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「この役は、ぼくには出来ないと思った経験がない」
実力派俳優、濱田岳が話す役作りとは―
映画『ヒメアノ~ル』濱田岳インタビュー

『行け!稲中卓球部』『ヒミズ』の古谷実による同名漫画を実写映画化した『ヒメアノ~ル』がTOHOシネマズ梅田ほか全国にて大ヒット上映中。本作は、濱田岳演じるお人好しな男・岡田の日常と、森田剛演じる無機質な殺人を繰り返すサイコキラーの狂気が並列で描かれる衝撃作だ。そこで、本作はもちろん、数々のドラマ、映画などで大活躍の実力派俳優、濱田岳に本作について、演技について、いろいろと話を訊いた。

――監督は、『銀の匙 Silver Spoon』『麦子さんと』『ばしゃ馬さんとビッグマウス』など、ユーモラスな人間描写に定評のある吉田恵輔さん。濱田さんは吉田組初参加ですが監督について、これまでどんな印象を持っていました?
明るい作品を撮られる方だなと思っていました。でも、監督が話していたんですが、実はダークトーンの映画が好きで、今回の『ヒメアノ~ル』的な作品のほうが得意なようですね。
 
――吉田監督は塚本(晋也)組の出身ですもんね。観終えた後、放心状態になるくらい濃厚な映画で、99分だったとは思えなかったです。
まず、最初に「こういう映画を作ります。原作があるので見てみてください」と言われてから原作を読んだんですが、ぼくの第一印象としては「すごく面白い漫画ではあるけど、どうやって実写化するんだろう」だったんです。それで原作を読み終えて、すぐそのまま台本を読んだのに、驚きもあって、その脚本力に驚かされました。何分の映画になるかまではその時点で分からなかったですけど、映画のサイズに話を集約させるというものすごい才能をお持ちな方だなと思いました。
 
――監督の過去作『机のなかみ』『さんかく』も二部構成でしたが、本作もど真ん中にタイトルを入れて前半と後半が二部構成になっているのもカッコイイですよね。
脚本を読んだ段階ではタイトルが出るタイミングは分からないので、完成した作品で初めて観て「わ!オシャレ~!」って思いました(笑)。でもその瞬間は「オシャレ~!」だったんですが、観終えてから、あのタイミングがお客さんにとっては文章の段落みたいな、気持ちの整理を一旦つけるタイミングだったんだろうなと。そういった吉田監督が仕掛けたちょっとしたからくりがたくさんあるのもこの映画の素敵なところだなと思いました。
 
――監督が仕掛けたからくりって例えば他にどういったものがありますか?
後半に向けてキャストらの服の色のトーンが落ちていたり、撮影方法も後半では手持ちカメラでドキュメンタリータッチで撮影していたり。ハードルが高そうと思う人がいるかもしれないですが、バリアフリーというか。エベレストにエスカレーターがついてる感じ! その高みを目指すために親切な補助がついているみたいな。ひとりの客目線で見ていて、そういう発見が楽しかったですね。
 
――この映画は前半と後半でトーンがガラッと変わります。よく「重い映画の現場はやっぱり空気が重くなるんですよ」なんてことを聞きますが、吉田監督はとても明るい方ですけど、どんな雰囲気だったんですか?
ずーっとあの調子ですよ! すごく明るい(笑)。スタッフもみんな和気藹々としてて本当に楽しい時間でした。公開タイミングでのキャンペーンで初めて森田さんの苦労話を聞きました。
 
――いくつかバラエティ番組に、森田さんと濱田さん出ていらっしゃいましたよね。あの微妙にうちとけていない感じが面白かったです。現場でもあまりお話されなかったんですか?
 
ほぼ順撮りだったので、居酒屋やカフェで会う場面からだいぶ間をあけてラストのクライマックスを撮影しました。二人とも人見知りだし、単純にお互いの距離を縮める時間がなかったですね。もうちょっと時間があれば違ったかもしれないけど(笑)。
 
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――撮影中も撮影後のバラエティ番組での共演も含めて、森田剛という人は濱田さんから見てどんな人ですか?
森田さんは、いろんな死霊にとり憑かれていました(笑)。得体の知れない殺気を醸し出していて、俳優としても本当に尊敬しています。クライマックスで挑むシーンのことを考えるとやっぱり軽々しく「おっぱい派?おしり派?」みたいな話はできないですよ。さすがにそういうレベルの話で盛り上がることはできない(笑)。だから自然としゃべらなかったんですよね。キャンペーンで一緒になってやっとしゃべれるようになって、優しいお兄さんだなと思いました。
 
――森田剛の鬼気迫る演技は確かにすごいですよね。ただその一方で、どんな映画でも素晴らしい演技を見せてくださる濱田さんもすごい。どこにでもいそうな役をできる俳優として濱田岳は別格だと吉田監督もおっしゃっていました。
オファーの話がぼくの元に来る前に事務所の方とかがチェックしているからなのもあるでしょうが「この役はぼくには出来ない」と思った経験がないんです。その役を演じるために、原作や台本を擦り切れるまで読み込んで、ゆかりの土地に足を運んで何かを感じるみたいなのは、ぼくの場合はどれもピンと来なくて。
 
