ハリウッドの大御所俳優、トミー・リー・ジョーンズ
日本初公開監督・主演作の上映も
《第8回 京都ヒストリカ国際映画祭》の見どころを徹底解説
世界で唯一“歴史”にフォーカスした映画を上映し、年々ファンを増やしている《京都ヒストリカ国際映画祭》(以下、ヒストリカ)。ゲストとして監督や俳優だけでなく、映画制作のスタッフを招き、映画作りの裏側に迫る上映後トークが、毎年好評だ。第8回を迎える今年は11月2日(水)~13日(日)まで京都文化博物館で開催。<忍者エボリューション>と題し、忍者の歴史を遡る【ヒストリカ・フォーカス】作品を含め、全22作品が上映される。そこで、《京都ヒストリカ国際映画祭》の仕掛け人で、実行委員会の高橋剣さんに、たっぷり伺った今年の見どころをご紹介します。
【ヒストリカ・スペシャル】
今年一番の注目作は、『メン・イン・ブラック』、『リンカーン』をはじめ、日本ではCMでもおなじみのハリウッドスター、トミー・リー・ジョーンズ監督・主演作
『ホームズマン』(14)。19世紀アメリカ中西部の開拓地を舞台に、ヒラリー・スワンク演じるヒロインらとトミー・リー・ジョーンズ演じる縛り首寸前だった流れ者の男が、厳しい自然を乗り越えながらアイオワまで旅をする異色ロードムービー。緊迫感溢れる映像と、現代に通じる問題を歴史から見据えた意欲作だ。第67回カンヌ国際映画祭コンペティション正式出品作品。
そしてオープニングには、昨年インド史上最高のヒット作となった大河アクション超大作
『BAAHUBALI(バーフバリ):THE BEGINNING』(原題)を日本初上映。ハエを主人公にしたコメディ『マッキー』のS・S・ラージャマウリ監督最新作であり、南インドのテルグ語発なのにも注目したい。最近ナチュラルテイストなインド映画が日本で公開される中、久々にこれでもか!とモリモリのボリウッドらしさや史上最高のVFXを堪能できる。既に続編のパート2も製作中で、いち早く観ることができるこの機会をお見逃しなく!
【ヒストリカ・フォーカス】
~『豪傑児雷也』から『NARUTO』まで、進化を紐解く<忍者エボリューション>~
「アクション」や「テレビ時代劇」など、毎年幅広い時代の作品から一つのテーマで選りすぐりの作品を上映し、ゲストトークでその奥義に迫る【ヒストリカ・フォーカス】。他の映画祭では味わえないヒストリカの名物部門で今年フォーカスするのは、今や世界的な人気を呼んでいる「忍者」!<忍者エボリューション>と題し、日本最初の忍者映画から、おなじみの最新忍者映画まで全9本を上映する。上映後のトークショーでは、ラスト忍者と呼ばれる忍者界のレジェンド、川上仁一(甲賀流伴党21代目宗家)が登壇予定だ。
日本で最初の映画スター・尾上松之助の代表作の一つ。今のSFXの始まりとなるアナログ感満載のトリック撮影は、観ていて思わず胸が熱くなる。来年で日本映画120年、今年太秦90年を記念し、日本映画最初のヒーローを上映!今回は若手活動写真弁士として関西を中心に活動している坂本頼光氏が来場。コミカルで臨場感溢れる活弁は、忍者映画との相性もバツグン!弁士付き無声映画の魅力を味わって。
高度成長期の当時、ヒエラルキーに翻弄されるサラリーマンを戦国時代の忍者に置き換えた“リアリズム忍者”として、60年代前半の忍者映画バブルの先駆けとなる大ヒット作。昭和伝説の映画スター、市川雷蔵が扮する黒ずくめ忍者のスタイルは、以降忍者の定番スタイルに!
