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映画・舞台を同時期に披露
主演の中村勘九郎が作品への思いを語る――
『真田十勇士』中村勘九郎 単独インタビュー

中村勘九郎が主演し、堤幸彦監督が手掛けた映画『真田十勇士』。9月22日(木・祝)からの公開に合わせ、2014年に初演された同名舞台が9月~10月にかけ、東京、横浜、兵庫で再演される。舞台版でも初演同様、勘九郎が主演を務め、堤幸彦が演出を手掛ける。同じ作品の映画版と舞台版を同時期に、しかも同じ監督・演出で披露することは、日本のエンタテインメント史上、初の試みだという。今年は真田イヤーと呼ばれ、戦国時代の名将として名高い真田幸村が、同作では、顔と運がいいだけの頼りない無能者として描かれる。勘九郎演じる猿飛佐助をはじめとする十勇士が、幸村を〝本物の男〟にしようと、大嘘をつき、幸村をもり立てていくコメディタッチの物語だ。能天気なまでに明るい佐助のおちゃらけぶりも大いに観客の笑いを誘う。同作のプロモーションのため、阪神甲子園球場で行われた試合のファーストピッチセレモニーに、猿飛佐助の衣装を着て登場した勘九郎。記者会見の後、その衣装のまま、ぴあ関西版WEBの単独インタビューにこたえてくれた。

――『真田十勇士』の初演舞台・映画、ともに拝見しました。映画と舞台はまったく違うものになっていて、どちらも本当に面白かったです。

そうなんです。どうせ、同じだろうと思っているお客様が多いかもしれませんが、声を大にして「二つ観た方がお得だぞ!」と言いたいです。映画と舞台が同時に公開・開幕するなんて初めての試みですからね。

 

――舞台では一幕目に当たる部分が映画ではアニメーションになっています。それからは闘う場面に絞って描かれるので、笑いたっぷりの作風ではありますが、映画は初演舞台よりシリアスになったと感じました。

その通りですね。映画はどちらかと言うとシリアスな方向性になっていると思います。真田幸村が人生で長い時間を過ごした九度山のくだり、幸村と佐助、佐助と十勇士の出会いの場面はギュッとアニメーションにして見せるという“良い方法”、もしくは、“荒業”を映画ではやっています(笑)。なので、映画のお客様は大坂冬の陣・夏の陣に集中して観ていただけると思います。舞台版を観に来られるお客様は、映画のアニメーションの部分を生で体感してもらえるんですよ。再演ですが初演とは全然違った形になると思います。

 

――そういえば、初演の舞台では歌舞伎の見得やしぐさをされていましたね。

ええ、おふざけでね。

 

――映画では全くありませんでしたね。

やってないです。そんなことしたら、監督に怒られますよ(笑)。

 

――初演の舞台では、稽古中、キャストの皆さんをいかに笑わせるかに集中していたというエピソードをうかがったことがあります。

その日の気分によってですよ(笑)。本当にくたびれたときは、さほど笑わそうとはしなかったです(笑)。そこを反省して、再演では毎回、同じような雰囲気で稽古ができるノリにしようと思っています。映画で酸いも甘いも噛み分けましたから(笑)。

 

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――酸いも甘いも、甘い部分はどこでしょうか。

映画は、もともと舞台でやった佐助に、シリアスさをちょっと肉付けするぐらいでいいかなと思ったんです。最初の舞台で、あまりにもやりすぎたかなと思って。

 

――確かに、かなり弾けた佐助でしたね。

ええ。誇張することは、舞台ですからいいこともあるんですが、映画では、間やリズム、セリフのタイミングをより鋭く、テンポよくするように心がけました。

 

――では、酸いは?

やはり映像でしか出来なかったこと、爆破だったり、火が燃えたり、派手さの部分ですね。それを舞台では出来ないなという悔しさがあったんです。でも舞台は舞台ならではのアクションが待ち構えているので、今回の舞台版は、もの凄い運動量になると思います。

 

――映画では派手に火を使っているシーンがありますね。本当に燃えているのですか?

本当に燃えています。CGではないんです。飛ぶシーンは、ワイヤーを使っていますけど。ほかにもジャンプしたり、馬の背中に乗っている武将を、馬を飛び越えて斬るシーンは、実際にやりました。僕たちがやるアクションシーンはスタントなしなので、かなり、大変でしたね。

 

――堤監督に「馬と並走しろ」と言われたそうですね。そんなことできるものなのですか!

