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新しいアニメーションフェスティバル
《GEORAMA2014》ってどんなの?
作品プログラマー土居伸彰インタビュー

 かねてより多くの国内外のインディペンデントアニメーション作品の上映を行ってきたレーベル「CALF」が、2015年秋に国際アニメーションフェスティバル《GEORAMA》を立ち上げる。これに先行して、「第ゼロ大会」とナンバリングされた《GEORAMA2014》を4月12日(土)より東京・吉祥寺バウスシアター、6月に山口情報芸術センターで、そして7月に神戸アートビレッジセンターにて開催する。作品プログラマーをつとめるのは、アニメーション研究・評論・紹介を精力的に行う土居伸彰。その活動を通してアニメーションの概念を拡張させ続ける土居に、《GEORAMA2014》のみどころを軸に話を訊いた。

──まず《GEORAMA》のコンセプトから教えていただけますか?
これまでCALFではたくさん上映イベントを行ってきましたが、それとはまた別にフェスティバル形式で開催したいという考えが最初にありました。コンセプトとして、僕たちが「アニメーション」という言葉から抱くものと異なるイメージを持つ作品を積極的に紹介したいと思っています。日本では広島国際アニメーションフェスティバルが昔からあって、さらに東京では今年から東京アニメアワードフェスティバルが始まって、そういったフェスティバルは、ある意味でとても「アニメーションど真ん中」な作品を紹介していると思うんですけど、《GEORAMA》はその領域を広げるイメージを持った作品にフォーカスするというコンセプトから始まっています。
 
──今回は未公開長編を中心としたラインナップですが、作品を選ぶときに意識されたことはあるでしょうか?
上映作品の中に共通しているものがあるとすれば、おそらくそれぞれの作品がユニークな“声”を持っているということですね。商業作品の世界では、たとえばアメリカならピクサーの3DCG、日本だったらいわゆる「アニメ」のスタイルがひとつの基本としてあって、そのバリエーションですべてが成り立っているところがあると思うんです。どちらがいい悪いじゃなく、今回はそれらとは違う文脈でアニメーション表現が使われているかどうかに着目しました。だから作品によってはアニメーションが全体の20パーセントくらいしかない作品もあるんです。アニメーションを実写に混ぜていたり、もしくはドキュメンタリーに混ぜていたり。そういった作品は、言い方は悪いかもしれませんが、アニメーションをひとつのツールとして使っているとも言えますが、逆に考えれば、作家がアニメーションの可能性を、商業作品とは違う形で発見していると言えるんじゃないかと思うんです。普段アニメーションを作っていない人がアニメーションを使うとどうなるのか、という部分での発見もあるだろうし。アニメーションって今すごく注目されていて、様々な側面から新しい可能性が発見されつつある状況だと思うので、むしろそこに焦点を当てたい。それはこれまでのCALFの活動とも少し違った展開になるとも思うんですね。CALFは短編アニメーションの世界にいるので、最初はその世界のことをアピールしていたんですが、今では自分たちと違う世界、つまり狭義のアニメーションの外側にいる人たちが、どうアニメーションを使っているかというところも含めて紹介したくなってきているんです。
 
──実写とのミックスということからも、アニメーションファン以外の層にも訴える力のあるフェスティバルが期待できますが、お話にあった“声”というキーワードもポイントになりそうです。詳しくきかせて下さい。
声というのは先ほどは比喩的な意味で使いましたが、具体的な意味でも「声」は重要です。これまでCALFで紹介してきた短編アニメーションというのは、基本的にはセリフが少なく、どちらかといえば、ヴィジュアルと音の関係で見せるものも多かった。でも今回は、一般的な長編アニメーションに比べても異様にナレーションが多い作品がたくさんあるんですよ。作品のなかで発せられる声自体と、映像が持つイメージがぶつかってゆくことで、今までのアニメーションとは違った独特のイメージが生まれてくる作品をプログラムしました。まだ神戸で実現できるかどうかは未定ですが、東京では「暗闇のアニメーション」という特別企画もあります。これは7年以上のロングランになっている七里圭監督の『眠り姫』の映像を遮断して音だけを響かせる『闇の中の眠り姫』を上映します。劇場の中の灯りもすべて消してしまい、暗闇の中で本当に声だけを響かせる状態で。さらには、『おかえりなさい、うた』という生西康典さんの「音の映画」も併映する。映像の存在しない音だけの映画で響く声を聴いたとき、お客さんの頭の中には、イメージが勝手に浮かんできてグニャグニャと変容すると思うんですね。それをアニメーションと呼んでみようという試みです。僕が以前紹介したドン・ハーツフェルトも大量のナレーションを使う作家でしたが、「声が持っている喚起力」は今回も間違いなく重視していますね。
 