――では濱田さんにとっての役作りってどういうことですか?
ぼくが役作りとして何かしていることをしいて言うならば、その人の特徴を箇条書きにしてみて、自分の引き出しから出すということでしょうか。例えば今回なら「岡田くんはお人好し度100かな、ぼくもお人好しな部分あるけど60程度かも。だから100まで伸ばしてカメラ前に立とう」みたいな。だから彼らの人生はもちろんぼくの人生とはまったく別ものだけどぼくと言えばぼくなんです。そういうときにぼくにはない感性の台詞があったりすると、原作を読み返してみたりします。
 
――どんな映画でも受けの芝居がお上手な印象ですが気をつけていることはありますか?
演技論って人それぞれだろうけど、読み込んで練りこんで組み立てて会話をするというのはリアルさを出しづらいと、ぼくは思うんですよね。現実は次に誰が何を言うか分からないような状況で会話は続いていくので、普段しゃべっているような感覚でカメラ前に立てればなといつも思っています。
 
――吉田監督もそうですが、以前取材した監督らも「濱田くんに関してはとくに演出していない。おまかせだから」と話していました。とくに演出されないことが多いんですか?
自由に演技をさせてくれる監督と出会っているだけでもあるとは思いますが、結局は段取りという宿題を持ち帰ってどう本番で披露するかみたいなことで。とくに今回は本当に、全くなかったですよ。だけど、(佐津川愛美演じる)ユカちゃんにはこと細かく演出していました(笑)!
 
――ユカちゃんを監督の好みの女性に仕立てるのに必死だったと伺いました(笑)。佐津川さんと濱田さんのラブシーンが森田さん演じる森田の残酷な殺害シーンとシンクロする場面はなかなかの衝撃でしたね。
率直に言うとやっぱりラブシーンは恥ずかしいです。でもやらなきゃ終わらないし(笑)って、腹を決めて演じているんですけど、スタッフさんたちのほうがソワソワしていました。「ラブシーンなんだから静かにしろ」とか言っていて、変な緊張感でしたね。でもこの映画のキーとなる場面だし、あの場面を演じられて良かったと思いました。
 
――ではスタッフも緊張、演じる二人も緊張している状況だったんですね。
佐津川さんは堂々としていましたよ。「ラブシーンは男が緊張するもの」と先輩役者さんらに聞いていましたが、その意味が分かりました。佐津川さんって男より男らしいくらいで。でもそういう女性に導いてもらう役でもありましたし、恥ずかしがっているのもリアルです。
 
――あのラブシーンは、怖い事件や事故が日々流れているニュースで見ていても感じない“身近に潜む恐怖”を感じて怖くなりました。
どうしても対岸の火事みたいなところはありますよね。だけどこの映画では観た人が「これはただ事じゃないぞ」と思わされる。ぼく自身も初めて観たとき、試写室を出たら「誰かに刺されるんじゃないか」くらいのそこはかとない恐怖が沸いてきました。それもこれも森田さんと吉田監督のお力だと思います。
 
――最後に、『ヒメアノ~ル』をご覧になる方にメッセージを。
『ヒメアノ~ル』は、本当に面白い映画なんですけど一言で「面白い」と言ってもいろいろと勘違いが生まれたりするのでどう言えばいいか難しいです。映画を観るという行為に対しての満足度が非常に高い映画だと思います。ミニシアターをハシゴするような映画ファンもいると思いますけど、『ヒメアノ~ル』は1本で2本の映画を観たような満足感が味わえます。おなかいっぱいになる作品って感じです! 是非、劇場でご覧ください!



(2016年6月 2日更新)


Check

Movie Data

©古谷実・講談社/2016「ヒメアノ~ル」製作委員会

『ヒメアノ~ル』

<R15+>
●TOHOシネマズ梅田ほかにて上映中

【公式サイト】
http://www.himeanole-movie.com/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/167476/


Profile

濱田岳

はまだ・がく●1988年6月28日生まれ、東京都出身。ドラマ「ひとりぼっちの君に」でデビュー。NHK大河ドラマ「軍師官兵衛」、「HERO」など、これまで数多くの話題作に出演し、TX「釣りバカ日誌 新入社員 浜崎伝助」(15)で浜崎伝助役に抜擢。TBS年末ドラマスペシャル「赤めだか」(15)では落語家・立川志らく役で出演。映画では2007年、主演を務めた『アヒルと鴨のコインロッカー』で第22回高崎映画祭最優秀主演男優賞を受賞。その他の主な出演作は『ゴールデンスランバー』(10)、『はじまりのみち』(13)、『永遠の0(ゼロ)』(13)、『予告犯』(15)、『HERO』(15)など多数。最新作は『世界から猫が消えたなら』(16)、『グッドモーニングショー』(16)など。


関連ページ

『ヒメアノ~ル』吉田恵輔監督インタビュー
https://kansai.pia.co.jp/interview/cinema/2016-05/himeanole-y.html