ええ。それができたんですよ(笑)。監督ちょっと頭がおかしいのかなと思いましたけど(笑)。和歌山で撮影したんですけど、いろんな草が生えていて、リアルに転んで置いていかれる人がいるんです。走るだけではなく、徳川兵が待ち構えているから、その中に突っ込んでいかなくてはいけない。向こうも甲冑を着ていて、リアルにぶつかってくる。それはもう怖かったですね。

 

――そういう場面は映画ならではですよね。舞台とは、また違った迫力がスクリーンから感じられます。

舞台はお客様との空間を共有するところ。もちろん、リアルには見せなければいけないですが、その中で、美しさやダイナミックさも表現したいですね。体全体を引きの絵で見せるわけですから、そこは意識しながら演じたいです。今回、立ち回りも殺陣も初演とはまた違った形になるので、一から覚え直しで大変なんです。

 

――舞台で演じていたから、映画ではここが活きたというような部分はありましたか?

活きたといえば、台本を覚える作業をしなくてよかった(笑)。読みましたけど、覚えなくていい(笑)。違うところはありますけれど、だいたいは、同じようにしゃべっているんです。怖いのは、映画では、舞台版の霧隠才蔵のセリフを佐助が話したりとセリフがあべこべになっているシーンがあるんです。今度、それが再演の舞台で出てきてしまうと恐ろしいですし、困りますね(笑)。

 

――映画では大阪城での撮影があったんですね。勘九郎さんにとって大阪とはどんな場所なんですか?

大阪は、中村屋とは切っても切れないゆかりの地。父が若いころ、昔、道頓堀にあった中座の舞台に出て、そこから火が付いて人気が出たといういきさつがあります。中座の舞台から、八月納涼歌舞伎やコクーン歌舞伎が始まったんです。原点は中座だと思うので、大阪は僕の父を育ててくれた町でもあります。僕の曽祖父は大阪出身なので、大阪の血が僕の中にも入っています。初代中村勘三郎おじいさんが、大坂夏の陣で討ち死にしているんです。だから、「真田十勇士」の舞台の主演が決まったときは、何かゾッとしました。映画の大阪城でのロケは、とても不思議な感覚でしたね。

 

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――興味深い縁ですね! 勘九郎さんが演じる佐助というキャラクターは、一見チャラそうですが、物語が進むに連れ、器・度量の大きさが感じられます。

そうですね。加えて、真っ直ぐさ。まぁ、この人の場合、ゆがんだ真っ直ぐさですけど。少年漫画のヒーローのような感じですね。映画・舞台ともに、幸村さまと息子・大助との親子関係が描かれます。演じれば演じるほど、真田十勇士のメンバーは、皆、親の愛情に飢えた人たちなんだと思います。そこで理想のお父さんのような、幸村さまが現れた。幸村さまを父親と思えたからこそ、彼を本物にしたかったんだと思います。「この人のためなら、命を懸けてもいい」と、皆で乾杯するシーンが、大坂夏の陣の前に出てきます。そこは毎回、舞台で演じていてグッときましたし、映画で撮影したときも同じようにグッときましたね。

 

――幸村が理想の父親であるという解釈は、舞台・映画版の物語には描かれていませんが、ご自身で見つけ出されたのですね。

ええ。それに、十勇士のメンバーは皆、仲がいいので、「どういう気持ちなんだろう」と話し合っていたら、全員、幸村さまに親を重ねていることが分かりました。そこは面白いなと思いましたね。

 

――「何が嘘で、何が本当か分からない」というのが物語の核となっています。十勇士の一人が、佐助を裏切るシーンで、佐助がそう言って相手を許す場面があります。世の中をこの言葉の視点で眺めてもいいのかなと思いました。

佐助みたいな人がいたらいいですね。佐助みたいになれたらいいなと思うときがあります。絶対ヤダなと思うところもあるけど、この人みたいに生きられたらいいでしょうね。あの許すシーンは好きです。でも、どっかで、彼が抜けたら「九勇士」になるな、名前がダサいなというところも佐助にはある(笑)。才蔵だって「語呂が悪いからね」と、佐助の気持ちが分かっている。あそこで皆が通じ合えるんです。乾杯のシーンからそこまでのくだりは、改めて十勇士が結束します。お気に入りのシーンですね。

 

――役者としてはいかがでしょう。歌舞伎をはじめ、虚構の世界にいらっしゃいますが、その虚構の世界が現実でもあります。

佐助が「嘘だって何十年も何百年もつき通してしまえば、それは本当と同じだ」というセリフがあります。正にその通りで、そこをお客さまに観ていただき、感じてもらう。僕らも嘘をやっているわけですから、とことん嘘をつき通すのが役者だと思いますね。

