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「映画体験というのは心の琴線に触れるものである」
80年代の某アメリカ映画を彷彿とさせる
『陽だまりの彼女』三木孝浩監督インタビュー

 越谷オサムの同名ベストセラー小説を松本潤と上野樹里をキャストに迎えて実写化したファンタジック・ラブストーリー『陽だまりの彼女』が、10月12日(土)よりTOHOシネマズ梅田ほかにて公開に。新人営業マンの浩介と、中学時代にはイジメられっ子だったがすっかり大人の女性へと成長した真緒の再会から始まる恋の行方と、真緒がずっと隠してきた“不思議な秘密”を描く。そこで、三木孝浩監督にインタビューを行った。

――『ソラニン』『僕等がいた』などを手掛け、恋愛青春映画の名手と言われておりますが、やはり監督は青春映画がもともとお好きだったのでしょうか?
「ジャンル問わず何でも観ますが、自分が中高生の頃に観た映画の中でも特に青春時代の感情を描いたものに対してシンパシーを感じたり心を動かされたり、思春期に一番影響を受けたので、青春モノは作る上でのやりがいもありますし、作っていて楽しいですね」
 
――その青春時代にシンパシーを感じた映画とはどういった作品なんですか?
「大林宣彦監督の『ふたり』(91年)は、本当に影響を受けました。高校生のころ地元の徳島で1度すでに観ていたのに、修学旅行で東京に行ったときに団体行動からひとり抜けてまた映画館に観に行ったこともあって(笑)。本当に何度も映画館に観に行きました」
 
――『ふたり』はもしかして本作に影響を与えていたりしますか?
「僕の中で今回は『さびしんぼう』(85年)でした。男目線で描かれて、ちょっと不思議な女の子が出てきて翻弄されつつ、自分の過去や思いに深く潜っていく感じが近いですね」
 
――わたしは実はこの映画を拝見して80年代のアメリカの某ファンタジック・ラブストーリーを思い出しました(※ネタバレに繋がるからタイトルは控えます)。
「ビンゴです! とても参考にしました。80年代のアメリカのファンタジック・ラブストーリーみたいなのが好きだし、今回イメージしていた部分もありますね。それ以外にも、ジョン・ヒューズ監督の恋愛モノとか大好きなんです!」
 
――映画監督になりたいと思われたのはその頃からですか?
「そうですね。映像の仕事をしたいとは思っていました。高校時代から映画同好会を作って遊びの延長のようなものですが、ショートフィルムを撮っていたりしたので。そのころからスタートしているような気がします」
 
――では、最初に観た映画体験の思い出はありますか?
「たぶん『ドラえもん』だったと思うんですが、ものすごく感動して。映画とテレビの違いをそこで教えられた気がするんですよね。『ドラえもん のび太の海底鬼岩城』(83年)とか、ボロ泣きしましたから(笑)。当時の映画館は入替制じゃなかったから「そのままもう1回観る!」と駄々をこねて親父を困らせた記憶があって、幼いながらも何か感じていたんだなぁと。映画体験というのは心の琴線に触れるものであるというのが、その頃からすり込まれている気がします」
 
――今回の映画も見事に琴線に触れるものになっていました。
「温かくて笑顔になったり、じんわり涙が浮かんだり、感じ方は人それぞれでいいと思うのですが、目指すものとしては、やはりハートに触れるものを撮りたい。僕の場合は、観た人それぞれが体験した過去の記憶や思い出に触れるものを作りたいなとずっと思っています。自分が映画を観たときに、自分の体験や思い出がフッと思い出されるととても感動することが多いので、僕の作品もそうなればいいなと思って作っています。だから思い出や記憶が映画のモチーフになることが多いですね。とくに本作は音楽がキーになっていますが、何気なくラジオから聞こえてきた曲で普段は忘れていた記憶が呼び起こされることってありますよね」
 
――確かにありますね。原作は、“女子が男子に読んでほしい恋愛小説No.1”と言われているようですが、読まれたときの感想は?
「もう自分のためのラブストーリーだなと思いました(笑)。青春時代に不遇な恋愛事情を過ごした人はドはまり出来ると思います!」
 
――原作以上にお互いを思いあう描写がとても良かったような気がしました。
「そこは音楽「素敵じゃないか」を聞くと、ふたりが寄り添っているいろんなシーンが自然と思い浮かんだので、それをそのまま演じてもらいました」
 
――前2作はコミックの映画化、今回は小説の映画化。音楽でイメージが広がったところも大きい要素でしたか?
「それはすごく大きいですね。音楽からシーンをイマジネーションするのが昔から好きで。それが高じてミュージックビデオを作ってきたというのも、もしかするとあるのかもですね。とくに今回は「素敵じゃないか」がイメージの助けになりました。今回は、小説なので自分が読みながら思い描いていたイメージをビジュアル化出来るところは楽しかったですね。衣装などは、漫画だとわりと固まったスタイルがあるけど今回はそこも自由だったので衣装合わせがすごく楽しかったです」
 
――衣装はどういうところにこだわられましたか?
「ちょっと気まぐれでコロコロとシーンによって表情が変わったりする真緒のキャラクター感を出したいなと。普通だったらそんなにポーズ数変えないと思いますが、毎シーン上野樹里ちゃんに可愛い衣装をとにかく着てもらおうと(笑)」
 
