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「 “映画” ってたくさんの “無駄” が “におい” を放っているのが
 魅力だけど、今回はその “無駄” をそぎ落として
 端的でスピーディな映画があってもいいんじゃないかなと思って」
『ピンクとグレー』行定勲監督インタビュー

 芸能界の“嘘”と“リアル”を現役のアイドルである加藤シゲアキ(NEWS)が描いた小説を、中島裕翔(Hey! Say! JUMP)を主演に迎え映画化した注目作『ピンクとグレー』が1月9日(土)よりTOHOシネマズ梅田ほかにて公開される。本作は、あるスター俳優の突然の死から始まり、第一発見者である親友との友情や葛藤を描きながら、想像を超える“蓮吾の死”にまつわる物語が展開される。そこで、本作でメガホンをとった行定勲監督にインタビューを行った。

――映画初主演の中島裕翔さんは、この映画の中でいろいろな顔を見せる、とても難しい役に挑戦していますよね。
難しい役だし、映画の主演は初めてだけど、小さな頃からドラマなどで子役を経験している方なので、演技力に不安はまったくありませんでした。映画っていうのは倫理を無くすことが一番重要っていうことだけ話しました。「コレをやってはいけない。アレをやってはいけないというのはない。自分が思うことは全部やっていい。何をやってもいいのが映画だ」と。
 
――それで中島さんの反応はいかがでしたか?
もともとポテンシャルの高い方だし、むしろまだ温存されている力をいっぱい持っているような感じでした。それがまたこの役にぴったりなんですよね。前半は特にそう。後半は実力に不安を抱えているようなブレーキをかける演技が必要で、そういう面は「中島くんの中にあるの?」って聞くと「ある」と言っていました。それなら、自分の中に自分ではないもうひとりの自分を作り出すしかない。
アイドルってそれができるんですよね。若いファンたちから声援を贈られてそれにちゃんと答えられる。それももうひとりの自分。これを普通の役者に「やれ!」って言っても絶対出来ない。ファンサービスが自発的にできる役者ってほとんどいないんじゃないですかね。記者に「笑ってください」って言われても、みんなうまく笑えてないですし。
 
――昨年の釜山国際映画祭の公式会見で、集まった海外のファンから「愛嬌のあるポーズを」と声が飛びかったとき、中島さんと菅田さんがファンのみなさんに投げキッスをしたのも話題になっていましたよね。
あのとき一緒にいたのが、中島くんと仲が良くノリも分かっている菅田(将暉)くんだったから一緒にやっていましたけど、あれが柳楽優弥なら無理だったでしょうね。柳楽優弥の存在感はまた別物で、だから面白いんですけどね。ウィンクや投げキッスで、韓国、日本、中国とかいろんな国の多くのファンを夢中にさせて沸かすことが出来るって。あのプロフェッショナルは中島裕翔という名を名乗りながらも、本来の自分とはちょっと違うアイドルとしての中島裕翔が確立しているんですよね。その感覚は長年培って養ったものだろうけど、「映画はそれを短いスパンでいくつも作っていくものだと思う」って言ったら中島くんも「分かりました」と納得していました。 
 
――またもうひとりのアイドル。原作者の加藤シゲアキさんについてはどんな印象をお持ちですか?
自分がアイドルをしながら小説を書くということに、作家としての本気度、覚悟が感じられますよね。批判めいたこととか、いろいろと周りに言われる世界ですから。でも、芸能界を舞台にすると自分が一番知っていると言える。そして、自分を重ね、投影させた文章は書きやすいでしょう。その中で、想像のものを現実的にうまく引き落とすことを分かって書いている。頭が良く、技巧的な人なんだろうと思いますね。
 
――その小説がまた衝撃作なわけですが、読んでみてどのように思われましたか?
完全に作り物なのに赤裸々にも見えるし、もしかして自分自身の経験の中から生まれたことなのかなと思わせるところがあります。芸能界自体が虚構を作り上げている場所で、この小説が描いているのはその裏側。だから、現実的なことと作り物の世界が曖昧になっている。ドラマチックに小説を書く上で表現を飛躍させることもリアリティとして受け取ってもらえることをうまく利用して書かれていると思いました。
 
――行定監督自身もその“虚構を作り上げている場所”に身を置いているわけですが…。
みなさんが思っているより実際の芸能界は地味ですよ。ぼくらから見ると一般の企業の方がクロくて、危うい気がします。池井戸潤さん(「半沢直樹」「下町ロケット」など)の小説があれだけドラマチックで立て続けにドラマ化もされているのは、そっちの世界の方がドラマチックだからなんでしょう。
 
――確かに日本で芸能界を描いたドラマは少ないかもしれません。
海外だと『サンセット大通り』(1950/ビリー・ワイルダー監督)みたいな時代から、「コイツがフィクサー(黒幕)だ」みたいなものを見せて、その煌びやかな世界の中でスターが生まれていくというようなものってありますよね。でも、日本ってそういうパワーゲームは闇にして、そこは暗黙の了解で描かないみたいな。
 
