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「苦難に見舞われた時、一生懸命に生きていく人に惹かれるんです」
『爆心 長崎の空』日向寺太郎監督インタビュー

 長崎原爆資料館館長を務める芥川賞作家、青来有一の連作短編小説『爆心』を、『誰がために』、実写版『火垂るの墓』の日向寺太郎監督が映画化した『爆心 長崎の空』が、テアトル梅田、なんばパークスシネマにて上映中。被爆地、長崎を舞台に、母を亡くした女子大生と我が子を亡くした女性が運命的にめぐり合い、再生への道を歩み出す姿を見つめていく。主演の北乃きい、稲森いずみを始め、実力派のスタッフ&キャストが揃った作品だ。そこで、日向寺太郎監督にインタビューを行った。

――長崎の映画を撮ることになった経緯を教えていただけますか?
 
「2009年に俳人の金子兜太さんのドキュメンタリー番組を撮りまして、その時に彼の代表句が長崎で生まれていたことを知りました。被爆地であることとキリシタンが弾圧された土地ということに、彼はとても「創造力を刺激された」とおっしゃっていて、それで長崎の町を撮りに行ったんです。それが、私にとって初めての長崎だったので比較的最近ですね。2009年まで行ったことがなかったので」
 
――その後、原作と出会うわけですか。
 
「その時、長崎にとても魅力を感じて「いつか長崎で映画が撮れればいいなぁ」くらいには思っていましたが、映画を撮るために企画を探したというわけではなく単純に長崎をもっと知りたいなと思い、いろいろ読み始めてその中に青来さんの「爆心」があったんです。その後、2010年の6月に青来さんに会いに行ってお話させていただきました」
 
――原作のどのようなところに惹かれたんでしょうか?
 
「現在が軸になっているけど、土地の持っている記憶のようなものが今を生きている人と繋がっているということがよく出ていたんです。私は前作『火垂るの墓』で戦争を経験していない人間に戦争を描けるのかとても悩みました。それで、何か別の入口はないんだろうかと思っていたんです。長崎を撮るのに原爆のことを描くのはもちろん大事だと思っていますが、原爆が投下された日を描くのは難しい。そんな中で「爆心」は戦争や原爆を描いているのではなく、現在の日常から、それらが繋がって見えてくるようなお話だったんです」
 
――「爆心」は6つの作品からなる連作短編小説ですが、どのようにひとつにまとめられたのでしょうか?
 
「1つの短編を膨らまして長編にしたり、6つ全部使うことも出来ます。あるいはオムニバスにすることも出来ますよね。今回は中の「貝」と「鳥」という2つの話を中心に「密」と「釘」の一部分も入れて描いているんですが、この“何をどうするか”という点はとても苦労しました」
 
――その2つの作品を選ばれたのはどうしてですか?
 
「6つのお話どれも魅力があったんですがオムニバスではなく1つの話にしたいとはと思っていて、映画化しやすいかは関係なく一番自分に引っかかったのがどれか考えると「貝」と「鳥」だったので、この2本を中心に考えてみようと」
 
――2つの話をどのように繋げていかれたんですか?
 
「「鳥」は映画の中で石橋蓮司さんと宮下順子さんが演じていて、「貝」は稲森いずみさんと杉本哲太さんの話です。原作ではこの2つの話は別々ですが、まず親子にしてみたらどうだろうと思いついて。それでもう1つ下の世代を足せば面白いんじゃないかと。だから(この映画の主人公である)北乃きいさんの話は原作にないんです。原作には若い人の話がなかったのでそれを付け足して親子3世代の話として作っていきました」
 
――脚本を書いている間に2011年3月11日の東日本大震災があったわけですね。
 
「これだけ大きなことが起きて映画の中に何も入れなくていいのか、それは原作の青来さんや脚本家とやはり話し合いました。例えばテレビニュースで福島のことが流れてるシーンを入れるとか。でも、そうすると舞台は長崎だけど、そのニュースを見れば原発の話が出てくるはずなんですよね。そうすると311の映画になってしまう。最終的には「爆心」を撮るということが311後をどう生きるかという話でもあるので、それでいいのではないかと。重ねて観る人は観るでしょうという結論が出て脚本は変えませんでした。無意識にその影響が出ているところはあるかもしれませんが、意識的に変えたところはありません」
 
――原作にはない役ということですが、北乃きいさんをキャスティングしたポイントは?
 
「明るくてイキイキとしていて生命力がある人がいいなと思っていました。そこから母親を亡くした時のギャップというか。あまり深刻になりすぎないキャラクターにしたかったんです。それで、北乃さんは実際に明るい方ですしイメージにぴったりでした。今まで演じられた役柄を含めて、なんとなく一生懸命生きているという印象があるんですよね」
 
――北乃さんと並んでとても重要な役の稲森いずみさんは?
 
