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「楽器の練習をきっかけに
 楽器以外のこともチームとして作られていった現場」
『マエストロ!』小林聖太郎監督インタビュー

 第12回文化庁メディア芸術祭で優秀賞に輝いたさそうあきらの同名コミックを『毎日かあさん』の小林聖太郎監督が映画化した『マエストロ!』が大阪ステーションシティシネマほかにて上映中。一度は解散したものの再結成することになったオーケストラが、胡散臭い指揮者と天才フルート奏者を得てコンサートに向かっていく姿を描く。そこで、小林聖太郎監督にインタビューを行った。

――監督を務められるにいたったきっかけを教えていただけますか。
2011年の4月か5月頃に、プロデューサーから原作の漫画をすすめられたのがきっかけですね。
 
――原作は、さそうあきらさんの人気コミックですが、読まれたときの感想はいかがでした?
最初は「コレを映画にするのは難しいな」と思いました。すごく面白い話だけど、漫画は楽器ごとのオムニバスで構成されているので、映画では主軸となる話を作り直さないといけないということと、プロのオーケストラの人たちの話なので、下手な子たちが練習してうまくなるのと違う。正確ではあるけれど、あまり面白くない演奏が、魂の込もった演奏になるって、78点だった演奏が95点になるというような感じ。この差を伝えることができるのか。そもそも役者がプロの演奏家を演じることも、ちょっと準備したぐらいでは出来ないでしょうし、ものすごく頑張らないといけないのに伝わらない可能性がある。漫画ではその奏でる音が絵で表現されますが、実際に音も出さないといけませんしね。ハードルも高いし、リスクも伴うなと思ったんです…。でも、『かぞくひけつ』のときからそうですけど、毎回ネガティブから入るんです(笑)。
 
――そこから映画化に踏み切ったポイントがあったんですか?
いつも何かひとつでも引っかかりがあればやろうと思っているんです。音楽と命を同じようにとらえているお話がとても面白いと思いましたし、映画監督と指揮者ってどこか似ているものがあるなと感じていたので、「難しい」という理由で映画化を諦めるのは惜しいなと。でも、それから本格的に映画化が始動したのは2年後ぐらいですね。その2年間はいろいろ準備をしていました。
 
――2年間の準備期間にはどういったことをされたんですか?
クラシック音楽の知識がほとんどなかったので、今回音楽を担当してくださった上野耕路さんに、とにかく分からないことを聞いてみようというところから始まりました。でも何が分からないのかも分からない状況で…(笑)。それならと、上野さんが「大学で教えている音楽史からやってみる?」と言ってくださって、教会音楽の発展とか交響曲の概論から現代音楽に至るまで、あとベートーヴェンはどんな人だったのかみたいなことや、『運命』を聞きながら総譜を指で追いかけて「こんなに早いのかー」と気づかされたりしていました(笑)。それと、指揮者の方やオーケストラの方に取材に行ったり。面白かったですけど、これが本当に映画になるのか不安でしたけどね。でも、2年の準備期間があったからこそ、いろいろ勉強できたし、映画を作る上でも良かったと思います。
 
――かなり勉強されたんですね。同じようにキャストの方々も大変苦労されたようですが。
手だけをプロの演奏者に吹き替えるとかは絶対にやりたくなかったので、撮影の1年ほど前に松坂(桃李)くんにお会いしてバイオリンを渡しました。そのときは素直に「頑張ります!」と言っていましたけど、大変さが分かっていないかもしれないと思って「ものすごく大変ですよ」と3度言って念押ししました(笑)。
 
――では松坂さんは1年かけて練習されたんですね。
でも、ほかの映画や舞台のお仕事もありますからねぇ。しかも映画で演奏する曲をすぐに練習するのではなく、弓の引き方から始めて「ド~」とかロングトーンの練習ばかりしていました。最初は「基礎が大事なんやな」と思えますけど、あまりにもずっとその練習をしていたので「そろそろ『運命』の練習に進んでもええんちゃうん?」と思いました。でも、先生の指導で次は『きらきら星』の練習に入って。「え~っ?!」と思いましたが、先生は「ここに全部が含まれています」と仰っていました。『運命』の練習をし出したのは撮影の2~3カ月前になってからでした。ちょっと焦りましたが撮影直前に急に出来始めて、すごいもんですね。
 
