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「初監督は僕にとっては“責任を負うことができる”という喜び」
向井理&片桐はいり主演の映画『小野寺の弟・小野寺の姉』
西田征史監督インタビュー

 2008年公開の『ガチ☆ボーイ』以降、テレビドラマから映画化もされた『怪物くん』、『妖怪人間ベム』、アニメ『TIGER&BUNNY』などヒット作の脚本を数多く手がける西田征史が自身の同名小説を映画化した『小野寺の弟・小野寺の姉』が大阪ステーションシティシネマほかにて大ヒット上映中。向井理が引っ込み思案で奥手な弟を、片桐はいりが好奇心旺盛で生真面目な姉を演じ、東京でふたり暮らしをする姉弟を取り巻く人々の温かくも切ない日常を描きだす。2013年に同じキャストで舞台版が上演され、好評を博した作品だ。そこで、本作で待望の映画監督デビューを果たした西田征史にインタビューを行った。

――『怪物くん』『妖怪人間ベム』など、今まで人気のある原作ものを数々手がけられていて、その脚本には原作ファンからも定評があります。そういった作品の脚本を書く上で気をつけていることはどういうことでしょうか?

そうですねぇ、原作ものを担当するときは、原作のある作品の脚本を書かせてもらっている。借りているわけですから、その作品を崩しては失礼だと常に思っています。どうしてもメディアが違うから変えないといけない部分はありますが、肝となる部分は大事に残して、変えた部分もコレはコレで良かったと思ってもらえるように作り込まないといけないなと思っていますね。

 

――今回はオリジナル脚本の映画化。しかも待望の初監督ですね!

初監督は僕にとっては“責任を負える”“責任を負うことができる”という喜びでした。つまらなかったらつまらないで僕の責任。なので、責任を負える立場にやりがいを感じましたね。だからこそ、細かいところまで気を使っています。関わってきた作品に対する思いや愛情は常に一緒のつもりですが、今回は監督という役職だからこそ、ほかの作品より細かいことまで考えさせてもらえたのが面白かったです。

 

――舞台版と映画版、どちらも西田さんが書かれた同名小説が基となっていますが、そもそも小説を書くことになったきっかけは何だったのですか?

『怪物くん』『妖怪人間ベム』『TIGER&BUNNY』の脚本を書いていた頃に「小説でも書きませんか?」というお話をいただいて。スケールの大きな話が続いていたので、今度はいわゆる普通の人間の些細な話を書いてみたいなと思ったのがきっかけですね。

 

――では、姉と弟のふたり暮らしを中心に描いた話となった原点は何だったのですか?

どんな話を書こうかなと思っていた時に、偶然ニュースで、50歳の引きこもりが70歳の母親を殺してしまった事件を目にして。50歳の引きこもりがいるということに「なんだか異様だな」とまず驚いたんですけど、ふと、コレが20年前から引きこもっていたのだとしたら30歳の引きこもりと50歳の母親で、今で言うと普通にあるなと。それで、もしかしたら、ふたりの生活は変わっていないけど、20年という時が異様に見せているのかなと思った時に、年月が過ぎてしまっただけで本人らは変わっていないのに周りから異様に見られてしまうふたりの話を書いてみようと思ったんです。そこから適齢期を越えて、ふたりきりで暮らす姉と弟の話になっていきました。

 

――発想の原点が殺人事件と聞くと、映画の中ではほのぼのとしていた姉弟のその後が少し心配になりますね。

んー、まぁ物語の先があるとしたら、いろんな展開がありえるとは思いますが、今回僕が提示したかったのはある決まった幸せの形だけが人生のゴールではないし、こういう生き方もあるのかな? ということです。今って、勝手に情報が入ってくる時代で、他人と何でも比べてしまって今の自分ってコレでいいのかなと悩んだりする人も多い。でも「いろんな生き方があってもいい」と押し付けがましくなく、描けたらと思いました。

 

――舞台化や映画化を念頭に考えて小説を書かれたのですか?

