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「何に一番興味があるかと言ったら人と人の距離。2時間の映画の
中で、その距離感が変わるということをいつもやってる」(吉田監督)
麻生久美子と安田章大(関ジャニ∞)がダブル主演!
『ばしゃ馬さんとビッグマウス』
吉田恵輔監督、麻生久美子インタビュー

 『純喫茶磯辺』(08)や『さんかく』(10)など、鋭い人物描写で高い評価を集める吉田恵輔監督の最新作『ばしゃ馬さんとビッグマウス』が11月2日(土)より、梅田ブルク7ほかにて公開に。シナリオライターを目指し、頑張ることに必死だが、どうしても芽の出ない女“ばしゃ馬さん”と、デカい口は叩くが実はまだ何もやっていない“ビッグマウス”の男が、シナリオ教室で出会うことから始まる“夢との向き合い方”をテーマにした物語。そこで、主演を務めた麻生久美子と吉田恵輔監督にインタビューを行った。

――何かを目指したことがある誰もが、考えさせられるところが多い映画だと思いました。おふたりは現在第一線で活躍されていますが、この映画に出てくる登場人物のように将来に恐怖心があったり、その今おかれている状況と戦っていたりするのでしょうか?

吉田恵輔監督(以下、吉田監督):僕はもう無いですね。(※かなり軽いトーンで)

 

麻生久美子(以下、麻生):さすがですね(笑)。

 

吉田監督:いや~、監督になりたいと思いながらも実際になれるとは思っていなかったので、監督になれた瞬間、寿命がここで終わるんじゃないかと思った(笑)。一生使って1本の映画が撮れれば死ねると思っていたくらい追い詰められていた時期もあるから。今は余生を過ごしている状態(笑)。麻生さんで2本も撮りましたからね。もう思い残すことは無い(笑)。もう今、牢獄に繋がれても麻生さんの夢を見ながら残りの人生をまっとうできます(笑)。

 

麻生:ハハハ(笑)! そういうことばっかり言うから、なかなか信用できないんです(笑)! わたしは恐怖心ありますよ。馬淵の気持ちも全部とは言いませんが、すごい共感を持って演じました。やっぱりこの仕事(役者)は求められなければ出来ない仕事なので、それがいつ無くなるか分からない。そう思うと怖いです。

 

吉田監督:君は大丈夫だよ~!(※かなり軽いトーンで)

 

麻生:もう~本当ですか(笑)?

 

――馬淵はとてもストイックな女性ですが、そこに共感するところはありましたか?

麻生:すごく頑張る人ですよね。わたしも馬淵ほどではないけど、頑張っていた昔の自分に今支えられていると思っています。若いうちに頑張った時間があって良かったなと思いますし、そうやって夢に向かって頑張る時間というのは本当に大切だなと思います。

 

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――ストイックな馬淵が劇中、元恋人とよりを戻すか戻さないか~というシーンがとても印象的でした。同じ女性から見て馬淵の恋愛感についてはどう思いました?

麻生:わりと過去の自分に似ている部分があって、なんか昔の自分を見ているようで嫌ですね(笑)。だから彼女の気持ちは分かり過ぎるくらい分かります(笑)。

 

 

 

――でも、麻生さんが演じられた今回の馬淵という役は吉田監督がモデルになっていると伺いましたが、目の前にモデルがいて演じるのは難しかったのでは?

麻生:脚本を貰った時は監督がモデルになっているとは知らなくて途中でそれを知ったんですけど、それからというもの「OK」をもらっても「本当に今ので大丈夫なのかな」と常に思っていました。撮影の合間に監督が楽しく話す過去の苦労話も、笑って聞いていましたが監督の苦労はこんなもんじゃないんじゃないかと勝手に思って、どんどんプレッシャーも大きくなって…。とくに最後の撮影の日に向けては「別にプレッシャーかけてないよ」とか言いつつ、笑顔で「あのシーン大事だからよろしくね~」とか言われて、その重圧に押し潰されそうになっていました。それでその撮影が終わってから監督に「もちろんプレッシャーかけてたよ。当たり前じゃん」と言われたんです(笑)。

 

――監督はご自身を投影した役をどんな風に麻生さんに説明されたのでしょうか?

