ホーム > インタビュー&レポート > 「何かをやるごとにストレスが渦巻いては爆発していった」 それぞれのストレスが“爆発”した『クローズEXPLODE』 山本又一朗プロデューサー&やべきょうすけインタビュー
――『クローズ』シリーズは、映画を観た後、自分が強くなる気分になるんですよね。で、帰り道で「どっかで黒い服でも買うか」みたいな(笑)。そういう高いテンションにまで観た人の気分を持っていくのって、相当な影響力ですよね。
やべきょうすけ(以下、やべ):それは取り組んでいる僕たちも同じです。みんな“EXPLODE(爆発)”している。決してオラオラ系ではないんですけど(笑)、みんな想いをぶつけあっていて、まさにカラスの集まり。時にそれが大きな力になる場合も有るし、逆に時間を使って腹を割って話しあいを要することもある。出演者も映画畑だけでなく、違うフィールドで表現者として活動している面々が多いですから。背負っているものがそれぞれあったし、だからこそピリピリ感もあるんです。
――監督も、『ZERO』シリーズの三池崇史さんから豊田利晃さんにバトンが渡りましたし、確かに『クローズ』の前2作とはまた違うカラーになっていますね。
やべ:豊田さんは、若い人が映画を観て、自分たちが実際に抱いている苦しみ、悩みに重ねられるようにしていますよね。自分たちのモラルはどうあるべきか、という人間ドラマに焦点をあてている。
山本又一朗(以下、山本):三池崇史監督の体質と、そして豊田利晃監督が脈々とやってきた体質の大きな違いの中に、『クローズ』のサブジェクト(主題)がさらされていく。どういうことかというと、三池監督は素晴らしい才覚をもってして作品の規模感を広げていき、大きな流れを作り、『クローズZERO』を大衆的なレベルにまで引きあげていった。その力量感は圧巻だった。対して豊田監督は異質な作家であり、とてつもなく深みがある分、規模感を広げる部分に三池監督とは大きな違いがあった。演出も深く詰めていって、自分がイメージする世界へ近づけていく。今回の映画にはそれが色濃くあらわれている。
――『クローズ』という大看板と、豊田監督の作家性が今回は絶妙にブレンドされていると思います。『青い春』もそうでしたが、豊田監督は“外の血”が注入されたときの作品ってすごく良いんですよね。どこかで自分自身性が抑圧されてしまって、そのモヤモヤした感じが劇中の不良の鬱憤とかヤバさへとつながっているような。
山本:以前までの「大きな違い」というのはまさにそこなんです。藤原(永山絢斗)という今作最大のヒールのキャラクターがいますよね。彼は、宿敵・柴田(岩田剛典)と闘うけど全然折りあっていかない。『クローズ』シリーズが持つ喜びとは、闘った者同士がやがて氷解し、ひとつになっていく分かりやすいものを前提としていたんです。しかし藤原はそれを破棄し、どこまでいっても相容れない。そういう描き方をしてくる豊田節に関して、最初は「どうしようか」と思ったんです。しかし、これが豊田監督の持ち味でもある。最後は「“豊田クローズ”をやろう」と彼の本質に賭けました。
――そういう折りあわないイヤ~なムードこそ今回の見どころだと思うんです。たとえば、いつまでも若いつもりでいる上の世代がどれだけ歩み寄っても、若者たちは遠ざかっていくような気持ちの溝とか。
やべ:山本プロデューサーがおっしゃるように、『クローズ』には融合というテーマがありながら、しかし藤原みたいな人間もいるんだということですよね。いろんな表現のなかで、僕や山本プロデューサーとは違うエンタテインメントのとらえ方が、豊田監督にはあった。きっと、大作を手がける上で自分の想いと反する部分はきっとあったはず。
