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白石和彌監督との3度目のタッグ作『孤狼の血』で
唯一無二の存在感を放つ中村倫也インタビュー

『凶悪』や『彼女がその名を知らない鳥たち』など、問題作を次々と世に放つ白石和彌監督が、『警察小説×仁義なき戦い』と絶賛される柚月裕子の同名小説を映画化した『孤狼の血』が、5月12日(土)より梅田ブルク7ほかにて公開される。昭和63年、暴力団対策法成立直前の広島の架空都市・呉原を舞台に、警察とヤクザ、そして女たちが生き残るために命をかけて戦う姿を描いた挑戦的な作品だ。役所広司や松坂桃李、江口洋介、竹之内豊ら男くさい豪華キャストが、暴力とエロス、策略が渦巻く過激な人間模様を熱演している本作の公開にあたり、江口洋介演じる尾谷組の若頭・一之瀬に仕える尾谷組の構成員・永川を演じた中村倫也が映画への思いを語った。

――『日本で一番悪い奴ら』に引き続いての白石組になりました。まずは、白石監督とのタッグについて聞かせてください。

この錚々たる顔ぶれの先輩方もそうだと思うんですが、白石さんが遊び心のある方だからということもあって、みんなワクワクしているというか、にやにやしながら撮影していることが多いんです。僕も、白石さんには過去に2回お世話になっていて、3度目がこの『孤狼の血』という作品だったので、胸躍るものがありました。

――出演依頼があった時は即答されましたか?また、どのように感じましたか?

そうですね。こんな真人間が大丈夫かな? という思いはありましたが(笑)。僕が演じた永川は、白石さん曰く“狂犬”という人物なので、人を殴ったこともない僕が? と思いましたが、お仕事をご一緒したことのある白石さんが誘ってくださったということは、何か狙いがあるんだと思いましたし、もし役にはまってないと言われたら、全部白石さんのせいにしようと思っていました(笑)。

――脚本を読んだ時はどんな印象を受けましたか?

台本を読んだだけでも、非常に骨のある作品だと感じましたが、白石さんは現場でアイデアを出して、どんどん膨らませていくタイプの方なので、台本だけでなく現場で足されることもあるんだろうな、と思って撮影に挑んでいました。実際に現場で撮影していて、これは台本を超えたなと思う瞬間はありましたね。

――永川のキャラクターについて白石監督とはどのような話をされたんでしょうか?

不思議なんですが、僕も言葉で聞かないですし、白石さんも言葉で言わないんですよ。お互いが実際の撮影で何を出してくるのか楽しみにしているところがあるんです。唯一、衣装合わせの時に、“狂犬”というワードと「台本には書いてないけど、シャブ打ちたいんだよね」と言われたぐらいです。たぶん、白石さんが僕を呼んでくれた段階で、僕のことを信頼してくれているんだと思います。

――では、中村さんはどのように永川の人物像を作っていかれたんでしょうか?

永川は、自分とは真逆の人間ですが、演じる以上どこかにシンパシーを感じる部分を探さないと演じられないので、まずそれを探しました。永川は、彼の中での正義というか、アウトローなりの欲求を抱いて尾谷組に入ったんだと思うんです。それが色々な事情で押さえつけられていて、“こんなことをするために俺はヤクザになったんじゃない”と思っていたんじゃないかと。そういう鬱憤がたまることって、一般社会でも一般企業でも通じるところがあるんじゃないかと思うんです。僕自身役者をやっていますが、若い頃はひねくれながら生きていた時もあったので、永川との共通項は少ないですが、そういう我慢が爆発しそうな気持ちは、僕も同世代の皆さんにも共感する部分はあると思うので、それを手掛かりにして演じました。

