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「撮影中から絶対にいい映画が撮れている確信がありました」
映画『閉鎖病棟―それぞれの朝―』
注目の若手俳優・坂東龍汰インタビュー

『愛を乞うひと』などの平山秀幸が監督を務め、作家で精神科医の帚木蓬生によるベストセラー小説を映画化したヒューマンドラマ『閉鎖病棟―それぞれの朝―』が、11月1日(金)より、梅田ブルク7ほか全国にて公開される。重い過去を引きずりながらも明るく生きようとする精神科病院の患者たちの人間模様と、そこで起こった事件の真実を描き出す。笑福亭鶴瓶が『ディア・ドクター』以来の主演を務め、綾野剛、小松菜奈に加え、小林聡美、木野花、高橋和也、渋川清彦ら日本映画界に欠かせない名優が脇を固めている。そんな本作の公開を前に、笑福亭鶴瓶演じる秀丸や綾野剛扮するチュウさんらとともに、精神科病院に入院している、話すことが不自由だが表情豊かに感情を伝える丸井昭八を演じた坂東龍汰が作品について語った。

――まずは、昭八は台詞がないというのは最初からわかってらっしゃったんでしょうか?


まず原作を読んでほしいと言われて、読んだ後に平山監督から昭八役のオーディションに呼んでいただいて、色々お話しさせていただいてという経緯です。台詞がないことはもちろん知っていました。きっと、昭八が言いたいことは、観ている人によって異なった捉え方をしてくださると思うんです。そう考えると、台詞がないことは難しいと思われるかもしれませんが、同じ表情を見ても、訴えていることは誰もわからないので、僕は完成作を2回観たんですが、もしかしたら昭八から、ものすごく色んな事が多くの人に伝わっていくのかもしれないと、嬉しい気持ちになりました。

――それぞれのキャラクターのカルテがあったそうですが、昭八はどのような内容だったのでしょうか?


結構細かく書いてありました。何年前からこの病院にいるのか、何歳くらいで自閉症に気づいたのか、知能障がいが何年生レベルなのか、コミュニケーション障がいがどのくらいなのか、どのくらい話すことができるのか、耳はどのくらい聞こえているのか、何が好きなのか、など全部細かく書いてありました。それだけ情報を頂いても、文字だけでは全く想像できませんでした。自閉症で、知能は小学校3年生で止まっていますと言われても、小学校3年生の頃のことなんて覚えてないですし。もちろん、カルテを頂いたからこそ分かることもたくさんありましたが、それを自分の中にインプットして、表現としてどうアウトプットするのかは、ものすごく不安でした。でも、実際に撮影で使う病院を見学させていただく機会をいただけて、そこでかなりインプットすることができました。

――昭八は、誰かが演技をしている横で写真を撮っているなど、自由な動きが多かったように感じました。


監督から「昭八は自由に動いていい、決まった動きをしてほしくない」と言われていました。要するに、段取りがあるような動きになってほしくないと。「つながりも全然気にしなくていいから、好きなように走り回れ」と言われていました。それって、普通の映画ではあり得ないことだと思うんです。段取りがあって、リハーサルがあって、リハーサルと同じことを本番でやるのが普通ですよね。でも、今回は長回しのワンテイクの撮影がすごく多くて、さらに引きで撮っているので、新しいことを突然やってもよかったんです。たぶん、患者さん役の人全員が何をしてもいいと言われていたと思います。だから、僕も含めて皆さんが自由にお芝居できたので、ワンテイクワンテイクが違うものになって、毎回異なる化学反応が起きていたと思います。テイクも何回も重ねませんでしたね。僕が出ていたシーンは、重ねてもテイクは2回でした。

――中盤には、綾野さん演じるチュウさんと昭八の、映画にとって大変重要なシーンがあります。あのシーンもテイクを重ねなかったんでしょうか?