山本:今『新宿スワン』という来春公開の映画で園子温監督と仕事をしているのですが、彼は最初の頃、メジャー映画を作りたくても誰にも相手にされなかった時期があった。低予算で映画を作り始めて、「自分の映画」の証しとして過激な線をとり、世に認知される方法論を生みだしていった。それでもメジャーの映画会社に企画を持って行くと「園子温って誰?」「大丈夫なんですか」「メジャーな映画を作れるんですか」と言われるわけです。僕からすれば「あなたたちの“メジャー”って何なんだ」と思うんです。ただ、映画は確かに私小説ではなく、エンタテインメントとして莫大なお金をかけて観客に楽しんでもらうもの。豊田監督には最初に「これはメジャー映画だから、良い指揮をして、もし君とは違う意見が挙がったとしても、そこに集まったスタッフ、キャストの能力を糾合してくれ。『俺のやりたいことはこういうことだから、この通りにやって欲しい』という気持ちは、今回はやや狭義になるかも知れない。それでも、メジャーを意識してもらえないか」と。おそらく、豊田くんの体からは軋みの音がしていたでしょう。
――主人公の鏑木旋風雄(東出昌大)と行動をともにする桃山春樹役の奥野瑛太さんなんかは、主演映画『SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』の関西公開時、大阪に一週間滞在して毎日、映画の衣装を着て街中をチラシ配りをして回っていたんですけど、そういう根底的にインディペンデントの精神性を持つ人たちと、パッケージやルックとしてのメジャー感のせめぎあいが、『クローズEXPLODE』にはありますよね。
やべ:山本プロデューサーには、そういう「自分の世界でやってきた人」をメジャーに引きあげたい気持ちがあるんだと思います。でも、そうするには重大な責任がともなう。それでも、そのすべてを背負ってくださるんです。
山本:キャスティングにしても、今回は特に異種格闘技。でも、キャスティング担当に対して「なぜこの出演者なのか」という疑問も僕は抱いたこともあるし、映画作りのプロセスとしては『ZERO』よりも平坦ではなかった。
――脚本家でクレジットされている向井康介さんにしても、『リンダ リンダ リンダ』『マイ・バック・ページ』『もらとりあむタマ子』といった山下敦弘監督作品などを手がけてきた名手だけど、『クローズ』に参加するというイメージは全然なかった。そんな向井さんが加わっているところが、まさに異種格闘技ですよね。
山本:向井君や、あともうひとりの共同脚本・長谷川隆君は、僕ややべきょうすけが持っている不良性感度があまりないんですよ(笑)。理知的で構成力はすごくあるけど、不良性感度が高い自分としては、そこにある種のイラだちも生まれるんです。だけど、向井君はよく耐えて脚本を書いてくれた。きっと、俺のことを恨んでいるんじゃないかな(笑)。それくらいの欲求不満を、みんなが抱えてやっていたと思う。
――そう! 『クローズEXPLODE』ってストレスが充満しているんですよね。なるほど、それぞれのストレスがそのまま焼きついているんですね。
やべ:そして、そのストレスが“EXPLODE”する。振り返ればこの『EXPLODE』というタイトルを考える時点から、ストレスは始まっていたかも知れない。『ZERO』を超えるタイトルが全然決まらなかったんですよ。頭を悩ませていたときに、山本プロデューサーの「EXPLODEはどうだ」の一言ですよ。まさにそこで「それだ!」と爆発した。
山本:そうそう、神戸のホテルで決まったんだよね。「やべちゃん、今日は決まるまで部屋には返さんぞ」って。みんなヤケになっていて、『カラスの勝手』とか酷い案まであった(笑)。
やべ:そうやって、何かをやるごとにストレスが渦巻いては爆発していったんです。だからこそ、この映画は最後の最後まで観て欲しいんです。エンドロールでも、席を立たないでください。そんなストレスの中で、これだけのスタッフ、キャストが関わっているんだと実感して欲しいです。
(取材・文:田辺ユウキ)
(2014年4月 9日更新)
●4月12日(土)より、
TOHOシネマズ梅田ほかにて公開
出演:東出昌大/早乙女太一
勝地涼/KENZO/やべきょうすけ/
深水元基 /ELLY/岩田剛典/
永山絢斗/柳楽優弥/ほか
原作:髙橋ヒロシ『クローズ』(秋田書店)
脚本:向井康介
監督:豊田利晃
【公式サイト】
http://www.crows-movie.jp/
【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/162866/