――そういう意味でも、この映画は今珍しいタイプの物語ですね。
この映画で言うと、前半部分が加藤くんの原作で、後半部分はその加藤くんが作り出した登場人物をちょっと動かしています。虚構のハザマでリアリティを感じさせる見せ方で、人と人の足の引っ張り合いみたいなものをあえて表現しました。
 
――映画の中で映画を描く。その中に多くの皮肉が入っているのも面白いです。
ぼくが青春映画を撮っていた頃は、登場人物を主観的に見ていたから彼らがもがき苦しみいろんなものにあらがっている姿を活写する、にすぎなかったんですけど、今、歳を重ね、距離を取って“青春”を見るとそういう姿がやけに面白いんです(笑)。だから、落ちるところまで落とす。そこから必死で抜け出す姿が、まるでひとりの人間としてやっと立ち上がる姿を達観して見ているようでね。今回、そんな映画になったなって自分でも思うんです。ぼくが歳を取ったからだと思います。
 
――年齢を重ねて距離を持つことが出来たから面白く描けたということですか。
今思い出したんだけど、昔、深作欣二監督が『GO』(2001/行定勲監督)を試写で見てくださったときに「俺がこの題材を描いたら違うものになるだろうって思う場面があったよ。でも君の若さはまぶしくてそんなもの必要ないな。イイ写真(映画)だったよ」と言ってくれたことがあったんです。しかも、大林宣彦監督にも同じようなことを言われたことがあって。あれから15年ほど経って、今あの言葉の意味がちょっとだけ分かるようになってきた気がします。もうあの頃とは自分の感覚も違ってきているんです。
 
――行定勲監督が手がけた『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004)はその後の純愛映画ブームの先駆けとなるような作品でしたが、映画の中で菅田将暉さんが純愛映画を皮肉るような台詞が出てきますよね。
自虐ですよね(笑)。あの頃の自分は「何が悪いんだ!」って気持ちでしたが、あの頃、ぼくに苦言を呈していた先輩方はこういう風に思っていたのかなと思うところもあります。自虐的な映画ネタが台詞に散りばめられているのも注目してもらえたら面白いかもしれないですね。そういうところで青春映画というものの変貌をぼくの中で捉えているところがあります。
 
――映画が始まって、行定勲監督があまりにも若々しい青春映画を撮ったことに驚きました。後半でのどんでん返しでそれが意図的であることに気づかされるんですけど(笑)。
そう思っていただければ罠にかかったようなものです(笑)。それでも、綺麗ごとだけの浅い純愛映画にはなっていないと思うけど、後の「綺麗ごと言われても嫌でしょう?」という菅田(将暉)くんの台詞によってそう見えるだろうなと。でも前半の若々しい感じも嫌いじゃないんですよ。バレンタインとかね、そういうの大嫌いなんだけど、あえて描いてみました。出会いのシチュエーションとかも。前半は「どうだ、このショット! みたいな、これ見よがしのショット欲しいね」なんて言いながら撮っていたんですよ(笑)。
 
――中にはオマージュもあるとか。
夏帆ちゃんが引っ越して車で去っていくシーンは『転校生』(1982/大林宣彦監督)のオマージュ。カット割まで同じにしているんです。そこを真似たのもわざとですね。ベタな監督が名作を真似て撮っているというのを“あえて”しているんです(笑)。
 
――それが後半で急展開…、というところがネタバレにならないように聞くのが難しいですね。
今回、何を一番計算していたかというと、「仲の良かった友達同士に何が起こってその仲が崩壊していったか」。その様を的確に、無駄をそぎ落とした形で見せるということだったんです。それがないと後半が活きてこないから。そういう意味では、ぼくも撮りながらすごく勉強になりました。“映画”ってたくさんの“無駄”で出来ていて、その“無駄”が“におい”を放っているのが魅力ではあるんだけど、今回は無駄をそぎ落として端的でスピーディな映画があってもいいんじゃないかなと思って撮ったんですよ。
 
――今まで観たことがないくらいスピード感のある映画で、観終えた後は面白くて感激して興奮状態になりました。
少女コミックの映画化が最近流行っていますが、そういうのを観たような10代の子たちが『ピンクとグレー』を観たらどんな反応するのかなと興味があります。中島くんのファンはもちろん観てくれるだろうけど、それ以外の若い子にも観てほしい。中島くんがかっこいいのは置いておいて映画としてどう思うか。公開されて感想が聞こえてくると嬉しいです。楽しみにしています。



(2016年1月 3日更新)


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Movie Data




©2016「ピンクとグレー」製作委員会

『ピンクとグレー』

●1月9日(土)より、
 TOHOシネマズ梅田ほか全国ロードショー

出演:中島裕翔 菅田将暉 
   夏帆 岸井ゆきの 宮崎美子
   柳楽優弥
監督:行定勲 
脚本:蓬莱竜太・行定勲 
原作:加藤シゲアキ
   「ピンクとグレー」(角川文庫) 
音楽:半野喜弘

【公式サイト】
http://pinktogray.com

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/167007/