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「足りない頭使うんじゃないよ」って
『ピンポン』のペコも言われていたけど、
直感だったり、感覚だったり、胸がドキドキするかとか。
すごくシンプルなところでチョイスしている。
『ジ、エクストリーム、スキヤキ』窪塚洋介インタビュー

 劇団・五反田団を主宰し、今年2月に公開された映画『横道世之介』の脚本を手掛けたことでも知られる前田司郎の同名小説を基に、前田自身が初の長編映画監督を務めた青春劇『ジ、エクストリーム、スキヤキ』が11月23日(土)より、テアトル梅田ほかにて公開される。フリーターで基本的に暇を持て余している大川のもとへ絶縁状態だったかつての友人、洞口が15年ぶりに現れるところから始まり、大川の恋人・楓と洞口の昔の彼女・京子を連れて車で海に行くことに…。出演は、窪塚洋介、井浦新、倉科カナ、市川実日子という実力も人気も兼ね備えた俳優たち。30代男女の日常を切り取ったかのようなリアル且つゆるいノリで彼らが人生の新たな一歩を踏み出す様を描き出す。窪塚と井浦が『ピンポン』以来、約11年ぶりに共演を果たすことでも話題となっている作品だ。そこで、公開を前に現在大阪在住の窪塚洋介に話を訊いた。

――今回、出演を決めたポイントは何だったのでしょう?
「以前から前田司郎さんという面白い演出家がいるという情報をは入手していて、舞台のDVDもいただいてました。生の舞台はタイミングが合わなくて観劇出来ていないのですが、それでもどこか引っかかる存在だった。そこに、(井浦)新くん主演で初メガホンを取ると聞いて、これは面白そうだなと。さらに台本を読んで、その面白さにとどめを刺されたという感じです。」
 
――前田監督の台本のどういうところが面白かったのですか?
「自分はこうなりたいとか、この人生どうなんだとか、そういうことを真剣に考えていない、流れに流されていく。そういうやつらにスポットライトが当たっている話なんです。喫茶店とかで友達と喋っているときの取りとめのない会話みたいなのとか。あれは前田さんの息吹というのでしょうか。そういったものをふんだんに落としこめるのが前田さんの力でしょうね。ゆるいだけあって情報としても余白がいっぱいあるのですが、その余白に内緒で思いが詰められる感じというのかなぁ。」
 
――現場も映画のようなゆるい雰囲気でしたか?
「前田さんのゆるい空気感がみんなに伝染して、思わず衣装のまま帰っちゃったこともありました(笑)。顔合わせの初日に「この作品はノーメッセージ。何のメッセージも意味もないのでお願いだから掘り下げないでください」と監督に言われて(笑)。そこから前田さんの五反田団の稽古場で稽古して現場に入りました。稽古があるっていうのが舞台の方ならでは。映画ではたぶんレアだと思います。」
 
――稽古を重ねたということは、劇中の台詞がどれも自然ですがあれはアドリブは入っていないのですか?
「そうなんですよ。「なんか…、なんかじゃねー?」みたいなのが台本に書いてあって、この台詞で大丈夫? と正直思いましたよ(笑)。でも、演じて見ると面白かったですけどね。しかも「噛んでほしい」とか、「咳きこんでもいい」って(笑)。」
 
――窪塚さんは今回の大川という役をどう捉えて挑まれたのでしょうか?
「大川はある意味、受動的な男。受けの人。思慮深くもないし、浅はか。だからバイトも続いているのでしょうね、来年店長ですから(笑)。自分とは違うけど、台本を読んだ時点で「こいつ面白いな」と思いましたよ。愛すべきキャラクター。パラレルワールドみたいに「こういう人生があっても面白かったのかなぁ」と考えるのが好きで。暖簾に腕押しみたいな人生かもしれないけど、それはそれで体験したい。1回の命でいろんな人生を生きられるのがこの仕事(役者)です。」
 
――では、大川を演じる上で気を配ったところはありましたか?
「熱し過ぎず冷め過ぎず、その温度かな。前田さんが求めている独特の温度。その温度さえ保てれば笑おうが泣こうが大川になれると思うんですよね。前田さんと初対面のときに話したくだらない取りとめのない会話の時点でその温度が合っていたような感覚があります。だから苦労もなかった。キャラクターを深く掘り下げていかなかった分、その温度が分かりやすかったのかな。」
 
