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「M資金という謎に包まれた秘密資金を扱っていますが、実は
 誰にでも関わってくる“経済”の話。“知的スペクタクル”という
 ジャンルとして楽しんでいただけたら嬉しい」
『人類資金』原作・脚本/福井晴敏インタビュー

 敗戦直後、旧日本軍の手によって隠匿された金塊などの財宝。それは続く占領下の時代、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)によって接収され、日本政府の一部を通して戦後復興や反共計画に極秘に運用されてきた。その名を「M資金」。謎に包まれたこの秘密資金をネタに繰り広げられた詐欺事件は21世紀を迎えた今も後を絶たない。そんな戦後最強の謎とされる「M資金」をテーマに、『どついたるねん』『顔』『大鹿村騒動記』『北のカナリアたち』など数々の名作を放つ阪本順治監督が、『亡国のイージス』でも協働した作家、福井晴敏と再びタッグを組んだのが『人類資金』。M資金専門の詐欺師だった父が、亡くなる間際に遺した「M資金は本当にあった」という言葉。その跡を継ぐようにM資金詐欺に手を染める真舟雄一。そんな彼の前にある日、“財団”の使者と名乗る男が現れる。“財団”とは、M資金を管理運営する日米秘密機関の俗称。はじめは取り合わなかった真舟だったが次々と起こる不可解な出来事に巻き込まれ、宿命のようにM資金を巡る謎の深みにハマっていく…。主人公真舟雄一には佐藤浩市、財団の使者・石には森山未來、財団の“M”には香取慎吾、そのほかにも観月ありさ、仲代達矢、オダギリジョー、岸部一徳、さらには韓国のスター、ユ・ジテ、そしてアメリカからビンセント・ギャロという豪華キャストが参集。日本のみならず、ロシア、ニューヨーク、タイで撮影を敢行、超大作と言っても過言でない一級の作品となっている。そこで、今回は原作、脚本を担当した作家の福井晴敏さんに話をうかがった。

――原作者として、映画を観られていかがでしたか?
「今作は原作だけじゃなく、脚本も書かせていただいたので、やれることはやったという気持ちが強くて正直、映画を観ての感想というのが客観的に言えないですね(笑)。逆にどうでしたか? と聞いて回りたいくらいです(笑)」

――この物語が生まれたきっかけというのは?
「昔、どなたかの小説を読んだ時にM資金を取り上げたものがあって、もの凄く興味を持ったんですよ。それで作家としてまだデビュー前に書いた作品に、小道具的にM資金を使ったことがあったんですね。とはいえ、ずーっと頭の片隅にありましたけど、M資金をテーマに話を作るなんて発想はまったくなくて、で、ある時、阪本順治監督から、M資金って知ってる? と聞かれまして。もちろん知ってますよって答えたら、M資金で何かやれないかなぁ? とお話をいただいて…。偶然ってあるんだなぁと思いましたね。それだけに従来の作品とは違った作り方で、まずひとつのプロットを出して、それを元に映画版と小説版というふたつの作品を組み立てていきました。下地は同じでも語り口を変えているので、大変ですけど初めての経験でもあり新鮮でしたね。映画は2時間ちょっとという中で完結していますが、小説は一応7巻まであるのでまだまだ絶賛執筆中です(笑)」

――とはいえ、M資金をテーマに今の時代で話を作るのは大変だったんじゃないですか?
「そうですね。M資金とはなんだったのか? というとこばかりを追ってしまうと、興味のない人にとって、とりつくしまもない物になってしまう可能性があったので、今の我々の生活にどういう風に関わってくるか、しかも今だけじゃなく、未来をも変えられるかもしれないんじゃないか? そういう話にM資金が絡んでくるものだと、現代の物語として使えるかなと。でも、M資金を知ってる世代は、きっと50歳以上でやっとだと思うのでどう理解してもらおうかという不安はあったんですけど、ここ数年で起こったリーマンショックや震災で、伝える術が見つかったような気がしましたね。今までずっと戦争や国防をテーマにアクション物をやってきた自分にとって、経済は未知の領域だったんですけど、改めていろいろ調べてみると非常に脆いし、またそもそもの仕組みに無理があるなと。いつか臨界点がくるに決まってるのになぜか毎年経済成長しなきゃいけないとか・・・。そして確信したのがリーマンショックや、その後の震災で、そういうものを経験すると、国でも沈むって可能性があるんだなっていうことでした。じゃ、なんで沈むんだろう? それは物理的に沈むんじゃなくて、やっぱり経済、人間が作った社会システムってものが、ちょっとしたことで崩れちゃう可能性があるということ。そんな世の中、そろそろ見つめ直した方がよくないですか? というメッセージを今作では込めて書いていますね」