そうですね。せっかく書く以上は転用できたらいいなと思っていました。いきなりオリジナルで映画化のチャンスってなかなか来ないですし、原作小説があったほうが企画も通りやすいことを知っているので可能性は感じながら書いていました。

 

――先に舞台版、それから映画版という流れは?

実は映画化の話のほうが先だったんです。去年公演した舞台のタイミングは何をするかは未定な段階で契約だけ結んでいたんです。それで、映画と舞台を連動させてみました。だから、実は映画の話を考えた後に舞台を考えたんです。

 

――映画版の企画のほうが先だったんですか! 舞台と映画では発声方法などに違いがあるはずですが、同じ役柄を舞台と映画で演じ変える上でおふたりと相談などあったんでしょうか?

舞台表現は、発声も違いますし、身振り手振りも大きくないといけないので、舞台ではそういう演出をしました。でも、向井くんはそれが「どうしても気持ち悪い」「生理に合わない」と言うことが何度かあって、実は少し衝突があったんです。気持ちの落ち込みひとつでも「嘘でも顔を上げて悲しみを表現しないと」と僕が言っても、向井くんは「この場面では目線上がらないです」と。でも、舞台のDVDの編集作業をしていると、向井くんが目線で表現している演技がやっぱり正解で、映像で見ると素晴らしいと思いました。それで、あぁ、あの時は僕が無理させようとし過ぎたかなと思っていたら、そのDVDを見た向井くんは「舞台表現としてアレは違ってたと思いました」とこの前言ってくれてました。

 

――ふたりの理想の演技は同じだけど、舞台という場での表現が食い違っていたということですね。では、ある意味、映画が完成形のようなところがあるのでは?

そうですね。なので、映画は思ったとおりに演じてもらって、それが僕も答えだと思っていたので、映画は無理なく演じてくださっています。舞台があったからこそ、ふたりはすごく自然に絶妙な空気を醸し出すことができたんじゃないかなと思いますね。

 

――今回、映画だからこだわったような要素はありますか?

テレビドラマなんかだともうちょっと説明が求められますが、せっかくの映画なのでなるべく最小限の台詞に抑えるところは気をつけましたね。だから感情の変化や意味なんかを、細かく見ていないと感じていただけない作りになっていると言いますか。その辺が映画だからできたかなと。でも、そもそもテレビドラマにはなかなか許されない地味さだと思うので(笑)、こういうテーマで描くことが映画だからこそかもしれないですね。断片ではなく、最初から最後まで観て、全体を味わっていただくのが映画だと思うので。舞台で目線だけの演技で伝わらないものが映像なら、より感じてもらえる。特に今回はおふたりの芝居がとても良いのでじっくりとワンカットで見せることでふたりの距離感やただ動いている姿だけで何かを感じてもらうことが出来ると思います。それらは全て映画だから出来たことだと思います。

 

――小ネタなどコメディ的な要素もある中で、絶妙の“間”をワンカットで撮っていますよね。おふたりの呼吸が合っているからこそ撮れたところがありそうですね。

映像って編集でカットできますし、現場での“間”はそんなに気にしなくていいのかなと思っていたところもありましたが、その場のお芝居が良ければカットを割らないで見せられるんですよね。特に今回はふたりの距離感を見せたいお話なので、カットをあまり割らない方がいいだろうなと思っていました。僕の芝居ってどちらかと言うと結構テンポが早いのですが、舞台をやったときからふたりのテンポやリズム感は近かかったし、芝居の理想のテンポが僕ら3人(西田&向井&片桐の)は結構似ている気がします。僕自身、無駄な間が嫌いなので意味のない間を極力排除していますが、そういった感覚もおふたりと一致していたので、絶妙な芝居が無理なくワンカットで撮れたのかなと思います。

 

――特に“ふたりの距離感を見せたいお話”とのことですが、具体的にはどういった距離感なのでしょう?

大家族のドキュメンタリーとか好きで観たりしますが、各家族によって親子の距離感って違うんですよね。やっぱり今回は自分が体験してきた家族の距離感が出ているんだろうなぁと思います。どこか僕の理想が出ているのかもしれないですね。親子でも気遣い合うことってあって、このふたりも些細なことですがお互いを慮り過ぎてしまうような距離感がある。「自分の感じる家族の距離感を撮りたい」と初めから思っていたわけではないですが、やっぱり自分の中にある家庭像ってこういうことなのかなと映画を撮り終え、今振り返ってみて思います。

 

――ふたりの距離感は本当に自然でした。アドリブ部分もあるのですか?

