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テーマはまさしく“女の迷い”
瀬戸内寂聴の自伝的小説を映画化した『夏の終り』で、
“大人のラブストーリー”に挑んだ熊切和嘉監督にインタビュー

 瑞々しく細やかな筆致で、生々しい人間の生を描く女流作家・瀬戸内寂聴。出家する前、まだ瀬戸内晴美だった頃に著した自伝的小説『夏の終り』は、彼女の数ある作品の中でも、自身が最も好きなものだという。100万部を超えるロング・ベストセラーとなっている『夏の終り』が、発売から50周年の節目に映画化され、8月31日(土)より大阪・テアトル梅田、シネマート心斎橋ほか全国で公開される。

 物語の舞台は昭和30年代。主人公の相澤知子は、妻子ある年上の作家・小杉慎吾と長年、半同棲を続けていたが、その暮らしに特に不満はなかった。しかし、そこへかつての駆け落ち相手・涼太が訪ねてきたことで、知子の心はかき乱されることに。それぞれの揺らめく感情は、一体どこへと向かうのか…。38歳の知子を満島ひかり、売れない作家・慎吾を小林薫、年下の涼太を綾野剛が演じる。そして監督は、『鬼畜大宴会』で鮮烈デビューを果たし、その後も『アンテナ』、『海炭市叙景』、『莫逆家族 バクギャクファミーリア』などを手掛けてきた熊切和嘉監督。男女の三角関係を描いたラブストーリーに初めて挑んだ、熊切監督にインタビューを行った。

――この映画は淡路島で撮影されたということですが、(インタビュー前日には)先行特別上映を淡路島で行ったのだそうですね。
 
「そうなんです。この映画は昨年6月に、主に兵庫の加古川と淡路島で撮影していて、当時、洲本オリオンさんという映画館に全面協力していただいて、映画館の向かいにある建物で寝泊りさせてもらっていたんです。暑かったので、いつも窓を開けていたんですが、映画館の音がこちらに聞こえてきてね。この作品が完成したら、ここで上映させてもらえたらいいなと思っていたので、今回、洲本オリオンさんでの特別上映会が実現して、すごく嬉しかったです」
 
――先行上映をご覧になった方の反応はいかがでしたか?
 
「わりと好意的に観てもらえたかな、という感触ですね。そんな中、全然知らないおじさんから、「普通はハッピーな終わり方を期待するけど、なんであんな終わり方にしたん?」と言われて…。これは怒られるぞと思ったんですけど、自分もムキになって、「人生、うまくいかないこともあるじゃないですか」と返したら、「そうやねん。しぶいな~」と言って褒められました(笑)。年配の男性の方には、特に身につまされるんじゃないでしょうか」
 
――その気になるラストですが、映画は原作のラストとは違うのでしょうか?
 
「原作は連作なので、どこが終わりかははっきりしていないんですね。映画化する上で、どこを終わりにするか悩みましたが、最終的にヒロインの映画にしたかったので、主人公・知子を演じた満島ひかりさんの顔をラストシーンに持ってきました。分かりやすいハッピーエンドではなく、苦味もありますが、もちろん観た方それぞれの受け止め方でいいと思います。ただ、前向きに、前進しているような感じの終わり方になればと意識しました」
 
――これまでの作風から、熊切監督が瀬戸内寂聴さんの作品を映画化されるとは、とても意外でした。映画を撮ることになったのには、どんな経緯があったんでしょうか?
 
「3、4年前、『海炭市叙景』を撮っている時に、今回と同じプロデューサーから、「次はこういうのどう?」と渡されたのが、瀬戸内寂聴さんの小説『夏の終り』でした。文芸路線か~と思いながら、読んでみると、主人公・知子のキャラクターが強烈だったんですね。冒頭、銭湯へ行くふりをして、涼太のアパートへ風呂桶をカタカタ言わせながら走る、という激しいアクションから入るんです。それがちょっと滑稽でみっともなくもあるんだけど、それでいて情熱的で、パンチのある印象を受けて。このキャラクターは面白いな、このシーン撮りたいなと思ったんです」
 
――瀬戸内寂聴さんの作品をこれまで読まれたことは?
 
「過去には読んだことがなくて、今回、『夏の終り』を読んだのが初めてです。自伝的なものを小説風に書かれていますが、僕は寂聴さんの人生を映画に描こうとは考えませんでした。あくまで『夏の終り』という小説を原作に、映画を撮りたかったんです。ただ、寂聴さんの過去の住まいや故郷、訪ねていったところが書かれたエッセイなどは、参考に読みました」
 
――熊切監督としては、ラブストーリーという、初めてのジャンルに挑戦されるということで、ご自身の中で何かテーマはありましたか?
 