――永川の狂気をはらんだ眼がすごく印象的でした。

“目は口ほどに物を言う”ということわざもありますし、僕は、ひとりの人間の心の底をのぞくには“目”もひとつの窓として重要だと思うんです。飲み屋で偶然会った人でも、その人のことを知りたいと思えば、目を見て話しますし。そういう意味では、永川は芝居しどころのある人物だったと思います。永川を演じる時にひとつ意識していたのは、睨まないようにすることです。どこかを見ているのではなく、どこか引いて見ているような印象を与えたかったんです。その方が怖いんじゃないかと思って。それに、これだけのキャストが揃っているといくら若者が凄んでみても迫力が足りないんですよ。敵うわけがないんですよ、先輩方の凄みに(笑)。だから、別のジャンルで勝負しなきゃいけないと思っていました。それに、永川は注射器を持ち歩いているような人物なので、佇まいから焦点の合っていないような、得体の知れない、常人ではない雰囲気はまとわなければいけないと考えていました。

korou2.jpg――後半にかけて、どんどん目のまわりも赤くなって常人ではない雰囲気が増しているように感じました。

そういう風に想像して観てくださったのは嬉しいです。最近は特にそういう反応が嬉しいですし、やっていても楽しいんです。お客さんが映画を観るためにお金を払ってくださることの対価って、想像して膨らませて観てもらうことなんじゃないかと僕は思うんです。だから、そこを刺激できるような、そして想像を働かせる余地をちゃんと作るために、ディテールにまでこだわって作るのが楽しくてやっているところはあります。もちろんメイクや時系列、キャラクターの膨らませ方などで練り上げていくんですが、そういう作っていく過程がすごく楽しいです。

――松坂さん演じる日岡と永川は水と油のような関係に見えました。

この映画は、若者があまり登場しない作品なので、その中で日岡と永川は同世代の男で、いわば光と影のような存在だと思っていました。歳を重ねた人の正義感とはまた違う、初々しい炎を胸に抱いているのは日岡と永川だと思うんです。日岡は、警察官で真ん中に近いところにいる人物なので、彼の正反対の人物として永川が存在できれば、作品も永川自身もさらに深まっていくんじゃないかと思って取り組んでいました。

――永川にとっても作品にとってもハイライトと言える電話ボックスのシーンは凄みのようなものを感じました。

どのシーンも、白石さんが出したアイデアに僕がニヤっとしたり、逆に僕が出したアイデアに白石さんがニヤっとしたりして撮影していたんですが、あのシーンは、僕が「座って煙草吸いたいんですよ」って言ったら、白石さんが「いいね」と言ってくださったので、よっしゃ! と思いましたね。

――役所さんや江口さんはじめ、豪華キャストが揃った現場の雰囲気はいかがでしたか?

役者としてはもちろん負けてられないという気持ちはありましたが、大先輩ばかりなので、胸を借りるという気持ちもありました。でも、どうしても見てしまいますよね、これだけ大先輩が揃っていると。テストの最中もどこかに演技を盗もうとしている自分がいて。江口さんと共演するのは3回目になるんですが、1日中現場で緊張の糸を切らさずにいる江口さんを初めて見て、こんなにすごい人でも準備段階からこれだけの姿勢で挑んでいく作品なんだと感じました。役所さんとは何シーンかご一緒しましたが、(桃李は役所さんの部下の役で、ほとんどが役所さんとの共演シーンなので)心の底から「桃李、そこ代われ」って思いましたね(笑)。僕が10代でデビューした頃や20代前半の頃は、先輩たちのすごさは漠然としていて測れない部分があったんです。でも、僕も今年32になるんですが、この仕事を14年ぐらいやってきて、経験を積んだこともあると思うんですが、先輩たちのすごさがより細かく感じられるようになってきたんです。そうなってくると、もっと吸収できることも増えてきたと思うので、桃李の立ち位置はうらやましかったですね。

――完成した映画を観てどのように感じられましたか?

『仁義なき戦い』に通じる東映の血を感じる作品が何十年ぶりに作られて、その血脈の中でも白石カラーがちゃんと感じられて、白石和彌監督作品になっているのが嬉しかったですね。

――この作品に出演するに当たって参考にされた映画はありますか?