──ハーツフェルトは音の組み方の面白い作家でしたね。また今回はミシェル・ゴンドリーの作品『背の高い男は幸せ?』(上記写真)も話題になっています。この作品も“声”という視点から観ることができそうでしょうか?
これはまだ大規模には公開されていない、去年アメリカのいくつかの映画祭で上映された新作です。ミシェル・ゴンドリーが、ノーム・チョムスキーという著名な言語学者にインタビューに行き、その音声と映像をもとに手描きでアニメを作っています。この作品、どうもゴンドリーにとっては、長編やPV制作の息抜きのようなパーソナルなプロジェクトとして進めてきたものらしくて。だからこの映画にはふたつの意味でのユニークな声が響くんですよね。チョムスキーの声と、ゴンドリーの「誰かからの要求でもない、自分自身の作りたいもの」。そのふたつが幸運な出会いを果たした作品だといえます。非常にパーソナルなあたたかみがあるし、普通であれば身構えてしまうようなチョムスキーの言語理論をヴィジュアル化してある意味で単純化することによって、観る人の中へスッと入ってくるようになっている。アニメーションというフォームになることで、チョムスキーがどのように世界を眺めているのか、世界の謎に対してどんな風にアプローチしているかが、あたかも彼の頭の中をのぞくように伝わってきます。この作品がアニメーションであることの意味はそういうところにあるし、結果的にとても愛らしい作品に仕上がっていますね。ゴンドリーの他の長編とも違う“息遣い”が聴こえてくるような親密さを持つ作品です。
 
──チョムスキーの言語理論は文字で読むとかなり骨が折れるものですが、予告編を観るだけでも随分と印象が変わりますね。子供にも親しみやすいものになっているかもしれません。
チョムスキー本人もお気に入りらしくて繰り返し観ているし、子供や孫にも観せているそうです。彼にとっても優れたアウトプットとして機能しているようですね。
 
──「国内未公開長編アニメーションショーケース」部門には、他にも6作がプログラムされています。今の気分で1本ピックアップして、みどころを教えてもらえますか?
アメリカのクリス・サリバンという作家の『コンシューミング・スピリッツ』ですかね。サリバンは普段はシカゴの美大でアニメーション制作を教えている方で、神戸会場にはなんと来日します。黒坂圭太さんが10年以上かけて完成させた『緑子/MIDORI-KO』というアニメーション作品がありましたよね。『コンシューミング・スピリッツ』はアメリカ版『緑子/MIDORI-KO』のような作品で、クリス・サリバンが中心となって15年以上かけて作った2時間を越える大作になっています。切り絵と立体の人形アニメーション、あとドローイング・アニメーションを混ぜ合わせて、アメリカ郊外の田舎町の少し病んだ人間関係を描き出している。アメリカが抱える闇を照らし出すものでもあるし、人間が持つ尊厳、哀しみなど様々な感情を踏まえた上でその闇を肯定しているといえます。“アメリカのリアリティ”が湧き出してくるというか。基本的にアメリカのアニメって、ディズニーだったりピクサーだったり、現実と切り離されて展開するエンターテインメントであることが多いと思うんです。でもこの作品はそうではなく、アメリカのネイティヴな人たちの声が生きている。脚本もよく出来ていて、本当に人間を深く描いている作品なんですね。アニメーションでこんなに人間の感情の機微が鋭く描かれたものはなかなか無いと思うし、今まで観たことの無いようなものになっていると思います。
 
──「アメリカ」や「哀しみ」という点では、ハーツフェルトに似たエッセンスもあるでしょうか?
そうですね。通じる部分もあると思います。今のアメリカで生きる個人の中にある哀しさだったり、ちょっと夢見がちな感覚。たぶんそれは日本に住んでいる僕たちとも関わってくるものだし、そういう人たちがパーソナルなレベルで持つ感覚をうまく掴み取っていますね。
 
──土居さんがお好きな作家の特徴に、「内省的でありつつ閉じていない」ところがあると感じているんです。
それはもう間違いないと思います。僕は最初、ユーリー・ノルシュテインというロシアの作家の作品が好きでこの世界へ入ってきたんですが、やっぱりそこにもノルシュテイン自身のパーソナルな世界の見方や息遣いがあった。ノルシュテインやハーツフェルト、今回上映するクリス・サリバンたちって、決して自分を特別な人間だと思っていない。単なるひとりの人間、匿名ともいえる存在、つまり僕らと同じスコープの当て方で自分たちの物語を話している感じがあります。今回の「長編アニメーションショーケース」プログラム作品はいろんな形式で作られていて、一般的な商業作品のような作りのものもあるけども、「絵空事のような世界」を描くのではなく、共通して「実際に今、この世界に生きている私たちの声」が反映された作品が集まったんじゃないかなと。見た目は様々なスタイルになっていても、そういう部分で共感、理解してもらえるのではないかとも思いますね。
 