基本的な台詞の部分でアドリブは一切ありませんね。音楽がかかっていてふたりが楽しんでいるような場面ではとくに台詞を用意せず、台本には“自転車に乗って楽しそうなふたり”としか書いていなくて。その場で「こう言って」「こっちに歩いて」と指示して動いてもらうことはありました。

 

――監督によって演出方法は異なりますが、西田さんは結構細かい演出をされるのですね。

今まではもっと細かかったですね。「あそこの言い方が1拍遅い」「もうちょっと強く」とか言っていました。でも今回は、もう芝居が出来上がっていて「それが答えだな」と思えたので、今までで一番演出が少なかったと思います。

 

――映画監督としての演出と舞台での演出では心境に違いがありましたか?

どちらも喜びや楽しみは違うんですよね。舞台にはお客さまに生で見ていただく喜びもありますし。でも、とにかく映画監督としての仕事は「幸せ」でした。僕、妄想癖があるんですけど(笑)、頭に浮かんだものを具体的にしたくて物語を作っているので。舞台は生ものですから日々変化するけど、映画はカット割りも音楽も自分で決めて「コレだ」と思うものを作り、完成したものをブレることなく世の中に出せる。コレが一番僕の頭の中にあるものを具現化するには幸せなコンテンツなんだなと感じました。

 

――片桐はいりさんと向井理さんを姉と弟にするという案はどこから?

「あの二人が姉弟? 見えないじゃん!」みたいな世間の反応に逆に驚いています。僕はふたりを以前から知っていて、ふたりが醸し出す空気やふたりが持つ人としてのルールみたいなものがすごく似ているなと以前から思っていたので。世間に違和感を与えるつもりはなく、家族、姉弟という設定をおかしいとはまったく思わずキャスティングしたんです。はいりさん自身「遺伝子的におかしい。ありえない!」とおっしゃっていましたけどね(笑)。

 

――ハハハ(笑)! 片桐はいりさんはイメージ通りの印象がありますが、向井さんに関してはこういう役柄は意外な印象を受ける方も多いと思います。普段の向井さんは今回の役のような雰囲気があるのですか?

役者だからもちろんいろんな役柄を演じますが、本質的には飾り気がなく嘘くさくない人間なので、今回の役柄のような空気感を持っていると思います。向井くんとは『ガチ☆ボーイ』の時から友達付き合いがあるんですが、僕が知っている彼はいたずらっ子で愛嬌のある男です。クールでカッコイイ感じの役を演じることが多いので向井くんの素の可愛らしさを出したいなという欲求は常にありましたね。

 

――山本美月さんなど、主人公のおふたりを囲む周りのキャストも魅力的です。

山本美月さんは圧倒的に可愛らしい方なのでそこをうまく切り取りたいなと。向井くんは初めての方とすぐに打ち解けて話せるタイプではないので、最初はその全然喋らない距離感で良かったんですけど、2回目はデートのシーンだったので、そこは僕が橋渡し的なことをしました。「ふたり、同じ大学なんだよね?」とか言って話のきっかけを作って、ふたりから同じ教授の名前が出てきたところで僕は去っていく、みたいな(笑)。カメラが回っていない時間の空気も大事で、それがフィルムに出ると思ったので演出しました。

 

――全てのキャストがひとりひとり魅力的でおひとりずつエピソードをお伺いしたいくらいです!