そうですね。僕の側からと剛さんの側から1回ずつ撮って、5分ぐらいで終わりました(笑)。大事なシーンだから、僕は何十回もやるのかと思って、前の日も眠れなくて、ドキドキして、めちゃくちゃ身構えていたんです。剛さんにも「大丈夫かな?」って聞いたら、「大丈夫だよ。1回ぶっかましてこい」って言われて、その1回っていう言い方が何回もあるみたいで怖いし、そんな言い方やめてよ、と思いながらやったら、リハーサルもなく、あっさりOKが出て、もう終わりなんだという感覚でした。でも、そんなことはほとんどないので、正直不安でした。

――主役の鶴瓶さんや綾野さん、小松さんだけでなく、患者さん役にもそうそうたる役者さんが揃っています。


撮影が終わった後に、平岩紙さんや駒木根(隆介)さん、大窪(人衛)さんたちと食事に行ったり飲みに行ったりしていたんですが、最後の方はみんな、「患者チームの撮影もう終わっちゃうの?」「終わってほしくない」と言い合っていました。ちょうど監督が横の店で飲んでいたので、みんなで監督に「撮影が終わったら困る」と言いに行ったら「それを一番恐れていたんだよ。みんな役から抜けられなくなると思って心配していたんだ」と言われて、演者チームは「抜けたくないです」って、どっぷり沼にはまっていました(笑)。役作りに対しても、すごく心を込めてやっていた分、役と作品から抜けられなかったですね。今回は、役に入っていく過程がちゃんとあって、実際の病院で撮影することができて、これだけ素敵な方々とご一緒できたので。病院の食堂で患者さん役の方が全員集まって撮影する時は、鳥肌がたちました。病院を見学させていただいた時に見た食堂の光景がそのまま目の前にあって、そこに自分が溶け込んでいて、違和感が全くない目の前の情景を見た時に、これはどえらい作品になっていると思いました。

――秀丸(笑福亭鶴瓶)とチュウさん(綾野剛)、由紀ちゃん(小松菜奈)と昭八の4人で病院の外に出る場面は、唯一の穏やかなシーンでしたね。


そうですね、ものすごく穏やかでした。僕が演じた昭八はいつもニコニコしていて、あんまり変わらないんですが、残りの3人の穏やかな表情はそこでしか観られないので、貴重なシーンになったと思います。撮影場所が公園だったので、滑り台やシーソー、鉄棒で遊んで、はしゃいでいました(笑)。存分にみんなではしゃいで、鶴瓶さんが延々と面白いことを言って、みんなで笑っていたので、残りの3人は笑いすぎて頬が動かなくなっちゃって(笑)。特に僕は頬をつってしまって、頬がピクピクしていました。それぐらい笑っていました。

――坂東さん演じる昭八に乱暴するシーンもある、小松菜奈さん演じる由紀ちゃんの義理の父親役を演じた山中崇さんは本当に怖かったです。


山中さん、僕のこと蹴り飛ばしていますからね(笑)。あの日だけ、監督がすごくテイクを重ねたんです。他のシーンは、ほとんどワンテイクなのに。あのシーンだけで、キックを何回もくらいました。でも実は、僕が山中さんに「もっと蹴ってください」って言ったことが、火をつけたのかもしれないです(笑)。山中さんはすごく優しい方なので、最初は、音はするけど痛くない蹴り方をしてくださっていたんです。「本当にお尻痛いから、パットつけてる? 大丈夫?」と心配してくださったので、「僕は全然大丈夫なので、いくらでも蹴ってください」って言ったら、次から口もきいてくれなくなって、完全に役に入り込んでらっしゃいました(笑)。最後の方は、なんとなくタイミングがわかるので、蹴られる前に動いていましたね(笑)。あのシーンはすごく印象に残っています。

――実際に使われている病院で、撮影されたそうですね。


 1階に患者さんがいらっしゃって、使っていない2階の部分で撮影していました。普段行く病院とは全く違う空気感で、その時の自分の状態にもよると思うんですが、僕にとっては居心地が良かったんです。流れている空気がすごく居心地がよくて。元々、北海道の大自然の中で育って、東京に出てきたので、東京のスピードの速い空気の中で4年ぐらい生活していて、海外に行ったりしたり息抜きもしてこなかった中で、1ヶ月間の撮影で空気の流れが突然緩やかになったからかもしれません。それに加えて、今回、本当に素敵なキャストの方と監督とご一緒できて、すごくシビアな題材ではあるんですが、鶴瓶さんが主演ということもあって、現場はすごく雰囲気が良くて、ゆったり時が流れて居心地が良かったです。だから現場から離れたくなかったです。こんな気持ちになったのは初めてでした。現場で、みんなでひとつの作品を作り上げていく空気感がすごく居心地良かったんです。絶対にいい映画が撮れている確信がありました。

――昭八がチュウさんを慕う気持ちがすごく伝わってきました。坂東さんが昭八を演じるうえで、一番大切にしていたことは何でしょうか?


