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「はっきり言える、柳楽優弥は器が違う」(真利子哲也監督)
2016年最高の映画(断言!)『ディストラクション・ベイビーズ』
柳楽優弥&真利子哲也監督インタビュー

現在の日本映画界の中で、人気、実力ともに申し分のない柳楽優弥、菅田将暉、小松菜奈、村上虹郎が顔を揃えた映画『ディストラクション・ベイビーズ』。この最高の俳優たちを率いたのが、“インディーズ映画界の大物”として『イエローキッド』『NINIFUNI』など衝撃作を次々と生み、今回ついに商業映画デビューを飾った真利子哲也。あえて「酷使」という言葉を使いたくなるくらい、役者たちのポテンシャルを限界まで引き出した、圧倒的な108分。「2016年最高の映画」と声を大にして訴えたくなる本作について、監督の真利子哲也、主演の柳楽優弥に話を聞いた。

――柳楽さんを含むメインキャストの4人は、映画、テレビドラマなどで大活躍中。しかし全員、今まで見たことがない表情、動きをしています。
 
柳楽:本当にそう思います。一つの恋愛映画ができるくらいのキャストですよね。でもそこで、こういう思いきり振り切った映画を作った真利子哲也という映画監督は、ハンパじゃない。
 
真利子監督:ありがとうございます(笑)。この映画を企画する早い段階で、主演として柳楽優弥の名前をあげました。『誰も知らない』の頃から、「いつかこの役者さんと映画を作りたい」という思いがあったんです。泰良(たいら)という主人公は、喧嘩に明け暮れる男ですが、なぜそこまで暴力的なのか、はっきり分からないように描いています。柳楽くんと事前に言葉を交わして、理解しあえるようなキャラクターではない。だから現場で、喧嘩のシーンを撮りながら、お互いに「これだ」と掴み合えるものを見つけながら、信頼の中でやっていきました。
 
柳楽:この役のお話をいただいたとき、直感的に「これはいい映画ができる」と思ったんです。関わっておかなきゃいけない、と感じました。そのあと菅田将暉くん、小松菜奈さん、村上虹郎くんという同世代や少し下の世代のキャストも決まっていって、現場ではそれぞれ、今まで見たことのないような演技を見せていった。「僕の直感は間違っていなかった」と思えました。
 
――泰良はなぜ人を殴るのか。若者の暴力事件が起きたとき、マスコミなどでは必ず理由を突き止めようとするじゃないですか。それこそ「容疑者はアニメ、アイドルのDVDを何本も所持していた」と強引にカテゴライズする感じで。でも泰良は、というよりこの『ディストラクション・ベイビーズ』は、その理由についてあえて言及していません。
 
柳楽:僕も最初は、演技をする上で暴力の理由を知りたかった。もちろん、それがあった方が役者としてはやりやすいので。だから理由について監督に、「なんでこんなに喧嘩をするんですか」と5回くらい聞いたんです。そうしたら監督は、泰良の台詞にもあるんですけど、「楽しければええけん」を繰り返すだけ(笑)。さすがに「6回聞くのは、しつこいな」と思って、僕の方が折れた状態になったのですが、でもそこで良い意味で吹っ切れて、エンジンをかけることができました。
 
監督:脚本上で泰良のバックグラウンドを作ろうとするのは難しくありません。それこそ貧しい家庭環境に育って、幼少時に喧嘩を覚えた…など。でも、泰良という男は、そういう“設定”では語れないようにしたかった。だからそれをあえて排除して、人物の背景を観る人の想像に託しました。喧嘩をする上で、周りの人間が「泰良とは何なのか」とザワザワしていく。しかし、どれもそれぞれの印象だけで、泰良の実像にはたどり着けない。観ている人も、彼の喧嘩を見てどう思うか。そうやって考えること、それが狙いでした。
 