当時人気テレビドラマだった『忍者部隊月光』の劇場版。チームワーク、ユニフォーム、アクションと現代の戦隊ヒーローものの原型となるフォーマットが見て取れる、まさに戦隊ヒーローの元祖的作品。監督の土屋啓之助は、時代劇で培ってきたキャリアを見事に現代劇でも開花させている。
お色気時代劇と呼ばれる『くノ一』シリーズの元祖。本作がデビュー作となった中島貞夫監督が、山田風太郎の時代小説のエロさをコミカルかつ軽やかに描いている。忍者の即物的な身体技術をファンタジックに描いた快作。
野良着に短パン姿で長髪を束ねたアイドル風の真田広之がみせるアクションは、従来の忍者俳優の資質を劇的に変えた!共演は本作がデビュー作となった薬師丸ひろ子、原田知世に続く角川映画第三の女優、渡辺典子。本物のスペクタクルと体を張ったアクションに目を見張る角川映画の話題作。
『マトリックス』のウォシャウスキー兄弟が製作。主演、雷蔵を韓国の人気歌手Rainが演じたことでも話題となったVFXニンジャ映画。尾上松之助のアナログ忍者映画を現在のテクノロジーでリバイバルした箇所もある。アメリカに忍者ブームを巻き起こすきっかけとなった『燃えよニンジャ』のショー・コスギも出演。忍者の国際化を体感できる作品だ。
【ヒストリカ・ワールド】
~児童文学から今だから語れる戦時下の物語まで、選りすぐりの歴史映画を一挙上映~
時代劇・史劇だけでなく、歴史を舞台にした作品や、近現代で歴史を背景にしている作品の中から、幅広いジャンルの作品を選定しているのもヒストリカの特徴の一つ。今年は、女性を主人公にしたファンタジー、実録ものから話題のアニメーションまで注目の4本が日本初上映(一部関西初上映)される。
『バタリオン』(15)~第一次世界大戦末期、女性兵士部隊に訪れた過酷な運命~
第一次世界大戦末期、全隊員を女性とする部隊「婦人決死隊・バタリオン」が設立され、ロシア軍兵士として最前線に送られる…。今だから語ることができる女性兵士たちの物語。バタリオン創立に携わり、指揮をとりながら、誰よりも不条理に立ち向かわなければならなかった実在の人物マリアを演じた主演女優の演技が秀逸。ロシアのアカデミー賞と呼ばれるゴールデン・イーグル賞9部門でノミネート、4部門で受賞した傑作。
相手の目を見ると、そのものが秘密にしておきたい“恥”とされる過去の行為を見ることができる不思議な能力を持つ少女に降りかかる事件とは?大ヒットの原作を、『未来を生きる君たちへ』(第83回アカデミー外国語映画賞)のアナス・トマス・イェンセンにより映画化。10歳の少女の使命をもった眼差しが見る者の心を捉えて離さないハリーポッター風歴史ファンタジー。
「アルプスの少女 ハイジ」と並び、スイスで国民的に愛されている「ウルスリのすず」の映画化。壮大なアルプスの風景の中、少年ウルスリの好奇心に満ちた表情や大事なヤギとのやりとり、家族や友達との間の心の機微を丁寧に描いている。貧しい中でも、日々の生活から歓びを見い出すところにスイスらしさを感じる作品。監督はミスタースイス映画のベテラン、サヴィア・コラー。
「ヒーローらしくない孫悟空のキャラクターが馴染めない」と町はずれの一軒の劇場から公開スタート、口コミにより異例の大ヒットを収めた中国発3Dアニメーション。鬱屈した現代に甦り、大暴れする孫悟空は、風貌も超イケメンで見事なダークヒーローぶりをみせる。
【アジア・シネラマ-アジア・フィルム・アワード・アカデミー フィルムロードショー】~アジア版アカデミー賞「アジア・フィルム・アワード(AFA)」との連携プログラム~
今年から始まったのが、AFAと連携し、香港の映画を中心にAFA各部門受賞作のアジア映画を紹介する【アジア・シネラマ】。『桃さんのしあわせ』アン・ホイ監督の最新作
『黄金時代』(14)、昨年大ヒットした原田眞人監督の
『駈込み女と駆出し男』(15)、ウォン・カーウァイ監督初の武侠映画
『グランド・マスター』(13)を上映する。上映後は受賞部門のゲストを招いて、映画制作の現場に迫るトークショーを開催。ゲスト詳細は公式HPへ。
『隻眼の虎』(15)~韓国版ゴジラは朝鮮最後の大虎が大暴れ!~
韓国の名優チェ・ミンシクが伝説の猟師を演じ、大虎との激しい戦いの渦に飲み込まれる壮大なアクションドラマ。『新しき世界』のパク・フンジョン監督が再びタッグを組み、自然の中で展開する骨太な物語を、壮大に描いている。VFXならではの迫力で大虎のリアリティーを追求、観る者を圧倒するアクションは必見!日本からは大杉漣が出演している。
【京都フィルムメーカーズラボ スクリーニング】~カムバックサーモン・プロジェクト~
国内外の若手映像作家が集い、京都の撮影所のプロとともに時代劇を制作する【京都フィルムメーカーズラボ】(ヒストリカ関連企画)。過去参加者の最新長編映画を上映するのが「カムバックサーモン・プロジェクト」だ。

「歴史や文化を知らなくても面白い」作品をと話してくださった高橋さん(左写真)。
歴史ものだからこそ気づくことができる真理や普遍性を含んだ多彩な作品たちに、ぜひ出会ってほしい。
取材・文/江口由美
(2016年10月 4日更新)
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