インタビュー&レポート

ホーム > インタビュー&レポート > 「僕らは変わらない『深夜食堂』を作り続けなくちゃいけない  長くやればやるほど、そのハードルは上がります」 満足度第1位獲得!『続・深夜食堂』松岡錠司監督インタビュー

「僕らは変わらない『深夜食堂』を作り続けなくちゃいけない
 長くやればやるほど、そのハードルは上がります」
満足度第1位獲得!『続・深夜食堂』松岡錠司監督インタビュー

ドラマでも人気を獲得している『深夜食堂』の劇場版第2作が梅田ブルク7ほかにて公開されている。ドラマシリーズは中国・台湾・韓国でも放送され、日本と同じく大好評を得て、映画『深夜食堂』もアジア各国でブームとなっている。大都会の片隅にある深夜営業の小さな食堂でくり広げられる名もなき人々の物語。そこにある何がこれほど人々の心を惹きつけるのか。松岡錠司監督に話を訊いた。

――09年にテレビドラマシリーズとして製作が始まり、ドラマは現在、新シリーズがネット配信中。劇場用映画は昨年第1作が公開され、今回の『続・深夜食堂』が2作目。監督はドラマの第1作から手掛けられて、7年間ずっと関わってこられたわけですが、それについてどのような感慨をお持ちなのか、そこから伺わせてください。

地道にコツコツ、愚直にやればいいこともあるんだなと(笑)。よかったのは、自分が年齢相応にキャリアを積んできて、その身に付けてきたものを投入できる、その年齢に合った題材とめぐり遇えたということです。それも自分で掴みとったのではなくて、むこうからやってきてくれた。これは僥倖(ぎょうこう)だったなと、7年やってきて思いますね。

 

――もともとは主演の小林薫さんが、原作となった安倍夜郎さんの同名コミックを持って監督の許を訪れ、「こういうの興味ない?」と訊かれたのが始まりとのことですが。

直接ではないのですが打診があって、それが09年でした。小林さんとは以前からおつきあいがありましたが、そこからまた長いつきあいになりました。あのときはまだ、小林さんも僕もここまで広がる仕事になるとは予想だにしてなかったです。本編(劇場用映画)になり、さらにこうして続編までつくって。また、韓国・台湾・中国でもドラマが放送されて好評で、なんて韓国では、年間最高人気外国ドラマ賞(ソウルドラマアワード2015)なんて章までとった。僕はただ、大都会の片隅のふきだまりと言っていいような路地にある小さなお店で語られる人情喜劇をずっと撮り続けてきただけなんですけどね。飽きもせず、よく撮り続けたなとは思いますけど(笑)。

 

meshiya_b.jpg

――『深夜食堂』がアジア各国でとても人気があるのはどうしてだと思われますか?

日本でもよく言われてきたことですが、「出てくる料理がおいしそう」とか「作品の雰囲気に心がほっこりする」とかはあると思います。でも、これはいわば表層的なもので、その根底にあって唯一、世界共通に訴えるものは「人情」じゃないですかね。人と人が憎しみ合うドラマは世の中にあふれているけれど、一方、人と人が思慮深く接するドラマを意外に多くの人が求めていたのではないかと思うんです。なかなか明るい展望が抱けない現在の情勢のなかで、実は「人情」が世の中を持続させる要、目には見えないけれども社会をつくり上げている重要な要素なのではないでしょうか。

 

――『深夜食堂』で描かれている人情が日本人の琴線にふれるのは解るんです。DNAに組み込まれているようなものですから。でも、それが世界共通だったことがすごいですよね。

よく聞きますよ。アジア各国の人が、日本に行くのなら、あの「めしや」のある街に行きたい、あの店に行きたいと真顔で言う人が多いと。それを聞くと「ごめんね、フィクションなんですよ」っていう気持ちになりますけど(笑)。でも、それはやっぱり嬉しいですよね。僕はこの作品を「群像人情喜劇」と銘打ってやってるんです。地べたで足を踏ん張って生きている市井の人々の応援歌として撮るという気持ちはずっと変わらずにやってきた。それが日本だけでなく海外の人にも通じているということですから。

 

――ただ、ここまで続けてくると苦労するところもありますよね?

