「何でもテキパキ仕事がこなせる役は彼女だからこその当て書き」
大島優子、グループ卒業後初の主演映画『ロマンス』
タナダユキ監督&大倉孝二インタビュー
『ふがいない僕は空を見た』のタナダユキ監督が、『百万円と苦虫女』以来7年ぶりにオリジナル脚本を手掛け、大島優子を主演に迎えて贈るロードムービー『ロマンス』が、8月29日(土)よりシネ・リーブル梅田、京都シネマ、9月5日(土)よりシネ・リーブル神戸にて公開される。大島扮する成績トップのロマンスカーのアテンダントを主人公に、彼女が“怪しい”映画プロデューサーの男との箱根珍道中に巻き込まれていく様を描き出す。そこで、タナダユキ監督&映画プロデューサーの桜庭を演じた俳優、大倉孝二にインタビューを行った。
――タナダユキ監督7年ぶりのオリジナル脚本とのことですが、脚本協力としてクレジットされている向井康介さんは、どういう形で協力されていたのですか?
タナダ監督:主人公の鉢子と映画プロデューサーの男が箱根へ行って帰ってくる、という話の骨格は向井さんが前から書かれていて、それに私が肉付けしていったような感じです。
――箱根という場所に何か思い入れはあったんでしょうか?
タナダ監督:実はこの映画で関わるまで箱根には行ったことなかったんです。
大倉:えっ!?
タナダ監督:(東京から)1時間ちょっとで行けるし、いつでも行けると思ってて…。それで今回の脚本はガイドブックを見て書きました(笑)。行ったことのあるプロデューサーにいろいろ聞いたりしながら。後はロケハンの時に調整していけばいいやと軽く思ってて。自分で脚本を書いているからこその気楽さですね(笑)。
大倉:(映画に出てくる場所は)本当にベタですよ。ガイドブックに載っている場所しか出て来ないですから(笑)。
タナダ監督:初めに小田急電鉄へ電話した時にたまたま受けてくださった方の奥さんがもともとロマンス号のアテンダントをされていたらしくて、「アテンダントに光を当ててくださって嬉しい!」と喜んでくださり、今回の撮影が実現しました。小田急さんに断られていたら、完成しなかったでしょうね。ありがたいです。
――大倉さんが演じる映画プロデューサーのキャラクターが本当に怪しすぎてとても面白いのですが、身近な人をヒントにされたんですか?
タナダ監督:「この人!」というモデルがいるわけではないですが、いろんな人たちをミックスさせて桜庭という人物を作っていきました。桜庭が怪しいのは、プロデューサーという職業をわたし自身がいまだにどんな仕事をしているのかよく分かっていないからですね(笑)。プロデューサーって監督より個性的な人が多いと思います。プロデューサーに会うと、自分はものすごく常識人だなと思えてきますから(笑)。
――主役を演じた大島優子さんはいわずと知れた元AKB48のセンターですが、どんなイメージをお持ちでしたか?
タナダ監督:アイドルの中でも大島優子という人にはもともと興味がありました。とても明るくてキラキラしているんだけど、それだけではなくどこか憂いや影を感じさせるなと。本当に何でもできる人なので、だからこそ何でもやらされる部分もあるでしょうし、本人にしか分からない大変さも抱えているんだろうなと思っていました。なので、何でもテキパキ仕事がこなせる役どころは彼女だからこその当て書きです。あとは勝手なイメージで、足が速いとか(笑)。
大倉:大島さん、足、マジで速いんですよ。逃げるの大変でしたよ(笑)。
――大倉さんは大島さん演じる鉢子に追いかけられるシーンがありますもんね(笑)。大倉さんは共演するまで大島さんにどんなイメージを持たれていました?
大倉:僕は、失礼ながらAKB48のこと自体もたまにテレビで見かけるくらいで…。大島さんのことは、その真ん中で踊っているアイドルの子としか知りませんでした。でも、お会いしてみたら以前からの知り合いみたいな雰囲気になって、すぐに普通に仲良くダベる仲になっちゃいました。
タナダ監督:現場でも彼女は、一番若いスタッフからプロデューサーまで、たぶん誰に対しても態度は変わらないと思います。本当に誰に対しても壁を作らない人で。大島、大倉、タナダだったら、大島さんが一番しっかりしていると思います(笑)。
――でこぼこコンビな鉢子と桜庭のやりとりが本当に楽しい作品ですが、そんなふたりの雰囲気はどのように作り上げていかれたんですか?