――豪華な役者さんたちのアンサンブルも素晴らしくて、かつて70年代後期から作られていた角川映画を思い出してしまいました。
「あ、ジョージ・ケネディ(※1)なんかが出てたりする『人間の証明』(※2)とか『白昼の死角』(※3)とかですかね(笑)。そう言ってもらえると嬉しいですね。主人公の真舟役の佐藤浩市さんは企画段階からほぼ決まっていまして、原作も脚本も佐藤さんを想定してのアテ書きです。キーパーソンになる“M”役の香取慎吾くんもそうです。だからこの人たち出てくれたらいいなぁって話していた夢のキャストが決まって、やったーって感じでしたね。でもオダギリジョーさんの演じるロシアのヘッジファンドの代表役は、設定ではもっと年齢が上のキャラクターだったんですけど、彼が演じることになって、あえてチャラ男に書き直しました(笑)。そして、石役の森山未來くんはギリギリまで決まらなかったんですが、彼で本当に良かったなと思います。実は、なかなか製作にゴーサインが出なくて大変だったんですが、先行して既成事実を作っちゃえば、制作費も出るだろうって、今にしてみると追いつめられた状態でですね、先に後半のヤマ場となる、国連での森山未來くんがある演説をするシーンを撮ってきちゃったんですね。その時に「例えこれで撮影が終わってしまったとしても悔いはない」と言ってくれて…。でもこの場面を撮っていたからこそ、製作のゴーサインが出たと言っても過言ではないです。しかも脚本家として、この演説の部分に言いたかったことを集約させてますから、彼はほんとよくやってくれたと思います。あと、韓国からユ・ジテさん、そしてアメリカからビンセント・ギャロさんが出てくれたんですが、これは監督のこだわりで、そのこだわりはちゃんと成功してるなぁと映画を観て感じました」

――原作は7巻までを予定されていますが、映画自体を前後篇や三部作などにする予定はなかったんですか?
「あぁそれは、飲み会の時の夢の話しですね(笑)。確かに冗談で話してたりもしましたけど、映画ができた時にまだ原作の“げ”の字もできてない状態でしたから、先に原作を出して、大ヒット飛ばしてから、初めて言える話ですからね。そこは我々も大人なんで分別はついてました(笑)」

――(笑)最後に、この『人類資金』、どういう風に観ていただきたいですか?
「M資金という謎に包まれた秘密資金を扱っていますが、実は誰にでも関わってくる“経済”の話だってことを頭に入れて下さって観ていただければ…。もちろんとっつきにくいなと感じる人もいるかもしれませんが、観終わったあとは、何かしらメッセージを受け取ったと感じるはずです。“知的スペクタクル”というジャンルとして楽しんでいただけたら嬉しいですね。あ、“知的スペクタクル”って言葉は今、思い浮かんだんですけど、うん、自分で言うのもなんですが、ぴったりだと思います(笑)」
 

※1ジョージ・ケネディ
名脇役として、数々の名作に出演。代表作『暴力脱獄』(1967年)『エアポート』シリーズなど。角川映画のSF大作『復活の日』(1980年)にも出演している。
 
※2『人間の証明』(1977年)
森村誠一原作の推理小説。東京で殺された黒人青年を巡り、東京、ニューヨークで捜査が繰り広げられる・・・。
出演/松田優作、岡田茉莉子、ジョージ・ケネディほか。
 
※3『白昼の死角』(1979年)
高木涁光原作の推理小説。法律の盲点を突き、手形詐欺などを働く若者たちを描いたピカレスクロマン。
出演/夏木勲、中尾彬、竜崎勝ほか。

(取材・文 仲谷暢之)




(2013年10月18日更新)


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福井晴敏 プロフィール
ふくい・はるとし●1968年11月15日、東京都生まれ。1997年、警備会社に勤務する傍ら応募した小説『川の深さは』が第43回江戸川乱歩賞選考会で話題となり、翌年『Twelve Y.O.』で第44回江戸川乱歩賞を受賞し、小説家デビュー。以後、『亡国のイージス』で第2回大藪春彦賞、第53回日本推理作家協会賞、第18回日本冒険小説協会大賞をトリプル受賞。さらに『終戦のローレライ』では第24回吉川英治文学新人賞、第21回日本冒険小説協会大賞をダブル受賞するなど小説家として活躍、さら

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(C)2013「人類資金」製作委員会

『人類資金』

●10月19日(土)より、
 大阪ステーションシティシネマ、
 なんばパークスシネマほかにて公開

【公式サイト】
http://www.jinrui-shikin.jp/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/161910/