吉田監督:わりとそこは委ねていました。役者や技術、衣装もだけど、ちょっとぼやかして言わないとその言葉をみんな再現しようとしてしまう。それだと可能性が狭まるので「フリーでやってもらって、「そのパターンあったか」と思いたい。それがもし「ちょっと違うな」と思ったら「こんな感じで」と話すという感じ。なので、こういうキャラクターでというような話はしていないですね。さっき言っていた「俺はこういうことがあったんだよね~」という話が演出してないようでヒントを提供してきたのかなと思います。

 

――なるほど。今回、麻生さんと関ジャニ∞の安田章大さんというのが、すごく異色の組み合わせな印象があります。安田さんの印象はいかがでしたか?

麻生:ご本人にその自覚はないかもしれませんが、安田さんはすごい度胸がある人だなと思いました。例えば、自分のアイデアを自らバンバン演じて見せたり。わたしがそういうのをあまり出来ないタイプなので。

 

吉田監督:いいんだよ、やっても(笑)。

 

麻生:ハハハ(笑)。安田さんはそれを撮影初日からやっていたのですごいと思います。お芝居もナチュラルだし。一番驚いたのはすごい長台詞を間違えずに言えるところ。役者なら普通のことと思われるかもしれないんですが、みんな人間なので意外とそうでもなくて(笑)。最初からきちんと言える人ってそんなにいないんです。でも安田さんは完璧でした。一緒にお芝居出来て楽しかったです。

 

――麻生さんは吉田監督作品に出演するのは2回目ですが、監督の演出はいかがですか?

麻生:役者としてはとても嬉しい演出をしてくださいます。

 

吉田監督:そうかい(笑)?

 

麻生:本当にそうですよ。あんまり褒めると気持ち悪いかな…(笑)。

 

吉田監督:いいよ。気持ちいいよ(笑)!

 

麻生:ハハハ(笑)! 最後の撮影では29テイク撮ったんですが、最初から最後まで29回撮るわけじゃないんです。わたしのテンションが乗りきれていない時なんかは、ある程度台詞を言わせて、そこでカットを掛けたりする。そのカットの掛けどころがわたしの状態をいいコンディションへ持って行ってくれるんです。そんな演出の仕方にすごいグッと来ました。だからいっぱいテイクを重ねても、監督の愛を感じましたね。

 

吉田監督:愛です(笑)。

 

――ハハハ(笑)! 『純喫茶磯辺』で麻生さんの新たな魅力を見せてくださった監督が、本作でこだわって見せた麻生さんの魅力的な部分はありましたでしょうか?

吉田監督:今回の麻生さんは最後だけ綺麗であればいいと思っていました。やっぱり去り際の美しさを描きたかったので。夢に向かっている時は化粧品も安いもので良くて、それに没頭する女性に見えるといいなと。ただ、キャラクターが持つ可愛らしさの最低限のレベルは欲しいから、可愛くなくもなく可愛くし過ぎない、そこのせめぎ合いですね(笑)。

 

――去り際は確かにハッとする美しさがありました。

麻生:馬淵は出来れば諦めたくないんですよね。諦めきれていない部分が絶対あって、それでも前を向いて行かなければいけない。違う道を探そうと努力している。その気持ちを思うと辛かった。わたしもいつかこんな風に思う時が来るのかなとか想像してしまいました。

 

吉田監督:地元で「俺は映画監督になる!」とか言っていて、友達にも「お前ならなれるよ」なんて結構言われながらも全然なれなくて最悪の状況だった。去るにしても逃げるようにして去るのは嫌なので、土手沿いを美しい後ろ姿で去るために全力を尽くす。これで去るというね。

 

――過去作含め、監督が映画を作る上で何か一貫して思っていることはありますか?

吉田監督:何に一番興味があるかと言ったら人と人の距離。恋人や好きな相手、親子なんかもそう。2時間の映画の中で、その距離感が変わるということをいつもやってる。決定的に変わるのではなく、前進と言っても一歩半進むくらいの前進が好きなのかもしれない。微妙な距離感(笑)。「すげー変わったな」と俺は思っているんだけど、俺がちっちゃい人間だからか大して変ってないという(笑)。でも、そういう気持ちで作っています。




(2013年11月 3日更新)


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Movie Data





(C)2013「ばしゃ馬さんとビッグマウス」製作委員会

『ばしゃ馬さんとビッグマウス』

●11月2日(土)より、
 梅田ブルク7ほかにて公開

出演:麻生久美子/安田章大
   岡田義徳/山田真歩/清水優
   秋野暢子/松金よね子/井上順
監督:吉田恵輔
脚本:吉田恵輔/仁志原了

【公式サイト】
http://www.bashauma-movie.jp/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/160963/