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《第9回 京都ヒストリカ国際映画祭》の見どころは?
~オープニングは4K復元版でよみがえる『近松物語』
多彩なゲストと共に歴史映画の魅力を再発見して!

世界で唯一“歴史”にフォーカスした映画祭《第9回 京都ヒストリカ国際映画祭》(以降、《ヒストリカ》)が、10月28日(土)~11月5日(日)まで京都文化博物館で開催される。上映後に行われる、監督やゲストを招いてのトークショーも映画制作の裏側が分かると好評の《ヒストリカ》。同映画祭実行委員会の高橋剣氏は、「『るろうに剣心』や『銀魂』の登場で、時代劇におけるゲームやアニメーションとの境目はなくなった。今年は文化や民族、国境を越える歴史映画をお見せしたい」と狙いを語って下さった。

オープニング作品は、ヴェネツィア国際映画祭で世界初上映された溝口健二監督の最高傑作、『近松物語』の4K復元版。主演女優である香川京子をゲストに迎え、溝口時代劇の魅力や巨匠たちとのエピソードなど、日本映画の歴史を紐解くトークが予定されている。多彩なプログラムの中でも要注目の作品を高橋氏のコメントも交えてご紹介する。
 
■京都映画120年記念上映『リュミエール!』で、カンヌのドンが語る!
フランス・リヨンで、リュミエール兄弟からシネマトグラフを預かり、留学生の稲畑勝太郎が京都に持ち帰ったところから、京都映画の歴史は始まった。120年記念イヤーに上映されるのは、カンヌ国際映画祭総代表ティエリー・フレモー氏が選んだリュミエールのサイレント作品108本を4K復元、さらに監督・編集・ナレーションも担当し、現在に蘇らせた『リュミエール!』。
「『ジョーズ』や『ローン・レンジャー』、『タイタニック』、『大列車強盗』ら、多くの映画の起源はここにある。作り手の生声を聞くロングトークがヒストリカの魅力なので、カンヌのドン、フレモー氏にもたっぷりしゃべっていただく予定」(高橋氏)
 
■クオリティーの高さで人気のヒストリカワールド、世界の映画祭話題作が続々! 
「歴史映画というキーワードはジャンルではない 」と高橋氏が指摘するように、毎年ヒストリカワールドではエンターテイメント大作から、ミニシアター系のヒューマンドラマ、そしてちょっと珍品系のものまで、歴史映画の魅力を存分に味わえる色とりどりのラインナップが大好評。今年は国際映画祭で話題の最新映画が続々登場し、まさに目が離せない。
 
『キンチェム 奇跡の競走馬』(2016 ハンガリー)
19世紀、54戦54勝の最強伝説を残したオーストリア帝国最大の名馬・キンチェムの実話を映画化。暴れ馬だったキンチェムが猫を親友にしていたというエピソードも微笑ましい。「東ヨーロッパが舞台の、純然たるエンターテイメント。主人公はジゴロな調教師。恋、冒険、挫折はもちろん、19世紀の競馬の世界を驚愕のスケールで再現しているのにも注目。ハンガリー映画史上最大規模で製作された大ヒット作」 (高橋氏)
 
『レフティ・ブラウンのバラード』(2017 アメリカ)
今、若手映画人の注目を集めているSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト…映画、音楽、インタラクティブ、教育の祭典)で今年話題を集めた西部劇。
「実はアメリカ産西部劇はヒストリカ初。王道ものだが、主人公が精神疾患を抱えているのが現代風で、エモーションを掻き立てるビジュアルも魅力的。アナログにこだわりフィルム撮影した作品を堪能して」(高橋氏) 
 
『マクベス夫人』(2017 イギリス)
原作はオペラとして有名なロシア小説。英国演劇界で活躍している監督のウィリアム・オルドロイドの初長編作で、トロント国際映画祭でも話題になった作品。ちなみにオルドロイド監督は「ヴァラエティー」誌による「観るべき10人の監督たち2017」に選出されている。
「欲望、差別、階級を描いたダークな余韻が残る作品。現代劇では表現しづらい格差が描かれ、今だから響く」(高橋氏) 
 
『健忘村』(2017 中国)
『熱帯魚』、『祝宴!シェフ』のチェン・ユージュン監督最新作。中華民国が設立されたばかりの僻地の山村を舞台に、ミステリアスな道士が記憶を消して日々の心配事から解放する物語は、ダークユーモアが満載。
「ディストピアコメディー。時代に舞台をとらないと、(中国本土において)現代劇では絶対に描けない作品」(高橋氏) 
 
『エネミーズ』(2017 ブルガリア)
1913年、オスマン帝国海軍最大の戦艦から攻撃を受け、絶望したブルガリア人兵士たちは、大将に秘密で人力魚雷運搬作戦を思いつく。モノクロ映像が効いた意外性のある戦争映画。「戦争映画の興奮をかき立てる冒頭だが、オスマン帝国の脱走兵と一緒になる展開もあり、最後には戦争するのがイヤになるロードムービー。たそがれ男たちの物語は、映画的な匂いがプンプン」(高橋氏) 
 
■日本映画は小津、溝口、黒澤だけにあらず!今年のヒストリカフ・フォーカスは加藤泰の時代劇を英語字幕付きで大特集。
今年のヒストリカフォーカスは、<ディスカバー・加藤泰>と題し、ローカル色豊かで普遍性を持った作品を作り続けてきた加藤泰監督作品を7本上映する。「海外の映画人は、日本の時代劇といえば小津、溝口、黒澤の名前を挙げるが、もっと他に紹介したい日本の時代劇はたくさんある。加藤作品がグローバルにどう突き刺さるかが楽しみ。ハンズオン時代劇映画に参加するフィルムメーカーズラボの国際色豊かなメンバーによるトークバトルをはじめ、篠崎誠監督、ジャパンタイムズの映画批評家 マーク・シリング氏らゲストによるトークも見どころ」(高橋氏)
 
他にも撮影所以外で撮っている作品や、様々な文脈の時代劇を紹介する「ヒストリカ・ネクスト」(『仁光の受難』『密使と番人』)、京都フィルムメーカーズラボ過去参加者の作品を上映するカムバックサーモンプロジェクト(『17歳の恋愛注意報!』)、ゲストトークも充実の特別招待作品(『シルク』『上海キング』)など、アジアの歴史映画も充実したラインナップとなっている。 国境や文化を越える歴史映画に触れるだけでなく、名作日本映画をグローバルな目で再発見し、世界の映画界をリードするキーパーソンの生トークで120年の映画の歴史を振り返る。ヒストリカだからできる映画体験、映画人との交流をぜひ楽しんでほしい。
 
取材・文/江口由美



(2017年9月27日更新)


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Event Data

《第9回 京都ヒストリカ国際映画祭》

▼10月28日(土)~11月5日(日)

京都文化博物館

【公式サイト】
http://historica-kyoto.com/