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「この映画を経験したことで、野村くんは、
 知的でクールな役のオファーが増えると思います(笑)」
野村周平が知的で寡黙なキャラクターを演じる青春ミステリー
『サクラダリセット』深川栄洋監督インタビュー

『神様のカルテ』シリーズの深川栄洋監督が、ライトノベル界屈指の壮大な青春ミステリー小説として人気を誇る河野裕による同名作を2部作で映画化した『サクラダリセット 前篇』が3月25日(土)より(『…後篇』が5月13日(土)より)TOHOシネマズ梅田ほかにて公開される。住人の半数が特殊な能力を持つ街“咲良田”(サクラダ)を舞台に、特殊能力を持つ高校生たちが、能力を駆使して亡くなった友人を呼び戻そうと奮闘する姿を、野村周平をはじめ、黒島結菜や平祐奈、健太郎や玉城ティナ、恒松祐里ら旬の若手俳優らで描いた青春ミステリー映画だ。世界を最大3日分巻き戻すことができる能力「リセット」が使われるため、時制が交錯するミステリーの要素と、能力を持つ高校生たちそれぞれが抱える互いへの思いが胸を打つ瑞々しい青春映画の要素を見事に融和させた本作の公開にあたり、深川栄洋監督が来阪した。

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――深川監督にとっては、『半分の月がのぼる空』以来となる久しぶりの青春映画になりました。
実は、(すごくストレートな純愛映画だった)『半分の月がのぼる空』を撮ってから、恋愛青春映画の企画をたくさんいただいていたんですが、僕はもうその頃のドキドキ感を忘れてしまっていますし(笑)、青春映画にプラスアルファの要素がないと心が動かなくて、お断りしていたんです。でも、『サクラダリセット』だったら、僕が動いてくれるんじゃないかとプロデューサーの春名さんは思ってくださったそうです。実際に原作を読んでみて、これは、恋愛映画というよりも、そういう雰囲気や(野村周平演じる浅井ケイを中心にした恋愛や友情の)人物配置を利用したミステリーだと感じたので、僕もやってみたいと思いました。
 
――原作の中のミステリーの要素に最も惹かれたんでしょうか?
ミステリーの要素もありますが、原作の中で、(映画では前篇のラストに持ってきている)ある裏切りが描かれていて、それを映画で表現できることに一番ワクワクしました。けっこうハイリスクな展開なので、プロデューサーに、映画を公開した後でやめればよかったと思うんじゃないですかって聞いたんですが、それでいいと言うので、楽しみながら作っていきました。
 
――世界を最大3日分巻き戻すことができる「リセット」という能力が使われることによって、時制も入り組んでいますし、登場人物それぞれが異なる特殊能力を持っていることも加味されて、物語も複雑ですが、脚本は最初から自分で書こうと考えていたんでしょうか?
最初は時間がないこともあって、脚本家をたてようと考えていたんですが、プロデューサーと話をしていく中で、設定が複雑なので、2人で話したことをもう1度脚本家の方に伝えることができないから(笑)、僕が書くことになりました。
 
――キャストたちは最初から脚本を理解できたんですか?
最初はみんなわからなかったみたいです。何をすればいいのかわからないし、何が書かれているのかもわからなかったみたいで(笑)。実は、編集の段階でだいぶ変えたんですが、脚本は時間軸をきちんと作ってもう少しわかりやすくしたつもりだったんです。それでも、俳優さんたちはもちろん、スタッフも「わからない」って言っていました(笑)。唯一、脚本を理解しようとしたのは黒島さんだけでした。黒島さんは、「わからないんです」と言ってくるたびに3時間ぐらい説明していました。役者さんたちはそれぞれ、何を大事にして演技をするのか違いますから。野村くんは、早い段階から「わからない」って言ってましたし。彼には、「わからなかったら僕が考えるから大丈夫。野村くんは、お客さんにつかませないような芝居をしてほしい」と伝えました。だから、野村くんは分かろうとすることは置いておいて自由にやってましたね(笑)。
 
――野村さんは、今までの映画の元気なキャラクターと違って知的で寡黙な役柄でした。
この映画を経験したことで、野村くんは、知的でクールな役のオファーが増えると思います(笑)。僕は最初、野村くんがあんなに明るいキャラクターだとは知らなくて、もうちょっと理性を働かせられる人だと思ってたんです(笑)。小学校3年生ぐらいの開放度ですからね、彼は(笑)。現場では、学校の先生になった気分でした。ほんと、天真爛漫なので、とにかく絶対に怒らないことは自分の中で決めていました。でも、スタッフに「監督にそんなことしたらダメだろ!」って怒られてましたけどね(笑)。僕が台本を読んでいる時に、野村くんは僕の膝の上に乗ってきたり、背中から抱きついてきておんぶみたいな状態になったりするんです。膝の上に乗ってきた時は、僕の方を向いて座ってましたから。その状態で「何やってんの?」って聞いてくるんです。僕は今まで、若い俳優さんと仕事をしたことがあまりなかったので、最初はみんなこうなのかな?と思ってたんですが、現場は年配のスタッフさんも多いので、「そんな主演俳優はいない」って野村くんが怒られて、しゅんとしている姿が可愛かったです(笑)。
 
