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「お弁当は、父親から息子へのラブレターで、
それを息子が空にして返すことが返事だった」
井ノ原快彦と関西ジャニーズJr.内ユニット、なにわ男子の道枝駿佑が
親子を演じた映画『461個のおべんとう』兼重淳監督インタビュー

TOKYO No.1 SOUL SETの渡辺俊美による“お弁当エッセイ”「461個の弁当は、親父と息子の男の約束。」を映画化した『461個のおべんとう』が、11月6日(金)より、梅田ブルク7ほか全国で公開される。高校生になった息子のために、高校3年間、計461個のお弁当を作り続けた父親の奮闘と、そのお弁当を食べ続けた息子の3年間の成長を描き出している。父親の一樹を井ノ原快彦、息子の虹輝を関西ジャニーズJr.内ユニット、なにわ男子の道枝駿佑が演じ、原作者であるTOKYO No.1 SOUL SETの渡辺俊美が音楽を手掛けた話題作だ。そんな本作の公開を前に、大ヒットを記録した『キセキ -あの日のソビト-』の監督であり、長年、是枝裕和監督や犬童一心監督らの助監督を務めてきた兼重淳が作品について語った。

――まず、物語ではなく、エッセイである原作を映画化した理由をお聞かせください。
 
原作を初めて読んだ時に、エッセイだけどエッセイっぽくないと思ったんです。レシピ本でもありますし。文章の端々に息子への愛情が垣間見えるところがあるので、それをピックアップしていけば面白くなるんじゃないかと思いました。そして、脚本を作り始めたんですが、高校時代の3年間、息子のためにお弁当を作り続けた父親の話だから、まずは息子の3年間を作ろうと思ったんです。それから、その3年間父親はどうしていたのか考えていたら面白くなってきたので、お引き受けしました。それに加えて、子育て期間を走馬灯のように描いてみたいと思っていたんです。なんで泣いているのか分からない時とか、入園式で白いシャツを着た後になんで子どもは鼻血を出すのかとか、子育てのあるあるってたくさんあるじゃないですか(笑)。僕自身も、そういうことを毎日必死でやってきたけど、今となっては走馬灯というか、あっという間だったように感じるんですよね。僕は高校生の時、毎日が楽しくてキラキラしていたんです。やりたいこともありましたし、何にでもなれると思っていましたし。それも高校生活が終わる時に思い返したらあっという間だったんですよね。だから、オープニングは父親の子育ての走馬灯で、最後のお弁当を食べる時は、息子が高校生活を思い返した走馬灯にしたくて、そういう構成で脚本を作っていきました。
 
――監督がおっしゃるように、息子が高校生になるまでの15年を描いていないと、高校3年間の父親と息子の関係を描くことが難しくなってしまいます。
 
そうなんです。それに加えて、父親のキャラクターを先に出しておかないと、いきなり、バンドのメンバー3人がワイワイしている感じが出てきても理解できないですから(笑)。一樹が仕事に走って、奥さんと溝が生まれてしまって、一方、奥さんは奥さんで自分の生活があって、やりたいこともあって、どっちも正しいという風に描かないといけないと思っていました。誰かを傷つける作品にはしてほしくないから、登場人物に悪い人がいないようにしてほしいというのが僕と渡辺さんの男の約束だったんです。
 
――原作者の渡辺さんと息子との関係性とは違った、映画ならではの父と息子の関係性はどのように作り出していったのでしょうか。
 
渡辺俊美さんと息子さんとの関係は、本当に仲が良すぎるぐらいなんですよね。映画の中に台詞で少し入れているんですが、息子さんの学校行事も全て渡辺さんが出ていたそうで、担任の先生や友達の名前もほとんど言えるみたいなんです。思春期を迎えても仲の良さは変わらなかったみたいで、それって信じられますか? それを映画にした時に観客に信じてもらえるのかなと思ったんです。思春期だからこそある葛藤を描かないと、映画としては駄目だと思ったんです。その後で道枝くんがオファーを受けてくれたので、道枝くんが持っている透明感と、リアルな17、18歳の子が持つ危うさや子どもっぽい部分、急に大人びたりするところを素で演じてもらうために、僕がこういうシーンを見たいなと思って入れた場面もあります。
 
