ホーム > インタビュー&レポート > ふたつの史実を基に日本とトルコの絆を描く感動大作 日本・トルコ合作映画『海難1890』で二役を務める トルコの名優ケナン・エジェ インタビュー
――最初に、出演オファーがきたときはどのように感じましたか?
メールでのオファーだったのですが、シナリオを読み、ものすごく興奮と感動を覚えました。日本でも撮影が行われるということ、そしてトルコと日本の合作映画であることも記されていて、こういった国際的な大きなプロジェクトに以前から参加したいと思っていましたので「ついに夢が叶うときが来た!」と興奮したことを今でも覚えています。
――シナリオのどんな部分で感動されたのですか?
トルコと日本は、距離的にも離れていますし、文化面でもかなり違った国ではありますが、人間同士の関係において、文化や言葉、民族、宗教の違いなんてことは重要ではなく、その相手が困っているときに見返りを求めず手を差し伸べることが一番大事。わたしは俳優ですので、ラブストーリーやコメディなど、どんなジャンルの作品にも出演しますが、こんな素晴らしいメッセージを発する作品に出演できることを名誉に感じました。本作は、トルコと日本の二国間の絆を描いており、この二国にとって大変重要な映画ではありますが、同時に世界の様々なところで起こっている衝突を乗り越えるためには何が必要かを教えてくれる映画でもあり、世界平和を保つためのひとつの解決策として、この映画の持つメッセージを世界中に届けるべきだと思いました。
――二役とのことですが、まず1890年、和歌山県・紀伊大島樫野(現・串本町)沖で台風に遭遇し大破して沈没したトルコの軍艦「エルトゥールル号」に乗っていたムスタファとはどんな役ですか?
ムスタファは、エルトゥールル号に責任者として乗船していた海軍機関大尉です。とても論理的な人間で、自分の任務を栄誉ある任務として受け止め、全ての任務を果たしますが、帰国途中に船が台風で大破して沈没してしまう。この事故が彼に大きな影響を与えることになります。自分の任務を完了せずに船が沈没してしまい、祖国に帰れないということだけでなく、多くの仲間を一度に亡くしてしまう。友人や同僚の無残な姿を目の当たりにし、粉々になったエルトゥールル号の残骸を見て、大きな精神的ショックを受け、自分を見失ってしまう。そこから彼を立ち直らせたのが、救出、看護活動をしてくださった日本の方々。無事に祖国に帰るための様々な援助など献身的な行為によって立ち直っていきます。
――では1985年、イラン・イラク戦争時のテヘラン邦人救出劇の時に活躍するムラトは?
在イラントルコ大使館の職員です。テヘランに残された日本人の救援をします。
――二役を演じることで難しかったことはありましたか?
とくに難しいと感じたことはありませんでした。ムスタファはオスマントルコ時代の男で、ムラトはトルコ共和国で生まれ育った男。登場する時代背景が全く違うので、自然と両者の演じ分けができたように思います。どちらも英語を話すシーンがありますが、その話し方や立ち振る舞い、衣装等全て違いますが、難しいと感じることはなかったです。ただ、このふたりのキャラクターは精神的な部分で繋がっていると思い演じました。俳優として異なる時代のふたりのキャラクターをひとつの映画の中で演じるという大変貴重な経験ができ、嬉しく思います。
――異なる時代の二役を、同じ人が演じることの意味は?
エルトゥールル号の海難事故をきっかけに生まれた、日本とトルコの絆が世代を超えて受け継がれ、テヘランでの日本人救出につながっているということが示されているのではないかと思います。
――本作は、実話を基にしていて実際に日本とトルコの友好関係は今もずっと継続されていますね。
この映画の物語は、作り話ではなく実際にあったことを題材にしています。こういったメッセージは世代を超えて語り継がれなくてはならないし、実際に語り継がれているということを映画は語っていると思います。タイトルに“海難”という言葉が使われてはいますが、そういった災害から始まって、その後の人々の活動が描かれている。暗黒だけではなく“光”を描いているのです。その光は受け継がれ、その後、お互いの国で起きた大地震でも協力し合うという風に現代に繋がっています。
――初めて日本で撮影をして、いかがでしたか?
わたしに限らずトルコの多くの人が、「日本人は礼儀正しくて人を大事にする人々」というイメージを持っていると思いますが、今回初めて日本を訪れ、それを再確認することができました。約1ヶ月の日本滞在でしたが、日本の方々は勤勉で礼儀正しくお互いを尊重しあい、振る舞いも丁寧でした。また、わたしが見た限りではもの静かな国民性だと感じました。自分たち個人よりも社会全体の調和に重きを置く人たちだと本で読んだことがありますが、現場でもそれを感じました。西洋社会では個人が一番大事という考えが主流ですが、日本では社会の調和を大事にする。現場のひとりひとりの仕事の大きさに関係なく、すべての業務をそれぞれが大事にしている。素晴らしい結果を生み出すためにそれぞれが細かい仕事に力を注いでいると感じました。
――共演した日本の俳優たちとはスムーズにコミュニケーションが取れましたか?
内野聖陽さんも忽那汐里さんも英語を話されるので、お互いに母国語が違うことで壁を感じたことは一度もありませんでした。とくに忽那さんは英語がとても堪能でいらっしゃるのでいろいろな場面で助けになりました。演技の上でも、同じ俳優をしている者同士として、いいコミュニケーションを取りながら撮影に挑めました。素晴らしい方々と共演できて光栄に思います。
――撮影以外の時間は?
内野さんとは何度かランチをご一緒して、話をする機会も少しありましたがそれ以外はスケジュールの関係で時間が取れなかったことを今でも残念に思います。忽那さんとは共演シーンも多く、少し長い時間ご一緒できたので、撮影以外でもお話する機会がたくさんありました。和歌山で滞在したホテルにピアノがあり、トルコ人の役者が即興でピアノを演奏してコンサートのようなものをしたことがあったのですが、それを一緒に聴いたり、忽那さんも少しピアノを弾いたりして楽しい時間を過ごしました。ほかの俳優さんとももちろん話す機会が何度かあり、日本での撮影はとても楽しめました。
――日本で観光はしましたか?
京都にいる間は神社に行きました。あと、会席料理、お寿司、おそばなど、日本食には恋に落ちたと言ってもいいくらい大変気に入りました。映画に映る自然も素晴らしいので、そこにも注目して観てほしいです。
※2015年2月、本作の撮影で京都を訪れていた時に行ったインタビューです。
(2015年11月 9日更新)
1980年生まれ。アメリカ・ノースカロライナ州のデビッドソンカレッジで演劇と経済学を学ぶ。卒業後、アイルランド・ダブリンのギャエイティ演劇スクールやアイルランドフィルムアカデミーで演技経験を積み、同国の連続ドラマ「Fair City」でデビュー。その後、トルコに戻り、テレビや舞台を続けながら映画に出演。12年、映画『Beni Unutma』でSadri Alışık Film and Theatre Awards最優秀助演男優賞を受賞。代表作として他に歴史映画『Yuregine Sor』等がある。映画公開待機作として、ロマンチックコメディ『Ask Olsun』、ホラー『Magi』が控えている。
★ケナン本人が撮影時の写真をたくさんアップしているのでこちらもチェック!
https://instagram.com/kenanece/
●12月5日(土)より全国公開
出演:内野聖陽 ケナン・エジェ
忽那汐里 アリジャン・ユジェソイ
監督:田中光敏
【公式サイト】
http://www.ertugrul-movie.com/
【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/164562/