そうですね。ここまでずっと観てきてくださった人には、もうそれぞれに自分の『深夜食堂』のイメージがあると思うんです。僕らはそれを壊してはいけない。つまり、変わらない『深夜食堂』を作り続けなくちゃいけない。でも、かといって同じような内容のものばかりやっていたのでは飽きられてしまう。だからルーティン・ワークとして守り続けていかなくてはならない一方、常に新しいものを考えていかなくてはならない。長くやればやるほど、そのハードルは上がりますよね。

 

――では、今回の『続・深夜食堂』の軸となっているのはどういうものでしょうか?

僕は〝おすそ分け〟と言っています。世話になった人が、世話をしてくれた人に恩を返したい。でも、もしその人がすでに亡くなっていたらどうするか。世話になった人が今度は誰か他者のお世話をする、力を貸してあげる。それが人情のバトンリレーなんです。そう考えていったとき、自分のなかでなんだかしっくりきて、これで『続・深夜食堂』を撮れるかなと思いました。

 

――人情が世の中を持続させる、継続させる、社会をつくるというのはそういうことなんですね。

また、今回は通夜帰りの人たちが「めしや」に集まってくるところから始まり、月命日のお墓参りや法事を済ませて店に寄る客も登場する。この通夜やお墓参りという行事は、残された者が亡くなった人に対して思いを込めて行うことですよね。これも今回のテーマにつながっていくわけです。

 

――マスターが、誰かは明かされないけれども、あることを言ってもらった人物のお墓参りをするシーンもあります。

あれがいわば今回のテーマの着地点ですね。マスターも誰かの世話になり、マスターはそれに報いる気持ちをいつもお客さんたちにおすそ分けしている。今回は特にそのなかに渡辺美佐子さん演じる、ある意味で大きな罪を背負った老婦人がいた。

 

――渡辺さん、良かったですね。彼女の義弟役が黒澤映画や山田洋次監督作品に多数出ている井川比佐志さん。今作も前作と同じく3つのエピソードで構成されていて、他のエピソードには河井青葉さんに佐藤浩市さん、もう一つには池松壮亮さんにキムラ緑子さん、小島聖さんらが出演している。なかでも佐藤浩市さんの出演は、その役柄も含めて驚きました。役柄はここでは伏せておきますが(笑)。

あれは意外性のあるキャスティングだと思われるかもしれません。でも、本人はあの役、とても楽しそうでしたよ。近頃、役柄のイメージが固まってきたところもあったので、ああいう役が面白かったのでしょうね。

 

――それにしても、不破万作さんや宇野祥平さんといったレギュラー組に、前作からの余貴美子さん、多部未華子さんも加わり、実に多彩な出演陣です。

今回は日本映画の次世代を担う20代の俳優(池松壮亮、多部未華子、谷村美月)から、80代の俳優座(渡辺美佐子は俳優座養成所出身、井川比佐志は俳優座養成所から俳優座所属、本作公開中に80歳になる)まで出てもらいましたからね。その間は全部アングラ俳優で(笑)。もうフルコースですよ。でも、それを適材適所でやれたのは、最初に言った、自分も年齢を重ねキャリアを積んできたからで、おそらく10年前だったらできてないと思います。やはり、いいタイミングでいい仕事にめぐりあいました。

 

――また、出演俳優たちがみんな楽しそうと言うか、この作品に出ることができてうれしいのが伝わってくるような気がします。

レギュラー組なんか、もう緊張感ないですからね(笑)。みんなほんとうに「めしや」の常連みたいになっていて、普通にお店に飲みに行ってるお客さんみたいですよ。勝手に雑談とかしてますからね(笑)。

 

――主演の小林さんも言ってるように、あの店やあの路地のセットに入ると「戻ってきた」という気持ちになるんでしょうね。あのセットは『深夜食堂』の大きな魅力の一つですね。