「ちゃんとした大人の映画にしたいとは思っていました。抑制したものにしたいなと。いわゆる時代物という作り込まれた世界の中で、登場人物を生々しく切り取りたいと思い、物語の都合で動かさないようにと考えましたね。それほど計算はしていませんが、僕の好みで撮っていくと、あまり見たことのない映画になるんじゃないかなと。そういう予感めいたものはありました」
 
――今回、満島ひかりさんと初めてお仕事されたということですが、いかがでしたか?
 
「予想以上に、不器用な役者さんという印象でした。それは表面的な芝居のことではなくて、型にはまった芝居とは違う、自分のコアな部分になんとか役の感情を落とし込もうとする役者さんという意味で、不器用ということです。作品自体がすごく難しいテーマで、女の迷いという微妙な感情を描いているので、僕も撮影中はすごく迷っていたし、満島さんも相当迷い、あがきながら演じていたような気がします」
 
――満島さんとは演技に関して、お話はされたんですか?
 
「特に事前に話すことはなく、現場で満島さんが役を演じて見せてくれて、そこから話すことはありましたね。満島さんが女性として思うところや見えてきた部分を打ち明けてくれて、僕もそれになるほどと思う部分がありました」
 
――満島さんもそうですが、涼太を演じた綾野剛さんも今や人気の俳優さん。演技や考え方で、「さすがだな」と思われることはありましたか?
 
「彼はとても熱い人なんですよ。「はい、こんなもんでしょう」と簡単に演じるのではなく、すごく役に対して真面目。生真面目なぐらい。あとは、ただただ魅力的ですよ。切なさがあるというか、影がありますね。笑っていても悲しいというか…でも本当に熱い人です。涼太という人物は、意外とまっとうなだけに、だんだんブッ壊れてもいくんですが…一番の被害者を演じてもらっています」
 
――『海炭市叙景』に続き、小林薫さんが出演されていますね。演出される上で、安心感みたいなものはありましたか?
 
「薫さんは2作目なので、僕がどういう好みをしているか、多分わかっていらっしゃるんですよ。徹底的に情けなくて、ダメなのが好きだったりというのがね(笑)。例えば、当時の女性は普通、台所に近い場所に座るものですが、慎吾役の薫さんには、あえて台所に近い場所に座ってもらったんです。最初、遠い方に座ろうとしていた薫さんでしたが、「なるほど、そういうの好きだね」とニヤッとされました。2作目ともなると、結構喜んでやってくださるんですよね(笑)」
 
――大人の女性を描いた作品ということで、改めて女性に対して思うことはありましたか?
 
「知子って、大人の女性なんですかね(苦笑)。でも、僕が知子だとしたら、こういう話って、全然あり得ることだと思うんです。すごく安心感を持っている相手はいるけど、そんな状況でも昔の相手が出てくることはあるでしょうし、僕としては「それもいいではないか」という気はしますね(笑)」
 
――知子と慎吾の関係は、慎吾の奥さんにも知られているんですもんね。
 
「知子と奥さんが電話でやり取りするシーン、あれは緊張感ありますよね。あの時の満島さん、憑依したような凄みがあって、本当にいいですね。あれはワンテイク、長回しで撮っているんです。しかも、奥さん役の安部聡子さんと満島さんはあえて現場で顔を合わせず、違う建物から電話で話してもらっていたので、さらに緊張感が増しました」
 
――音楽もとても印象的です。音楽を手掛けられたジム・オルークさんとも、『海炭市叙景』に続いて2度目ですね。どのように、イメージを共有されていたんでしょうか?
 
「実はジムさん、知子のような女性って好きじゃないらしいんですよ。「あぁいう人、昔いたんだよな~」って言っていました(笑)。それでもなんとか、「知子は正直なだけなんですよ」と話をして、彼女を肯定するように音楽を作ってもらいました。「女性映画なので、優しく見守るような音楽をつけてください」と。最初は前衛的な音楽をイメージされていたんですが、もう少しシンプルでセンチメンタルな音楽にしてもらいました」
 
――熊切監督は、知子、慎吾、涼太の三角関係をどう思いますか?
 