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――若い俳優さんたちにはどのように演出されたのでしょうか?
今回の台本は、一度読めば頭で理解できるタイプの台本ではないので、俳優さんたちも動いてみないと登場人物の感情が理解できないことが多くて、演じてみて初めて理解できたシーンも多かったです。特に、平さんと黒島さんふたりきりのシーンは、それぞれに登場人物たちの心情を説明しながら、僕自身も久しぶりに誰かを思っている時の感情を思い出して、彼女たちに伝えているうちにふたりの演技も変わってきたんです。プロの役者さんたちは自分で感情を作ってきて演技をすると思うんですが、みんなまだ成長過程の人たちなので、何かヒントや方向性を与えてあげれば、すごい瞬発力を発揮してくれるんですよね。みんな、自分の中で着地点を見つけきれていなくて、天然の原石のような状態だったので、それを磨いていく感覚は久しぶりでした。
 
――元々2部作にすることは決まっていたんでしょうか?
最初は、プロデューサーから原作が長いので3部作という話もあったんです。でも、僕はお客さんを投げっぱなしにするという挑戦をやってみたかったので、前篇のラストがゴールだと思っていたら、スタートだったという展開にして、2部作にする方が面白いと思ったので、2部作になりました。2部作になることが決まって、前篇と後篇を全く違うドラマにしようと思いました。前篇は、(野村くん演じる)浅井ケイに気持ちを合わせて、まるでトロッコに乗ってそのままゴールまで連れて行ってもらうような感覚で、物語が展開していくようなイメージで作っていました。後篇は前篇とは打って変わって、少年少女たちが、未来は自分たちが担うんだという思いを持って大人たちと闘う姿を描いた物語で、『ぼくらの七日間戦争』のように、自分たちの未来は、大人たちに干渉されるのではなく、自分たちで担うんだという気持ちに目覚めるような物語にしたかったんです。前篇を観て、前篇のようなものを期待して後篇を観た人は後篇でちょっと裏切られて、前篇を観て裏切られた人は、後篇でもまた裏切られるような作品を目指しました(笑)。前篇は特に、僕にとっては実験的な映画にしたつもりなんです。後篇は、前篇で残していた謎の答えも描かれていますし、若い俳優たちの芝居合戦も楽しんでもらえると思います。
 
――完成した映画を観たキャスト達の反応はいかがでしたか?
黒島さんは、前篇は理解できたけど、後篇はわからなかったそうです。本当に反応は様々でしたね。黒島さんのように、前篇は理解できたけど、後篇が全く理解できないという意見と、前篇が全く理解できなかったけど、後篇はわかったという意見と。観る人によって全く違うみたいですね。でも、前篇で突き放されてしまった人も、もう1度前篇を観ると、登場人物がしようと思っていることがわかった状態で観ることができるので、また違って見えると思います。先日、東京で完成披露試写会があって、僕もお客さん達と一緒に映画を観て、観終わった後の感想に耳をすましていたんですが、そこでも「すごく面白かった」という意見と「全くわからなかった」という意見が飛び交っていて。それが映画の楽しみ方の醍醐味ですし、今はこの映画がお客さんにどう受け止められるのか不安ですが、これが当初の狙いだったことを思い出しました(笑)。
 
――確かに、それぞれが保持する特殊能力や、時制の行き来などで物語が複雑に思える部分はありますが、全ての人が幸せになる方法を模索し、大人たちと闘う主人公ら高校生たちの姿はとても爽やかでした。
ここ最近、政治家も年配の方ばかりで、そこにすごく違和感を覚えていたんです。18歳以上に選挙権は与えられましたが、子どもたちがどんどん政治に関心を持たなくなっていますよね。学生運動が盛んだったのは、もう40年以上も前ですが、もう1回、子どもたちが主役になってほしいという思いをこの映画に込めたつもりです。
 
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取材・文/華崎陽子



(2017年3月22日更新)


Check

Movie Data

©2017 映画 「サクラダリセット」製作委員会

『サクラダリセット』

【前篇】3月25日(土)
【後篇】5月13日(土)
2部作にて全国ロードショー

【前篇キャスト】
野村周平 黒島結菜
平 祐奈 健太郎
玉城ティナ 恒松祐里
岡本 玲 / 岩井拳士朗
矢野優花 奥仲麻琴
吉沢 悠 丸山智己 
中島亜梨沙 大石吾朗
加賀まりこ

【後篇キャスト】
野村周平 黒島結菜
平 祐奈 健太郎 
玉城ティナ 恒松祐里
岡本 玲 / 岩井拳士朗 
矢野優花 奥仲麻琴 八木亜希子
吉沢 悠 丸山智己 中島亜梨沙
及川光博

監督・脚本:深川栄洋 
原作:河野 裕

【公式サイト】
http://www.sagrada-movie.jp/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/171418/

http://cinema.pia.co.jp/title/165147/


Profile

深川栄洋 監督

ふかがわ・よしひろ●1976年、千葉県生まれ。『ジャイアントナキムシ』(1999)と『自転車とハイヒール』(2000)が《ぴあフィルムフェスティバル》のPFFアワードに2年連続で入選。『狼少女』(2005)で劇場長編映画監督デビューを果たす。その後、西島秀俊主演の『真木栗ノ穴』(2008)や『60歳のラブレター』(2009)がスマッシュヒットを記録し、注目を集める。その後も、『半分の月がのぼる空』(2010)や、『白夜行』(2011)、『洋菓子店コアンドル』(2011)、そして『神様のカルテ』(2011)、『ガール』(2012)、『くじけないで』(2013)、『神様のカルテ2』(2014)、『トワイライト ささらさや』(2014)、『先生と迷い猫』(2015)など、監督作多数。今年は本作『サクラダリセット』シリーズに加え、向井理企画・尾野真千子主演作『いつまた、君と ~何日君再来~』(6月24日公開)も控える。


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