みんな憎めない人をキャスティングしています(笑)。及川光博さんが演じた(片桐はいり演じる姉が密かに思いを寄せる男)役なんて、演じる人によっては最終的に悪役にも見えるかもしれないけど、どこか浮世離れしていて天然なのかなと思わせる方なら許してもらえる。及川さんが常にそういう空気を出しているわけではないのですが、王子様でもありますし、及川さんの持つ雰囲気が以前から好きだったのでお願いしました。「今までにない雰囲気を撮りたい」と及川さんにも話して、センター分けで毛先をカールさせたヘアスタイルにコーデュロイの服を着て、ホワッと丸い印象を与える感じにコーディネイトして、憎めない印象を強調しました。

 

――確かに及川さんの浮世離れ感は憎めないです(笑)! あと、KKP(小林賢太郎プロデュース)公演『LENS』で西田さんと役者として共演されていた大森南朋さんのキャスティングも気になりました。

『LENS』で共演して以降、仲良くしていただいていて。友達としての関係がずっと続いた中で今回初めて出演していただきました。麻生久美子さんもそうですけど、もともとプライベートの知り合いで「ちょっと出てもらえませんか?」とお願いしたような人がほとんどです。今までの経歴が縁になり、それが自分の財産になっているのは本当にありがたいことだなと思っています。

 

――そのひとりひとりのキャラクター描写が深く、愛を持って描いているのが伝わります。そういった人物像を作り上げる上で影響をあたえているものは何でしょうか?

職業柄、普段から言葉の裏側や本音はどこにあるのか常に考えてしまうところがあるんです。この人はこういう人なんだろうなとか会話していて感じるようになってしまっています。中でも特に気になるのが人への配慮があるかどうか。乱暴な言葉ということではなく、デリカシーがない言葉遣いとか。どうしてこの人はいちいち人が傷つくような表現するのかなとか感じてしまって、必要以上に傷ついてしまったり。そういうところが自分自身で嫌なこともありますけどね(笑)。

 

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――繊細なんですね。女性の感情描写も見事で、多くの女性が共感を生むであろう場面が多くありました。

ターゲットを「女性だ」「男性だ」と意識したことはないのですが、女性を描くときに“女性らしさ”を無理に入れることはやめようと常に意識しています。男性らしさとか女性らしさとか意識せずにひとりの人間としてその時どう感じるかを書いたつもりですが、最終的にそうやって女性に共感していただけたら嬉しいですね。

 

――最後に、今後の展望について教えていただけますか? 役者はもうされないんですか?

役者はもう辞めているつもりで、自分の肩書きは脚本家だと思っています。今後は、脚本家を中心としながら、数年に一度、自分の撮りたいものを自分のオリジナルで発表していけたら幸せかなと。この映画を撮り終えた時は、次はテーマが真逆のものを撮りたいような気持ちにもなったんですが、完成した映画を観ると、自分の根底にあるのはやっぱりハートウォーミングだなと思いました。老若男女が愛せて、誰でも観られるエンタテインメントを突き詰めてみようかなと今は思っています。ディズニー的というか。そういった作品を作れたら幸せだなと思います。ひとまず『小野寺の弟・小野寺の姉』を多くの方に劇場でご覧いただけたら幸いです。よろしくお願いいたします!




(2014年10月29日更新)


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西田征史 Profile
にしだ・まさふみ●1975年、東京生まれ。08年公開の『ガチ☆ボーイ』で初めて映画脚本を手がけ、『半分の月がのぼる空』『おにいちゃんのハナビ』『映画 怪物くん』『妖怪人間ベム』『アフロ田中』など話題作を執筆。またテレビドラマ脚本のほか、『ママさんバレーでつかまえて』(NHK)では演出も手がけ、11年からのアニメ『TIGER&BUNNY』の映画を含む全作の構成と脚本を担当している。

Movie Data





© 2014 『小野寺の弟・小野寺の姉』製作委員会

『小野寺の弟・小野寺の姉』

●大阪ステーションシティシネマ
 ほかにて上映中

原作:西田征史
   「小野寺の弟・小野寺の姉」
   (リンダパブリッシャーズ刊)  
監督・脚本:西田征史 
出演:向井理/片桐はいり 
   山本美月/ムロツヨシ
   寿美菜子/木場勝己
   麻生久美子/大森南朋
   及川光博

【公式サイト】
http://www.onoderake.com/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/164469/

★向井理&片桐はいりが登壇した舞台挨拶レポートはこちら
https://kansai.pia.co.jp/interview/cinema/2014-10/onoderake-event.html