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ホーム > インタビュー&レポート > 園子温、李相日、石井裕也といった現在第一線で活躍する 監督たちの商業長編デビュー作を製作してきたプロジェクト 「PFFスカラシップ」の最新作 『HOMESICK』廣原暁(ひろはら・さとる)監督インタビュー

園子温、李相日、石井裕也といった現在第一線で活躍する
監督たちの商業長編デビュー作を製作してきたプロジェクト
「PFFスカラシップ」の最新作
『HOMESICK』廣原暁(ひろはら・さとる)監督インタビュー

 前作『世界グッドモーニング!!』がバンクーバー映画祭をはじめ、国内外で高評価を集めた廣原暁監督による人間ドラマ『HOMESICK』が10月26日(土)より、大阪・十三の第七藝術劇場にて公開。家族と離れ、再開発のために家の引渡しを迫られた失業中の若者が、徐々に自分の居場所を見つけ、自立していく様を描く。『花とアリス』の郭智博(かく・ともひろ)が主演を務め、国際的に活躍する人気ミュージシャン、トクマルシューゴが音楽を務めていることでも注目される本作。公開を前に来阪した廣原暁監督にインタビューを行った。

――本作が劇場公開デビュー作となりますが、映画監督になろうと思ったきっかけから教えていただけますか?
「テレビが好きだったので「映像の仕事が出来たらいいな」という、漠然とした浅はかな考えで映像学科のある武蔵野美術大学に入ったんですけど(笑)、そこでいろいろ学んでいくうちに“映画”をすごく特別なものと感じていったんです。アニメや写真だとひとりで追求する芸術という感じが僕はしたんですが、“映画”は誰とでも共有できたり、いろんな人と繋がれた。友達と一緒に撮影して、お客さんも好き放題に言う。それが楽しくて映画にはまっていったという感じですね」
 
――「誰とでも共有できる」という点で言えば、大学の卒業制作の『世界グッドモーニング!!』がバンクーバー国際映画祭で新人賞グランプリを受賞されたんですよね?
「“学生が作った”や“自主制作”であるということを誰も気にしていないという点が大きかったですね。バジェットが大きかろうが小さかろうが基本的には関係ない。映画館で上映されたら、1本の映画として観てくれるというのが日本と違いました」
 
――海外の映画祭で上映されたのは《ぴあフィルムフェスティバル》(以下、PFF)への入選がきっかけなんですよね?
「そうですね。PFFに入選したのがきっかけです。PFFに入選した作品は海外の映画祭のプログラマーの方が日本に来たときに観てくれますから、それで気に入ってもらえたら上映に繋がるんです」
 
――『世界グッドモーニング!!』は、ポン・ジュノ監督やジャ・ジャンクー監督が絶賛されたとのことで日本でもニュースになりました。バンクーバー国際映画祭以外にも数多くの賞を授賞されていますが、この作品をPFFへ応募した時点で自信はありましたか?
「PFFには、『世界グッドモーニング!!』以前にも2回送っているんですが落ちてて(苦笑)。受け入れてもらえないことへの悔しさから「これが最後だ!」という気持ちが強かったです。学生映画だからって舐められないような作品を撮ろうという気持ちはありました」
 
――それで今回、PFFのスカラシップ作品として『HOMESICK』が公開されるわけですね。
「PFFで賞を取ると劇場公開映画を撮る権利が与えられるコンペティションのようなものがあるんです。8人くらいが企画書や脚本を書いて、その中からプロデューサーや制作委員会の方に選ばれるとスカラシップ作品という形で劇場公開されます」
 
――そのコンペはスムーズに進んでいったんですか?
「企画書や脚本を何度も提出して、出す度にアドバイスをもらって。最初に出した企画書から何度も内容をガラッと変えて出したりしましたね。主人公が死んだり、生きてたり、また死んだり(笑)。最初は家族みんながひとつの家に暮らしている話を書いていたんです」
 
――大まかな話は頭にあって、いろんなパターンを作ったという感じでしょうか?
「そんな器用な感じではなく、筆が違う方向に走っていったという感じです(笑)。一番最初に思ったのは「ずっと同じ場所に留まる映画」を撮りたいということ。今まで撮ってきた映画が、家を飛び出してどこかに行って、また戻ってくるという話ばかりだったので、「ずっと同じ場所に留まる」のもいいかなと。そういうチャレンジが必要な気がして。「家があり、まずそこにいる」ということをベースに、そこに留まり続ける話」
 