――松本潤さん、上野樹里さんを演出されていかがでしたか?
「ふたりともめちゃくちゃ努力家なのでモチベーション高く現場に入ってくれて、とてもやりやすかったです。松本くんが主役ではありますが“受け”の芝居に回ってくれて、どんな芝居が来ても受け止められる懐の深さがあったので、樹里ちゃんも自由に演技が出来たと思います。ふたりの相性がすごく良かったように思います」
 
――いつものテレビで見るアイドルとしての松本さんとは違う印象を受けましたが、浩介役についてどんな話をされたのですか?
「それは松本くん自身がすごく意識しているところなんだと思います。アイドルだからこそアイドルではない“役者の現場”に来たときに、いかにそのアイドルという看板を下ろせるかを自らに課している。そんな部分が見えて、そこにあぐらをかかず役者として現場に入ろうと意識して、むしろオーラを消している。それが今回の浩介という役にフィットしていたんじゃないかなと思います」
 
――浩介と真緒の関係についてはおふたりにどう説明されたんですか?
「浩介は鈍感だし不器用。だけどハートが優しく強さも持っている。そういうところを真緒だけが見抜いていて、そこを好きになる。お互いの良いところを見つめ合っているふたりの関係性が出ればいいなと伝えていました。だから真緒は浩介にだけ心を開いている。気持ちがフルオープンで、全てを委ねられるんです」
 
――彼らの中学生時代がまたいいですね。北村匠海くん(浩介役)、葵わかなさん(真緒役)について教えてください。
「匠海くんは以前からショートフィルムなどで一緒に仕事をしたことがあって、なんとなく存在感が松本くんに近い感じがしていて、わりとすぐに浮かんだんです。真緒役はオーディションでいろんな女の子に会いました。可愛くてお芝居できる子はたくさんいたのですが、台詞を喋らなくてもちょっと不思議な存在感が出ているような独特の子を探していて。オーディションの最後の最後のほうでわかなちゃんに会って、そこで即選びました。ビジュアルじゃなくて佇まいが大事でした」
 
――ビジュアルを似せるだけでなく確かに佇まいも似ていますね。
「心情も大人に繋がっているように見えるように気をつけていましたね。そこで育まれたものが10年間変わらずにお互いが持ち続けたものという風に見えるといいなと思いました。撮影に入る前に、大人の浩介&真緒(松本潤と上野樹里)と中学生の浩介&真緒(北村匠海と葵わかな)の4人で一緒にリハーサルをしたことがあって。最初に松本くんと樹里ちゃんに中学生編を演じてもらったんです。それを匠海くんとわかなちゃんに見てもらって。芝居の手助けにしてもらい、自分の中での共通項を見出してもらうことが出来たので良かったです。それでちょっとした仕草が似てきたり、ビジュアル以外のお芝居の部分での共通項を出せたと思います」
 
――監督自身の胸キュンシーンはどこですか?
「だいたい願望が入っているんですけどね(笑)。リビングで浩介は本を読んでいて、真緒は何もせず、ただ日向ぼっこしている何でもない時間がふたりにとって素敵な時間になればいいなと。やっぱり“陽だまり”。秋冬だけど陽が射していて温かい。原作を読んで1番最初に浮かんだのがあのビジュアルだったんです」
 
――青春恋愛映画が続きましたが、今後は?
「恋愛モノかどうかは置いておいて、若い子たちを描いた映画を撮りたいというのはあります。自分の考えが固まっていない、自分がどうしたらいいのか、将来についてもがいている人のほうが描いていて楽しいなと。今回も意外と中学生のふたりに演出するのが楽しかったです。自分の思いがまだ“恋”だと気づいていないふたりを描くのが本当に楽しかった」
 
――では、最後にメッセージを。
「ラブストーリーってもっと幅広く楽しんでもらっていいんじゃないかなと思います。もちろん若い人にも観てほしいですけど、あまりラブストーリーに足を運ばない年配の方にこそ観てほしい作品になっています。先日試写を観た60代の女性の方が感想で“40年前に主人に恋をしたときのことを思い出しました”と書いてくれていたんです。そういう記憶を呼び起こすということが僕の今回の映画のテーマだったりするので、恋愛から遠ざかっている人に観てほしいというのはありますね。是非、ご夫婦とかで観に来てほしいです。よろしくお願いします」
 



(2013年10月11日更新)


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Movie Data

(C)2013『陽だまりの彼女』製作委員会

『陽だまりの彼女』

●10月12日(土)より、
 TOHOシネマズ梅田ほかにて公開
出演:松本潤/上野樹里 ほか
監督:三木孝浩
原作:越谷オサム
『陽だまりの彼女』(新潮文庫刊) 
脚本:菅野友恵/向井康介
テーマソング:ビーチ・ボーイズ
「素敵じゃないか」(ユニバーサル ミュージック)

【STORY】

浩介は仕事の取引先相手として中学時代の幼なじみ、真緒と再会する。かつては“学年有数のバカ”としてイジメられっ子だった彼女は魅力的な女性に変身していた。再会を機にふたりは再び恋に落ち、やがて結婚を決心するが、真緒には誰にも知られてはいけない“不思議な秘密”があって―

【公式サイト】
http://hidamari-movie.com/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/161397/

★松本潤&上野樹里&三木孝浩監督が
サプライズゲストとして登場!
『陽だまりの彼女』舞台挨拶レポート
https://kansai.pia.co.jp/news/cinema/2013-10/hidamari.html