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「ただの親バカと言われるかもしれませんが、親であっても
これだけ実力がある良い役者が家族にいるわけで、
それに対しては、誰も文句言えないですよね(笑)」
『今日子と修一の場合』奥田瑛二監督インタビュー

 『長い散歩』でモントリオール世界映画祭グランプリを受賞するなど、注目を集める奥田瑛二が、娘の安藤サクラとその夫・柄本佑をキャストに迎えて発表した監督第5作目『今日子と修一の場合』(10月5日(土)より、なんばパークスシネマほかにて公開)。同居している男に身も心も搾り取られているかのような女と、母親を助けるために父を殺してしまった男を主人公に、東日本大震災で心のよりどころをなくしてしまった者たちの姿を描く。

 朝は東京、夕方は大阪の生放送のテレビ番組に出演、その間に何件もの取材を受けながらも「気合が入っています。(取材を受けるのは)何の苦もありません」と話す奥田瑛二監督にインタビューを行った。

――震災を背景にした本作。震災が起き、映画を撮りたいと思われたきっかけは何だったのでしょうか?
「南三陸町の戸倉地区という所の復興が進まない気配があり「このままではいけない」と若者たちが東京の有識者を含めて集まり、その村を再興するための話をする会合があると聞いて、最初はそこに集まる若者たちに会ってみたいなと思ったんです。2011年の11月くらいだったか、その時点ではそういう青年たちを映画に出来たらと考えていました」

 

――それでその村に行かれたんですか。

「2012年の1月7日に、現地に行きました。たまたま夜に着いて、周りは(明かりもないから)真っ暗で何も見えなかったので、その日は夜中の3時くらいまで酒を飲んでいろんな話をして。それで翌日の朝9時からあった大学の先生たちの会合に2時間くらい参加していたんですが、まだ南三陸町の界隈を目にしていなかったので中座をさせてもらい、カメラを持って視察に出たんです」

 

――そこで、初めて惨状を目にするわけですね。

「それはもうとんでもない情景が目に入ってきました。テレビやネットで知ったつもりでいたけど、実際の状況を見ないで今まで話していたことは何だったのだろうと思うほどで。それで15時くらいに帰ってきたら、まだ会合をされていて、今まで話していたことは自分が脳内で作り上げた状況を組み立てて喋っただけではないかと恥ずかしくなり「今、南三陸町の情景を見てきました。昨夜話したことは忘れてください。申し訳ありませんでした」と謝り、そして「ストーリーを作って映画を撮る準備をします」と言って東京に帰ったんです」

 

――ということは、すぐ東京に戻られたんですね。

「東京までは8時間くらい掛かるのですが、その間にいろいろ考えて。全てを無くしてしまった町、仮設住宅に住んでいる方もいれば、町を離れた人もいる。そこには様々な事情を抱えた人がいるだろう。南三陸町に限ったことではないですが、たくさんの人がそこに住んでいたんですから。そこが故郷の人だってたくさんいる。被災地と人をどう結びつけるか。そして、自分に出来る映画は何だろうと考えると、やっぱり人間ドラマを作りたい。社会の出来事を反映させた物語を描きたい。“今、このとき”を切り取るのは、やはり我々インディペンデントにしか出来ないだろうと。そこから自分らしい映画を考えました」

 

――そこからストーリーはすぐに浮かんだのですか?

「あの故郷に帰ることを許されない人がいるのではないか。その人たちが東京に住んでいたとするならば、どういう心境で暮らしているのか。帰りたくても帰れない。それが僕に作れる縦糸かなと思って。そこから女性の場合と男性の場合を考え、青年には未来がある。女性は幸せだったけど帰れない。そういったおおまかなことは帰りの車の中でほとんど考えていました」

 

――帰りの車でそこまで出来上がっていたんですか! では、東京に戻ってからはどういう動きをされたんですか?

「東京に戻ったら、まずカミさんに「どうだった?」と聞かれて「映画を撮るよ」と答えたらかなり驚かれて(笑)。でも「本当に撮らなければいけないんだ」と話したら、GOサインが出ました。とにかく、その後はやらなければいけないことがたくさんあるので、カメラマンに連絡をしてスケジュールを「空けといてくれ」とお願いしたり。ストーリーも、なぜ女性は帰れないのか。津波というのは、大きな悪魔の怪獣を作り上げて、それが町をなぎ倒して飲み込んだような印象を僕は受けたので、それとバランスが取れる人の心の津波を描こうと思ったんです。それで、リストラや離婚によって破滅していく女の姿という案は最初から浮かんでいて、それを紙2枚くらいに書いて、そこからキャスティングに取り掛かりました」

 

――キャスティングは、この映画の注目されているポイントでもあります!

「柄本佑さんに関しては、こんなぴったりな男はいないなと思ってすぐにお願いしました。女性のほうは子どもがひとりいるという設定だったので35歳くらいを想定して、とある実力派有名女優さんにオファーし快諾いただいていたんですが、撮影が長期になることを伝えるとスケジュールが合わなくて実現しませんでした。それで、他のキャスティングに掛かったんですが、結構苦労しまして…。

 

――では、サクラさんのキャスティングはどのように?