人のことを好きになる気持ちを忘れないことです。昭八は誰のことも嫌いにならないんですよね。山中さん演じる島崎に殴られて蹴られても、恐怖はあるかもしれないですが、恨むことや嫌いになることは絶対にないと思うんです。だから、もちろんチュウさんのことは慕っていますが、チュウさんだけじゃなく、昭八は全員のことが大好きだから、写真を撮りたくなるし、みんなの笑顔が見たいという気持ちはずっと忘れないように演じたいと思っていました。監督からも「昭八ちゃんは暗い役じゃないから、笑顔も少しはほしい」と言われていたので、観た方の印象に残るように、髪型も奇抜にしてみたり、髪の色も青や黄色と緑にしたりしたんです。ダサくしようダサくしようと監督とふたりで頑張って試行錯誤していたのに、小松さんには初日に「おしゃれ」と言われてしまって(笑)。昭八の表情から、みんなのことを好きっていう気持ちを伝えることを忘れないように、僕も撮影中はキャストの方たちやスタッフさん、監督のことを好きにならないと、役としていいものにならないと思っていたから、撮影が楽しかったのかもしれないですね。みんなのことが大好きだったので、愛に溢れた現場だったなぁと今でも思います。

――最後に、完成作を観た時の感想をお聞かせください。


途轍もないものができたと思いました。撮影中も、もちろん感じていたんですが、それをはるかに超えていましたし、特に自分が撮影を見ていなかったシーンは、台本を読んで想像していたものもとも全く違っていたので、映画を観て改めてすごいと思いましたし、震えました。小松さんは僕のひとつ上なんですが、あそこまでさらけ出すと言うか、本当に何も隠してないように感じました。僕は実際にそのシーンの撮影を見ていたわけではないんですが、小松さんと一緒にご飯を食べていた時に、「昭八ちゃんがクランクアップしてからが私は大変なんだよ」と言っていて、「そうだね。大変だね」と軽く返した自分のことを、完成した映画を観た後では、馬鹿かと思いました(笑)。あの時、なんであんな言葉しかかけられなかったんだろうと思って。小松さんが想像もしていなかったお芝居でぶつかっていたので、僕もこれからもっと頑張ろうと思いました。剛さんもおっしゃっていましたが、本当に嘘のない現場で、嘘がつけない人たちを演じているから、役者も嘘がつけなくなっているのかなと感じましたし、それが映像にすごく出ていると思いました。最初から最後まですっと心が持っていかれてしまう、そんな映画になっています。
 

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取材・文/華崎陽子




(2019年10月25日更新)


Check

Movie Data

(C) 2019「閉鎖病棟」製作委員会

『閉鎖病棟―それぞれの朝―』

▼11月1日(金)より、梅田ブルク7ほか全国にて公開
出演:笑福亭鶴瓶、綾野剛、小松菜奈
坂東龍汰、平岩紙、綾田俊樹
森下能幸、水澤紳吾、駒木根隆介
大窪人衛、北村早樹子、大方斐紗子
村木仁、片岡礼子、山中崇
根岸季衣、ベンガル、高橋和也
木野花、渋川清彦、小林聡美
監督:平山秀幸
主題歌:K「光るソラ蒼く」

【公式サイト】
http://www.heisabyoto.com/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/179344/


Profile

坂東龍汰

ばんどう・りょうた●1997年5月24日、北海道生まれ。2017年にデビュー後、2018年にNHKのスペシャルドラマ「花へんろ特別編 春子の人形」で初のドラマ主演を果たす。2019年もTVドラマ「パーフェクトワールド」や「ストロベリーナイト・サーガ」、映画『十二人の死にたい子どもたち』などに出演。今後の出演作として『峠 最後のサムライ』(2020年公開)が控えている。