 

――映画や現代劇に出るのは、勘九郎さんにとってどういう意義があるのですか。歌舞伎に還元したいというお気持ちはありますか。

全然思っていないです(笑)。ある時期、『真田十勇士』やほかの作品を見て、歌舞伎に足を運んでほしいなと思っていた自分がいたんですけど、そんなおこがましいことは言えないなと。歌舞伎のためというより、自分のためですね。自分が経験して、色んな作品や人と出会い、吸収する。そのことが、すべてを大きくすると思います。

 

――お父さまの勘三郎さんが、「演劇は何か突き抜けるパワーがないといけない」とおっしゃっていて、勘九郎さんも同感だとうかがいました。この作品にもいえると思いますが、映画にしろ、舞台にしろ、突き抜けていくパワーとは何でしょうか。

真摯に役と作品に向き合うことだと思います。あとは、どこかバカにしていなきゃいけない。佐助みたいにバカになって、それをさらにバカにして見ている自分がいる。引いていなければダメなんです。

 

――客観的に見るということですね。

そうですね。

 

――以前、弟さんの七之助さんは、取材で「役者であることは、自分の魂である」とおっしゃっていました。勘九郎さんはいかがですか。

本当にそんなこと言ったんですか! 魂…!! 僕は言えないっすね(一同爆笑)。うーーん、何かな……(しばらくの間沈黙)。

 

――佐助の言葉を借りてもいいです。

仕事(笑)。

 

――そんな落ちですか(笑)。佐助も真田十勇士は仕事だったのでしょうか。

佐助は、十勇士を作ることはただ単に楽しかったからやっていたんだと思います。昔、忍者だったのを辞めていますからね。自分の楽しいことをただ、したい。あ、それですね、楽しみ! 楽しみと苦しみですね。楽しんでやってはいるけど、苦しいという、その繰り返しですね。

 

――なるほど。真田十勇士は日本人の永遠の憧れなのでしょうね。特に、男の人は。

そうだと思います。日本人は数字を入れるのが好きですよね。「四天王」「白浪五人男」「七人の侍」「里見八犬伝」。

 

――映画でも十勇士がなかなか9人しか集まらなくて、「九」では語呂が悪いと、「十」にやたらとこだわっていましたね。

ちょっとね、気にくわないですよ。勘九郎なんですから(笑)。

 

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――ハハハ(笑)! もし、続編があればどうですか。

いやー、堤さんの頭の中にはあるらしいです。それに、映画のエンドロールが続編になっているんですよ。

 

――その上で、続きがあるかもしれないと私たち、期待していいのですね。

ヒットすれば(笑)。

 

――舞台の続編も期待していいですか。

ヒットすれば(笑)。

 

――本日はどうもありがとうございました。

 

 

 

取材・文/米満ゆうこ

撮影/森好弘




(2016年9月15日更新)


Check

映画『真田十勇士』

▼9月22日(木・祝)より、全国公開

監督:堤幸彦
脚本:マキノノゾミ 鈴木哲也
出演:中村勘九郎 松坂桃李 大島優子 永山絢斗 加藤和樹 高橋光臣 石垣佑磨 駿河太郎 村井良大 荒井敦史 望月歩 青木健 伊武雅刀 佐藤二朗 野添義弘 / 松平健(特別出演) 加藤雅也 大竹しのぶ

【公式サイト】
http://sanada10braves.jp/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/169384/


舞台『真田十勇士』

【関西公演】

発売中 Pコード:450-786

▼10月14日(金)18:00
▼10月15日(土)12:00/17:00
▼10月16日(日)12:00/17:00
▼10月18日(火)13:00/18:00
▼10月19日(水)13:00
▼10月20日(木)13:00/18:00
▼10月21日(金)13:00
▼10月22日(土)12:00/17:00
▼10月23日(日)12:00

兵庫県立芸術文化センター KOBELCO 大ホール

S席-12500円 A席-9000円 B席-6000円

[劇作・脚本]マキノノゾミ [演出]堤幸彦
[出演]中村勘九郎/加藤和樹/篠田麻里子/高橋光臣/村井良大/駿河太郎/荒井敦史/栗山航/望月歩/青木健/丸山敦史/石垣佑磨/山口馬木也/加藤雅也/浅野ゆう子/他

※未就学児童は入場不可。

[問]梅田芸術劇場■06-6377-3800

【公式サイト】
http://sanadajuyushi.jp/


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https://kansai.pia.co.jp/special/sanadajuyushi/