「家には安藤和津さん、安藤桃子さん、安藤サクラさんという3人の女性がいて「お父さんがキャスティングに苦しんでいるみたいよ」と言う話でもたぶんしたんでしょう。それでサクラが「わたし、やろうかな」と、女性同士で話したんじゃないかな(笑)。ある日、「候補者の中にわたしも加えていただけませんか?」とサクラからメールが届いたんです。そのメールを読んだ瞬間に、これはイイ! と思い、こちらからも「是非、出てください」とお願いしました。それで、すぐに衣装合わせをして現地に乗り込んだんです」

 

――まず、撮ったのが映画のラストシーンなんですね。

「そう。まず、ラストシーンを撮ったんです。空っぽになった女性が坂を下り、明日に望みを持つ青年が坂を登る。本当に、ありとあらゆる場所を彼らには歩いてもらいました。そういう意味で、男と女の光の見え方を描いたんです。それで、そこから東京に戻り、物語の前半を作り上げていきました。ラストへどう繋げていくのかという作業はすごく楽しかったですね」

 

――ラストを決めて、前半を作るとなるとストーリーも浮かびやすかったですか?

「次々といろんな案が浮かぶもんだから、最初はコピーをホチキスで止めた台本を使っていました(笑)。撮影を始めて、いろいろな要素を入れながら、どんどん変わっていって、後からちゃんとした台本を作って。こんな撮り方は初めてですが、こういう撮り方もリアリズムを生むなという発見ですね」

 

――今日子と修一というキャラクターについては?

「最初は、今日子という女性を強烈に書いていたので修一が弱く映っている印象がありました。ところが、ふたりに感情移入しながら編集をしてみると自分でも驚くぐらい修一が活きてきて。津波と言うとてつもないショックが記憶のふちに追いやられていくと明日を目指して生きる人の方が輝いてくる。そして、空っぽで転がっていく女性はいつの間にか傍観者にならざるを得なくなっていく。立場が逆転していったわけです。結果として、この映画を観た若者たちから「修一に感情移入しやすくなった」という意見を聞いて、良かったなと思いました。

 

――今日子は確かに強烈です。

「本人はこの役に共感出来ないと最近、言っていますね(笑)。でもま、そうですよね。現実的な自然の津波と生きている人間が持つ心の津波のバランスが取れないと映画が成立しないというのが、監督としての最初の思いだったので、強烈なキャラクターになってしまったんです。修一をいじめる青年の話は、ニュースで当時取り上げられていた、いじめの事件をモチーフにしています。これは絶対入れておきたいと思って。結構、てんこ盛りな内容ですよね。ま、こういうことが出来るのも自分で企画を立てて、自分で撮っているからなんですよね」

 

――柄本佑さんに関してはすぐに決めたというお話ですが、彼の魅力はどんなところにありますか?

「心に感じる繊細さを持っているし、姿かたちもいいなと思って。以前から、いずれ使いたいと思っていた俳優さんでした。この作品を撮ったとき、ふたりはまだ結婚前の恋人同士でした。ただの親バカと言われるかもしれませんが、親であってもこれだけ実力がある俳優さんで、こんな良い役者が家族にいるわけで、それに対しては、誰も文句言えないですよね(笑)」

 

――では、サクラさんの魅力はどのように感じていらっしゃいますか?

「『風の外側』から6年の間に彼女がどれだけ成長したか。すご過ぎますよね」

 

――確かにそうですね。では、演出もしやすかったですか?

「どういうコンセプトでああいう芝居が出来るのか僕にも分からない。通常の俳優が持ち得ない感性でアプローチかけてくるので、彼女に乗っからない手はないという感じ。サクラに乗っかるんだから佑にも乗っかって。ふたりには何の注文もつけないで、そのままを撮っています」

 

――サクラさんはお父さまの前で演技することに照れとかないんでしょうか?

「まったく照れたりしないんです。彼女は他の監督と仕事するより、やはり言わなくても伝わる何かがあると言っていました」

 

――家族のとても良い繋がりを感じますね。

「それで南三陸に撮影に行くと決めたら長女の桃子が「スチールはどうするの?」と聞いてきて。とくに考えていなかったので「いない」というと、「お父さん、映画には絶対スチールが必要よ」と言い出して、結局、桃子がスチールとして参加してくれました。映画のポスターの写真も彼女が撮っているんですが、姉が撮っているからか、とてもいい表情が引き出せている気がします。これは確かに家族であることがいい作用となりましたね」

 

――出来上がった映画も家族でご覧になったんですか?

「編集が終わった時点で観ました。そこでも「音楽を入れてはダメよ」と桃子にアドバイスを受けて。音楽で感情を動かすのではなく、観た人がその現実と戦ってほしいと。本当にいろんな面で家族に背中を押してもらった作品です」




(2013年10月15日更新)


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奥田瑛二 監督

Movie Data




(C) ZERO PICTURES

『今日子と修一の場合』

●なんばパークスシネマ、MOVIX京都、
 MOVIX堺、神戸国際松竹、
 MOVIXあまがさきにて上映中

【公式サイト】
http://kyokoandshuichi.ayapro.ne.jp/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/162588/