最初に、あまり予算もなかったときでしたが、美術の原田満生が「在りもの(現実に存在する建築物や風景・場所)のロケではだめですよ。セット組まないと」と主張したんです。理由は「あの店は前の道から入ってちゃんとその店になっていなきゃいけない。前の道と地続きじゃないと」って。ドラマや映画のロケでは店の外側と内側が実は違う場所で撮られていたりしますが、それではだめだと。ただ、セットにはお金がかかる。でも、やってよかったですね。もし最初に在りものでやっていたら、ここまで続くシリーズにはならなかったでしょうね。

 

――セットを組むということはある意味、その作品の世界観をつくるということですものね。ただ、あのセットも少しずつ変わっていってますよね。

ええ、ドラマのシーズン1と2では少し違っていて、2と3でも変わっています。ちょっとだけですけどね。俳優さんは入るとわかるんですが、カウンターに座った人の後ろがなんとなく通りやすくなってたりします(笑)。

 

――それって現実でもありますよね。前に行ってたお店に少し間が空いていくと、少しだけ動きやすくなってたりすることって(笑)。

meshiya_c.jpg

映画で言うと前作と今度の作品では、「めしや」の前の道がまっすぐになっているんですよ。『深夜食堂』マニアの人にはぜひ気づいてほしいですね(笑)。変えると言えば、今回、原田はあの路地の近くに川をつくりたいって言ってたんですよ。「川かぁ…」って僕らは困惑したんですけど(笑)。でも、川があれば橋もあるか、橋はまたドラマチックだなあとは思ったんですけどね。「めしや」の前の道を抜けて、左右どちらか曲がったところに橋、これはもう加藤泰の世界だなあ、なんて。

 

――雪の今戸橋、それもいいですね(加藤泰監督作品『緋牡丹博徒 お竜参上』、藤純子が菅原文太にみかんを手渡す今戸橋のシーンは映画史に残る名シーンとして有名)。ただ、映画を観ていて、大切だなと思うのは「めしや」の狭さなんです。カウンターに座ると肩突つき合うような空間。

「めしや」のカウンターってなんだかカトリック教会にある告解室みたいなんですよね。あのカウンターに座って、自分の犯した罪や、罪じゃなくてもずっと心にわだかまっていたものを話す。すると、静かに聞いていてくれた小林薫さん演じるマスターが、さりげなく道を踏み外さないように導いてくれる。そんな感じ。

 

――あの狭い空間で、目の前にはおいしくて懐かしい食べ物があって。頑な心も溶けて話してしまう。また普段はなかなか素直になれない気持ちも、あそこでは素直にマスターの話が聞けるのでしょうね。

先ほどあの路地を大都会のふきだまりって言いましたが、「めしや」は多くの人にとって大切な〝たまり場〟なんです。不破さんや宇野君が演じている常連たちにとって、あの店はもう人生の一部ですよ。人間には、ああいう〝たまり場〟が必要なんです。

 

 

取材・文/春岡勇二




(2016年11月 7日更新)


Check

Movie Data

©2016 安倍夜郎・小学館/「続・深夜食堂」製作委員会

『続・深夜食堂』

▼11月5日(土)より、梅田ブルク7ほかにて公開

出演:小林薫
   河井青葉
   池松壮亮 小島聖/キムラ緑子
   渡辺美佐子 井川比佐志
   不破万作 綾田俊樹
   山中崇 安藤玉恵
   宇野祥平 金子清文 中山祐一朗
   須藤理彩 小林麻子
   吉本菜穂子 平田 薫
   谷村美月 篠原ゆき子 片岡礼子
   松重豊/光石研
   多部未華子/余 貴美子
   佐藤浩市 
   オダギリジョー
原作:安倍夜郎「深夜食堂」
   (小学館ビッグコミックオリジナル連載中)
監督:松岡錠司 
脚本:真辺克彦 小嶋健作 松岡錠司

【公式サイト】
http://www.meshiya-movie.com/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/170544/

人気シリーズ最新作『続・深夜食堂』が満足度第1位!
http://cinema.pia.co.jp/news/170544/68849/