした。ブースに駆け込んでいくところまでですね。そこから先は未知の世界でしたから(笑)。お芝居で爆笑さんと共演するのは、また違う緊張感がありました。
 
――実(みのる)の父親役だった田中要次さんとの共演はいかがでしたか?
 
竹内:僕は、ドラマ「HERO」が大好きだったので、「あるよ」のイメージだったんですが、実際に共演してみるとすごく緊張しました。演じているときはおっかなくてしょうがなくて、僕が実(みのる)だったら諦めるし、もう無理だと思っていました。でも、実(みのる)は諦めないから頑張らなきゃと思いながらやっていました。撮影以外では、好きなミュージシャンの話をしたり、「バス旅は本当に辛いんだよ、本当に歩いているんだから」と話してくださったり、気を配ってくださいました。
 
――竹内さんが実(みのる)の立場だったら、芸人になる夢は諦めていましたか?
 
竹内:諦めていますね(笑)。テキパキとりんご農家をやっていると思います(笑)。よし、りんごを育てようと思っています、絶対。
 
――実際の自分とは正反対の実の苦悩と葛藤はどのように生み出したんでしょうか?
 
竹内:台本を読んでいても驚きの連続でしたし、すごいな、こいつはと思っていました。そのリスペクトというか、大したものだな、こいつはという思いで演じていました。お父さんと対峙する感覚や親を無視して家を出るのは経験がないので、リアルなドキドキを感じながら演じていました。僕は、お父さんとも仲が良くて、お酒を一緒に飲んだりしていますから。
 
監督:そう考えると、見事な演技力ですよね(笑)。観てくださる方は、そんな風には感じないでしょうから。
 
――竹内さんは、なぜ芸人になろうと思ったんですか?
 
竹内:高校までは野球をやっていたので、そこまではプロ野球選手になるつもりでした。それが駄目になって、人生においてやることがなくなっちゃったんです。友達と文化祭で漫才やったりして、日芸に運良く入れたので、落語研究会に入って、ずっと落語をやっていたので、舞台で何かをして笑ってもらうのが楽しいなと思ってはいたんですが、落語家にはなる勇気もないし、漫才もコントもできないしどうしようかと思って、就職活動もせずに、大学四年の夏まで堂々としていたら、今の相方が芸人に誘ってくれたんです。ふたりで動いていたら色々呼んでもらえるようになって、これは芸人になれそうじゃない?という雰囲気が漂ってきたところで、母親に「芸人になりなさい」と言われたぐらいなので、実(みのる)とは真逆です(笑)。
 
監督:竹内君みたいなのは珍しいと思います。
 
竹内:ぼけーっとしていたら、「主演やらないか?」と言われて、「いいですね。やりましょう」と言ったら、「男優賞、竹内一希」ですから(笑)。
 
監督:竹内君は、本当にラッキーボーイなんです。
 
――映画の中でもネタを披露するシーンがありました。
 
竹内:プレッシャーはすごく感じていました。ネタの部分がうまくいっていないと、全く意味を持たなくなるので、ネタのシーンだけは決めないと駄目だと、このシーンだけは僕たちの責任だと思っていましたし、ましてや先輩のネタなので、先輩のネタをスベらせるわけにいかないと、そこだけはかなりのプレッシャーがありました。慣れないことだったので、なんならM-1の予選より緊張しました。
 
――最後に、公開を前にした今の心境をお聞かせください。
 
監督:まさか映画が撮れるとは思っていなかったですし、コロナもあって無事に公開できるかもわからないときがあったので、奇跡的にちゃんと形になってみなさんに届けることができるのは、神様が見守ってくれているような気もしますし、だからこそ、ひとりでも多くの方に観ていただいて、暗い時代ですが、ちょっとでも気持ちが明るくなってもらえたらなと思っています。
 
竹内:もう撮った後なので、怖いことはないですから、存分に観て欲しいですね。でっかいスクリーンで、でっかい僕の顔を存分に楽しんでいただきたいです。僕も色んな映画館に観に行こうと思っています。主演の方はいろんな映画館に観に行くとネットに書いてあったので(笑)。こんな機会もうないですから。帽子を深くかぶって、開演ギリギリに滑り込んで(笑)。公開をすごく楽しみにしています。
 
取材・文/華崎陽子



(2020年10月 2日更新)


Check

Movie Data



(C)「実りゆく」製作委員会

『実りゆく』

▼10月2日(金)より、長野県にて先行上映され、10月9日(金)より、TOHOシネマズ梅田ほか全国にて公開
出演:竹内一希、田中要次、田中永真
橋本小雪、鉢嶺杏奈、島田秀平
小野真弓、三浦貴大、
爆笑問題(特別出演)、
山本學
主題歌:GLIM SPANKY「By Myself Again」
監督:八木順一朗

【公式サイト】
https://minoriyuku-movie.jp/

【ぴあ映画生活サイト】
https://cinema.pia.co.jp/title/184642/


Profile

八木順一朗(左)

やぎ・じゅんいちろう●1998年、岐阜県生まれ。幼少期に観た怪獣映画の影響で、映画監督を志す。日本大学芸術学部映画学科監督コースに進学。大学の卒業制作で監督した映画を機に、現在の勤務先・株式会社タイタンに入社。爆笑問題、橋下徹らのマネージャーを務める。現在は社内での映像制作事業に着手し、若手芸人のライブ映像や、ショートフィルム、2016年以降は、社外のテレビ番組のディレクターとして、TBS「一番だけが知っている!」、テレビ東京「新・美の巨人たち」などを制作する。2018年、「MI-CAN 未完成映画予告編映画大賞」にて、本作の基となる『実りゆく長野』で審査員賞を受賞。


竹内一希(右)

たけうち・かずき●1994年、東京都生まれ。日本大学芸術学部卒業。在学中は落語研究会に所属。2016 年 6 月に田中永真とコンビを組み「まんじゅう大帝国」を結成。直後の「M-1グランプリ2016」で、アマチュアながら3回戦進出を果たし話題を集める。2017年4月デビュー。2018年、「MI-CAN 未完成映画予告編映画大賞」にて、本作の基となる『実りゆく長野』で、主演男優賞を受賞している。