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「この映画がきっかけとなり、
 何か始めたいと思ってもらえれば嬉しいです」
『女たちの都~ワッゲンオッゲン~』
祷映(いのり・あきら)監督インタビュー

 過疎・高齢化、少子化と現代日本の抱える諸問題が凝縮された熊本県天草市牛深。“衰退都市日本一”とさえ言われるこの田舎町を、頼りにならない男どもに代わり復興させようとする女たちの友情と活躍を描いた人情コメディ『女たちの都~ワッゲンオッゲン~』が11月9日(土)より、梅田ガーデンシネマ、京都シネマにて公開に。大竹しのぶ、松田美由紀、杉田かおる、西尾まりら実力派女優が織りなす、年齢を超えたパワーに満ちたアンサンブルが楽しい本作を手掛けた祷映(いのり・あきら)監督にインタビューを行った。

――この映画を撮ったきっかけから教えていただけますか?
「以前、映画学校の顧問をしていたときに「どうしても天草の映画を撮りたい」という天草出身の女の子が入学してきて、1年映画の勉強をして天草を舞台にした映画の企画書を持ってきたんです。内容は、天草のとあるスーパーマーケットが葬儀屋になると聞いた、そこで働くおばちゃんたちが職を失わないために地元の踊りである「ハイヤ踊り」で盛り上げてスーパーマーケットを再生させようといった内容でした」
 
――最初の企画と映画の内容は少し違っていますね。
「その内容でも面白かったのですが、企画書のままでは映画にできない状態だったので、とりあえずその舞台となっている場所へ取材に行ったんです。実際にその場所に行くとスーパーマーケットはなく既に葬儀屋になっていました。それで、10日間ほどの取材旅行でいろんな方の話を聞いて。舞台となった場所とは違うのですが、以前ロケで来たことがあった天草の牛深という町も訪れてみたんです」
 
――取材ではどんな話が聞けたんですか?
「以前は遊郭があったというその町には、ほかの場所にはない独特の風情がありました。それで、だったら歴史に根付いた町おこしをやってみてはどうだろうと思ったんです。そんな歴史を踏まえての取材が出来たので面白かったですよ。あと、天草は衰退都市ナンバー1と言われているんですが、それが面白いなと思って本作を撮ったというところもありますね(笑)」
 
――取材を経て、テーマが変わっていったんですね。
「そうですね。そんな町にメイド喫茶を作る話はどうだ!? とか考えたり(笑)、本当に紆余曲折ありました。台詞にもあるのですが、男の原動力は“女”と“金”。それはいつの時代も一緒。日本は全国そこかしこにシャッター商店街があり、震災もあった。日本の閉塞感を以前から感じていたので、この映画で人々が昔を思い出し、仲のいい家族を作りたいと思ってくれたらいいなという思いもありました」
 
――愛する自分の町のために、女が町おこしをする本作。女の強さを描いた理由はありますか?
「僕が本当に思っているからですね(笑)。今までの仕事を振り返ると、優秀な後輩はみんな女性でした。また僕自身、父親を早くに亡くしていて、祖母、母、姉ふたり、妹という女5人に囲まれた状況で育ったので、女性への尊敬もあります。男が女性に逆らえることなんて何ひとつないと思っていますね(笑)」
 
――そんな強くたくましい女性を演じるのが大竹しのぶさん、松田美由紀さんら豪華な女優陣。このキャストが演じるからこそ説得力もありますね。
「実は脚本の段階から、出ていただける保証もないのにイメージして書いていたんです。イメージどおりの方々に出ていただけて本当に良かったと思います」
 
――豪華キャストたちが揃った撮影現場はどのような雰囲気でしたか?
「みなさん一流の役者さんで、細かい台詞の言い方などアイデアも出してくださいました。西尾(まり)さん以外、みなさん年上ですし、良い緊張感を持って撮れたので良かったと思っています」
 
――確かに西尾さんはまだお若いですね。西尾さん演じる不妊と姑問題を抱える敏恵にまつわるエピソードにはグッときました。
「この脚本を書くために「夫が原因で子どもができない場合、離婚しますか?」と会った女性のみなさんに聞いたら、誰一人「離婚する」とは言わず「それでもなんとか生きていく」と答えました。だけど、それを男性に聞いてみたら「……」と黙ってしまった。その様子を見て、やっぱり男性は女性に絶対勝てないと思いましたね。いろんな取材をすればするほど、女性の強さというか女性は人間として立派だなと本当に感じました」
 
――そんな女性陣とは対照的に、ブラザートムさん、遠藤憲一さん、中村有志さんによるどうしようもない旦那衆が本当に面白かったです。
「あの3バカトリオのモデルは僕なんです(笑)。ひとりはマザコン、ひとりはバカ、ひとりはモテナイ。全部、僕です(笑)。この映画を観た女性が結構あの3バカを「可愛い」と言ってくれるんですよ。「でも、結婚はしたくない」とも言っていましたが(笑)」
 
――ハハハ(笑)。また男性陣もキャスティングが絶妙ですね。
「中でも、大竹しのぶさんの夫役をブラザートムさんにお願いしたのは自分でもいいキャスティングをしたと思っています(笑)。あの体格で焼けた肌、漁師町にいそうでしょう? 撮影中、トムさんは「監督、ここは笑いが必要ですか?」とよく聞いてきてくださり、「必要です」と答えたら軽トラをエンストさせたこともありました(笑)。細かいところまでよく考えてくださってるなと思い、監督していて本当に楽しかったです」
 
――この映画を観ているとその監督が感じた楽しさも伝わってきますし、元気も出てきます。それと同時に行動を起こすことの大事さを感じました。
「町おこしって簡単にできることではないけど、何かやらなければという気を起こさせる映画になればいいなという気持ちはありました。この町は産業もないし、何か始めたからと言って億万長者になれるような場所じゃない。でも、何かを始めることでそれを頑張る。失敗してもいいんです。踊りで発散して、また自分で考える。この映画がそのきっかけとなり、何か始めたいと思ってもらえれば嬉しいです」



(2013年11月 8日更新)


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祷映 監督 プロフィール(公式より)
いのり・あきら●林業を経て27歳で映画の世界へ。2003年、井筒和幸監督の『ゲロッパ』に参加。『パッチギ!』(2004/井筒和幸監督)、『フラガール』(2006/李相日監督)のラインプロデューサー、『パッチギ!LOVE&PEACE』(2007/井筒和幸監督)と『キトキト!』(2006/吉田康弘監督)でプロデューサーを務める。『キトキト!』では脚本を兼業。映画プロデュース業の傍ら、自ら劇団を主宰。2002年、『サークルゲーム SURVIVAL2』にて監督デビュー。

Movie Data

(C)2012「ワッゲンオッゲン」製作委員会

『女たちの都 ワッゲンオッゲン』

●11月9日(土)より、
 梅田ガーデンシネマ、京都シネマ、
 順次、元町映画館にて公開

監督:祷映
出演:大竹しのぶ
   松田美由紀/杉田かおる/西尾まり
   ブラザー・トム/遠藤憲一/中村有志
   長山藍子/ほか

【公式サイト】
http://jaijai-movie.com/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/160775/