――本格的に映画に出るのは初めての道枝さんですが、初々しさと玄人っぽさが同居しているような不思議な方だと感じました。
 
すごく頭がいい子なんですよね。彼は、連続ドラマに何本か出ているんですが、連ドラはある程度テクニックがないとできないですし、彼はバラエティーもやっているので、そういうテクニック的なものが安定して出ている部分と、僕があえてやってもらった、是枝方式というか、エチュードのように最低限この台詞は言わなきゃいけないけど、後は自由にやっていいよと言って、いきなり本番でカメラを回したシーンがあるんです。それをバランスよく重ねているので、ナチュラルなところと安定感を感じさせる部分が同居しているように感じてもらえるんだと思います。父親や母親と接している時と、同級生とわいわいしているところのように。それこそ、教室でお弁当を食べているシーンの撮影の時は3方向から8テイクも10テイクも撮っているので、リアルなロケ弁が食べられなくなるぐらい、あの子達はずっと食べていました(笑)。奥でサンドイッチ食べている子なんて本当に可哀想ですよね(笑)。編集で合わせるのが大変でした。それもあって、最後のお弁当を食べるシーンは、逐一指示を出していました(笑)。
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――今のお話にもあったように、監督は、是枝監督や橋口監督、犬童監督など数々の監督の作品で助監督を務めてらっしゃいました。その経験は今も活かされてらっしゃいますか?
 
助監督は、30年近くやっていました。その経験は今も活かされています。自慢させてもらうと、是枝さんの作品で2作以上助監督をやったのは最近まで僕だけだったんです。行定さんは同世代で助監督時代から面識があったんですが、正直、行定さんがブレイクした時に、なんで俺は、と思いました。でも、今思うと、僕は是枝さんや犬童さん、橋口さんという、錚々たる監督の元で学ぶ時間を与えてもらったんだと考えられるようになったので、助監督をやれて良かったと思っています。僕は、白石和彌監督(『孤狼の血』)とも仲がいいんですが、彼は若松(孝二)さんと行定(勲)さんの助監督でしたし、面識はないんですが、武正晴監督(『百円の恋』)は井筒(和幸)さんの名チーフだったんですよね。そういう助監督経験のある方達の活躍は励みになります。それに、若松組だった白石さんが『孤狼の血』を撮るのも納得できますし、井筒さんについてきた武さんが『百円の恋』を撮るのもわかりますし、是枝さんや犬童さんについてきた僕がこの作品を撮るのは、系譜として理解できるんじゃないかと思います。
 
――監督の作品である『キセキ -あの日のソビト-』も、その系譜に当てはまる気がします。
 
是枝さんが撮った、漢字の『奇跡』でチーフ助監督をやっていた僕が、カタカナの『キセキ』を撮ったんですから(笑)。一度、「カタカナ『キセキ』の監督の兼重さんです」って紹介されたこともあるんです(笑)。それは、あまりに面白かったのでTwitterに書いたら、みんな爆笑してくれていました(笑)。
 
――劇中で、井ノ原さん演じる一樹が組んでいるバンド「Ten 4 The Suns」の曲や主題歌に至るまで、全て渡辺さんが手掛けたオリジナル曲だったのは驚きました。
 
渡辺さんがあっという間に書いてくださいました。台本の段階で、ここはオープニングなのでちょっとアップテンポの曲で、などとお願いはしましたが、あげてもらった曲が全部良かったので、そのまま使っています。渡辺俊美さんが書いてくださって、KREVAさんがライムを乗せてくれるなんて、NG出せないですよ(笑)。渡辺さんは、バンドを3つやりながら、その合間にあのクオリティの曲をあっという間に書き上げて、井ノ原さんのギター指導と道枝くんのレコーディングにも立ち会ってくれましたから。その渡辺さんが試写を観た後に、「監督ありがとう。感無量」と握手してハグされた時には、僕も泣いてしまいました。涙腺が緩くなったおじさんが抱き合いながら泣いている試写会なんて嫌ですよね(笑)。
 
