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「亀岡は要するに何があっても変わらない人だと思うんですよね。
 それってすごく憧れる部分もあるけど怖いなとも思います」
『俳優 亀岡拓次』主演・安田顕インタビュー

人気演劇ユニットTEAM NACSのメンバーであり、最近では『龍三と七人の子分たち』『新宿スワン』などの映画や『下町ロケット』などのテレビドラマでも活躍中の個性派俳優、安田顕。今もっとも旬な“大人の男”と言っても過言ではない彼を主演に迎えた映画『俳優 亀岡拓次』(横浜聡子監督)が、1月30日(土)よりテアトル梅田ほかにて公開される。戌井昭人の同名小説を基に、本作で安田が扮するのは脇役俳優の亀岡拓次。今回、主役なのに(まさかの)脇役俳優を演じた安田顕にインタビューを行った。

――映画『man-hole』(鈴井貴之監督)以来の主演作ですが、オファーがきたときはどのように感じられましたか?

本当に嬉しかったです。「亀岡拓次という本があって、それの主演の話が来ていますけど…」と言われて、間髪いれずに「はい!やります」と答えました。それで、後から原作を拝読させていただいたのですが、お話も面白いし、主人公の亀岡には自分に近しいものも感じたので、是非やりたいという思いがその後にどんどん大きくなりました。

 

――主人公だけど脇役俳優の役ということについては?

もともとずっと脇役でやってきましたし、主演だと言われてもこの映画の中でも基本的にずっと脇役ですからね。そういう意味ですんなり受け入れられましたし、気負うことなく演じられたのはありがたかったです。

 

――自分に近しいものを感じたというのは、ちなみにどの辺りですか?

お酒が好きというところが自分と重なりますね。ちょうど昨日も一人で北新地のスナック「バン」というところへフラッと行って。喜寿を迎えられた77歳のマスターとパートのお姉さんがいらっしゃって、他愛も無い話をする時間が楽しかったですねぇ。

 

――仕事で訪れた先の居酒屋にフラッと入る、まさに映画の亀岡のようですね。安曇(麻生久美子)さんはいなかったようですが(笑)。

あんな居酒屋あったらいいなと思いますよ。そういう意味でこの映画はファンタジーです。麻生さんくらい綺麗な方だとカウンター越しくらいが調度いいです。真横に来られると何も話せなくなってしまいますから(笑)。

 

――麻生さんと共演されての印象はいかがでしたか?

麻生さんが演じられている安曇さんという役からは、エロスではない清楚な色気があって、内面から出る清貧さを感じました。演技に対してもすごく真摯で素晴らしい役者さんだなぁと思いました。

 

――亀岡はまったく欲のない人ですが、その辺りは安田さんとは違いますか?

この映画を観て「『水曜どうでしょう』で見る安田顕そのまま」という人もいるんですけど、欲のなさという部分では違いますね。あそこまで欲のない人なんていないんじゃないでしょうか。あ、でも亀岡というキャラクターは、この映画でも共演している宇野祥平さんがモデルの一人でもあるらしいです。宇野さんのエピソードも取り込んでいるようで。

 

――何かの役を演じている亀岡と、素の亀岡を演じるときに何か気をつけたことはありましたか?

とくに切り替えはしなかったです。『俳優 亀岡拓次』というタイトルですけど、ぼくの中では『人間 亀岡拓次』でした。亀岡って演技の上手さで選ばれている役者ではないだろうと自分の中で思っていて。そこを横浜監督も受け入れてくださっていたと思います。

 

――では、亀岡がいろいろな現場に呼ばれる理由は何だと思われていましたか?

人間 亀岡拓次として捉えたら、彼が重宝がられている部分は彼の中に流れているものだと思います。彼のスピードというか、彼の日常で流れている時間は、このせわしないご時世で少し遅い。ぼく自身は、渋滞でイライラするタイプだし、どちらかと言うとせっかちな方ですが、亀岡は全くせっかちではない。あと、自分が前に出たい人間は個性を出そうとすると思うんですが、亀岡は“没”個性。でもその“没”個性が、逆に個性になっているんだろうなと、観終わってから感じました。

 

――“没”個性とはいえ、世界的巨匠の新作オーディションを受ける場面など、めずらしく亀岡が熱くなっているのか?と感じましたが。

正直に言えば、わりとノープランで演じていました。砂漠でのシーンも「何でここを歩かなきゃいけないのかな」とか思いながらただただ歩いているだけで。でもね、スクリーンで観ると、何かしら感じるんですよね。横浜監督すごいなと思いました。

 

――安田さんはこの映画はもちろんほかの作品でも独特の存在感を放っていますが、役作りについては事前に作っていくタイプではないということですか?