「TVドラマ「アイシテル~海容~」(2009年放送)を拝見して、自分の息子が小学生の少年に殺されてしまうという、単純な悲しみではないとても複雑な役を見事に演じておられて、この役にいいんではと思ったんです。本作での役の方がシンプルな感情ですけどね。年齢もちょうどいいし、繊細な演技が出来る人だなと思いまして」
 
――主役のおふたり以外も印象的なキャストが揃っていますね。
 
「登場人物が少ないので他のキャストのひとりひとりのウェイトも大きいんです。脇役らしい脇役がいないんですよね」
 
――原作の中ではそれぞれが主役だったりするんですよね。中でも池脇千鶴さんは監督の作品3本とも出演されていますね。
 
「池脇さんは何をお願いしても安心出来るんです。毎回イメージを超えた演技を見せてくれますし、それが楽しみでお願いしているという感じです。だからと言ってこれからも絶対お願いするというわけではないですが、これも縁なんですよね」
 
――柳楽優弥さんもとても良かったです。
 
「彼に関しては、アメリカの有名なアクターズスクールに柳楽さんが短期留学するという番組をBSで放送していて、それを偶然見たんです。最初は柳楽さん久しぶりだなという軽い感じで見ていたんですが、番組の中の彼は取り組み方が真摯ですごく良かった。演技の勉強をせずに俳優の世界に入ったけど、ちゃんと演技をしたいんだというようなことを言っていて。これはいいんじゃないかと思いまして次の日にはプロデューサーに相談してすぐにオファーしました」
 
――それも、すごい縁ですね。
 
「その日にその放送を見なければ別の人になっていた可能性はありますね。彼の変わろうとしている姿に心を打たれました。実際会ってみたときもそういった印象でした。彼は人柄も本当に素晴らしいんです。今回のキャストは池脇さんが3回目、宮下さんも実は2回目で、あと石橋さんは助監督時代に何度もお会いしているんですが、それ以外の方々は初対面で、それぞれの方の出演された作品は観てきていますが人柄までは分からないので最初はどうなることやら心配しました。いつもそうと言えばそうなんですが(笑)」
 
――初日はやはり監督も緊張するものですか?
 
「緊張しますよ。しかも、クランクインの初日からお墓での撮影(※上記写真のシーン)で。いい台詞なんですが独り言のように言い、それでいて心が通い合うというとても難しいシーンだったんです。だけど、ふたりとも違和感なく自然に演じてくださって、その時「あ、これはいけるな」と思えました」
 
――あのシーンの台詞はとても印象的です。
 
「「もし今日が最後だと分かっていたら…」という台詞に込めた思いは311にも繋がっています。人はいつ死ぬか分からないけれど、死を意識し続けては生きていけない。でも311を経験したことで死を意識せざるを得なくなりましたよね。このシーンにはそういうことへの思いが、観た人それぞれにいろいろ出るんではないかと思います」
 
――演出方法など撮影のスタイルに、黒木和雄監督の影響はあるんでしょうか?
 
「いえ、自分流にやってみようと思っています。方法論を真似してもうまくいかないこともあると思うので。1本目の『誰がために』を撮ったときはテストを繰り返すかすぐにOKを出すかなど自分のスタイルがまだ分かっていなかったんですが、浅野忠信さんが主役で彼と出会ったことが大きいですね。僕の好みとしては、やはりいかに演技していないように見えるかというのが大事だと思っていて、主役の浅野さんがそういう芝居をすると、周りの役者もこちらが言わなくても自然な演技になっていくんです。なので、ほとんどテストをせずに撮りました。今回も役者に恵まれているのもありますが、3本目にして役者の1番いい芝居が分かるようになってきたように思います」
 
――小曽根真(おぞねまこと)さんの音楽もとても印象的です。
 
「わたし自身、音楽が大好きで洋楽のロックポップスから最近ではジャズやクラシックも聞きます。ジャズやクラシックは自分にとって新しい分野なので開拓が楽しいんです。なので、映画の音楽をどんなものにするかは毎回楽しみなんです。1本目は矢野顕子さん、2本目は渡辺香津美さんと谷川公子さんご夫婦。それで、今回も好きな方にお願いしたくて小曽根さんに頼んでみました。3本とも超一流の方々で本当に恵まれていると思います。あと、これは偶然なんですが、みなさんこれが初めての映画音楽なんです」
 
――そうなんですか! 音楽の役割をどのように感じてらっしゃいますか?
 
「音楽を使わないという選択肢もありますが、わたしは感情を一番動かせるのは音楽だと思っています。使い方によって強力な武器になるので音楽の力は大きい。わたしの場合は音楽で感情の補助線を引いてもらっているようなところがあります」
 
――では、最後に。
 
「3本の映画を撮り終えて、全く意識はしていなかったんですが、3本ともある種の受難というか、悲しみ、喪失感からどうやって立ち直っていくかという話なんですよね。自分がこういうテーマに興味があるということに後から気付きました(笑)。そういう苦難に見舞われた時、一生懸命に生きていく人に惹かれるんですね。この作品も「生きていく」ということを観ていただけると嬉しいです」



(2013年7月26日更新)


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日向寺太郎 監督 プロフィール
ひゅうがじ・たろう●1965年宮城県仙台市生まれ。日本大学芸術学部映画学科を卒業後、黒木和雄監督、松川八洲雄監督に師事。黒木監督の『スリ』(2000年)や『美しい夏キリシマ』(2002年)で助監督を務める。その後、2005年『誰がために』で監督デビュー、第60回毎日映画コンクールにて主演の浅野忠信が男優主演賞を受賞するなど高い評価を得た。2008年の『火垂るの墓』では全国約80館で公開、出演した松坂慶子が第63回毎日映画コンクールにて女優助演賞を受賞、松田聖子が日本映画批評家大賞審査員特別賞を受賞。本作は監督3作目。

Movie Data





©2013 「爆心 長崎の空」パートナーズ

『爆心 長崎の空』

●テアトル梅田、なんばパークスシネマにて上映中

【公式サイト】
http://bakusin-movie.com/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/161840/

STORY

長崎大学に通う少女、清水の母親が心臓発作で他界した。その直前、母親とケンカしていた清水は、やるせない喪失感に囚われてしまう。一方、一年前に娘を亡くした砂織は、その悲しみを克服することができない。やがて偶然出会ったふたりは心を通わせるが……