「どの人物にもそれぞれ共感できます。特に慎吾が泣き崩れ、追い詰められるシーンは、僕は映画監督ですが、小説家である彼とは同じモノづくりをしている立場で、すごく理解できました。回想シ-ンで、酔っ払った知子に「誰よりも才能がおありなんだから」と言われる場面なんて、泣けますね。あんなこと言われたら、付き合っちゃいますよ(笑)。涼太の危うい情緒不安定なところもすごく分かります(笑)」
 
――劇中にネコが登場しますが、撮影後、そのネコを引き取って、飼っていらっしゃるとか。
 
「撮影に使わせてもらおうと、淡路島でネコを保護している施設に見に行ったんです。ただでさえ、ネコは撮影するのが難しいので、助監督は少し年老いた人懐っこいネコを選んだんですが、僕はその横にいた子ネコをどうしても使いたくて。パッとみて、この子だと思ったんです。で、撮影で使ったら、あまりにかわいくて手放せなくなってしまい…、今はうちにいます(笑)。実家では6匹ぐらいネコを飼っていたんですが、実は僕、ネコアレルギーだったんですよ。でも、えらいもので慣れるものなんですね」
 
――熊切監督はもうすぐ40歳。この作品を撮ったことで、監督として転換期に入ったという感じはありますか?
 
「そういうのは正直ないですね。でも20代の頃、この原作を読んでも、撮りたいとは思わなかったでしょうね。今だから分かるというのかな。うまくは言えないけど、静かにそれでいて激しいというものが、今だと撮れるのかなと思いました。あと、この作品の前に撮った『莫逆家族』の反動ですね(笑)。乱闘シーンばっかりだったので、次は落ち着いて静かにお芝居を撮りたいなと思ったんです。『莫逆家族』は人数も多くて、毎日がイベントでしたから、今度の登場人物は3人ぐらいで、女優さんをきれいに撮りたいと思いました。いい順番で、この作品が撮れたという気がしていします」
 
――監督自身、こういうジャンルの作品が得意というのはあるんでしょうか?
 
「もともと得意ジャンルというのはないですし、そもそもジャンルってなんなんだ?って思っています。どちらにしても、撮りたいと思わないのは撮らないということかな。こんなに都合のいい人間はいないとか、これは偽善だとか、自分が信じられないものは撮りたい気持ちにはならないです。一番考えるのは、原作者が人をどう思っているか、その視点ですね。偽善に見えてしまうと、違うのかなって思います」
 
――この『夏の終り』は、熊切監督にとって、どんな作品になりましたか?
 
「『夏の終り』はまさしく女の迷いがテーマで、正直、僕は迷いながら撮っていました。はっきりとした分かりやすい物語ではないですし、あらかじめ計算して撮ってはいません。自分の思ったことを現場で判断していたし、出来上がってみないと分からないところはありましたね。結果、編集でバランスを整えました。いわゆる文芸ものですが、自分の思うままに撮っていったら、今までとは違う感じになるだろうという予感はずっとあったし、きっと新しい感じの作品になっていると思います」
 
 
(取材・文:清水麻子)
 



(2013年8月23日更新)


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熊切和嘉 監督 プロフィール
くまきり・かずよし●1974年北海道帯広市生まれ。大阪芸術大学の卒業制作『鬼畜大宴会』(1997年)が、「第20回ぴあフィルムフェスティバル」にて準グランプリを受賞。劇場公開もされ、大ヒットを記録。また、ベルリン国際映画祭パノラマ部門正式招待、イタリア・タオルミナ国際映画祭グランプリに輝いた。2作目『空の穴』(2001年)ではロッテルダム国際映画祭、ベルリン国際映画祭ヤングフォーラム部門で上映され、国内外から高い評価を得る。そのほか、ベネチア国際映画祭コントロコレンテ部門で話題をまいた『アンテナ』(2004年)や『青春☆金属バット』(2006年)、『フリージア』(2006年)、『ノン子36歳(家事手伝い)』(2008年)、『海炭市叙景』(2010年)、『莫逆家族 バクギャクファミーリア』(2012年)など意欲的な作品を次々と発表。今後は『私の男』(2014年公開予定)が控えている。

Movie Data




(C)2012年 映画「夏の終り」製作委員会

『夏の終り』

●8月31日(土)より、テアトル梅田、
 シネマート心斎橋、京都シネマ、
 シネ・リーブル神戸ほかにて公開

[2012年/日本/クロックワークス]
監督:熊切和嘉
脚本:宇治田隆史
原作:瀬戸内寂聴
撮影:近藤龍人
美術:安宅紀史
音楽:ジム・オルーク
出演:満島ひかり/綾野剛/小林薫 ほか

【公式サイト】
http://natsu-owari.com/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/161609/

★『夏の終り』特製てぬぐいを5名様にプレゼント受付中!(締切:9/8(日))
http://kansai.pia.co.jp/invitation/cinema/2013-08/natsu-owari.html

【STORY】

昭和30年代。藍染め作家の相澤知子は、妻子ある年上の作家・小杉慎吾と長年暮らしている。慎吾は妻のいる家と知子の家を、週に半々行ったり来たりしていた。そんなある日、木下涼太が現れたことで、知子の生活は微妙に狂い始める。涼太は、かつて知子が結婚していた頃に恋に落ち、夫と子供を捨て駆け落ちした相手だった…。