――なるほど。主人公の妹は海外を飛び回る生活をしていますが、こういった発想は周りにそういったお友達がいるとかが影響していますか?
「うちの兄がアメリカ、姉がイギリスに行ったりしていて、割とそういう環境が影響してるのかもしれません。でも、僕は英語も喋れないし、海外にとくに興味があったわけではないですけどね」
 
――自由に行動されている兄姉へ憧れがあったのでは?
「やりたいことをやってるのは確かに羨ましいですね。とくに兄は小さい頃からドラムをやっていて、それでバークレーの音楽大学に行ったんですけど、小さい頃からやりたいことがあって、その道へ進んだのは本当に羨ましい。僕はそういうのが無く…。大学へ行くときに何もないけど何かやりたいという、いい加減な気持ちで動き出したので(笑)」
 
――そういえば最初の質問でそう言われていましたね(笑)。この映画の主人公は仕事もなく、家も出て行かなくてはいけない。文字にすると暗くなりそうなストーリーですが映画自体の印象がかなり異なっていて、何故か爽やかな印象を残します。
「状況は確かに厳しいんですが、素直な感情を描いているつもりです。絶望とか希望がないフラットで透明な感覚というか」
 
――ホームページには“さとり世代”なんて書かれていましたが…。
「世代で言われると複雑ですが…、さとってるわけでもなく、シンプルな気持ちだと思っています」
 
――実は本作を観て、相米慎二監督の『夏の庭 The Friends』(94)を思い出しました。『夏の庭』は主役が老人(三國連太郎)ですし、全然違うと言えば違うんですが、意識されたところはあるんでしょうか?
「脚本を書いて、誰かに見てもらったときに「これ『夏の庭』そっくりだね」と言われて、それで初めて知り観ました。主人公は30代の設定なんですが、咳き込んだりするシーンもあってちょっと老人っぽい動きをしたりもしますしね(笑)。でも映画の雰囲気は全然違うと思います」
 
――では、偶然だったんですね。3人の子どもたちが素晴らしいですが、オーディションでしょうか?
「そうです。ころ助役の金田くんは一目で「すごくイイ!」と思いました。あまり笑わなくて、大人に媚びるような表情をまったくしなくて。何を考えているのか分からない雰囲気が魅力的でした。脚本の中に3人のキャラクターが明確にあったので、他の2人は3人並んだときのバランスや雰囲気を重要視して選びました」
 
――子どもたちは勝手に遊び回ってるようにしか見えませんが、撮影は大変でした?
「シーンにもよりますが割と自由にしてもらっています(笑)。撮影に入る前の1ヶ月間、毎週末集まって実際に水鉄砲で遊んだりして、その遊びの中で、あだ名で呼び合ったり「お前はリーダー」とか「お前はこういうヤツ」とか何気なく感じてもらいました。またその様子を見ながら「こういうことは出来るな」「こういうことは無理だな」と脚本を書き直したり。で、撮影当日はよーいドン! という感じで」
 
――では、あの3人のバランスを撮影前に出来ていたのですね!
「でも、撮影が始まるとフレームから出て行ったりしてしまって(笑)。それで「この場所でやって欲しい」と伝えると何故か魅力が半減…。それで「さっきみたいにやって!」と伝えると、本当に同じことを繰り返すだけになって…。それでまた「いや、もっと自由に!」と言ったり。それで、手を加えれば加えるほど悪くなってしまうなと感じました。彼らは生理的に動いているので、出来ないことは「出来ない」と言うんです。それが対等に感じれて気持ち良かったです」
 
――例えばどんなシーンで「出来ない」と?
「手が届かないから「おんぶして」とお願いするシーンを撮影していたときに、彼が全然その台詞を言わなくて。「何で言わないの? 台詞あるでしょ?」と聞いたら「だって手が届くから言えない」と。大人だったら流れで言うだろう台詞も彼らは素直に解釈している。そんな当たり前のことを経て「僕はなんて馬鹿なんだろう」と気づかせてくれました」
 
――では、主人公の郭智博(かくともひろ)さんのことも。
「郭さんも何を考えてるのか分からないところが好きなんです。そういう顔に惹かれるところがあるようです(笑)。脚本の中で主人公が何を考えているのか分かりづらいので、もう少し分かるように書き直そうと悩んだこともありましたが、郭さんにお会いして、彼自身が何を考えてるのか分からない方だったので、このキャラクターのままでいいんじゃないかと思って。どこか秘密を持っている雰囲気が俳優の魅力だと僕は思うんです。全部を開けっぴろげにしては面白くない。郭さんを撮っていると彼がひとりでベッドで寝っころがっているだけで魅力的。それは郭さん自身が放つ力なんですよね」
 