柳楽:取材などで泰良の暴力について聞かれることもあるのですが、僕自身も「こういうことだろう」と考えていないです。この男の場合は、暴力で自分を主張しているわけではないですし。むしろ、暴力を通して、どこか人間の生命力の持続を感じることができる。僕の場合、いろんな作品に出ることでアドレナリンがガッと上がるのですが、それが泰良にとっては、喧嘩をするときなのかもしれない。
 
――あらゆる難役に取り組んできた柳楽さんにとっても、今回の泰良役はかなりチャレンジングだったと思います。
 
柳楽:僕は今、26歳ですが、20代では基本的に「来るものは拒まず」という気持ちなんです。引き出しを増やすために、どんなことでもトライしたい。そうすると、30代は確実に自分がやりたいことが見えてくる気がするんです。30歳を、役者として一つの区切りにしたい。だからそれまでは、「僕は映画にしか出ません」とかではなく、柔軟なスタンスでやっていくつもりです。
 
監督:今こうやって宣伝活動などで一緒にキャンペーンをまわる機会が増えていますが、そこではっきり言えることは、「柳楽優弥は器が違う」なんです。「20代は来るものを拒まず」という態勢なんて、実際はなかなかできません。それを有言実行できる人。そんな彼を表現する言葉をずっと探していて、出てきたのが「器が違う」です。
 
柳楽:こうやって監督は、僕を褒めて調子に乗らせようとしているんですよ…(笑)。これだけ嬉しいことを言われたら、危ないですよ。調子に乗らないように、自分にブレーキをかけて、これからも演技を頑張っていきたいです。
 
監督:でも柳楽くんをはじめ、この映画の役者はみんな素晴らしい。いろんな世代が次々と(撮影地の)松山にやって来て、映画を撮って、そして東京へ戻っていく。各世代が良い意味でせめぎあっていた。刺激的な現場を経験した柳楽くんだからこそ、「調子に乗らないように」という言葉は、嘘ではなく本当にそのように心がけているんだと思います。
 
柳楽:いや、でもこの映画に出演できて、普通に嬉しいですよ。だって、本当にオシャレなキャストじゃないですか。この中で、真ん中に立たせていただけるなんて、めちゃくちゃ嬉しい。
 
――本作は、2016年を語る上で絶対に欠かせない1本だと断言できます。最近、映画評論家さんとお会いしたらまず「『ディストラクション・ベイビーズ』、観ました?」が挨拶代わりになるくらいなんです。
 
監督:観た人が相当な熱量でこの映画を語ってくださるのが、嬉しいです。僕としてはぜひ、出演者全員の芝居を見て欲しい。柳楽優弥、菅田将暉、小松菜奈、村上虹郎はもちろんですが、脇を固めた皆さんも、本当に良い芝居をしてくださいました。
 
柳楽:僕自身、(本作について)いまだに分からない部分があるんです。しかし、観終わった後に語れる映画。しっかりと心に突き刺さる。それにしても、何なんでしょうね。この「分からない」という感覚は。
 
監督:そうなんですよ。僕もこの映画を作りはじめたときから、言葉にできないところがある。
 
柳楽:そう、分からないのではなく、言葉にできない。感じるものがすごくあって、それを言葉にできない。圧倒されるから。何かの事故を見ている感じに近いのかも知れません。
 
 
(取材・文/田辺ユウキ)
 



(2016年5月20日更新)


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©2016「ディストラクション・ベイビーズ」製作委員会

『ディストラクション・ベイビーズ』

<R15+>
●5月21日(土)より、テアトル梅田、なんばパークスシネマ、MOVIX堺、MOVIX八尾、京都シネマ、シネ・リーブル神戸ほか全国にて公開

出演:柳楽優弥/菅田将暉/小松菜奈/村上虹郎/池松壮亮/北村匠海/岩瀬亮/キャンディ・ワン/テイ龍進/岡山天音/吉村界人/三浦誠己/でんでん
監督:真利子哲也
脚本:真利子哲也/喜安浩平
音楽:向井秀徳

【公式サイト】
http://distraction-babies.com/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/169124/