──個人の小さな物語がアメリカという大きな物語へつながるということで、唐突にマイケル・チミノ監督作『天国の門』を思い出したんですが、いかがでしょう?
その点からすれば確かに同じかもしれません。もし『天国の門』と少し違うところがあるとすれば、アメリカの“インディペンデントのリアリティ”が色濃く反映されている点だと思うんです。『天国の門』では登場人物たちが世界の大きな流れに巻き込まれてゆきますが、僕が紹介しているアニメーションは、そういう激変する世界の荒波にもまれるような形ではなく、描かれるプライヴェートな世界の中である意味自立しているんですよね。外の世界と一見、没交渉にも見えるんだけど、ぼんやりと外側のことが入り込んできている。アニメーションには個人作家が部屋かどこかに閉じ篭もって作っているイメージもあります。そこはちょっとした「凪の空間」というか、風の止まる場所、休息の場所のようでもある。世の中から少し離れたその場所に居る人たちが自己のリアリティを描くんだけど、結果的には自分たちのコミュニティの外の想像力ともつながっていく。大きな世界と直接的にじゃなく、何か“予感”のような形でつながっている。そういうつながり方が『天国の門』と違うのかもしれないですね。
 
──密室から世界へ、というインディペンデント独特の回路を持っているということですね。
時代的なものなのか何なのかは少し分からないんですが、僕自身がアメリカのインディペンデント映画や音楽を好きなのは、社会や世界とのつながり方にリアリティを感じるからなんです。そこにあるリアリティは今回の《GEORAMA》での上映作、CALFの紹介作品が一貫して持っているものなのかなという気もしています。
 
 
 これまでのCALFの紹介作品が短編中心だったのに対し、長編作をメインプログラムに据えているのも《GEORAMA2014》の注目点だろう。また土居が作品選定を手がけ、全国で人気を博する企画《CALF presents 変態アニメーションナイト2014》も4月5日(土)より大阪・テアトル梅田、京都シネマで開催。タイトル通り、視覚を通して意識を“変態=メタモルフォーゼ”させる作品群のインパクトには大いに期待したい。
 
 
                     (取材・文/ラジオ関西『シネマキネマ』)



(2014年3月31日更新)


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土居伸彰 Profile
どい・のぶあき●1981年東京生まれ。アニメーション研究・評論。東京造形大学非常勤講師。日本アニメーション学会理事。アニメーションについての歴史的・理論的研究とともに、ウェブサイト「Animations Creators & Critics」やレーベル「CALF」などの活動を通じて、国内外の優れたアニメーション作品の上映企画や執筆による紹介を行なっている。海外の映画祭に向けては日本のインディペンデント作品の上映プログラマーとしても活躍(カナダ、ポーランド、メキシコ、インド、

Movie Data

『パラダイス』
© Ryo Hirano/FOGHORN


『オーラ』
© National Film Board of Canada

《GEORAMA2014》

●4月12日(土)~25日(金)
 吉祥寺バウスシアター、
 6月20日(金)~22日(日)
 山口情報芸術センター、
 7月18日(金)~25日(金)
 神戸アートビレッジセンター
 にて開催

【公式サイト】
http://georama.jp/

★CALF
http://calf.jp/

★神戸アートビレッジセンター
http://kavccinema.jp/


Movie Data

《CALF presents
変態アニメーションナイト2014》

●4月5日(土)~11日(金)、
 テアトル梅田、京都シネマ
 にて公開

【公式サイト】
http://wonder.calf.jp/metamo_night/

★テアトル梅田
http://www.ttcg.jp/theatre_umeda/

★京都シネマ
http://www.kyotocinema.jp/


関連情報

(C)2014 CALF

『ワンダー・フル!!』

●4月12日(土)~18(金)
 テアトル梅田、京都シネマ
 5月17日(土)より
 神戸アートビレッジセンター
 にて公開

【公式サイト】
http://wonder.calf.jp/wonderfull/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/164089/

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世界の映画祭が注目する日本人アニメーション作家、水江未来が1年365日毎日1秒分を手描きした新作『WONDER』を筆頭に、ベネチア映画祭を皮切りに各国の映画祭で話題となった『MODERN No.2』や劇場初公開の『FANTASTIC CELL』など全14作を長編にまとめた唯一無二の“水江ワールド“が堪能できる作品。