タナダ監督:とくに何か工夫をしたというわけではなくて、撮影期間がとても短かったので、限られた時間の中だけど、おふたりが自由に好き勝手に動いてもらえればなと思っていました。
大倉:本当に打ち合わせとか全然なくて。大島さんとふたりで事前にした本読みも、10分くらいで監督に「OKです」って止められたんですよ。周りにいたスタッフも「いやいやいや」とあわてていましたが、「後は本番でやって下さい」って。そんなでしたよ(笑)。
――とくに車の中でふたりが交わす会話が絶妙でしたが。
大倉:本当にリハみたいなことは全くしなかったので、あのシーンもたまたまうまくいっただけです(笑)。
――知らない女の子の手紙を勝手に読むっていう、鉢子と桜庭の出会いも面白いですね。
タナダ監督:ありえないような出会いではあるんですが、桜庭にとってあの日は“逃げる日”で、何でもいいから理由が欲しかった。彼は映画を作る仕事をしてきた人だから、知らない女の子の手紙を読んで「コレはいけるぞ」と思ったんでしょうね。映画って嘘に嘘を重ねて作っていくものだから、鉢子の手紙なんてひとつの題材でしかなくて。だますわけではないけど利用するくらいは彼にとってたやすいことなんです。
――ふたりで過ごすラブホテルでの一夜も印象的です。
タナダ監督:大倉さんには一切説明していませんけど、桜庭は、若い女の子と1日過ごすことなってめったにないだろうし、しかも目の前で泣かれてしまい、かなり混乱していたと思うんです。そこで、彼の頭の中に浮かぶのは過去に観たいろんな映画だろうなと。それで、なんとなくした行動なのではないかと(笑)。男性ですから欲望がないわけではないんだけど、混乱を抱えての行動だろうという思いで書きました。
大倉:初めてそういう説明聞いたな(笑)。
タナダ監督:(演出しないのは)何も考えていないわけではないんですよ。説明するのって、なんか野暮でしょ。わたしは、脚本を渡して好きにやってもらった方がいいと思っているので。なので演出は一切していません。
――全く演出がないというのは役者側として不安になったりしないですか?
大倉:いろんな監督さんがいらっしゃるので、その人の船に乗ったらそのルールに従うだけです。細かく演出する人もいれば何も言わない人もいる。タナダ監督は言葉にしなくても「それでいいんだ」という顔をしていたので、不安になるようなことはなかったですね。
――タナダ監督は、今までもどこか親と子の関係について考えさせられる作品を撮られてきましたが、今回もそういうところがありますね。
タナダ監督:意識しているわけではないんですが、「家族ってやっかいだな」と思っている部分はありますね。この映画で言うと、どんなにひどい親でも子供は親を捨てきれない。わたしが逆の立場になってみても、親が望むような人間にわたし自身育ってないと思いますし(笑)。鉢子はどちらかというとまだまだ子供。だけど親の気持ちが理解できる立場にもなってきている。子供だからといって親を責めていい年齢ではもうないよね、と気付き始めた時の苦しさ。そして、桜庭は、親としての不甲斐なさや、子供のことを嫌いになれないという親の感情を入れました。わたし自身が今の年齢になったから両方の目線を入れることが出来たのかなと思います。
――年齢でいうと、大島さん演じる主人公、鉢子は26歳。その年齢だからこその感情が映画では描かれていると言えます。タナダ監督と大倉さんは26歳のときを振り返るとどんなことを考えていましたか?
タナダ監督:ハタチ頃の「若いから許される」ことがだんだん許されなくなる年齢ですよね。今のわたしから見れば26歳なんてまだまだ若いですが、当時は「若い」とは思えず「やばい」と思っていましたね。あまりにも一般常識もなく、できないことが多過ぎて。わたしの母が姉を産んだ年齢なのに、自分が母親になるなんて無理だなぁと。精神的に子供であることへの焦りがあったと思います。
大倉:ぼくは…、個人的にはフラれたりバイトがイヤだったりしてたんですけど(笑)、周りの人たちが少しずつ映像に出だして「ぼちぼち俺は(俳優業を)諦めなければいけないのかな?」とか考えて、かなり腐ってた時期だと思います。でもその後、初めて野田秀樹さんや三谷幸喜さんの舞台に立たせていただいたり、映画『ピンポン』に出たので、26、7歳の時が一番大きな転換期だったように思います。
――26歳の鉢子が最後に見せる顔。複雑な気持ちを抱えていた彼女が、少しだけ成長したのかなと感じるラストにどこかほっこりさせられました。
タナダ監督:鉢子と桜庭は偶然出会っただけで、お互いを変えてやろうとか思っているわけではないけど、結果的に鉢子にとってこの出会いは「母親への思いを整理する」きっかけになった。でも、知らない男と偶然過ごした1日だけですぐに気持ちは変わらないだろうからあいまいな間を空けています。観る人に伝わるかは分かりませんが、最後には母親に対して笑顔を向けられるという着地点にしたいなと思ってつくりました。是非、たくさんの方に観ていただきたいです!
(2015年8月26日更新)
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