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「この映画がプロレスを知る入り口になってほしい」
絵本を基にした映画『パパはわるものチャンピオン』で
映画初主演を果たした棚橋弘至インタビュー

人気絵本「パパのしごとはわるものです」と「パパはわるものチャンピオン」を、新日本プロレスの人気プロレスラー、棚橋弘至主演で映画化したヒューマンドラマ『パパはわるものチャンピオン』が、9月21日(金)よりTOHOシネマズ梅田ほかにて公開される。棚橋は、初主演となる本作のためにトレードマークの長髪をばっさり切り、10年前はトップレスラーだったものの、膝の怪我が原因で悪役レスラー“ゴキブリマスク”としてリングに上がっていることを息子に言えずにいる父親を体現している。

 そんな棚橋扮する主人公が、父親が悪役レスラーだと知ってしまった息子との絆を取り戻すため、最強のチャンピオンとの一世一代の闘いに身を投じていく姿をドラマチックに描いた本作。トップレスラーから悪役になったことで、悪役レスラーに誇りが持てず、息子に自分の職業を言えずにいる父親の気持ち、友だちに自分の父親が悪役レスラーだと言えない息子の気持ち、両方の気持ちがわかるとともに、子どもは父親が、父親も子どものことが大好きだと伝わってくる、切なくも心温まる作品だ。

――原作は元々ご存知だったのでしょうか?

僕の子どもの学校行事で、父兄の持ち回りで読み聞かせがまわってくるんです。試合がない時に僕が当番で行くことになったので、書店に絵本を探しに行ったんです。そこでプロレスをテーマにした絵本があったので、手に取ってみたら、面白くて。ドラゴンジョージは完璧に僕だと思いました。嬉しかったですね。それが数年前だったと思います。そういうご縁があった後に、僕が主演で映画を撮る話が来て、どんな映画なのか聞いたら、「パパわる」だったので、テンションがあがりました。

――新日本プロレスでは、棚橋さんはベビーフェイスですが、本作ではヒールである“ゴキブリマスク”を演じられました。ヒール、悪者の存在についてお聞かせください。

プロレスにおいては、戦後、元気のなかった日本をプロレスが勇気づけた力道山先生対悪者である外国人選手や、猪木さんが来日してくる外国人選手を次々と倒していくような、対立の構図は必要だと思います。でも、今は日本人レスラーが増えてきて、明らかないい者、明らかな悪者が少なくなってきているんです。スタイリッシュですし。でも、みんな勧善懲悪の世界が好きなんですよね。僕も仮面ライダーが好きなので、悪者が出てきてライダーキックで倒したりするとすごくスカッとします。水戸黄門のように、印籠を出して「助さん、格さん、やってしまいなさい」と悪が罰せられる、日本のトラディショナルな文化がプロレスには残っているんです。だから、今回の映画で言うと、“ゴキブリマスク”と“ドラゴンジョージ”の対立はわかりやすかったですね。

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――普段はベビーフェイスですが、実際にヒールをやってみていかがでしたか?

新しい気づきはたくさんありました。ヒールはかっこよくても、かっこ悪くてもいいんだとわかったんです。むしろ、かっこ悪い方がヒールっぽいんですよ。例えば、お腹が出ていたり、がに股だったり(笑)。バタバタしていて、洗練されてない方がいいんですよね。ただ、試合中のテンションを常に高い状態で維持しないといけないので、ヒールはすごく大変だと思いました。普段の僕の試合だと、攻めるところと抜くところと緩急があるんですが、ヒールは常に、ファンに対してもアジテーションをしなきゃいけないし、すごく大変でした(笑)。プロレスはいい対戦相手がいて、盛り上がっていくものなんだと改めて感じました。

――子どもに、自分がヒールレスラーだと言えない、“ゴキブリマスク”である大村孝志という役柄にはどのように寄り添われたのでしょうか?

