ホーム > インタビュー&レポート > “肉体を使って表現する”ことへの憧れ 『百円の恋』安藤サクラ インタビュー
――ボクシング経験がもともとあったと伺ったのですが、どういう理由からボクシングをされていたのですか?
中学2年生くらいに、不良への憧れで「ボクシングやってるってなんかカッコイイかな」と思って始めたんです。でも、実際はやり始めると不良とは正反対な感じでものすごく真面目にボクシングに取り組んでいました(笑)。この前、新井(浩文)くんにその話をしたら「ボクシングをやることが不良なんじゃなく、不良が更生するためにボクシングを始めるので逆じゃないの?」って言われてハッとしました(笑)。
――確かに (笑)! その中学2年生ころには、女優になりたいというような気持ちも芽生えていたのですか?
華やかな世界への憧れというより、“肉体を使って表現する”ことへの憧れがありました。今思えば、俳優としてではないですけど映画の現場を初めて経験した時期と、ボクシングに出会った時期がほぼ同じなんです。その時に抱いた憧れに『百円の恋』で、ひとつ近づけたという感じはします。だからオーディションも受けたいと思ったのかもしれません。
――“映画”と“ボクシング”に熱中していた中学生だったのですね。
中学でボクシングを始めた頃に、ちょうど『ガールファイト』という映画が公開されて。その頃、女の子でボクシングをする人って少なかったと思うので、それを観て「いいな」という思いと同時に「ちょっと悔しい」っていう思いが芽生えたことを覚えています。それからずっと、いつかボクシングものの映画に関わりたいという気持ちがどこかにあって。だからここまで、この作品というか一子さんという人を作り上げていくことに勝手に執着したんでしょうね。
――700通以上の応募があったオーディションを勝ち抜き、ヒロイン一子役をゲットしたとのことですが、応募のきっかけは?
募集の記事を見た母に「受けてみたら」と言われて。自分が演じなかったとしても絶対完成作を観たいと思う脚本でした。何より試合のシーンに興奮しましたね。
――オーディションに向けての意気込みは?
意気込みみたいな熱い気持ちとは、ちょっと違って、本当に魅力を感じていたその気持ちを素直に伝えようと思っていました。もし自分が演じられるのであれば、一子としてこの映画で一子のようにぐちゃぐちゃになるまで一緒に闘ってみたいという気持ちでした。
――では、具体的にはオーディションでどういうことを心がけられたのですか?
わたし、だらしのない女性の役を演じることがわりと多いので、そういう役柄が続くことを気にした時期もあったんです。でも、この一子という役であれば、逆にうんこでもケツの穴でもなんでも映してくれ!という気持ちはありました。
――そして、オーディションに見事合格! 一筋縄ではいかない役ですがどんなお気持ちで演じられていたのでしょう?
自分が出来ることは何でもやろうと思いました。今振り返ってみると、やっぱりこの役を演じたかったんだなぁって思います。あとは、今回で言えばだらしない一子の容姿に説得力がないと嫌でした。序盤の一子の見た目に説得力があるのと無いのとでは作品の魅力も左右すると思っていました。
――では、一子のキャラクター像に関しては安藤さんが作り上げていったところが大きいのですか?
どうやって一子を作っていくかについては監督と一緒に細かく考えていきました。わたし、中学の頃ボクシングをして、沢山のことを学んで、すごく感謝しているんです。28年間の人生の中ですごく重要でわたしにとって大切なもの。だからこそ、後半の一子に関してはボクシングの関係の方に映画だからとか俳優さんがやるボクシングだからとか思われるボクシングにはしたくない。ボクシングには一切の妥協をしたくなかったんです。
――安藤さんの演技を見て、武監督もイメージが膨らんでいったでしょうね。
最初の脚本の段階での一子のボクシングはそこまでしっかり描かれていなかったんです。でも10数年ぶりにボクシングをやったにしては意外とわたしの身体が覚えていたので、監督の中でドラマが広がったようです。それで、このくらいまでうまくなればいいんじゃないかという制限が無くなって。目標は「とにかく“うまく”“強く”なってください!」になっていました。準備期間の3ヶ月でどこまでいけるか。どんなに過酷なことでも「来やがれ、この野郎!」の精神でやろうと腹をくくっていましたから、ボクシングの練習も身体作りも本当に死ぬ気でやりました。「死ぬ気でやる」という言葉の意味が本当に理解できたというくらい死ぬ気でやりました(笑)。
――だらけきったニートからシャープなボクサーに変貌を遂げていく一子に圧倒されました! どんなトレーニングをされたのか教えてください。
撮影期間は2週間と短い期間だったので試合のシーンは最後に撮ったんですが、それ以外のシーンは順撮りではなかったので、ボクサー体型にしぼった期間は撮影中の10日間です。プロになるつもりで過酷なトレーニングして、最終的には「プロテストを受けてみない?」というお誘いまでいただけて。心が揺らぎました(笑)。でも、実は1日の撮影の中で、太ってないといけない場面とボクサー体型じゃないといけない場面を撮ったこともありました。
――えぇ? それは、見せ方の工夫があったということでしょうか?
