ホーム > インタビュー&レポート > 「人間の普遍的な在り方をそのまま描いただけ だけど、その姿ってけっこう笑えると思う」(三浦) 『愛の渦』三浦大輔監督、池松壮亮インタビュー
――大根仁監督がポツドールの舞台を映画化した『恋の渦』が昨年、大阪でも話題になりました。そこに『愛の渦』を三浦さんがご自身で映画化するニュースが飛び込んできて、公開をとても楽しみにしておりました。そもそも企画のはじまりは三浦監督からだったんですか?
三浦大輔監督(以下、三浦監督):いえ、僕発信ではないんです。プロデューサーの方が舞台を観て「『愛の渦』を映画化しませんか?」と言ってくださって。それで「やらせてもらえるならやります」って。
――『愛の渦』は(演劇界の芥川賞と言われる)岸田國士戯曲賞も受賞し、初演(05年)、再演(09年)、さらに海外での公演もあるんですよね。監督にとって、劇団にとってどんな位置づけの作品なんですか? 数々書かれた戯曲の中でも特別な思い入れのようなものがあるのでしょうか?
三浦監督:そうですねぇ。賞もいただいたりして、長い付き合いになったなぁとは思っています。でも最初の発想は単純に「人のスケベ心が露わになる瞬間が見たいな」ってだけ。そんな自分の欲求だけで作った作品でした。それが、時間が経つに連れて知らぬ間に深みが出ていって、自分でも後から意味づけを理解していったところも、正直あって。何も考えずに作ったのに意味を持ってくることってあるんですよね。こういうのって計算して出来るものではなくて(笑)。だから、特別に代表作というような思いは正直ないんです。それぞれの作品にそれぞれの思い入れがありますしね。
――舞台版から映画化する中で、描き方に違いを持たせたところはありますか?
三浦監督:実は方針に大きな違いがあります。舞台の場合は乱交パーティに観客が参加しているような錯覚を味わうような状況の臨場感や空気感を出すことに重きを置いていたのですが、映画の場合はそこではなく登場人物(とくに男1、女1)の感情を丁寧に描くことで、舞台と同じテーマにたどり着こうという大きな違いがありました。
――そういえば、映画を観ていて、あの部屋にいるような感覚になりました!
三浦監督:舞台だと必然的に俯瞰で観ることになるので“のぞき見”している感じになるけど、映画は中に入ってその空気を体感してもらえるように撮ったつもりでいます。僕は、決して映画的な技術を持っているわけではないけど、あえて寄りのショットを長くしたり。寄りって人の表情をおさえるための手法と思われがちだけど、あえて状況を見せないことで体感しているような観方ができる撮り方を心がけてはいました。状況を見せないことで客観的になることを忘れさせるというか。やっぱり引きで見ると、一瞬、我に返っちゃうでしょ?
池松壮亮(以下、池松):三浦さんは主観と客観のバランスがいいなぁと思っていましたが、そういうことだったのか…。今、分かりました(笑)。
――映像で伝わるから省く、映画だからこそ足したというような要素はありますか?
三浦監督:映画だから、というのは無いですね。ラストにファミレスでのシーンがあって、舞台は場所を動かせないけど映画だから足したと思われがちですが、あれはふたりの主人公の感情を見せていく中で、必要になったから足しただけ。ふたりの感情を追っていくと、あのシーンがないと映画が終われなかったんです。舞台は状況、映画は感情を見せると方針を変えたことで必然的にあのシーンは生まれたんです。
――あのラストシーンの池松さんの表情が印象的でした。キャスティングの決め手はどこにあったんですか?
三浦監督:池松くんが出ている作品は以前から何本か観ていて、その独特の存在感が気になっていたんです。その場のコミュニケーションから生まれたものを信じて、演技をする真摯な姿勢。すごくシンプルなことですが、そこがしっかり出来る俳優はあまりいないと思っています。本当に正直な役者さんだなと思って気になっていたんです。あと、いい人の役を演じてもどこか黒く見えたり、黒さの中に爽やかな部分もあって、その混在の仕方が池松くんはいいんですよね。人間って善と悪が行ったり来たりする曖昧なものだと思うし、その両面が混在していて頭の中で渦巻いているのが人間だと思うから。
――池松さんは台詞がほとんどなかったですが、感情表現が大変だったのでは?
池松:この作品に限らず、「台詞が少ないと演じるのが大変」とかよく聞きますが、僕は全然そう思わなくて、ラッキーとか思っちゃう(笑)。この役に関しては、人に対する恐怖心を持っているというだけ。僕は人前で笑うことも出来るし言葉を発することも出来るけど、それを彼は知らなかっただけ。
三浦監督:でも、意外と性欲は彼が一番強いかもね。相手に対して言葉に出来ない分、肉体で求める部分が強いのかもしれない。これ、今気づいたことですけど(笑)。
――この映画に出る決意を固めたポイントは? また演じてみていかがでした?
池松:「大変だったんじゃないか」「よく決断したね」とかよく言われますが、男だし、決意とか全くないですよ(笑)。台本が面白いんだから脱ぎますよ。演技の上で多少の緊張感はもちろんありましたが、面白かったです! もともとベースがある作品なので、それについて三浦さんからお話されたことは覚えていますが、役柄に関する話はほとんどしなかったですし、撮影中に芝居に関してどうこうというのもなかったですね。信頼関係が出来ていたので、僕が大きく反れれば言ってくれるだろうし、僕は単純にその場を信じて演じたという感じです。
――乱交パーティに集まった男女が見事にバラバラな個性を持っていますが、キャスティングのポイントは?
三浦監督:池松くんがまず決まって。女性は全員オーディションでしたが、そこからはバランスを考えて逆算していって。演技力とバランスですね。
――女性役に何を求めましたか?