僕は子どもが生まれた時からプロレスラーなので、子どもには違和感なくプロレスという仕事を受け入れてもらっていますが、劇中の大村孝志というのは、かつてはエースで、怪我をして闘えなくなってヒールに転向しているので、たぶん、ヒールというポジションに誇りを持てなかったんだと思うんです。自分の仕事に誇りを持っていれば、自分の子どもに「パパの仕事はゴキブリマスクなんだ」と言えたと思うんです。それがこの映画の中の鍵になっていると思います。大村孝志が自分がヒールレスラーだということに誇りを持てるかどうかということですよね。ヒールになるのか、ならないのかというのは、自分というレスラーがどこでどう生きるかということですから。プロレスラーは、一番になりたい人間の集まりですからね(笑)。だから面白いし、だから面倒くさいんですけど(笑)。僕がベビーフェイスのトップにいたら、棚橋を倒さないとトップにはなれないですよね。じゃあ、その他の選手がどうやって棚橋を引きずり下ろすかというと、ヒールになって棚橋に喧嘩を売るのか、ベビーフェイスとして世代交代を仕掛けるのか、色んな方法があるので、どこでどう生きていくのかは、選手全員が考えていることだと思います。

――ここ数年の棚橋さんは、ブーイングを受けることも少ないと思いますが、“ゴキブリマスク”としてブーイングを受けてみられて、いかがでしたか?

ブーイングの経験は、僕の中ですごく大切な経験ですね。ブーイングというのは、ヒールレスラーがファンから引き出したリアクションだと考えると、ブーイングは声援とイコールなんです。ヒールレスラーがファンから勝ち取ったものなんですよね。ヒールレスラーはブーイングを勝ち取って、ベビーフェイスは声援を勝ち取って、そこで試合を作りあげていくものだと思っています。

――“ゴキブリマスク”の感じている葛藤は理解できましたか?

ここ数年の棚橋の立場と、この映画の大村孝志がすごくシンクロするんですよね。怪我でなかなか結果が出ない中で、どんどん若い選手が、それこそドラゴンジョージが出てくる。だから、これはそのまま僕の物語なんじゃないかと、主演ができるのは僕しかいないと感じさせてくれた監督の配慮を感じました(笑)。初主演でプレッシャーもある中で、僕が演じやすいように、少しでも映画に入っていけるように配慮してくださったんじゃないかと、僕が勝手に思って感謝しています(笑)。

――“ゴキブリマスク”が味わった挫折についてはどのように捉えられましたでしょうか?

ここ2~3年は二頭筋の左を切ったと思ったら、翌年に右を切って、2017年は骨挫傷で長期欠場して、2018年は2~3月まで欠場して、痛みが引かなかったりして、気分がぐっと落ちる時は、後何年できるかなとか、もうダメかなと思うことがありました。でも、その分、一試合一試合にかける熱量は上がりましたね。いつまでもできる仕事じゃないというのは頭にあるので、だったら一試合一試合全力でやろうという気持ちになりました。色んなジャンルで年齢にとらわれずに活躍されている、イチロー選手や山本昌さんのようなスポーツ選手を見ると、同世代ってすごく勇気がもらえるんです。だから、僕はもう1度チャンピオンベルトを目指して、40代、アラフォーの星になります。新たな40代のアイコンになります。ただ、こんな茶髪でロンゲの40代はいないので、完璧にアイコンにはなり損ねていますけど(笑)。でも、40代前半から半ばって第2次ベビーブームの世代なんです。だから、40代の底力はすごいですよ。日本にどれだけいると思っているんですか(笑)。立ち上がれ!40代ですよ。

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――棚橋さんも葛藤を感じてらっしゃった時期があったということでしょうか?

トップレスラーが世代交代の波にのまれていくシチュエーションは色々あると思うんです。この映画の大村孝志だったら膝の怪我ですよね。後は年齢による体力の衰えもありますし、若い選手がどんどん伸びてくることもあります。僕も膝の怪我や二頭筋断裂など、怪我を理由にして、「仕方ないかな」って思ってしまったところもあったんですが、悔しいんですよね。せっかくプロレスが盛り上がってきたじゃないですか。僕が荒地を耕して、種をまいて、水をやって、さぁ収穫と思ったらオカダが刈り取るみたいな(笑)。それこそレインメーカーですよ(笑)。僕だって、もうちょっと甘い汁を吸ってもいいじゃん! と思いますよ(笑)。でも、リハビリして体力が向上しているのも感じられましたし、後は何と言ってもファンの後押しがすごく嬉しかったです。5月にオカダには負けたんですが、会場は棚橋コール一色だったし、先日の日本武道館のオカダ戦も引き分けだったんですけど、声援が多かったし、G1の優勝決定戦でも本当にファンの皆さんから力をもらえました。だから、僕は大村孝志の頑張りに触発されて、もう1回、テッペン獲ります!