見せ方ではなく、気の持ちようで顔つきって変わるんですね。最初の一子さんは身体も顔も全ての筋肉を弛緩させていました。その撮影のすぐ後にボクサー体型にしぼり始めたシーンの撮影となったら、10分くらい休憩をいただいて、むくみを取る簡単なマッサージを自分でしたり、ミットを打ったり。全身の力をグッと入れてどうにか撮りました。
――共演されている新井浩文さんと一緒にトレーニングされたのですか?
ものすごく過酷な撮影だったけど、新井くんと一緒だったから頑張れたんだと思います。試合の場面の撮影日を本当の試合日として設定して、前日が計量日。計量前は水一滴も飲めなかったり…。新井さんとは、俳優としてそういうところが妥協できないってところが同じなので一緒に楽しみながら頑張れました。スケジュールや減量、身体作りなど、体力的にはかなりキツくて身体はすり減っていくばっかりだったけど、精神は摩耗しない。スタッフの方々も含め、一緒に戦ってくれていたので救われましたし、常に精神的には満たされていて本当に幸せな現場でした。
――そして、最後にリングに立つ一子を観て涙が出ました。
もちろんトレーナーの方や監督と台本通りに細かく動きをつけていますが、本当の試合のつもりで挑みました。対戦相手役の女性とも息を合わせる練習もずっとしていて、信頼関係が出来ていたから撮れたシーンで、いわゆる「作りもの」にはなっていないと思います。
――「立って死ね!」と声をかけられる場面なんか鳥肌ものでした。
あの時は本当に死ぬんじゃないかと思っていました(笑)。
――『0.5ミリ』で最高の安藤サクラを観たと思っていたら、すぐにまた『百円の恋』でそれとは違う最高の安藤サクラを観ることができました。この2作品が立て続けに公開されて心境の変化があるのでは?
自分でも、『0.5ミリ』と『百円の恋』という2作品がほぼ同時期に公開を迎えて、何かの節目というか大切な年になったなと本当に思います。『0.5ミリ』の方は、宇宙で一番わたしのことを見てきた姉(安藤桃子)が監督なので、今まで生きてきた28年間のわたしのいろんな表情を引っ張り出された感があって、『百円の恋』では、その後に残った肉体を使いきったという感じです。
――そこまで気合を入れて演じたとなると、撮り終えた後は一子が抜けなかったりしたのでは?
わたし、そういうのは無いんです。トレーニングしているときとか、クランクアップしたら泣いちゃうかな? もしかしたら、ぽか~んってなっちゃうのかな? とか自分でも想像していたんですけど、最後の「OK!」を聞いた後はひゃっほー!ってスキップしていました(笑)。でも、1週間2週間経ってからじわじわと身体にも精神的にもガタがきたり、その後、トレーニングを続けたりはしていないけど、無性にボクシングがしたくなることはあります(笑)。
――最後のひとこと。
武監督らしい楽しくて、すごくカッコイイ映画だと思います。すごく興奮する映画です。映画館から家まで走って帰ってしまう方、急増中だそうです! 是非、多くの方にご覧いただきたいです。よろしくお願いします!
(2015年1月10日更新)
●1月3日(土)~2月13日(金)、
シネ・リーブル梅田
●1月17日(土)~2月6日(金)、
京都シネマ
●1月17日(土)~2月13日(金)、
元町映画館
●2月下旬より、第七藝術劇場
●2月28日(土)より、塚口サンサン劇場
●3月21日(土)より、立誠シネマ
にて公開
出演:安藤サクラ/新井浩文
根岸季衣/稲川実代子
早織/宇野祥平
坂田聡/沖田裕樹
吉村界人/松浦慎一郎
伊藤洋三郎/重松収/ほか
監督:武正晴
脚本:足立紳
【公式サイト】
http://100yen-koi.jp/
【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/165856/