三浦監督:女性をビッチだったり、いやらしい存在として描くのって男目線で面白いですけど、今、そういうの多いんですよね。だから、そういう風にはしたくなかったんです。主役の門脇(麦)さんの役をそういう感じに出来たかもしれないですけど。それで池松くんが振り回されるとか。そうすることで、即物的な面白さは得られたかもしれない。でも、こういう設定だからこそ、敢えて、女性が共感できるようなものにしたかったんです。登場する女性を「この女バカだな」「変わってる」と思うのではなく「わたしでもありえそうだな」と思えるように、女性の共感も得たかったんです。
――おふたりから見た門脇さんの魅力ってどういうところだと思いますか?
三浦監督:門脇さんを見た瞬間に「この人は何かあるな」と思いました。でも、その存在感に最初からピンときたから選んだというわけではありません。1回目のオーディションで門脇さんしか残らなかったんですよ。それで、門脇さんがもしダメだったらこの作品自体が流れるかもしれないという事態になって。とは言え、そんな状況でも、自分が納得しなければ選ばないつもりでいました。1回目のオーディションで彼女に注文したことが2回目にお会いしたときにクリア出来ていて、そこで彼女は信用できるなと思ったので決めたんですよね。僕は「この人だ!」と直感で選ぶというより、ある程度の信頼関係が出来ないと選べないんです。
池松:僕も見た瞬間「あ!」と惹きつけられましたし、この子は信用できるなという感覚は確かにありましたね。三浦さんがよく言う「ちゃんと自分の価値観で生きている」という感じで。何やっていても寂しそうなんですよね。笑っていても寂しそうだし。何がそんなに寂しいの? って、くらい(笑)。どういう人生を今まで送ってきたの? と聞きたくなる。すごくいい意味でね。それが彼女の魅力だと思います。
三浦監督:孤独なんだよね。何か。
――では、役柄のイメージそのままといった感じですね。
三浦監督:撮影していく内にどんどんそうなっていったところもありますけどね。そこら辺はさすが女優さんだなとホント思います。撮影を進めていく内にどんどん役になっていって、僕が思ってもいないような表情を見せてくれたり。池松くんもそうですけど、とくに演出をつけるわけではなく二人を記録するような、ドキュメンタリーのような感覚で撮っていました。
――人間の本質的なものが見えてくる面白さに興味を抱くようになったきっかけはありますか?
三浦監督:別に幼少期に何かあったとか、大きなトラウマがあるとかではないんですよ(笑)。人と接していて「こいつ裏ではどうせ、こう思ってんだろうな」とか思うことって、みんなあるでしょう? それをみんな意識して覚えてはないんだろうけど、僕の場合は、それを机の前で思い出し脚本にしている。本を書くために覚えていないといけないから、そういう意識が働いて、そのときの光景が頭にインプットされるんでしょうね。これは才能でも何でもなくて、覚えてないと書けないから。
――結構、共感を生むことを想定しているんですね。
三浦監督:「こういう瞬間あるな」と思わせることが、一番てっとり早く、お客さんを引きつけるポイントだと思っています。それを積み重ねながらどこまで深いところにたどり着けるか。ただ、あるあるだけを並べるのではなく、そこからどうやって深く掘り下げられるか。そこは自分の想像力だったり価値観だったりするんですけどね。結局は共感してもらおうという気持ち。『愛の渦』も、最初のぎこちない雰囲気で「分かる分かる」と観客を入らせていくんです(笑)。
――R18+設定なので18歳未満は観られないですが、どういう人に観てほしいですか?
三浦監督:“乱交パーティ”“スケベな人たち”。そんなキャッチコピーが並んでますから、奇抜な映画っていうか、「とんでもないものを見せられるんじゃないか」と思う人も大勢いると思うんです。特に女性に。でも、映画好きな人たちだけじゃなくて、例えばOLさんとか、そういう普通の人に観てもらいたくて、間口を広げて作ったつもりです。分かりやすいですし、ポップでしょう? 劇場に足を運んでさえいただければ面白がってもらえると思う。人間の普遍的な在り方をそのまま描いただけですが、その姿ってけっこう笑えると思うんです。だから、あまり警戒しないで、気軽に映画館に足を運んでほしい。「観る前は怖かったけど、観たら全然面白かった」そんな普通の感想が聞きたいんです。映画マニアのゴタゴタはあんまり聞きたくない(笑)。
池松:入口は奇抜だから勘違いをしている人もいるかもしれませんが、三浦さんってエログロ好きな映画マニアみたいなタイプの人ではないんです。どうやったらお客さんが面白がってくれるかしか考えていない。この作品も健全なエンタテインメントだと思います。観てもらえれば分かることで、面白いから「面白いよ」としか言いようがない(笑)。関西の人はどう観るのか気になりますね。
三浦監督:東京より関西の人の方がゲラゲラ笑って観てもらえるかも。客を挑発して、突き放すような作品ではないし、こんなタブーに挑戦したぞっていう“やってやったぞ感”みたいなものもないです(笑)。見知らぬ男女が一軒家に住む某テレビ番組「○ラスハウス」と同じだと思ってもらってOK(笑)。「○ラスハウス」を見ているような人に見てほしいな(笑)。「裏○ラスハウス」! いいかもしれないですね。
(2014年3月 6日更新)
●3月8日(土)より、テアトル梅田、
京都シネマ、シネ・リ-ブル神戸にて公開
原作・脚本・監督:三浦大輔
出演:池松壮亮/門脇麦
新井浩文/滝藤賢一
三津谷葉子/中村映里子
駒木根隆介/赤澤セリ
柄本時生/信江勇
窪塚洋介/田中哲司
【公式サイト】
http://ai-no-uzu.com/
【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/163790/