――映画の中とはいうものの、オカダさんとの対決は意識するものがありましたか?

そこの部分は常に緊張感がありましたね。同じ現場にライバル関係のレスラーがいるので、スタッフさんが、気を遣ってくださって、通路とかで絶対にバッティングしないようにとか、ふたりが対面するのは本番のリングの上だけにしてくださったりして、試合の時のようなピリピリした空気がありました。そこには、スタッフさんのプロレスヘのリスペクトを感じられたので、選手としてはすごく嬉しかったです。作り手の皆さんからのプロレスへの愛がすごく感じられました。

――なかなか日本でプロレスが題材になった映画が作られることは少ないですが、実は映画とプロレスというのはすごく相性がいいように感じました。

この映画は、100年に一本の映画ですよね。まさに、ベストマッチです(笑)。プロレス映画というくくりだと、プロレスファンにしか観てもらえなくなるので、そういう切り口ももちろん大事なんですが、違う切り口で観てほしい気持ちもありますね。この映画では、父と子がわかりあえない苦しさが描かれていますが、こういうわかり合えないことって、夫婦間でもあるし、兄弟同士でも友達同士でも、仕事場でも恋愛関係でもあると思うんです。なので、おせっかいかもしれませんが、この映画はそういった関係性の悩みやストレスを抱えて生きている人達に、いっぱいエネルギーを持って帰ってもらえる映画だと思うんです。だから、『パパはわるものチャンピオン』が上映されている劇場はパワースポットなんです(笑)。きっと、お子さんから見ると親御さんが本当はどういう気持ちなのか、なんとなくしかわからないと思うんですが、この映画を家族で観ると、お子さんが親御さんを見る目が変わると思います。だから、日本全国のお父さまは、この映画を子どもに見せるだけで、無条件でリスペクトが勝ち取れます(笑)。

――映画初主演を経験されて、今後も役者にチャレンジしたいと思ってらっしゃいますか?

もちろん、チャンスがあったらやりたいんですけど、そうするには本業が充実していないと。一番忙しかった2016年頃に、一度、ファンの方に言われたことがあるんです。「棚橋さん、プロレスも頑張ってください」って。プロモーションに走り回って、イベントにも出まくっていた一方、怪我などもあって結果が出ていない頃でした。でも、応援しているファンの方達にとっては、そんなことは関係なくて、ただ試合で勝ってほしいんです。だから、僕は何に対しても手が抜けないところがあるんですが、僕の中では、プロレスラーであることが一番大きいので、本業をまず全力で頑張って、その上でプロモーション活動だったり、俳優業、モデル業、執筆業、DJをやるというイメージです。僕は、プロレスというものに可能性を感じるんです。だいぶ盛り上がってきましたが、まだプロレスを観たことのない人の方が多いですから。だったらもっと、色んな切り口で観てもらえると思うんです。だから、この映画は大チャンスなんです。プロレスを観たことのない人にこそ観てほしいですね。実際のリング上の棚橋を知らなくてもいいと思うんです。この映画が入り口になってほしいと思います。


取材・文/華崎陽子




(2018年9月21日更新)


Check

Movie Data

(C)2018「パパはわるものチャンピオン」製作委員会

『パパはわるものチャンピオン』

▼TOHOシネマズ梅田ほか全国公開中
出演:棚橋弘至、木村佳乃
 寺田心、仲里依紗
 大泉洋、大谷亮平
 寺脇康文
原作:「パパのしごとはわるものです」
   「パパはわるものチャンピオン」
   作:板橋雅弘 絵:吉田尚令
監督・脚本:藤村享平
主題歌:高橋優「ありがとう」

【公式サイト】
http://papawaru.jp/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/173932/


Profile

たなはし・ひろし●1976年11月13日、岐阜県生まれ。1999年10月10日、新日本プロレスでデビュー。「100年に一人の逸材」のキャッチコピーで知られ、新日本プロレスの最高峰IWGPヘビー級王座に7度輝く、新日本プロレスのエース。趣味が高じて「アメトーク」の仮面ライダー芸人に出演するなど、数々のバラエティ番組にも出演。今まで、映画『仮面ライダー平成ジェネレーションズ Dr.パックマン対エグゼイド&ゴーストwithレジェンドライダー』(16/坂本浩一監督)などに出演。本作が映画初主演となる。