――井浦新さんとは『ピンポン』以来11年ぶりの共演ですよね。
「そうですね。久々の再会。この映画の設定とほぼ同じですよね。実際はたまに顔合わしていましたけどね。前作とは役柄も違うしもちろん新鮮な気持ちだけど、11年経ったという感じはしなかったですね。ふたりの台詞にもあるんだけど、お風呂場で「こんなもんかね」「こんな感じじゃね?」っていう。そんな感じです(笑)。」
 
――そのお風呂場のシーンは友情出演のふたりも含めて楽しそうでした。
「大川は対人恐怖症なので、タオルで顔を見ないようにして絡まないようにしていましたけどね(笑)。友情出演のふたりは撮影中にいきなり来るって決まって言われたけど、実は普段テレビとか見ないから若い役者を全然知らなくて。「あ、そういう子が来るんだ」って思っていました。この台詞、もうおじいちゃんですね(苦笑)。きゃりーぱみゅぱみゅをつい最近までおばあちゃんだと思ってましたし (笑)。」
 
――え? どういうことですか?
「これがきゃりーぱみゅぱみゅだよって携帯に入っている自分のおばあちゃんの写真を友達が見せてきて、「そうなんだぁ」って思い込んでいて。それでその後、何かのタイミングで真相を知って「全然違うじゃん!」って(笑)。テレビで流行ってるとかそういうのに疎くて(笑)。」
 
――ははは(笑)! 井浦新さんとは、たまに顔を合わせていたというのは以前からお互いに「また共演したいね」というような話はされていたんですか?
「具体的にそういう話をしていたわけじゃないけど、いずれすることになるだろうなとはなんとなく思っていましたね。以前、新くんが何かのタイミングで脚本を書いていて、その主役のイメージを「洋介くんで書いている」と言っていたのは聞いていて。そういうのも面白いなと思っていたけど、実際は役者同士での再会になりました。」
 
――最近は蜷川幸雄さんの舞台にも出られたりもしていますが、若いころと比べて役者としての考え方に変化は出てきましたか?
「楽になってきています。進めば進むほど自由になって楽になる道を歩いている。歳を追うごとにあるがままにと言ってきたことが形になってきている気がします。何でも一歩踏み出せば世界は変わると本当に思うし、そういうことを何度も体験して来ているから。「足りない頭使うんじゃないよ」って『ピンポン』のペコも言われていたけど、直感だったり、感覚だったり、胸がドキドキするかとか。すごくシンプルなところでチョイスしている。そういう風にいられるのはありがたいことだなと思っています。」
 
――前田監督は、窪塚さんに会うまで怖い人かと思っていたけど会ってみると違ったと言われたようですね。
「人によって、怖いと思われていることがあるみたいですね。最初の名前が出だしたころから、ちょっと英語を話したら英語が喋れる!とか、犬を抱いたら優しい!とか。もちろんそういう人ばかりではないのは分かっているけど、単純な世界なんだなと思っていました。そこから、“どう見られたいか”じゃなくて、“どういたいか”に重心を置いて来ました。自分が今ここにいて、何がしたくてどういう風に生きていたいかってことさえ分かっていれば、後は勝手についてくるのかな。イメージは人が思うことだから、俺がどうこう言うことじゃないんだろうし。」
 
――それだけ注目され、発信される言葉に影響力があるということでもあると思います。
「わけも分からないうちに注目されてしまった20代前半の頃は、自分の言動に世の中が反応しているなという感覚がありました。でも今ではインターネットがすごく普及して、ツイッターにしてもダイレクトにやりとりが出来る、オンタイムの時代。今までは捻じ曲げて伝えられるようなことがたくさんあったけど、そこへのフラストレーションがなくなって、気持ちが軽くなったし、生きやすくなった。また、レゲエDJを始めたことも大きいです。いろんな土地に行ってそこの人にダイレクトにメッセージを伝えられる武器を手に入れたことで、もっと軽くなった。だから役者としても今はすごく純粋に楽しめる作品の選び方が出来るようになったと思います。」
 
――レゲエDJとしての活動はどのような頻度でされているのですか?
「だいたい月10本前後、役者業と縫って年間80本くらいかな。週末はほぼ地方にいるんです。それで、平日は大阪にいる。」
 
――ちょっと意外な気もしましたが、大阪に住んでらっしゃるのですね!
「音楽を始めた頃から大阪には仲間がいっぱいいて。関東にいたころからプロデュースやトラック制作はほとんど大阪の仲間でした。なので、もともと馴染みやすい環境ではあったのだけど、いざ住みだして改めてすごく住みやすいと思っています。大阪の人の距離感が好きなのかもしれないな。大阪の人は温かい。大阪はもともと商人の町だから、みんなで情報交換して話しかけて、声かけて、人呼んでという精神が今も残っているという話を聞いたことがあって、すごく納得したんです。江戸は対照的な侍の町。そういう関西の気質みたいなものに、すごく憧れているというか理想を求めているところがどこかにあります。」
 