最低限のことはもちろんしますが、役作りについて何かを突き詰めているかというと、していないです。

 

――三田佳子さんや山﨑努さんなど、ベテランの大先輩との共演はいかがでしたか?

本当に光栄でした。三田佳子さんは目を合わせてお話してくださるんですが、本当に綺麗な瞳をされていて、澄んでいるんですよ。無垢な少女にも見えるし、妖艶な大人の女性にも見える。とにかくスーッと引き込まれるんです。こういう目力を持った方が“女優さん”なんだなと感じました。山﨑努さんに関しては、ぼくがお堀に落ちて下から橋の上を見上げる場面があるんですが、真っ青な空を背景に橋の上から山﨑努さんが台詞で「お疲れさん!」と言ってくださるんですよね。もう、その言葉がリフレインしながら自分の体内にしみ込んでいくんです。それで、じわ~と涙が出て。そういう力を持った人が“俳優さん”なんだなと思いました。

 

――安田さんも俳優さんじゃないですか。

役者を名乗るなんて恐れ多いですよ。でも、嬉しいことに昔から応援してくださっている方々が全国にいらっしゃって、そのファンのみなさまのおかげで自分はなりたっていると思っております。それに「お疲れさん!」という台詞で人の心を揺さぶることができるか、ですよね。ああいう人が役者なんだなと本当に思いましたから。

 

――俳優 亀岡を演じている中で、俳優 安田顕が見えている部分もありますか?

『俳優 亀岡拓次』は、ぼくの素の部分に近くて、『下町ロケット』だったり、何かの役を演じるときは、それぞれまた違うアプローチがあります。何かを演じるとき、一度自分を見て、自分だったらこういう行動するだろうというところからアプローチするほうがいいかなといつも思っていて。横浜監督が狙われているのはそういう部分もあったのかなと思っています。

 

――地味な脇役人生に、不意に訪れた恋で亀岡の中に何か変わるものがあったのでしょうか?

亀岡は要するに何があっても変わらない人だと思うんですよね。それってすごく憧れる部分もあるけど怖いなとも思います。

 

――この映画は本編が終わった後も観逃せないですよね。

泣く泣くカットされてしまったシーンが、本編が終わった後のエンドロールで出てきます。とくに目新しいことではないですが、この映画が亀岡拓次の映画であることを強く感じられて嬉しかったです。亀岡はいろいろな作品に参加してきて、自分の出番がカットされて出演シーンが無いって経験もしていると思うんです。みんな言わないですけど、脇役は出演シーンがカットされることも多いですからね。だからこそカットされないように工夫したりするものですが、亀岡にはそういう欲がないんです(笑)。

 

――最後に、2016年は、TEAM NACS 20周年の年ですが、20年を振り返って今思うことは何かありますか?

20年を振り返る余裕が無くて、今生きるだけで精一杯です。ひとつひとつ積み重ねていつか振り返られるときが来るといいなと思います。今は亀岡拓次でいっぱいいっぱい。これぞ映画だなと思える映画に出会えたことに感謝ですし、手前味噌ではありますが自分が出ているこの映画を本当に面白いと思えたことが本当に嬉しい。日本映画を今後も面白くしていくに違いない、横浜聡子さんという監督の作品をたくさんの人に映画館で観ていただきたい。それだけです。よろしくお願いいたします!

 




(2016年1月29日更新)


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Movie Data


©2016『俳優 亀岡拓次』製作委員会

『俳優 亀岡拓次』

●1月30日(土)より、テアトル梅田、TOHOシネマズなんば、京都シネマ、シネ・リーブル神戸ほか全国にて公開

出演:安田顕
   麻生久美子/宇野祥平/新井浩文/染谷将太/浅香航大/杉田かおる/工藤夕貴
   三田佳子/山﨑努/ほか
監督・脚本:横浜聡子
原作:戌井昭人
音楽:大友良英

【公式サイト】
http://kametaku.com/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/168181/

★『俳優 亀岡拓次』
横浜聡子監督インタビュー
https://kansai.pia.co.jp/interview/cinema/2016-02/kametaku-yokohama.html