――本作を思い返してみると、台詞がすごく少ないのに、父親と息子の心情はすごく理解できたように感じました。監督は、どのような意図を込めていたのでしょうか。
 
渡辺俊美さんに461個分のお弁当の写真データを送ってもらったんですが、僕はそれを見た時に涙が出てきたんです。そして、なんで僕は泣いているんだろうと考えた時に、お弁当自体がラブレターだと感じたんです。お弁当は、父親から息子へのラブレターで、それを息子が空にして返すことが返事だったんじゃないかと。だとすれば、あんまり言葉はいらないと思って、台本から削っていきました。編集段階で、心の声をナレーションで入れる案もあったんですが、僕は観客を信じようと思ったんです。伝わるだろうと。しかも、井ノ原さんと道枝くんがとても良いので、ふたりの心理状態も言葉に出さなくてもわかってもらえると思ったんです。ナレーションを入れると確かにわかりやすいんですが、最初に「これはお弁当についての話だ。それ以上でもそれ以下でもない」と入れているので、それだけにしたほうがいいと思いました。最初は読み物として、演じてくれる人にわかるように、小説のように書いてみるんです。是枝さんもそうだったんですが、俳優さんたちに分かってもらうために書いてはいるものの、いらないと思ったら、現場で消していくようにしていました。
 
――この映画を観て、それぞれがそれぞれの居場所を探す物語であり、虹輝が自分を肯定できるようになるまでを描いた成長物語でもあるように感じました。
 
居場所を探していたのは虹輝だと思います。虹輝も3年間で成長していますが、お弁当を作ることによって一樹も成長したと思うんです。一樹が虹輝に居場所を気づかせてあげたんだと思います。息子の事を第一に考えて、3年間お弁当を作り続けて、それを達成した時に一樹自身もステップアップしていますし、精神的な成長は、あの歳になってもあったんですよね。僕が関わってきた作品や、監督してきた作品は全て未来がある作品だと思っています。是枝さんの言葉を借りると、“世界は目に見えるものだけが全てじゃない”ので、愛情や引き継がれていく味付けなど不変なものを前向きに捉えられるような作品にしたいと思いました。自分を肯定できるということは、劣等感を自信に変えるということだと思うので、そういう話にしたかったですし、井ノ原さんと道枝くんが最後に並ぶ映画にしたかったんです。やっと肩を並べて歩くふたりを見たら、観客の方にも前向きに感じてもらえるんじゃないかと思いました。
 
 
取材・文/華崎陽子



(2020年10月30日更新)


Check

Movie Data


(C) 2020「461個のおべんとう」製作委員会

『461個のおべんとう』

▼11月6日(金)より、梅田ブルク7ほか全国にて公開
出演:井ノ原快彦、道枝駿佑(なにわ男子/関西ジャニーズJr.)
森七菜、若林時英、工藤遥
阿部純子、野間口徹、映美くらら
KREVA、やついいちろう、
坂井真紀、倍賞千恵子
原作:渡辺俊美「461個の弁当は、親父と息子の男の約束。」(マガジンハウス刊)
主題歌:井ノ原快彦 道枝駿佑(なにわ男子/関西ジャニーズJr.)「Lookin'4」
監督:兼重淳
脚本:清水匡、兼重淳

【公式サイト】
https://461obento.jp/

【ぴあ映画生活サイト】
https://cinema.pia.co.jp/title/183427/


Profile

兼重淳

かねしげ・あつし●1967年4月29日、群馬県生まれ。日本映画学校(現・日本映画大学)卒業後、助監督として、是枝裕和監督作品を中心に、『歩いても 歩いても』(2008)、『奇跡』(2011)、『そして父になる』(2013)、『海街diary』(2015)、『海よりもまだ深く』(2016)、橋口亮輔監督作『ハッシュ!』(2001)、『ぐるりのこと。』(2008)など映画を中心に多くの映像作品に携わり、ドラマやMVの演出も手掛ける。2007年、『ちーちゃんは悠久の向こう』で映画監督デビュー。その後、2017年には『キセキ -あの日のソビト-』が大ヒットを記録。公開待機作として、『水上のフライト』(2020年11月13日公開予定)がある。