――町で声を掛けられたりしますか?
「子どもたちに「見たことある人やー」「ほんまやーマジシャンの人やー」とか言われて「マジシャンちゃうでー」とか答えたり。「自転車にサインして!」と言われて見たら真っ黒の自転車でどこにもサイン出来ないじゃん! とか(笑)。最近は、世代にもよるけどレゲエDJとしての名前、卍LINE(マンジ・ライン)として声を掛けられる方が多くなってきているかもしれないです。こないだも10代の子に「卍LINE、映画出てるんですね」と言われて「そうだよー」って(笑)。」
 
――音楽から入って、映画を知らない世代ということですね。
「昔取った杵柄みたいなことってカッコ悪いと思うし、常に進化して自分がそこでちゃんと生きている。良いことも悪いことも含めて過去は過去。もちろんプラウドしていることもあるけど、これからを見ていつもフレッシュに日々を生きる。それくらいの思いでやってないと通用しないだろうし、なりたい自分になれないなと思っています。」
 

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――比重として今は音楽をメインにされているのでしょうか?
「役者業っていうのは趣味に近くて、そこにメッセージとか世界をどうにかしたいとかいう純度が減ってきた分、楽しめています。ライフスタイルは音楽がメインだから。俺ね、映画や芝居なんてどうせ作りものじゃんって、役者業を辞めたいと思った時期もあったんですよ、ヒップホップやレゲエは「リアル!リアル!」と叫んでて、「これリアルじゃないもんなー」て思って、自分がやっていることに疑問を感じてた。でも、自分の好きなものは好きだし、得意なことは得意。自分の目に見えているもの、手の届く範囲を自分の世界として、そこをなるべくポジティブなもので満たしたいなと思った。どんどんわけの分からない時代になってきているけど、ピンチャンだなって。ピンチはチャンスだなと思っています。より自分らの生きている世界の正体が分かってきた。子供のころ思っていた世界とは違う。大人にならずに子どもの気持ちを持ったまま大人になる“コドナ”でいたい。みんながコドナだったら、なんでもシェアしたりすることで満たして、社会は変わるのかなとか思う。それを信じてマイクを握っています。」
 
――映画、音楽という枠におさまらない“窪塚洋介”という確固たる存在感がそれぞれの場所から放たれている気がします。
「自分がやりたいことをやるから一番パワーが出る。震災のときも「俺はこのまま映画や音楽をやっていていいのか」「もっと現実的な動きをした方がいいんじゃないか」とか思いつつ、被災地に行って炊き出しをやったりもしました。でも、例えば被災地の方が映画を見てくれて「元気出た」とか「考え方変わった」とか言ってもらえるなら、そういうサポートの仕方もあるなと思って。もちろん現地に行って少しでもお手伝いすることも素晴らしいことだと思うけど、やっぱり自分が出来るのは映画や音楽だと思った時にあらためて力が湧いてきたんですよ。」



(2013年11月20日更新)


Check

Movie Data



(C)2013「ジ、エクストリーム、スキヤキ」製作委員会

『ジ、エクストリーム、スキヤキ』

●11月23日(土)より、
 テアトル梅田、シネマート心斎橋、
 シネ・リーブル神戸、京都シネマにて公開

原作・脚本・監督:前田司郎
出演:井浦新/窪塚洋介
   市川実日子/倉科カナ
   黒田大輔/西田麻耶
   内田慈/安倍健太郎
   高良健吾(友情出演)
   沖田修一(友情出演)

【公式サイト】
http://ex-sukiyaki.com/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/161932/

Event Data

舞台挨拶決定!

【日程】11/24(日)
【会場・時間】
テアトル梅田
 ①13:25の回、上映後
 ②15:50の回、上映前
シネマート心斎橋
 ③15:00の回、上映後
【料金】2000円
指定席は完売!立見券を販売中!
【登壇者(予定)】井浦新/窪塚洋介

チケット情報はこちら


京都でも舞台挨拶あります!

【日時】11/24(日)13:00の回、上映前
【会場】京都シネマ
【登壇者(予定)】井浦新/窪塚洋介
【お問合せ】チケット購入方法等、
詳細は劇場HPをご確認ください。