――確かにイケメンだけど影がある感じがします。
「実際は結構、子どもっぽいところもあるんですけどね(笑)。子どもたちと一緒に遊んだりも本当にしてましたし。ただ、子どもたちはカットが掛かっても遊んでるのでそれはさすがにしんどそうでしたけど(笑)」
 
――トクマルシューゴさんの音楽もこの映画の大きな要素ですよね。
「脚本を書き始めたときから、この曲「Lahaha」を使いたいと思っていました。映画を作るときにテーマをはっきり決めなくて「どんな映画が作りたいですか?」と聞かれたら「この曲みたいな映画」と答えたいくらいに思ってました。今回は「Lahaha」のような映画が作りたいと思ったんです。何となくでしか言えないんですが(笑)。ポップで明るくて子どもっぽさもあるんだけど、そこにある切実さのようなものを感じて。この曲を聴いたときに「映画みたいだな」と思ったんです。以前、トクマルさんと対談したときに「Lahaha」についていろいろ聞いたら、この曲はトクマルさんの中で宝くじのストーリーがあるらしくて」
 
――え? 宝くじの話!?
「トクマルさんが見た夢の中の話らしいんですが、宝くじをたくさん買ったら、全部はずれくじでそれを燃やすという…。それで、「それを悪くは思わなくてそういうのいいなって僕は思うんです」と話していました。まぁ、よく分からない話かもしれませんが(笑)、『HOMESICK』と繋がるところもあるなとなんとなく感じて。意味のないものだけど嫌いじゃないという…」
 
――『HOMESICK』ホームシックというタイトルにこめた思いは?
「普通のホームシックは家に帰れないことをさすと思うのですが、家を家としているものは何なのか。それは家族や生活だと思うのですが、それってそんなに当てになるものじゃない。家族でも同じ場所にいるわけではなくバラバラにもなるし、“HOME”って安定した変わらないものじゃない。最初は留まり続ける話にしようと思ったんですけど、留まろうとすればするほど出て行かなければいけなくなる話になっていって。どこに行ったっていいじゃないかという気持ちなんです」
 
――そういった脚本になったのには何かの影響があるんでしょうか?
「脚本を書いてるときに震災があって、避難所で楽しそうに遊んでる子どもたちを見たんですがそれが印象的で。大人は肩を落としていても子どもたちは楽しそうでした。それを見て、何もない場所を特別な場所に変える力が子どもにはあるんだなとすごい感じて。ベースは誰もが子どもだと思うんです。大人って何か無理をしないとなれない不自然なものと感じてて(笑)。これは映画なので、そういう素直でシンプルなものとしてあればいいのにという思いを込めて作ったんです」
 
――今後は?
「いろいろ企画はあるんですが「十五少年漂流記」のような冒険映画とか撮ってみたいです」
 
 
 《ぴあフィルムフェスティバル》が未来を担う映画監督の作品をトータルプロデュースする、世界でも稀有な育成プロジェクト「PFFスカラシップ」。園子温や石井裕也といった現在第一線で活躍する監督たちの商業長編デビュー作を製作してきた同プロジェクトの最新作『HOMESICK』に期待してほしい。



(2013年10月24日更新)


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廣原暁 監督 プロフィール
ひろはら・さとる●1986年5月16日生まれ、東京都出身。武蔵野美術大学造形学部映像学科卒業。東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻監督領域修了。黒沢清、北野武に師事。2009年に制作した『世界グッドモーニング!!』が2009年、京都国際学生映画祭準グランプリを受賞。さらに、2010年、第29回バンクーバー国際映画祭ドラゴン&タイガー・ヤングシネマ・アワードにてグランプリ受賞を皮切りに、第61回ベルリン国際映画祭など、国内外の多数の映画祭にて上映される。他作品に『あの星はいつ現はれるか』(オムニバス映画『紙風船』の第一話)(11)、東京藝大修了作品『返事はいらない』(11)など。本作『HOMESICK』で第22回PFFスカラシップを獲得、劇場公開デビューを果たす。

Movie Data





(C)PFFパートナーズ/東宝

『HOMESICK』

●10月26日(土)~11月8日(金)、
 大阪十三・第七藝術劇場
 11月2日(土)~11月8日(金)、
 神戸・元町映画館
 12月、京都シネマにて公開

監督・脚本:廣原 暁
出演:郭智博/金田悠希/舩﨑飛翼/
   本間 翔/奥田恵梨華
音楽:トクマルシューゴ
製作:PFFパートナーズ=ぴあ/TBS/
   ホリプロ/東宝 提携作品
配給・宣伝:マジックアワー

【公式サイト】
http://homesick-movie.com/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/160733/