ずっと広島の呉で撮影していたんですが、ホテルに帰ったらずっと『仁義なき戦い 広島死闘篇』(1973)と『県警対組織暴力』(1975)を観ていました。映画が、平成になる少し前の昭和63年、暴対法ができる少し前が舞台で、こういう男くさい映画の時代設定としては世紀末のような設定の上に、広島の呉が舞台ですし、僕はその頃まだ2歳で、組織同士の闘いはもちろん、時代を体感したこともないので、その頃の空気感を知りたかったですし、その空気に触れていたかったのと、その空気の中にいれば、アイデアが浮かんだり、膨らんだりするんじゃないかと思って、とにかくずっと観ていました。

――撮影場所だった呉の印象は?

時代は違っていても、設定どおりの場所で撮れるということはすごく有り難いことだと思いながら撮影していました。もちろん時代は違いますが、街の雰囲気やアーケードの錆ひとつでもその時代の匂いをもらうことができますから。空き時間はホテルで『仁義なき戦い 広島死闘篇』を観ているか、街を歩いているかでしたね。

――また白石監督に呼ばれたらもちろん出演されますか?

行きたいですね。白石さんは愉快な方なので。少女漫画原作の映画とか撮ってほしいですけどね(笑)。

――中村さんが今まで出てこられたどの映画を観ても、全く印象が違いました。その役に染まるために意識されていることはありますか?

どちらかと言うと、何にも染まらないでいようと思っています。僕は、台本に書かれていることを膨らませることや役をより魅力的にすること、監督のプランや意向を全うすることは最低限のことだと思っていて、プラスアルファをいつも探すようにしています。単純に顔がうすいので、印象が変わりやすいんじゃないですか(笑)。個性が強すぎると印象を変えづらいと思いますし。僕は、髪型を変えると顔の印象が変わるので、それもあると思います。最近、取材を受けた時に印象が違うと言われることが増えてきて、自分でもちろん違う印象になるように意識してはいますが、それよりも観る方が拡大解釈してくださっているように感じることが増えてきました。それは、僕が想像力を刺激するような仕事をしたいと考えているので、嬉しいことですね。こういう風にしたらこの作品やこの役がもっと素敵になって、観てくださる人がもっと楽しめるんじゃないかということを探しながらやっていくことが楽しいので、それはこれからも大事にしていきたいと思います。

取材・文/華崎陽子




(2018年5月 8日更新)


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Movie Data

(C)2018「孤狼の血」製作委員会

『孤狼の血』

▼5月12日(土)より、
梅田ブルク7ほか全国にて公開
出演:役所広司、松坂桃李
真木よう子、音尾琢真
駿河太郎、中村倫也
阿部純子、中村獅童
竹野内豊、滝藤賢一
矢島健一、田口トモロヲ
ピエール瀧、石橋蓮司
江口洋介
原作:柚月裕子
監督:白石和彌
脚本:池上純哉

【公式サイト】
http://www.korou.jp/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/172725/


Profile

なかむら・ともや●1986年、東京都生まれ。2005年、『七人の弔』でデビュー。以降、舞台やTVドラマ、映画などで活躍中。舞台『ヒストリーボーイズ』(04)で、第22回読売演劇大賞優秀男優賞を受賞。近年のTVドラマ作品に、「スーパーサラリーマン左江内氏」(17)、「ホリデイラブ」(17)など。映画では、『星ガ丘ワンダーランド』(15)、『日本で一番悪い奴ら』(16)、『愚行録』(17)、『3月のライオン』(17)、『伊藤くんAtoE』(18)など、出演作が続く実力派若手俳優。現在、NHK連続テレビ小説「半分、青い。」、NTV系列4月期日曜ドラマ「崖っぷちホテル!」、Huluオリジナル「ミス・シャーロック」に出演中。

Check!!

『孤狼の血』大阪での舞台挨拶が決定!

5月9日(水) 10:00より一般発売
▼5月13日(日)8:10の回上映後/
10:40の回上映前/11:00の回上映前
梅田ブルク7
登壇者(予定):役所広司/音尾琢真/
阿部純子/白石和彌監督
全席指定 2000円
プレミアシート 2500円
ペアシート 2000円 (1名分)
※登壇者は予告なく変更になる場合がございます。
梅田ブルク7■06(4795)7602

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