菅田将暉が監督に愛の告白?
「アオイホノオ」好きもチェックしておきたい
シチュエーションコメディ『明烏 あけがらす』
福田雄一監督インタビュー
ドラマ「アオイホノオ」「勇者ヨシヒコ」シリーズや、映画『HK/変態仮面』の福田雄一監督が新たに放つシチュエーションコメディ『明烏 あけがらす』が5月16日(土)より梅田ブルク7ほかにて公開される。とあるホストクラブを舞台に、菅田将暉をはじめ、城田優、若葉竜也、柿澤勇人、松下優也ら人気イケメン俳優が競演し、借金返済の瀬戸際に追い込まれたホストと仲間たちの一夜の大騒動を描き出す。そこで、福田雄一監督にインタビューを行った。
――古典落語を元にしたお話とのことですが、本作を書かれたきっかけは何だったんですか?
もともと僕の劇団で(2011年9月に)上演した舞台がもとなんですが、そこまでさかのぼると、学生時代の話になりますよ。
――学生時代から落語がお好きだったんですか?
ストレートに落語にはまったわけではなく、映像の仕事をしたいと思ったきっかけでもあるんですが、学生のころ、川島雄三監督の作品性や生き様にものすごく憧れを抱いていたんです。今の僕の創作スタイルや仕事に対する考え方には川島監督の影響がかなりあって、今もその気持ちは変わらず、恐れ多いですが川島監督のような監督でありたいとずっと思っています。川島監督の作品はどれも大好きなんですが、代表作と言われている『幕末太陽傳』なんかは、いくつもの古典落語のエッセンスが抽出されてひとつのお話になっています。それで自分の劇団で芝居をするときに川島監督がやっておられたようなことを1回やってみたいなと思ったのがそもそものきっかけですね。
――たくさんある落語の中で何をチョイスして物語を書くかは。
『幕末太陽傳』は、遊郭を舞台に落語「居残り佐平次」がベースになっていますが、『明烏 あけがらす』では男女の設定を逆にして、ホストクラブを舞台に女の子がやってくるという話の中に様々な落語のエッセンスを入れてみました。
――学生時代からとなると構想何年なんですか?
川島監督の影響で落語を好きになってから、すぐに思いついたわけではなく、当時は気が向いたら聞くという程度でした。その後ずいぶん経ってから、古今亭志ん朝さんの落語に出会ったのが今思うと大きいのかもしれません。志ん朝さんの残っている映像素材とか買い揃えて。その頃は、車のCDチェンジャーの全部が落語でした。古今亭志ん朝さんの落語ってものすごくポップなんです。そこで割りと火がついて、その影響が一番強く出たかもしれません。
――確かに、本作は落語のイメージが変わるくらいポップな映画ですね。とくに、シリアスな演技で評価されることが多かった菅田将暉さんがコメディでこれまで以上の演技力を光らせている気がします。
ワンシチュエーションなので、役者さんがうまくないと画面がもたないんですよね。菅田くんの演技力があってこそのワンシチュエーションです。彼の演技力がなければ映画として成立しなかったでしょうね。
――菅田さんの演技力については以前から注目されていたんですか?
今回、監督として一緒に仕事するのは初めてなんですが、脚本家として関わった作品で彼の演技を見て「菅田将暉くんって人、すごく上手ですねぇ」ってプロデューサーと会話したことを覚えています。その後も、彼の出演作品をいろいろ見させていただいてて、上手な役者さんだと認識はしていました。そんな中「菅田くんが福田さんのこと好きみたいですよ」って噂が耳に入ってきて。
――そんな噂が(笑)!
数人から聞いたんですが一番言っていたのが女優の高畑充希ちゃんで、NHK朝の連続テレビ小説「ごちそうさん」で菅田くんと共演したときに「菅田くんが福田さんはどんな人だって、うっとうしいくらい聞いてくる」って僕に言うんですよ(笑)。その後、山田孝之くん主演で上演した舞台「フルモンティ」を菅田くんが観に来てくれて「福田さん大好きなんです」って直接言ってくださって。そこでは「何かでご一緒できたら~」なんて話をしましたけど。
――完全に愛の告白をされた状態ですね(笑)!
今回いろいろなスケジュールの関係で撮影期間があまり取れなかったので、ギリギリの勝負だなと思っていたんですが、そこで僕の作品を好きで今までも観てくれていたという状況は意思の疎通が早いなと。菅田くんがあれだけの演技テクニックを持っていて僕の作品への理解もあるとなるとなんの心配もないなって。
――福田監督作品に流れる空気は今までの作品を見ているのと見ていないのでは確かに違うでしょうね。それは観客も同じで、ドラマ「アオイホノオ」を見ていた人なら、菅田さんが肩をトントンと叩くシーンなんかは爆笑ものです。
あれ、菅田くんのアドリブなんですよ。
――えー!!! 菅田くんのアドリブなんですか!
ムロツヨシさんとか佐藤二朗さんとかのノリって、僕の作品を見たことがない役者さんにはわけ分からないと思うんです(笑)。しかも、あのふたりはアドリブのところも結構あって。ふたりとも本番までネタを隠しておくし(笑)。アドリブひとつするにしても、ふざける方向性がありますよね。菅田くんはずっと見てきてくれていたから、いわゆる“アリ”なアドリブをしてくれるし、ムロさん、二朗さんの無茶なアドリブにも演技を止めずに返せてしまう。僕の作品に出るのは初めてなのに、まるで常連かのような立ち振る舞いをしてくれました。
――福田監督の作品らしいリズムが生まれていましたね。
実は今回みんなそうだったんですよ。城田優くんも若葉竜也くんも新井浩文くんも今回初めてでしたが、みんな僕の過去作を観てくれていたので、僕の好きなリズムやどういう言い方をすればその台詞が活きるかを分かってくださっていました。なので、ひとりの女性を除いては全く手間が掛かりませんでした(笑)。
――そのひとりの女性とは、今回オーディションで選ばれた吉岡里帆さんのことですよね?
撮影ではあまりテイクを重ねない方なのですが、彼女に関しては10テイク、15テイク撮りました。
――そんなに納得がいかなかったんですか?
納得がいかないと言うか、彼女の素を撮りたかったからです。オーディションで会ったときに、お芝居のベースは上手なんですがそこじゃなくて話してると見えてくる素の状態が面白いと思って。でも、もちろん彼女は女優さんですし、自分なりの演技プランを持って現場に来るんです。ちゃんと演技をしてその台詞を話す。でも、僕的にはそれじゃないんですよ。結局、「そうじゃない」「そうじゃない」と僕に否定されて、10テイクを超えたくらいに自分の札がなくなってきて素が見え始めて。僕はそれを待っていたんです。そこを「素で」と指示しても役者からすると難しいんですよね。それを引っ張り出すためにテイクの回数をバカみたいに増やしました。
――では、撮影は苦労しましたか?
彼女、人柄が良くて本当に可愛らしい方なので現場でもスタッフみんなに愛されていたから、テイクを重ねることに関しては誰も嫌な顔をせず、「がんばれ!」「がんばれ!」という空気でした。そういう撮影が出来たのもこの作品にいい影響を与えたのではないかなと思います。そういった背景もふまえて観ると面白いかもしれません(笑)。是非、多くの方にご覧いただきたいです。
(2015年5月12日更新)
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