――西田敏行さんの指揮指導は佐渡裕さんなんですよね。
意外な感じですが、佐渡さんが日本映画に関わるのは今回が初めてらしいです。本当に忙しい方なので、スカイプでウィーンとつないでやり取りをしたり、ビデオメッセージを送ったりしました。すごいですよね、2010年代って感じがしますね(笑)。(西田さん演じる)天童という男は教則どおりの指揮をしない、けれども音楽的に間違っていないものに作り上げていきたかったので大変苦労しました。
 
――普通の映画つくりとは違った面も多くありそうですね。
普通は衣装合わせでキャストもスタッフも初めて顔を合わせることが多いのですが、今回はもっと前からみんな練習してるので顔見知りで、楽器の練習をきっかけに楽器以外のこともチームとして作られていったので良かったですね。ちょっと今までにない現場でした。
 
――miwaさんが演じるのは阪神淡路大震災を経験した少女の役ですが、描く上で気を配ったところはありますか?
露骨に描くのは難しいけれど、理屈じゃなくて音楽がすべてを表してくれると思ったところはありますね。それでもどう受け入れられるかは観た人のとり方次第。いろんな見方をしていただけたらと思います。
 
――ほかにも様々な濃い面々が登場します。おなじみのテントさんの登場が嬉しいですね。
僕の映画3本全てに出ている人が実はふたりいるんです。テントさんと水木薫さん。しかもテントさんは『かぞくのひけつ』で天道っていう役だったんですよ。そのときは適当に「テントさんやからテンドウでいいや」みたいな感じだったんですけどね。今回は原作に天童って出てきて、撮影で天童さんとテントさんが鉢合わせる場面では「天童さんこちらに~」って言ったらテントさんが聞き間違えて動いたりして、「天童さんは中!テントさんは外!」って。ややこしいことになりました(笑)。
 
――ハハハ! この映画をきかっけにクラシックを普段から聞くようになりましたか?
そうですね。以前は、バンドの音楽とかどんな曲でも何百回も聞いていると嫌になってきましたが、『運命』『未完成』は全然飽きないんですよ。考え尽くされた音の重なりなんでしょうね。起承転結があったりしてシナリオの勉強にもなるなと思いました。
 
――では、最後にメッセージをお願いいたします。
音楽面で言えば、やっぱり映画館の大音量でいい音を聴いていただきたいです。家で見るにはもったいないです。あと、音楽だけではないところもあって、会社でも町内会でも国家間でも、人間が集団を作ると何かしら絶対もめるんですよね。でも、組まざるを得ない相手もいますし、そういう人たちとしっかり向き合って一緒にやっていくことが連帯。そういうことも感じていただけたらと思います。どうぞよろしくお願いいたします!



(2015年2月 6日更新)


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小林聖太郎 Profile(公式より)
こばやし・しょうたろう●1971年生まれ。大阪府出身。1994年関西大学法学部政治学科卒業後、ジャーナリスト今井一の助手を経て、原一男監督主宰の「CINEMA塾」に参加とともに、TVドキュメンタリー「浦山桐郎の肖像」の助監督を務める。その後、フリーの演出部として『ナビィの恋』(99)、『ゲロッパ!』(03)、『ニワトリはハダシだ』(04)、『パッチギ!』(05)、『雪に願うこと』(06)など多くの作品に参加。2006年、デビュー作『かぞくのひけつ』により第47

Movie Data




©2015『マエストロ!』製作委員会 
©さそうあきら/双葉社

『マエストロ!』

●大阪ステーションシティシネマほかにて上映中

【公式サイト】
http://maestro-movie.com/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/164642/