市川染五郎が登壇した
シネマ歌舞伎『歌舞伎NEXT 阿弖流為〈アテルイ〉』
大阪舞台挨拶レポート
大阪松竹座で上演中の「七月大歌舞伎」に出演している歌舞伎俳優の市川染五郎が14日(金)、シネマ歌舞伎『歌舞伎NEXT 阿弖流為〈アテルイ〉』を上映していたなんばパークスシネマにて舞台挨拶を行った。
シネマ歌舞伎とは、歌舞伎の舞台を撮影し映画館でデジタル上映することを指し、本作は、2015年7月に上演された歌舞伎NEXT『阿弖流為』を、シネマ歌舞伎の第24弾作品として劇場公開したもの。
蝦夷〈えみし〉の指導者・阿弖流為の存在を知り、歌舞伎として上演する構想を抱いていた染五郎が、劇団☆新感線とタッグを組み、いのうえひでのり演出、中島かずき作により、アクションを交えて歌舞伎化を実現した作品だ。
――この作品は、2015年7月に東京・新橋演舞場で上演された舞台を撮影したものですが、シネマ歌舞伎となって映画館で上映されるにあたって染五郎さんから何か注文はあったのですか?
染五郎:「実際にやった舞台よりも面白くなるのであれば上映していただきたい」それがわたしの条件でした。その言葉がきっかけというわけではございませんが、演舞場にカメラを19台入れまして花道の七三の辺り(一度立ち止まり、何らかのしぐさや見得をする場所)などにカメラを置いて撮影しました。映像的な加工もふんだんに使って、シネマ歌舞伎として『阿弖流為』が新しく誕生したという形になります。
――そうやってシネマ歌舞伎として出来上がった作品を観て、舞台と映像にどういう違いを感じられましたか?
染五郎:舞台ですとお客様はそれぞれの視点で自由にご覧いただけますが、映像の場合は「ここを見てください」というナビのように進みます。ドラマ性のある作品ですので、映像のほうがより物語が分かりやすいんじゃないかと思いますね。それが舞台と映像の一番の違いではないでしょうか。
――両花道(本花道と仮花道と呼ばれる2本の花道のこと)を使った演出が印象的でしたが、思い入れの強い場面、印象深かったエピソードはありますか?
染五郎:(市村)萬次郎さんにつきるんではないでしょうか。
(会場:笑)
――帝に仕える巫女として登場する御霊御前(みたまごぜん)ですね。
染五郎:「初めてつけ爪した」とか、「つけまつげをつけた」とか、誰の要望もないんですが日によってネイルの色を変えたりして、お洒落を楽しんでいらっしゃいました。それと出演者は全員マイクを付けてお芝居していたんですが萬次郎さんだけ付けていないんです。シネマ歌舞伎の撮影をする日だけは音声を拾うためにマイクを付けなくてはいけないので付けてらっしゃいましたが、その日だけ特別で、ほかの日はお一人だけ地声でお芝居していらっしゃいました。ねぇ、本当に変な人…いや、変な人じゃなくて(笑)すごい人だなと思いましたね。
(会場:笑)
――『阿弖流為』はもともと劇団☆新感線の舞台でしたが歌舞伎化されるほど惹かれた部分はどういうところだったんですか?
染五郎:阿弖流為という人は蝦夷〈えみし〉の英雄のような人ですが、蝦夷は朝廷に刃向かったチームですからね、歴史上は悪者として書かれていて、歌舞伎やお能では鬼退治の鬼として取り上げられていることもあります。でもそんな阿弖流為という人を一人の人間として描くところにとても興味が沸きました。
――映像になっているのは新橋演舞場での公演ですが、関西では大阪松竹座で上演され大盛況でしたね。
染五郎:本当にたくさんのお客様がお越しくださいました。演舞場と松竹座では松竹座の方がサイズはコンパクトですが、大きな会場でやった芝居をコンパクトな会場でするというのは理想的です。大阪でご覧になられた方には、迫力が練り上げられた作品をお届けできたんではないかなと思います。
――確かにアクションも大迫力でした。
染五郎:毎日舞台を務めていると「もう今日はここでやられてしまってもいいかな」と思うこともありました(笑)。立ち廻りは好きなんですよ。でも台本には“一網打尽になぎ倒す阿弖流為”と1行2行で書いてあって。歌舞伎の場合はくるっと一回りするだけで敵がバタバタと倒れたりするんですが、一人一人倒して行かないといけないんでね。なかなか大変なんですよ(笑)。これも歌舞伎と歌舞伎NEXTの違いですね。
――歌舞伎NEXTというネーミングについては?
染五郎:新作歌舞伎を上演すると「これは歌舞伎じゃない」「これは歌舞伎だ」という声を聞くんです。面白い歌舞伎を作ろうとして出来た新しいものであって、正直そんなことどっちでもいいじゃないかって思うんですが、そこをあえてこちらから区別して何か新しい枠を作ろうと思ったんです。コクーン歌舞伎、六本木歌舞伎などいろいろありますが歌舞伎○○っていうのは無いなということで歌舞伎NEXTが生まれました。
――ここで染五郎さんから発表があると聞いています。来年1月にっ!
染五郎:結婚します!っとかそういうこと?結婚は既にしていますね(笑)。来年1月に十代目松本幸四郎を襲名させていただく運びとなりました。父(松本幸四郎)が二代目松本白鸚、息子(松本金太郎)が八代目市川染五郎として3代同時襲名となります。そして『歌舞伎NEXT 阿弖流為〈アテルイ〉』のDVDも同じく来年1月に発売となります。
(会場:拍手)
――今、松竹座で「七月大歌舞伎」を上演中ですが、そちらのことも少し教えていただけますか?
染五郎:はい。昼の部『夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)』で団七九郎兵衛、夜の部『盟三五大切(かみかけてさんごたいせつ)』で笹野屋三五郎と二役させていただいております。『夏祭』は中村屋のおじ様(十七世勘三郎)を思い出さざるを得ないと言いますか、わたしはおじ様のときに市松の役をやらせていただいていて、中村屋のお兄さん(十八世勘三郎)のコクーン歌舞伎のときには磯之丞をやらせていただいて、思い出がたくさんあるんです。私自身、中村屋のおじさんとお兄さんを思い出しながら務めていますし、お客様にも「中村屋の『夏祭』良かったよね」と思い出していただけるような団七にしたいと思って今月は務めています。夜の部では松嶋屋のおじ様(片岡仁左衛門)がやっぱりカッコいいですね。みなさま客席からご覧になっていますが、僕の距離では見られませんもんねぇ。毎日そのカッコよさを感じております。
――最後に一言よろしくお願いいたします。
染五郎:今年は染五郎として最後の公演となりますが、来年も変わらず歌舞伎が好きだということをみなさまにお伝えしたいですし、歌舞伎の面白さや新しい歌舞伎の魅力をお伝えさせていただくことも引き続きやっていきたいと思っております。是非とも今後もよろしくお願いいたします。
(2017年7月18日更新)
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