ホーム > インタビュー&レポート > 「M資金という謎に包まれた秘密資金を扱っていますが、実は 誰にでも関わってくる“経済”の話。“知的スペクタクル”という ジャンルとして楽しんでいただけたら嬉しい」 『人類資金』原作・脚本/福井晴敏インタビュー
――原作者として、映画を観られていかがでしたか?
「今作は原作だけじゃなく、脚本も書かせていただいたので、やれることはやったという気持ちが強くて正直、映画を観ての感想というのが客観的に言えないですね(笑)。逆にどうでしたか? と聞いて回りたいくらいです(笑)」
――この物語が生まれたきっかけというのは?
「昔、どなたかの小説を読んだ時にM資金を取り上げたものがあって、もの凄く興味を持ったんですよ。それで作家としてまだデビュー前に書いた作品に、小道具的にM資金を使ったことがあったんですね。とはいえ、ずーっと頭の片隅にありましたけど、M資金をテーマに話を作るなんて発想はまったくなくて、で、ある時、阪本順治監督から、M資金って知ってる? と聞かれまして。もちろん知ってますよって答えたら、M資金で何かやれないかなぁ? とお話をいただいて…。偶然ってあるんだなぁと思いましたね。それだけに従来の作品とは違った作り方で、まずひとつのプロットを出して、それを元に映画版と小説版というふたつの作品を組み立てていきました。下地は同じでも語り口を変えているので、大変ですけど初めての経験でもあり新鮮でしたね。映画は2時間ちょっとという中で完結していますが、小説は一応7巻まであるのでまだまだ絶賛執筆中です(笑)」
――とはいえ、M資金をテーマに今の時代で話を作るのは大変だったんじゃないですか?
「そうですね。M資金とはなんだったのか? というとこばかりを追ってしまうと、興味のない人にとって、とりつくしまもない物になってしまう可能性があったので、今の我々の生活にどういう風に関わってくるか、しかも今だけじゃなく、未来をも変えられるかもしれないんじゃないか? そういう話にM資金が絡んでくるものだと、現代の物語として使えるかなと。でも、M資金を知ってる世代は、きっと50歳以上でやっとだと思うのでどう理解してもらおうかという不安はあったんですけど、ここ数年で起こったリーマンショックや震災で、伝える術が見つかったような気がしましたね。今までずっと戦争や国防をテーマにアクション物をやってきた自分にとって、経済は未知の領域だったんですけど、改めていろいろ調べてみると非常に脆いし、またそもそもの仕組みに無理があるなと。いつか臨界点がくるに決まってるのになぜか毎年経済成長しなきゃいけないとか・・・。そして確信したのがリーマンショックや、その後の震災で、そういうものを経験すると、国でも沈むって可能性があるんだなっていうことでした。じゃ、なんで沈むんだろう? それは物理的に沈むんじゃなくて、やっぱり経済、人間が作った社会システムってものが、ちょっとしたことで崩れちゃう可能性があるということ。そんな世の中、そろそろ見つめ直した方がよくないですか? というメッセージを今作では込めて書いていますね」
――豪華な役者さんたちのアンサンブルも素晴らしくて、かつて70年代後期から作られていた角川映画を思い出してしまいました。
「あ、ジョージ・ケネディ(※1)なんかが出てたりする『人間の証明』(※2)とか『白昼の死角』(※3)とかですかね(笑)。そう言ってもらえると嬉しいですね。主人公の真舟役の佐藤浩市さんは企画段階からほぼ決まっていまして、原作も脚本も佐藤さんを想定してのアテ書きです。キーパーソンになる“M”役の香取慎吾くんもそうです。だからこの人たち出てくれたらいいなぁって話していた夢のキャストが決まって、やったーって感じでしたね。でもオダギリジョーさんの演じるロシアのヘッジファンドの代表役は、設定ではもっと年齢が上のキャラクターだったんですけど、彼が演じることになって、あえてチャラ男に書き直しました(笑)。そして、石役の森山未來くんはギリギリまで決まらなかったんですが、彼で本当に良かったなと思います。実は、なかなか製作にゴーサインが出なくて大変だったんですが、先行して既成事実を作っちゃえば、制作費も出るだろうって、今にしてみると追いつめられた状態でですね、先に後半のヤマ場となる、国連での森山未來くんがある演説をするシーンを撮ってきちゃったんですね。その時に「例えこれで撮影が終わってしまったとしても悔いはない」と言ってくれて…。でもこの場面を撮っていたからこそ、製作のゴーサインが出たと言っても過言ではないです。しかも脚本家として、この演説の部分に言いたかったことを集約させてますから、彼はほんとよくやってくれたと思います。あと、韓国からユ・ジテさん、そしてアメリカからビンセント・ギャロさんが出てくれたんですが、これは監督のこだわりで、そのこだわりはちゃんと成功してるなぁと映画を観て感じました」
――原作は7巻までを予定されていますが、映画自体を前後篇や三部作などにする予定はなかったんですか?
「あぁそれは、飲み会の時の夢の話しですね(笑)。確かに冗談で話してたりもしましたけど、映画ができた時にまだ原作の“げ”の字もできてない状態でしたから、先に原作を出して、大ヒット飛ばしてから、初めて言える話ですからね。そこは我々も大人なんで分別はついてました(笑)」
――(笑)最後に、この『人類資金』、どういう風に観ていただきたいですか?
「M資金という謎に包まれた秘密資金を扱っていますが、実は誰にでも関わってくる“経済”の話だってことを頭に入れて下さって観ていただければ…。もちろんとっつきにくいなと感じる人もいるかもしれませんが、観終わったあとは、何かしらメッセージを受け取ったと感じるはずです。“知的スペクタクル”というジャンルとして楽しんでいただけたら嬉しいですね。あ、“知的スペクタクル”って言葉は今、思い浮かんだんですけど、うん、自分で言うのもなんですが、ぴったりだと思います(笑)」
(取材・文 仲谷暢之)
(2013年10月18日更新)
●10月19日(土)より、
大阪ステーションシティシネマ、
なんばパークスシネマほかにて公開
【公式サイト】
http://www.jinrui-shikin.jp/
【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/161910/